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絶望の使い魔IF-5


トリステイン魔法学院の本塔の最上階、学院長室では鏡に向かっている老人がいた。
オールドオスマンと呼ばれ、生きた年は200や300とも言われている怪老である。
普段は飄々としており深刻さを出さない人物だが今は眉をしかめていた。
視線の先の鏡には何処かの屋敷の様子が高い場所から俯瞰しているように映し出されている。
風竜に乗った人物が裏門の警備員を殺している場面であった。
表の門に二人、庭にも二人と羽の生えた犬が2匹。すべて死んでいると分かる。
それを行った人物は館の中に入ってしまい、外にいるのは先ほど裏門で殺人を行った風竜に乗った者だけ。
屋敷にはなんらかの力が働いているのか遠見の鏡の視点を中に移すことが出来なかった。
オスマンは鏡でその屋敷の外観の様子を見ることしかできなかった。

最初はどんなことをするのか楽しみであった。あまり感心できない趣味をもっているとはいえ、
宮廷ではかなりの権勢を誇るモット伯からメイドを救おうという心意気に、
オスマンも心躍らせたものである。
風竜を使い魔とした少女を伴いどのような活躍を見せてくれるのか。

ところが蓋を開けてみればいきなりの殺戮。
始祖の属性である虚無を発現させるであろうメイジが行った凶行に言葉も出せない。
これは問題どころではない。とんでもないことをヴァリエールはやらかしてくれた。
これが公になればヴァリエール公爵家と言えどもその家名は地に落ちるであろう。
それどころかルイズを預かっていた学院もまた責任を取らされるであろうことは間違いない。
オスマンからこの話をすれば知っていたのに止めなかったのかという問題にもなる。
そして、オスマンが一番危惧するのがルイズが虚無の属性であろうことが宮廷に発覚することであった。
ガンダールヴと共に大規模な争いの火種になる可能性がある。
そうオスマンが考える一方、ルイズ自身は争いを求めているのに関わらず、
自身の能力の発覚を恐れているのはなんとも滑稽であった。

事が事だけにすぐに事件事態は広まる事を覚悟しながらも、オスマンは真相を闇に葬ることにする。
何か決め手となるような証拠があってはいけない。自身の遍在を作り出しモットの館に送った。

オスマンの遍在が館に着いた時にはすでにルイズとタバサは帰った後であった。
風の魔法で姿を消しながら内部に足を踏み入れる。玄関ホールには死体が折り重なっていた。
兵士と思われる死体は剣や魔法で素早く殺されたらしく間抜けな顔を残している者もいる。
使用人などは逃げ回っているところを狙われた様で顔の表情は酷く歪んでいた。
館を探索しているとまだ生きている住人に気がつく。自身の使用人室に閉じこもっていた者がいるようだ。
ルイズが皆殺しではなく、自分の姿を見た者だけを始末したことを知り少しだけ安堵する。

すでに館の騒ぎが収まってそれなりに時間が経っている。
部屋に篭っている者もそろそろ様子を見ようと外に出てくるだろう。
一通り見回り証拠らしい証拠を残していないことに驚きながらも金庫があった部屋に行く。
錬金の魔法を掛け金庫の扉を崩し、中の金塊や秘薬、証文を取り出す。
それらをさらに錬金の魔法で塵にし、風で窓から吹き飛ばした。
これで強盗のために入ったように見えるだろう。オスマンはそこで遍在を消した。

