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狼と虚無のメイジ-07a


狼と虚無のメイジ 第七幕 前編 

アルヴィーズの食堂。
教室の掃除で疲弊したルイズは、出された食事をまるで残さず、綺麗に平らげていた。
しかしそれでも足りないのか、ぷぅんと鼻腔をくすぐる香りにやや不満顔だ。

そんな彼女の前に、ひょいと小皿が差し出される。

「あるじ様、今朝食べていた例の品でありんす。くれぐれも他の方々には内密に……」
「ああ良い匂い……って、いや、その前に。なんであんたメイドの格好してる訳?」

差し出された不出のはずの賄い料理に目を輝かせたものの、目の前にもっと注目すべき物があるのだから黙っていられない。

食堂内で忙しなく働くメイドに混じり、堂に入った手つきで配膳を手伝うホロ。
動きだけ見れば違和感が無いが、その耳はやはり目立つ。

「んう?ああ、シエスタに借りた服を汚してしまったじゃろう。それの詫びの一つとしてな」
「いや、もっと良いの弁償するわよ、そんなの」
「たわけ。価値を図るに金は重要ではあるが絶対ではなかろ?そして貴族であるぬしと平民であるシエスタの感じる価値には大きな差もある。ぬしらが持っている杖と、あの服がシエスタにとっては同程度の価値だったかもしれぬ。許せるかの?」

べとべとに汚れた杖を想像し、ルイズはぶんぶんと首を振った。

「確かにそれは嫌だし許せないわ」
「で、あろ?」
「……でも、他の生徒に言うのは無しよ。平民の価値観なんて省みない連中の方が多いんだから」
「くふ、そこはそれ、相手の程度にあわせてこその賢狼じゃ。言えば理解し心に留める相手であればこその言葉よ」

実際、今の説教を他の貴族にしたところで馬の耳に念仏の一語に尽きる。
コンプレックス故に「持たない者の痛み」が解るルイズだからこそ、ホロの言葉が届いたと言えるだろう。

「何よ。だったら他の奴等に召喚されていたらどうしてたのよ」
「ふむ、そうじゃのう。まあ、概ねぬしより御し易い者ばかりであろうな。例えば……」

くるりと食堂を見渡し、とある一角に目を止めて、こそりとルイズに耳打ちした。

「それ、あそこの薔薇を咥えた、実にたわけた雄じゃ」
「ああ……」


薔薇は多くの人を楽しませる為、云々の会話が、嫌でもこちらまで届いてくる。

「言葉遣いと言い、服装と言い、実に頭が悪そうじゃな。雌と見れば豚の尻でも関係なく追いかけるのが目に見える。きっと頭のてっぺんは“これ”じゃな」

これと言った指先はくるくると左に回転している。

「ぷっ!」
「当たらずとも遠からず、かの?」
「ま、まあね。『雌と見れば~』のくだりなんか特に……にしても……くく、左巻き……」

ツボに入ったのだろうか、ルイズは口とお腹に手を当てて笑いを噛み殺している。
どうにか落ち着いたのを見計らい、ホロは言葉を続けた。

「あれに限った事ではないが、大抵の雄ならばちと媚びた声色でコロリと騙されよる。あとは利用するも良し、どこぞへと消えるも良しじゃ」
「何よ、結局色仕掛け?」
「くふ、なんじゃ。雌の武器を使うのにいささか抵抗がある様じゃの?」
「だ、だって私は仮にも公爵家の娘よ!?そんな娼婦みたいな真似出来る訳ないじゃない!」

その後に言葉を続けようとするが、顔を赤くしてそのまま下を向いてしまう。

「ふむ、なるほどの。ぬしの誇りは美徳ではあるが、ある点では勿体無い事じゃ」
「……どういうことよ」
「赤子、物心つかぬ幼子でも良い。それを傷つけようとする者が目の前にいた時、ぬしはどうする?」
「……」

即答は出来ない。ホロの質問には常に何らかの意図がある。
だからと言って、ルイズのその質問に対する答えは最初から決まっていたが。


「助けるわ。状況が許す限り」
「くふ、じゃろうな。そして何故助けるかと言えば、答えは概ね『小さく弱い存在だから』と言うところに落ち着く」

他にも色々あることにはあるが、あらゆる常識、しがらみを取り除いて最終的に残るのは結局そう言った部分だ。
弱者を擁護すると言う行為は、人間としての良識以前。
根底にある本能に従う部分が大きい。

「色仕掛けは雄の情欲をくすぐる手段ではあるが、同時に雌を守りたいと言う雄の本能に訴えておる。つまりは情に訴えると言う事じゃ」
「……」
「そこに利が生まれるかは兎も角、情に訴え、関係を柔和にするのはわっちら狼とてやっておることじゃ。じゃがぬしは……」
「ううう、解った、解ったわよ!」

