あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鷲と虚無-10


厨房の中では大勢の料理人やメイドが忙しげに料理を作っており、様々な食材の匂いがあたりに立ち込めていた。
その匂いに鼻腔をくすぐられた才人は、思わず唾を飲み込み、そして空腹が更に酷くなった。
とにかく何かを食べたい。だがいったい誰に話せばいいのかが解らない。才人は取りあえずプッロに聞いてみる事にした。

「これからどうします?適当な人をつかまえましょうか?」
「そうだな……あいつなんかはどうだ?」

そう言ってプッロはある男を指差した。
その男は恰幅の良い体に白い料理服を着込んでおり、大きな声で何やら周りの人間に指示を出していた。

「あいつが多分ここを仕切ってるんだろ。あいつに聞いたらいいんじゃないか?」
「同感だ。彼に聞いてみよう」

三人が近づくと、男は露骨に表情を不快な物に変えた。明らかに自分達を不審に思っている。
自分の職場に突如三人の知らない人間が現れたのだから無理はないだろう。

「おい、一体誰だお前らは?ここは部外者は立ち入り禁止だ。用が無いんなら出て行ってくれ」
「俺達は昨日ヴァリエールって言う娘に召喚された使い魔だ。用はある」
男の表情は即座に不審から驚きに変った。
「じゃああんたらなのか、使い魔にされた連中ってのは!若い連中が噂してたよ。随分と遠い所からやってきたそうだな?」

才人は自分たちの事がもう噂になっている事に驚いてしまった。まだあのメイド達から解放されてまだ一時間も経ってないと言うのに。
(噂が広がるのって、やっぱり早いんだな)
あまり話が広がりすぎても困るかもしれないが、この男の反応を見るに少なくとも今の所はいい方向に言ってるようだ。

「その通りだ。あなたがここの責任者か?」
「ああ、名はマルトーだ。ここの料理長をやってる」
そう言ってマルトーはその厚い胸板をバン、と叩いた。
その声には何の澱みもない。どうやら自分の仕事を誇りに思っているらしい。

そしてプッロが順に自分達を紹介した。
「はじめましてだな、マルトー。俺はティトゥス・プッロ。そしてこっちがルキウス・ウォレヌスで、こっちがヒラガ・サイトだ」
マルトーはうん、と頷き、プッロに尋ねた。
「それで、一体ここに何の用だ?」

そしてプッロとウォレヌスはマルトーに昨日の昼から何も食べていない事、自分達は平民なので貴族と一緒に朝食を取れない事、ルイズから厨房に来る様に言われた事などを伝える。

その間、才人はずっと黙ったままだった。自分が言う事は何も無いと思ったからだ。だがそれがある疑問を才人の中で芽生えさせた。
どうも自分はこの二人に引っ張られている様な気がする。オスマンとの交渉だって殆ど二人に引っ張られるように結論したような物だし、
今朝のルイズとの騒動もこの二人がいなければ、自分は文句は言いながらも食事抜きの脅しに乗せられて彼女に服を着せただろう。
なにせこの二人は迫力も行動力も自分より遥かに上だ。だからこそ彼らに頼ってしまい、彼らのやる事には特に何も考えずについていってしまう傾向が出てきているのは、自分でも解る。
これは何とかした方がいいかもしれない。同じ境遇にあるとは言え、結局のところ彼らとはまだ会って1日しか経ってないのだから。少しは自分でも行動をした方がいいかもしれない。

そう考えている内に、どうやら説明が終わったようだ。
「……そう言うわけでな、昨日の残り物でもいいから何か食べる物は無いかとやってきたんだ。出来れば少なくとも今日は昼食と夕食も用意してくれるとありがたいんだが……」
そう言ってプッロは説明を締めくくった。
マルトーはフームと唸り、腕を組んで考え始めた。

「正直言って今は忙しいんでな、あんたらの為に新しく何かを料理する余裕なんて無い。今朝の朝食のシチューが少し残ってるから、それを暖めてパンと一緒に出す位しか出来ないぞ?」
「ああ、それで十分だ。取りあえず空腹が満たせればいい」
ウォレヌスがそう答えると、プッロが一つ付け加えた。
「それと、客の立場でこう言うのもなんだが出来れば急いでくれねえか?腹が減って死にそうなんだよ」



プッロの要求にそりゃ一大事だとマルトーは笑い、料理人の一人に声をかけた。
「おいお前!この人達の為に朝食の残りを暖めてやれ!三人分だ!急げよ!」
料理人は威勢よく解りました、親方!と言って、用意に取り掛かり始めた。
「あんたらとはもうちょっと話をしたいんだが、昼食の用意があるんで俺はもう行かなきゃならん。そこのテーブルに座って待っていてくれ。あと五分もあれば出来る筈だ。昼食の時もきてくれよ」
名残惜しそうにそう言って、マルトーは去っていった。