学院の方ではすでにルイズ、タバサの両名は学院に帰ってきており自室に入っている。
オスマンはルイズが就寝したことを確認し溜息をついた。
ルイズの凶行は使い魔の影響を受けてのものである事は間違いない。彼女の使い魔は危険すぎる。
始祖の使い魔であるガンダールヴの課した力にルイズは飲まれている。
魔法が使えないルイズでは御せないのか、それとも力への時間的な馴れが解決してくれるのかわからないが
どちらにしてもルイズにはまだ早すぎることには違いない。ルイズ自身が元に戻るかはわからないが、
かの使い魔を始末すれば、虚無が宮廷に漏れることはないだろう。
これは慎重に行う必要がある。
使い魔は眠っているとしてもルイズが黙っているわけがない。
彼女は毎日一度は使い魔のいる医務室に顔を出している。
なにか異変を感じ取れば学院内ならすぐに駆けつけることもできる。
館での惨劇を見たオスマンは、ルイズが尋常ならざる力を手に入れていることをよく理解していた。
ルイズが暴れた結果で生徒に死者が出れば、それこそ問題になり、虚無が漏れることになるだろう。
ルイズが何か、首都へ買い物にでも・・・いや、それなりの準備を行うなら、もっと時間が欲しい。例えば実家である公爵領に帰る、これは使い魔を伴う可能性が高いので無理かもしれんが。
一番は国外に行くような事があればよい・・・
オスマンは顰めた顔を揉み解しながら背もたれに身体をあずけた。



そんなオスマンが悩んでいた頃、
ある部屋で青い髪の小さな少女がベッドにもたれかかりながら床に座っていた。
タバサはこの夜に自分が行ったことを思い返えす。
自分の目的は第一に母を助けること、第二にジョゼフに対する復讐。
心を水の秘薬で壊されたであろう母を助けるため、
先住魔法を行使しているように思われるルイズに力を貸してもらうことも選択の一つだと考えていた。
そして折りよく、ルイズが目を掛けていたメイドがモット伯に連れて行かれたことで貸しを
作るチャンスも得た。そして助ける手伝いを申し出る。ここまではいい。
だがあれはなんだ?あれは断じて人が放つ気配ではない。相対するだけで死を予感した。
心臓を握られたかのような感覚の中で問いただされ、自分のことを話してしまった。
母を治せそうならともかく館へ行く段階で話してしまうという愚を犯してしまった自分。
そして、トリステイン王宮勅使であるモット伯の暗殺の片棒を担がされてはもう逃げ場はなかった。
 ・・・だが手応えはあった。ルイズは確かに自分の使い魔なら母を助ける事ができるだろうと言った。
彼女の使い魔、あの亜人は人では行使できない先住魔法を系統魔法さえ使えなかったルイズに伝えるほどだ。
亜人が感情を糧にする云々は話半分としても、確かに母を治すことには期待が持てそうだ。
タバサは自分にそう言い聞かせながら目をつぶった。


シルフィードは自分の主人に取り付いた闇のピンクを恐れていた。
あれは本能の奥から自分達を揺さぶる者、自分達を支配する者だと感じる。
ピンクから遠くにいれば大丈夫だが、近くに寄ると酷く怖くて乱暴な気持ちになる。
ピンクを乗せている間はそれに耐えるのに必死だった。そして、お姉さまはピンクの言葉に篭絡された。
お姉さまからピンクを引き離すのは自分しかいない。シルフィードは人知れず決意していた。




夢を見た。
ルイズの目の前ではモット伯を片付けたこの夜が再現されている。
ルイズは自分が行っている凶行に満足していた。
モットの館の使用人たちが恐怖に引きつらせた顔をして逃げ惑うのを狩るのは楽しかった。
きっと使い魔も満足してくれる。
すべてが終わった後、目の前が闇に満ちる。凝り固まった闇が近づいてくるのがわかった。
その闇に包まれるとゆっくりと知らないはずの知識が入ってくる。
闇に抱かれながらルイズは安寧を感じていた。