そこまで言われて解らない程ルイズも馬鹿ではない。
色仕掛けも結局は円滑なコミュニケーションの一環であり、行き着く部分は情……心に訴える物と言える。
しかし高すぎるプライドが故に、自らの弱い所を隠す為に、そういった手段を全て否定してはいなかっただろうか。
最初は自衛手段に過ぎなかったのかもしれないが、いつしかそれは鎧の様に自分の周りを覆っていたかもしれない。

思い起こしてみれば、同情や憐憫以前に、心から自分の身を案じて声をかけてくれた生徒もいたのではないだろうか。
確かに貴族には高慢な者が多い。
しかし全てがそうである訳は絶対に無い。

ルイズは暫しの逡巡の後、はあと大きく溜息を吐いた。

「解ってはいるんだけどね」
「くふ、きっかけが無くてはのう。ま、案外そう言った機会は直ぐに訪れるものよ」

明確な答えは無くとも、ホロは全て解ったと言わんばかりに微笑む。
実際心が読めてるんじゃないだろうか?そうルイズが勘ぐりたくなった瞬間である。

「さようならギーシュ様!」

バシリと小気味良い音が、食堂全体に木霊した。
思い思いに食事を楽しんでいた生徒達が、一斉に音の方向を向く。


見れば栗色の髪の少女が、例の頭の悪そうな雄に平手打ちを食らわせていた。
会話からすると少女はケイト、つむじの巻きが逆と思しい雄がギーシュと言うらしい。

ケイトが離れると同時に、竜巻の様な髪をした少女が勢いよく立ち上がり、足音も凄まじく騒動の中心へと向かう。

「やっぱり……あの一年生に手を出していた様ね?」

怒髪が天を貫かんばかりの形相の少女。
ギーシュの必死な弁解からモンモランシーと言う名だと言うことが解かる。

必死と言っても実にお粗末なものである。咲き誇る薔薇の様な……とか、場末の酒場の三文吟遊詩人の方が職としては向いていそうだ。

「顔はまあ整っておるし、馬鹿な雌ならばコロリと行くこともあろうが……どうにも近づく気にはなれんのう」
「あら、奇遇ね。私もよ」

騒動を遠巻きに眺めている途中、ホロとルイズの側へ、並ぶと対照的な二人が寄ってきた。

「おや、ぬしは確かフレイム殿の使い魔の……唐変木」

赤毛の、成熟した魅力を放つ少女の顔が若干引きつる。

「ご、誤解がある様だから訂正しておくけれど、フレイムが私の使い魔よ。私が主人。主人のキュルケ。解った?」
「くふ、説明せずとも知っておる」

びしりと。キュルケの美しい顔に青筋が走った。

「る、ルイズ。あなた使い魔にどういう教育してるのかしら?」
「あら、他人の僕とは言え、使い魔に言い負かされるメイジの方が問題あるんじゃない?」


自分の事は棚に上げつつも、ルイズの口撃も的確にHIT。
キュルケの褐色の肌に、怒りから来る赤みが差した。

「た、タバサ~!」
「どう、どう」

ダダっ子の様に泣きつくキュルケを、タバサが馬に言い聞かせる様に宥めた。

「で、何の用?」

ルイズの切り出しに我に返ったキュルケは、取り繕う様に咳払いを一つ。

「ルイズ、そしてホロとか言ったわね。私は『嘘つき!』

キュルケの言葉を掻き消す様に、先程より大きな怒声が響いた。

見ればワインを頭から被ったギーシュと、瞳に涙を貯めて立ち去るモンモランシーが見える。

「当然の結果じゃな」
「まったくね」
「あれは無いわね」
「……最低」

茶、桃、紅、青。それぞれの髪の少女が口々に漏らしたのは似た様な意見だった。

薔薇の存在の意味を理解していない云々の戯言を未だに吐いている時点で度し難いが、もっと度し難いのはその後である。

事の発端となった香水瓶を拾ったメイドをあろうことか糾弾し始めたのだ。
そしてメイドの姿を見たホロは毛を逆立たせた。


「あの雄め。戯言を吐くだけならともかく、シエスタを責めるとは……」
「え、何、あの娘がシエスタ?」
「何々、どうしたのよ」
「……?」

円状に集まった少女四人。事態と状況、シエスタに関して軽く意見交換。
一分も経たず出た結論として。

「少々灸を据えた方が良かろう」
「少々じゃ生ぬるいわよ」
「明日の朝日が拝めないくらいで良いんじゃないかしら」
「同意……でも方法は?」

女同士が意見の合致を見せると、話が思わぬ方向に向く場合がある。
何時だって時代の影に女ありなのだ。

さりとてタバサの意見は尤も。
だがそこは賢狼である。ホロはニヤリとほくそ笑んだ。
ルイズの背筋にぞくりと寒い物が走る。
これはきっと間違いなく、狼が獲物を狩り殺す時の目だ。