「じゃ、飯が来るまで待つとしましょうか」
プッロはそう言って、マルトーの言ったテーブルの椅子に腰掛け、ウォレヌスも才人も同じくそうした。

朝食が来るのを待ちながら、才人はマルトーについて考えた。
突然やって来た三人の要求に応えてくれたし、中々気のいい人のようだ。
ああいう人が多いのならここでの生活もそれ程酷い物にはならないかもしれない。
これで“ご主人様”がもっと優しければいう事はないのに。

そう考えている内に、料理人が皿とパンを幾つか抱えながらやってきた。
「あんたらだろ?これを頼んだのは」
料理人はそう言って皿とパンをテーブルの上に並べ、スプーンを置くとすぐに持ち場に戻っていった。

置かれたシチューは肉と幾つかの野菜が煮込んであるだけのシンプルな物だったが、それでも腹ペコの才人にはとても美味しく感じられた。
三人は何も言わずに黙々とシチューとパンを食べる。
味が良かったと言うのもあるが、何よりも空腹だったのが原因だ。

プッロは一番先に食べ終わり、スプーンを置いた。
その表情は深刻だ。何か言いたい事があるようだ。
そしてプッロは重々しく口を開いた。

「良く考えたら、一つ重要な事を忘れてますよ、俺たち」
「重要な事?一体なんだ。言ってみろ」

才人はプッロが何を言い出すのか興味深く見守った。
(重要な事ってなんだろ?まさか帰れる方法がある、なんて事じゃ……)
だがプッロの口から出てきた言葉は、才人が全く予想もしていなかった事についてだった。
「こんな所にまで来ても神々は俺たちを見てくれるんでしょうかね?ローマから何千マイルも離れてるってのに」
考えもしなかった、と言うかそもそも馴染みの無い言葉に、一瞬思考が止まる。
だがプッロもウォレヌスも才人に気付く事無く会話を続けた。

「例えいくら離れようとも天界の神々から見れば無に等しい距離だ。彼らはしっかりとわれらを見ている……そもそも我々がこんなところに来た事自体が彼らの仕業としか思えん」
「ま、確かにただの偶然とは思えませんからね。それにしても一体なんで俺達が?神々の考えなんて人間にはわからないんでしょうが、少なくとも俺は不敬を働いた記憶はないんですがね」

(神々?一体何の話だよ。そしてなんでそれが重要な事なんだ?)
才人は二人が何かの冗談を言っているのではないかと疑ったが、二人の顔を見る限りとてもそうは見えない。
ウォレヌスはフンッと鼻で笑った。

「お前自体がある種の不敬とも言えるがな。それに不敬なら働いたさ。カエサルに加担し共和国に敵対するという、な。いつ天罰が下ってもおかしくはない」
「またそれですか。あんたも懲りないですねえ。そんなにカエサルが嫌いならとっととカトー達につけばいい物を」
「……私は再入隊する時にアントニウスに従うと神々に誓った。例えカエサルが何をしようと、私はアントニウスについていく事しか出来ん。そしてそのアントニウスがカエサルに従うのだから私もそうせざるを得ない」



今度は聞いた事も無い名前がポンポンと飛び出してきた。
もうちょっと自分でも解るように話して欲しいのだが、どうやら彼らにそんな気はないようで、二人だけで話を続けていく。

「……まあこれが天罰でもそうじゃなくても、ここには長くいる事になりそうですから、神々に何か捧げ物をした方がいいんじゃないですかね?無事に帰る為にも」
「ああ、確かにそうだな。こう言う時だからこそ我々は神々を忘れてはならん。取りあえず今の所は我々が無事にローマに帰れる事と、家族の無事を願っておこう。この場合はどの神がいいと思う?」
「ローマに帰るってのは旅人の神の領域でしょうから、メリクリウスじゃないですかね?それとあなたの家族と、エイレネの無事にはユノとウェスタに」

ウォレヌスは腕を組んでふむ、と唸った。
「彼らだけでなく、ここハルケギニアの神々にもしておいた方がいいだろう。ここで暮らすのなら彼らの機嫌を損ねるのは得策じゃない」
「多分ブリミルっていうのがここの神様の一つだと思うんですが、残りの神々はさっぱり解りませんねえ。後で誰かに聞かなくちゃ」

ここまで来てようやく才人は彼らが何を話しているのか理解出来た。
彼らは宗教の話をしているのだ。この二人はローマ人。つまり彼らはローマの宗教を信じていると言う事だ。
才人もローマやギリシャが“多神教”と言う奴で、神様が何人もいた事は知っている。もっともその少ない知識の殆どがゲームや漫画からの物だが。
そして当たり前の事だが、才人にとってはギリシャやローマ神話なんて単なる大昔の御伽噺でしかない。
だがこの二人はその御伽噺を本当の事かの様に話している……