翌日、ルイズは問題に直面していた。
いや、最初から気付いていた問題だったのだが先送りにしていただけだ。
もう着れる学院の制服が1着しかなかった。
衣装ケースには赤く汚れた制服が1着、同じく目立たないが赤く汚れたマントが2着、
制服とマントを2着づつしか用意していなかった。
これらは血で汚れたものを持っておくのはまずいと思いながらも始末できずに隠していたのだ。
とりあえず血の付いていない制服を着てから昨日タバサに洗ってもらった汚れがましなマントを羽織る。
白い制服に付いた血は取れないだろう。首都の仕立て屋注文しよう。
間接的に注文するには学院側になぜ制服が使えなくなったかを報告しなければいけない。
もちろん理由を言えるわけがないし、誤魔化して人を遣るにしても勘ぐられるのもあまり歓迎できない。
自分が直接トリステインの城下町まで行ったほうがよいように思う。
思い立ったが吉日、今日は授業をさぼろう。
使い魔の服を調べていた先生に話を通せば外出許可は簡単にとれるだろう。






首都に着いてから大剣を背負っている魔法学院の生徒というのが珍しいのか、注目を浴びていた。
むしろ前回のスリの件が効いているかも知れない。
大通りに面した贔屓にしている店に入る。
微笑みながら応対してくれる売り子は直接注文に来たことを不思議そうにしていたが
制服のマントで隠れる目立たない所を少し改造してほしいと言うと喜んで受けてくれた。
改造制服はこうやって作られているのだろうことが窺い知れる。
できてから学院のほうに小包として送るかと訊かれたがちょうど虚無の曜日に出来るとの事なのでその日に取りに行くと返事をする。

店から出ると複数の視線が感じた。そのまま大通りからはずれ、人気のない路地裏に入っていく。
ちょうど空き地があったのでその中央まで入り振り返ると背の低いぼろを纏った浮浪者がこちらを見ていた。
しかし浮浪者とは思えないほど眼に力がある。ゆっくり近づいてきたが5歩の距離を残して立ち止まる。

「こんにちは。先日は貴方を攫うために馬車まで用意したというのに皆殺しにされてしまいました」

その言葉で理解したこいつは浮浪者ではないことを理解する。以前町で潰したスリ、
そしてその後学院の帰り道で皆殺しにしたゴロツキ共の仲間・・・・

「まあ、我々としてもあれだけの人数、しかもかなり使える奴らを失ったのは痛手でした。
 そして、今回はその穴埋めをしようと思いまして」

ここまでくるとこの男が何を言いたいのかルイズも理解していた。

「金?私をどうしようと言うのかしら?」

「はい、今回の人員の損失でトリステインに置ける我々の立場が大変危うくなっております。
 いままで押さえつけられていた者たちが我々に牙を向けようしていて眠れない夜が続いているのです。
 ですのでここらで見切りをつけて最後に多額の金銭を稼いで逃げようと考えました。
 つまり身代金目的の誘拐をしようと思っております」

「貴族にそんなことして逃げ切れると思っているのかしら。あなた、縛り首じゃ済まないわよ」

「もちろん大丈夫ですよ。我々は成功と同時にさっさとこの国から逃げる算段を付けております。
 貴族様は体面を気にしますからね。金銭で解決するなら魔法を使えない自分の娘が誘拐された等と
 貴方のお父様は外にはもらさないでしょう」

ルイズが魔法を使えなかったことをしっかり調べられていることに目を剥くと、
それに気を好くしたか浮浪者はさらに続ける。

「情報収集に抜かりはありません。貴方についてはしっかりと調べましたよ。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、かのヴァリエール公爵家の3女。
 学院での二つ名は『ゼロ』、これは魔法が使えないからだそうですね。
 しかしこの春の使い魔召喚の儀式で大物を呼んだとか。
 確かに貴方の使い魔は我々の仲間を皆殺しにするほどすごいようですが今は連れては居ないでしょう?
 貴方が何も連れずにここまで来たことはわかっています。
 魔法も使えない子娘一人くらい簡単に攫って見せますよ」

使い魔・・・その単語が出た瞬間心臓が大きく波打ったが、
よくよく考えるとルイズの使い魔は眠ったままだ。
こいつらは仲間を私の使い魔が殺したと勘違いをしている?
そうだ女一人であれだけの人数を殺せるとは普通は思わないし、
まして私は魔法が使えないことになっている。
そこで使い魔が出てくるのか・・・