「くふ、今回は獲物を捕らえる必要は無い。狩場は今混沌としておる。それを引っ掻き回せば、尤も無残な最期を場が自然に与えよう」

そうして耳打ちした作戦に、キュルケは大いに目を輝かせる。タバサもこれと言って文句は無い様だった。
しかし、ルイズには些か抵抗のある内容だったらしい。
最初は躊躇っていたが、ホロの「丁度良いきっかけじゃ」と言う一言を聞き、覚悟を決めたのか力強く頷いた。



◆       ◆       ◆       ◆       ◆


常々貴族と言うものは、揃いも揃って低脳ばかりなのだろうか。
例外もいるが大概はそうなのだろう。
シエスタは今までの人生の中で、何度そう心の中で呟いたか知れない。

しかしそれを言葉に出す事は決してない。
おつむの程度は兎も角、力のヒエラルキーでは確実に向こうが上であるし、抵抗して名誉の死など御免被る。

願わくばこの平民の呟きを綴った文章に、数百年後の人間が同情してくれるのを祈るのみだ。

そしてさし当たってそれを残す為には、膝を折り、へり下り、泣いて許しを乞うことが必要だ。
状況を打破するカードは他にもあるが、この程度の事でカードを使うのは勿体無い。
ともすれば反吐の出る作業だが、反吐で済むなら安いもの。貴族の坊ちゃん相手ならちょろいものだ。
しかし見るからに頭が悪そうだ。きっと頭頂は左に巻いているに違いない。

「聞いているのかな、君は!」

声を荒げて鼻の穴が広がっているのに気がついているんだろうか。
長い毛が一、二本見えてるんだけど。

ああ、いけない演技演技。演技をしなければ。
貴族への恐怖で声も出せず震えている感じを出せば良いでしょう。
しかし本当に、益々頭が弱そうだ。左巻きは確定ね。

などとシエスタが顔で怯えて心で舌を出している時である。

「ギーシュ様!」

見計らった様に、ホロがその渦中に飛び出した。
シエスタを庇う様に前に進み出る。


「あれは……」
「ルイズの使い魔じゃないか」
「何でメイドの格好しているんだ?」
「可愛いから良いじゃないか」

再び沸き立つ聴衆。渦中のギーシュは目を丸くしている。
周囲の疑問が頂点に達した時を見極めると、ホロは良く通る声で喋り始めた。

「お怒りはごもっともと思いんす……じゃが、シエスタに罪はありんせん。何故ならこの瓶はわっちが始めに見つけたものでありんす」

もちろんでっちあげである。シエスタが拾った時点でホロとの距離はかなりのもの。
しかし貴族である生徒は一々メイドの場所など気にしていないので、その部分は問題ない。

「わっちも始めは声を掛けようと思った……じゃが、シエスタに頼まれたのでありんす。『この瓶は私に届けさせて欲しい!』と……」

ざわりざわりと周囲が沸き立つ。何故わざわざ他人の仕事を引き受けるのか。
幾つかの理由はあるが、この状況であれば答えは一つだ。

「な、何故だい」

本当にこやつは頭が悪い。たわけの上に大どころかドがつく一級品だろうとホロは心で悪態をついた。
もちろん顔にはちらりとも出さず、シエスタを案じる一人の少女としての体裁を崩さない。
そこにシエスタが、ホロにだけ聞こえる様に耳打ちした。

(……そういうことで宜しいんですか?)

ホロはちょっとだけ目を丸くした。
羊と思っていた相手が、実は牙を研ぎ澄ました狡猾なコヨーテだったのだから。

(そういう事じゃ)