「それと、ここには神官がいない。これでは正しい手順で儀式を始める事が出来ん。そして正しい方法でしなければ神々は生贄を受け入れない。これは問題になるかもしれんぞ」
「神官?そんなペテン師どもがいなくても、俺たちで勝手にすりゃいいでしょう。前にも言いましたがね、俺が神に話したいってのになんで一々連中を通す必要があるんです?」
「そういう不敬な態度が我々をこんな所へ導いたんだと気づけ、アホめ。まあどちらにせよ、捧げる生贄がないのだからまだ儀式は出来ん。今の所は誓いをたてるだけで済ますとしよう。そういえばサイト君、君はどうだ?」

それまで二人だけで盛り上がっていたのに、突然話しを振られて才人は驚き、そして焦った。
一体何と答えればいいのか解らない。何が“どうだ”なのだろう。

「あの、神様の話、ですよね?」
「ああ、そうだ。ニホンにも色々といるんだろう?君も誓いをたてる方がいいぞ」

(日本の神か。ああ、そういや日本にも天照大神とかいるよなあ。子供の頃天照大神をテンテルダイジンって読んで恥かいたっけ)
と才人は愚にもつかない事を思い出したが、大して役にはたたない。
日本神話なんて八百万の神と言う言葉を知っている程度だ。
いきなりこんな事を聞かれても答えられる筈が無かった。だから適当にそれっぽい事を答えてごまかした。

「え、ええ、そりゃまあ。なんせ八百万はいるって聞きますから」
「八百万……それはまた凄い数だな。とにかく、ここで無事に過ごしたいなら神々の機嫌を損ねない方がいい。君も早く願いを立てた方がいいぞ」
「じゃ、じゃあ後で一人でやりますよ。今は二人だけでやって下さい」
「ふむ、そうか。じゃあ誓いをはじめるぞ。静かにしてくれ」

ウォレヌスとプッロは腕を前につき出し手の平を上にむけ、目をつぶった。
そしてウォレヌスは大きく息を吸いこむと、厳かな様子で神々に向けて話し始める。
誓いとやらが一体どう言う風に行われるのか、才人は興味深げに見守った。



「メルクリウス、ユノ、そしてウェスタよ。私は第十三軍団予備役長官、首位百人隊長、第一大隊長を務める、ステラティナ部族ウォレヌス家のルキウスと言う者です。
私の隣にいる者は同軍団第一大隊長副官のプッロ家のティトゥスと言います。もしあなた方が我々を無事に故郷へ連れ戻し、またその間我々の家族を危険から守ってくださるのなら、
ローマに戻った際にはあなた方を讃える祭壇を築き、また雄牛と雌牛をそれぞれ一頭ずつ捧げる事をセモサンクスとフィデスの名において誓います」

そういい終えた後、ウォレヌスはふーっ、とため息をつき、姿勢を元に戻しプッロもそれに習った。

才人は何か得体の知れない、奇怪の物を見た様な気分になった。
いや、実際に今見た光景は得体が知れず、奇怪だ。
御伽噺の中にしかいない存在に、大真面目に牛を生贄に捧げると誓う二人の大の男。
奇怪なだけでなく非常に滑稽でもあったが、真剣その物の二人を笑う気にはなれない。と言うか笑ったら多分殴られる。
だが非常におかしなな光景な事には変わりない。才人は立ち上がった。
今の事について少し考えて見たい。椅子から立った才人にプッロが声をかける。

「いきなりどこに行くんだ?」
「ちょっと、トイレに……」

そう言って才人は二人から離れた。
実際、トイレに行く必要があるのは事実だ。よく考えたら昨日の夜から一度も行ってないのだから。

才人は料理人の一人にトイレの在り処を聞いた。
厨房の外れにある小さな部屋がそれだったが、トイレと言っても小部屋に壺と水桶がおいてあるだけの簡素な物だ。
(まあ、水道なんて無いんだからこんなんもんだろうな)
用を足しながら才人はさっきの二人の行動について考えていた。

そもそもの話、ああ言う宗教的な事を真面目に話す人間自体を見るのが初めてだ。
信仰と呼べる物自体、自分は持っていないし周りの人間にも誰一人いない。
(俺が神様を意識したのなんて期末テストの時位だ。でもあの人達は凄く真剣だ……)
あの二人の非常に熱心な話し振りを見れば、彼らが完全に神々の存在を信じきっているのはよく解った。
自分と彼らの根本的な違いの一つ、それは信仰心と言う物かもしれない。
ここ、ハルケギニアの人達はどうなんだろう。ルイズもシエスタもマルトーも、何かの神様を信じてるんだろうか。
そんな事を考えながら、才人はトイレを後にした。


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