背中のデルフリンガーの柄に手を掛ける。
浮浪者の格好をした者は特に緊張した様子も見せずこちらを見ているだけだ。
いざ闇の衣を纏おうとしたとき、視界が歪み、猛烈な眠気に襲われた。
眠りの魔法、スリーピングクラウドだと頭に思い浮かべながらルイズは膝から落ちるように地面に突っ伏した。

ルイズの位置からは死角になっていた路地から町人風の服を着た杖をもった者が2人出てくる。
ルイズの杖と剣を取り上げた後しっかり縛り、ちょうど人一人入れられそうなズタ袋にルイズを詰め込む。

「我々としてもあれだけの被害を負っては貴方を侮ることなどできません。
 剣で殺された連中もいましたし、町の武器屋でのあなたの行いも調べました。
 あなた自身かなり使えるのでしょうね。
 しかしスリーピングクラウドを二重に食らえば何もする暇はないでしょう。
 使い魔も連れていないのは感心できませんが、そのおかげで貴方を攫うことができます」

すでに意識のないルイズに言い聞かせるように話す浮浪者は満面の笑みであった。
男達はルイズを入れた袋を担いでそのまま馬車を使って町を出て行った。



王都から荷馬車が飛び出したのを観察していたモノがいた。
それは自身の主が荷馬車に乗っていると感じ取っており、何時も通りそれの後を追う。
不幸にも馬車に乗っている者達はそのモノに全く気付かなかった。

__________


 ・・・頭が痛い。
眠気を無理やり押さえつけて起きたような痛みでゆっくりと覚醒したルイズが瞼を上げると
木目が並んだ天井があった。
呆けて居るうちに自分が眠る前にあったことを思い出し眠気が飛ぶ。
ズキリと痛む頭に手を遣ると瘤ができているのが確認できた。落ち着いてくると自分の現状を確認する。
自分の四肢は縄で縛られ背中のデルフリンガーも無ければ杖もない。
周りを見たところ木で造られた建物の一室であることがわかる。
家具は椅子と机しかなく、部屋の隅には埃が貯まっておりあまり使われていないようだ。
しかし、誘拐した者たちの気配もない。物音一つせず静まり返っているのはどういうことだろうか。
闇の衣を纏い即座に縄を引きちぎると扉に向かう。
その途中で窓から外を見るが森しか見えない。場所の判断はできそうになかった。
日もずいぶん高くなっている。下手をすればすでに午後どころか日付をまたいでいるかもしれない。
さっさとチンピラ共を片付けねばなるまいが血を制服に付けて学院に帰ると怪しまれる。
血が出ないように殺さなければと考えながらゆっくり扉に隙間をつくると
最近になって嗅ぎ慣れてしまった鉄の匂いが漂ってきた。
扉の隙間から外を伺うと一人の人間が足を投げ出し壁にもたれかかっているのが見える。
服装から例の浮浪者の姿をした者だと判断できたが、その粗末な服が赤黒く染まっていた。
何時もの夢遊病のように自分が寝ている間に殺ったのだろうか?
しかしさっきまで縛られていたのだから出来るはずもない。
そのまま慎重に外を伺いながら部屋を出ると、先ほどの部屋より大きなリビングのような場所であった。
今入ってきた扉の他に2箇所ドアがある。一方は上がり小口があるので外に通じているのだろう。
3つの部屋だけで構成される小さな小屋といったところか。
こちらの部屋はよく掃除が行き届いているのか塵もほとんどない。
その代わりとでも言うように六体の死体が転がっていた。
生きている者が居ないことを確かめてからすべての死体をじっくり観察する。
六人の内、四人は喉に杭で穿たれたような穴がある。残り二人は頭蓋骨が凹んでいるのと
首が曲がってはいけない方向に曲がっている事がそれぞれの死因であろう。
さらに部屋を見ていると、先程は気付かなかったが微妙に床が濡れていたり、
壁に鋭い傷が付いていたりと魔法で戦闘を行ったであろうことが見えてくる。
もう一度死体を見ると喉に穴の開いた死体の近くに杖が落ちていることに気付くことが出来た。

ここで何があったのだろうか。6人の内少なくとも4人ものメイジが揃っているというのに殺されている。
これ以上は時間の無駄と判断したルイズはさらに探索を続ける。
残った最後の部屋に入るとデルフリンガーが机の上に何枚かの紙といっしょに置かれているのを発見できた。
机の引き出しにはルイズの杖が入れられており、すべての武器を取り戻すことができた。
机の紙はどうやらルイズを誘拐した旨を綴ろうとしている痕跡が見られる。
チンピラ達はこれをヴァリエール領の本邸に届けようと考えていたのだろう。
デルフを鞘から抜いて何があったのか聞けばいいことに今更ながら気付いてしまった。

「ぷはぁー!やっとしゃべれるぜ」

がちゃがちゃと口に当たるのであろう部分を動かしながらデルフがしゃべる。
それを無視して死体のある部屋に行く。

「さっき目が覚めたところだから情報が足りないわ。どのくらい時間が流れた?
 あとここで何があったの?」

「って、娘っこが殺ったんじゃねぇのか?・・・ええっと何処から話せばいいのかね。
 まず時間はおまえさんが眠らされてから4時間ほど経ってる。
 おまえさんが眠らされた後小屋まで運ばれたんだが、この部屋で離れ離れ。
 俺にできた事はさっきの部屋に置かれてから陰気な奴が手紙書いてるところを見る事だけだったよ。
 一時間ほど経った頃に少し騒がしくなったからてっきりお前さんが暴れたとばっかり思ってたんだが。
 さっき起きたって言うしな」

「こいつらを始末したのは私じゃないわよ」

「わかってるよ。よく見ればこの死体の喉に空いた穴。ぶっとい槍で串刺しにされたんだろうぜ。
 そんなの娘っこは持ってねぇしな」

「この傷、エアーニードルか何かじゃないの?」

「違うね。それならもっときれいな穴が開いてるだろうぜ。魔法なしで
 六人相手に立ち回って速攻で勝負を決めたんだ。メイジでなくとも恐ろしい使い手だぜ」


そうこうしていると外から馬の蹄の音が聞こえてくる。
窓から外を伺うと町人風の服を着ている男が馬を下りているところだった。
その後に続くように3台の馬車が止まる。デルフによると最初の男は見たことあるとのこと。
どうやら死んだチンピラ共の仲間らしい。

馬車からは武装した人間がどんどん降りてきて周囲を警戒し始めた
全員で19人ほどか・・・しっかり杖を持っている者もいるようだ。
杖剣と見られるものを装備した3人がゆっくりとこちらにに向かってくる。

「まずいぞ。あの三人、めちゃくちゃ強い。娘っこじゃかなり苦戦するぞ」

デルフがそう警告するのなら本当にそうなのだろう。
そして油断のないこの人数を相手にするなら間違いなく怪我を負い、制服が血に染まる。
ルイズはまずいと感じながらも詠唱の無い魔法の先制攻撃以外思いつけない。

悲鳴が上がった。小屋と逆方向の森の陰から巨大なオークが武装した者たちに襲い掛かってきたのだ。
そのオークは流れるような動きで最も手前に居たメイジに接近するとその手に持った槍で喉を見事に突く。
続く蹴りでその横に立っていた男が地面と平行に10メイルほど飛んだ。
こちらに向かっていた3人も身を翻してオークに向かっていく。
中途半端な魔法はその体毛で跳ね返し、詠唱の長い魔法では素早い動きに付いていけない。
範囲魔法を放とうともすぐにその範囲から抜け出してしまう。

「ありゃあ娘っこが遺跡から連れ出したオークの親玉だな」

デルフリンガーがとんでもない事を言っている。それ以外にもルイズはこのオークに覚えがある。
確か魔法の練習を行ったときに出会った奴だ。間違いない。あの巨体を見間違えるはずがない。


8人目が殺されたところで先程こちらに向かっていた3人がオークを取り囲む。
3人とも風のメイジなのかエアニードルを剣に纏いかなりの連携でオークを苦しめ始めた。
オークはその囲いから抜け出せず攻撃を防御することに手が一杯になってしまっている。
そうなると他の者も落ち着きを取り戻し始める。
まだ生きているメイジ全員が改めてラインやトライアングルのスペルを唱え始める。
3人が抑えているうちに土メイジの魔法がオークの足に纏わりつく。
続いて詠唱していた魔法が一斉に放たれた。
オークは避けることもできずにすべてをまともに受けてしまったようだ。
膝を付き、槍を杖のように寄りかかることで何とか膝立ちの体勢を保っている。
その身体は焦げや深く入った切れ込みなどがあり正に死に体であった。
様子を見ようと考えていたルイズもかなりの槍さばきを魅せたオークが
連携の取れた3人に翻弄されていたことで一人で彼らを相手にするのは苦しいと考える。
オークに注目が集まっている内に一人を殺しておこうと、
デルフを完全に抜いて外への扉を開けた正にその時、声が響いた。

「ザラキ」

瀕死でありながらしっかりと力の込められたその声を聞いた瞬間、
ルイズは背筋が凍ったかのような錯覚を受けた。全身から汗が吹き出る。
しかし全く体に異常がないことに安堵したところでオークを囲んでいた3人の内2人が糸の切れた人形のように突然倒れた。他にも3人ほどが倒れている。
残った6人は何が起こったのかわからず呆然としている。

「ベホマラー」

さらに声が響いた後、瀕死であったオークが立ち上がった。
何時死んでもおかしくなかった怪我が一瞬で動けるまでに治っていることにルイズは目を剥く。
このオークの先住魔法!なんと強力なのだろうか!
オークを囲んでいた3人組みの一人が倒れている2人にふざけている場合かと声を掛けている内にオークが近寄り心臓を一突きにする。連携が取れていなければ呆気ないものであった。
そこでやっと事態を悟った残りの5人が悲鳴を上げて逃げ出した。
恐怖に駆られた人間はその恐怖の根源であるオークから一番遠い方向、
つまり小屋のあるルイズがいる方向に向けて走り出す。
5人はルイズを見ると血走った目で走り寄ってきながら詠唱し始める。

「貴様さえ殺せば使い魔の契約は解ける!」

すでに彼らの中ではオークはルイズの使い魔であるようだった。あの三人がいないならどうとでもなる。
訂正することはせずにちょうど綺麗にまとまってくる連中を冥土に送ってやることにする。

「ヒャダルコ」

詠唱も無く突然出現した氷の嵐に抵抗もできずに凍ったひき肉になる。たまたま2メイルほどのゴーレムを出した土メイジだけがそれを壁として生き残った。
運よく生き残ったというのに全くうれしそうでないその男にルイズは微笑みかける。
天使のような微笑に男も釣られたかのように引きつった笑みを浮かべ、杖を放り出し命乞いをし始める。
オークを見れば傷の大半を先住魔法で癒し終わったらしく、
ルイズから少し距離を置き、座って槍の手入れをし始めている。
どうやらこちらに敵意はなさそうだ。小屋の中を片付けたのもあのオークで間違いないだろう。
一応オークにも注意を向けながら男に向き直る。
チンピラ達のことについて質問すると、よほど恐ろしいのかオークをちらちら見ながら
能弁に話し始める。小鳥のように囀るというのはこのことだと感心したものだ。


ルイズを前にして男はとにかく喋った。死にたくなかったから・・・
身持ちを崩した貴族たちが集まって起こした庸兵集団。その名は血管針団。それがチンピラ達だった。
名前の由来は昔リーダーが魔の遺跡で盗掘に励んでいた時、仲間であった冒険者たちと使っていた技らしい。
名前の由来を聞いたときビビンと興奮気味に話すリーダーにちょっと引いたのは内緒だ。
他の経験豊富なメイジや庸兵も納得していたことからその名前に決まってしまった。

すでに守るべき名誉もない20人近いメイジを核とした集団はどんなことでもやった。
今では庸兵というよりもトリステインの掃き溜めと呼ばれるまでに成長し、すっかり裏側を仕切っていた。
依頼による任務はもちろん、生活が苦しくなると盗賊の真似事までした。

そんなある日仲間の一人が魔法学院の女生徒にスリを働こうとして失敗した挙句、血祭りに上げられた。
その女生徒こそルイズである。

その出来事は裏に素早く広まり、裏の顔としての実力や信用がひどく損なわれることになりそうだった。
さすがに貴族相手はかなり危ない橋を渡ることになる。しかし、これまでのクライアントや他の悪党、庸兵たちへの信用を回復するためにもやらなくてはならない。
貴族の娘はどこかの奴隷市で出品すればいい値が付くかもしれないから楽しみでもあった。
ここで想定外の事態が起こる。攫いにいった仲間がなかなか帰ってこないのだ。
そして明け方に皆殺しにされたという報が届く。向かった奴の中には手練のメイジもいた。
失敗するはずがなかったというのに。
もちろん信用の回復どころではなかった。そして、これに伴う戦力の低下が周りの動きを活性化させた。
いつの間にか庸兵団への包囲網が出来上がっており、これまで下についていた者たちが追い落としにくる。
手配されていた仲間の幾人かが役人に垂れ込まれて捕まるに至り、
このままトリステインにいたら全員が不味い飯どころか縛り首になるかもしれなかった。

そこで最後に大きいことをして金を稼いで逃げようと皆が考えていた時、ルイズの調査報告が入ってくる。
調べた結果思ったよりも大物貴族であった事に皆浮き足立ったがリーダーはがっぽり稼げるとほくそ笑む。
ルイズの誘拐身代金計画が始まった瞬間であり、俺達の運命が決まった瞬間だ。

「すでに逃げる先は決めている。アルビオンだ。すでにトリステインと仲のいい王党派は風前の灯。
 間違いなくレコンキスタが政権を取るだろう。
 レコンキスタに庸兵として紛れ込むことこそ生存への活路」

そう断言されると消極的だった者たちにも自信が湧いて来たのだ。
そして決行した。



「で、見事に皆殺しになったわけね」

「そ、そうです。小屋が貴方の使い魔に襲われたと聞いて戦闘要員は全員馬車に乗って来ましたので
 残っていません」

必死になって取り繕っているのがわかるが墓穴を掘っている。
ルイズは必死な男の頭を万力のような力で固定し目を合わせる。

「あなたで最後ってわけね」

「命だけはご勘弁ください!どうか!どうか!」

「仲間の仇を取ろうと言う気概もないのかしら」

「仲間って言っても皆から俺は馬鹿されてきたんだ!要領が悪いってラインなのにドットからも笑われた。
 団を抜けるなんて怖くて言えねぇし・・・」

その言葉から男が本当に冷遇されてきたことが感じ取れた。
目と鼻から水を垂れ流しているのを見て満足気に頷くとルイズは宣告した。

「あなた、私に雇われなさい」

何を聞いたのか分からないといったような顔でこちらを見る男。

「あなたの組織、戦闘要員は残っていないと言ったわね。なら他の人員は何のためにいるのかしら?
 一応庸兵団名乗るなら貴方達も情報に気を使ってたんじゃない?
 私が欲しいのはその情報を得るための人員よ」

男が何度も頷く。確かに残っている者の中には目端が利く情報を集める奴もいる。
もちろん今回の誘拐計画以前にさっさと団を見限った奴も多いがまだまだ残っている。

「あなたのやることは庸兵団でそういう諜報に使える奴を勧誘して新たに組織を作ること。
 けっして損はさせないわ。私の実家がどこかはよく知っているでしょう?」

「組織を立ち上げるなんて・・・お、俺じゃリーダーみたいにはできねぇよ・・・」

普段からあまり褒められたり、頼られたりしていないのだろう。
聞けばリーダーは小屋の中で死んでいた浮浪者風の男らしい。
しかし雇うのはしっかりしている者ではいけない。
ルイズが支配できる精神的に不安定であり、古巣に愛着がない者こそ使うのだ。

戸惑っている男にルイズは殊更にやさしく諭していく。

「あなたはさっきの死地を生き残ったのよ。きっとそれには意味があるわ。
 幸運はいまあなたに味方してる。そしてこの提案も貴方を見込んでのことよ。
 これまでどんな苦労を背負ってきたのか私は見てきたわけじゃないから知らない。
 けれど自信を持ちなさい。その苦労があなたを生かしたの。あなたを馬鹿にしていた連中は死んだわ。
 いまここからあなたの本当の人生が始まるのよ」

死にたくない一心で追い詰められているところで突如掌を返したかのような優しさで包む。
ルイズの言葉はこれまで冷遇されていた男の脳を侵すように響いてくる。

しかし、それ以上に奇怪なことが起こっていた。それを見ているのはオークだけだっただろう。
男の顔を固定しているルイズの手から闇の衣と呼ばれた黒い靄がゆっくりと男の耳、鼻、口から
体内に入っていた。

「あなたならどんなことでもできるわ」





一応現在の予算と報告方法を決めた後、しばらく放心したような焦点のない目をしていたが
突然目に力が戻り男は直ちに町に帰って行った。
男がしっかり仕事をするかはわからないが、こんな方法で情報源が手に入るならいくらでもやってやろう。
とにかく自分の目がほしい。アルビオンの戦況を知りたいのだ。

ここで残ったもう一つの問題に視線を向ける。

巨大なオークが仲間になりたそうにこちらを見ている。

デルフリンガーが言っていた遺跡からルイズが連れ出したとの発言、そしてこれまでの行動。
すべてルイズに危害を及ぼすことはせずに今回など助けられた。
下手をすると起きた目が覚めたときにはすべてが終わっていた後だった可能性も否定できない。
そしてなによりも気になったのはあの先住魔法だ。
一言で発現する様子といい。今ルイズが使っているものに似ている。
オークが魔法を使うなど聞いたことも無い。体の大きさといい、こいつは別の種族ではないか?
竜と韻竜が違うように特別な存在ではないか?
話しかけてみるが人語を解しているが話すことはできないようだ。
使っていた魔法について質問するとブヒブヒと地面に絵を描き出す。
それはオークが描いたとも思えないような遠近法まで使った無駄に綺麗な絵であり、
それは間違いなく本に見える。
オークにその魔道書を貸してくれないかというと胡坐を止めて跪き、
まるで臣下の礼を取るような仕草の後、走って行ってしまった。
まだ聞きたいこともあったが喋れないなら仕方がないかと諦める。
しかしあのオークは自分には従うだろう。
モンスターを従える力もすでに持っており、そう遠くない内に自分の中に見つけられる。
そんな確信がルイズに芽生えていた。
それよりも外出許可は取ったが外泊許可は取っていない。そろそろ帰らなければ。

「・・・どこよ、ここ・・・」




この日、魔の遺跡に駐留していた軍を外からの奇襲で通り抜け、
遺跡に入ってしまった巨大なオークがいたことは別の話であり、
さらにその後、遺跡からモンスターがあふれ出し、それに紛れてオークが包囲を突破したことも
語られることも無い話である。


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