了解を得たシエスタは、本当に小さく、弱弱しく。
傍から見れば、唾を飲み込む動作にしか見えない程度に頷く。


「申し訳……申し訳ありません!身分違いは重々心得ておりました……本来ならばこの思いも、胸に留めておくつもりでございました……」

わっと伏せるその瞳には確かな涙。

「一言……ただの一言で良かったのです!ギーシュ様に「ありがとう」と……そう言って貰えれば満足だったのです!それで全て忘れようと……誓ったつもりでした」

女性の涙。そこには魔法が宿る。
そこに貴賎の差などは無い。
見てる側に区別がつかなければ、嘘泣きでも。

「しかし、実際には……ギーシュ様に迷惑を……しかも二人の御婦人にまでも……!」

身を震わせて後悔の念を露にするシエスタ。

「嗚呼……やはり身分違いの恋慕など許されざるものなのでしょうか……?でも……でも私は満足でございます!ギーシュ様に、この思いを伝えられたのですから……」

そしてギーシュに縋り寄り、咥えた薔薇に目を向ける。

「ギーシュ様!どうかこの愚かなメイドを、その杖で一思いに!ギーシュ様の手にかかって死ねるならば本望でございます!」
「え、えーとシエスタと言ったかな。まあ落ち着きたまえ」

如何に左巻きなギーシュと言えども、たかが色恋で平民を殺すつもりは無い。
ちょっと脅してうろたえる様が見れれば満足だったのだ。
それが蓋を開けてみればこの展開である。
内心かなり焦っているが、自分に利のある色恋沙汰に関しては少しは頭が回るのがギーシュだ。
良く見ればこのシエスタと言うメイド、顔は合格点だし、何よりゆったりしたメイド服の上からでも解る、歪みの無い体つきだ。
ここは優しく声をかけ、夢を見せて上げるのが僕の仕事ではなかろうか。あれだ、ノーブラ何とか言う。
うんそうだ、そうに違いない。

そう鼻の下を伸ばすギーシュの耳に、また別の声。

「すまぬシエスタ……わっちは嘘をついておった」


展開を見届けていたホロが突然……本人にとってはタイミングを見計らってぽつりと口を開く。
もちろん、ざわつく食堂でも、周りの幾人かには聞こえる様に計算して。

「わっちは……これが先程のお嬢様が作った香水であると知っておった。これをギーシュ様に渡せばお怒りになるであろうことは知っておった……」

節目がちに、しかしちっょとだけしなを作る。

「ホロ……さん?」
「わっちも!」

ここで一拍置く。そしてこの間に、瞳に涙を溜めて潤ませる。
言ってはいけないことを、しかし決死の決意で言おうとしている。周りにはそんな風に見えている筈だ。

「わっちも……ギーシュ様のことが……」

そして、つつとホロの頬を伝う一筋の涙。

「……何処とも知れぬ場所に呼び出され、不安で眠れぬわっちに優しく声をかけて下さった……つい昨日のことでありんす」
「へ……いや昨日は確かケイ」
「そしてわっちを胸に抱き、『心配いらない、僕に任せて』と言って下さった……承知の上……一夜のお戯れと承知して……わっちはこの身を……」

どよどよどよとざわめきが広がる。
直接的な言葉こそ無いが、最後まで言わずとも容易に想像のつく話だ。
傷心の少女に気の多い男。何が起きるかなど想像に易い。
実際にあったかは問題ではない。あったと思われても不思議ではない状況、人物が揃い過ぎているのだから。

「忘れられぬ程に甘美な夜じゃった……わっちは、この一夜を糧に生きていこう。そう思える程に……じゃが、ギーシュ様があのお二方と楽しく話しているのを見て……何もかも吹き飛んでしまったんじゃ……」

後悔も露に、ホロは言葉を続ける。
既にメイドや生徒、料理人の区別無く、ホロの一挙手一投足を見逃すまいと、固唾を呑んで見守っていた。

「あれが身を焦がす嫉妬と言うものなのでありんしょう……わっちはただあのお二方ををギーシュ様から引き離したかった!ギーシュ様に言い寄る女は全て!」

瞳から大粒の涙を零し、鬼気迫る表情で激昂するホロ。


「じゃから……じゃからシエスタに香水を渡したのでありんす!そうして無礼とそしられれば、二度ギーシュ様には近づかないと!そう……思ったんじゃ」

ふっと。
ホロは強張った体の力を抜き、憑き物が落ちた様に、静かに言葉を紡ぐ。

「しかし……やはり浅ましいことは出来ぬ。さっきのシエスタの言葉は、わっちの胸の内と全く同じ……どうして貶められよう……」

そしてホロは歩みで出る。再び、シエスタとギーシュの間に。シエスタを守る様に。

「わっちこそどうなっても構わぬ……じゃから……後生じゃから……」

俯くホロ。床にぽたりぽたりと大粒の涙が零れ落ち、そして顔を上げる。
そこにあったのは、余りにも悲壮な笑顔であった。

「シエスタを……助けてやって……くりゃれ」

全てを覚悟し、受け入れる。覚悟を決めた者の瞳。
こんな顔を本気でないと思えるだろうか。
思えるのは本人と、事情を知っている者だけだろう。
もしも本来召喚されるべき少年がいれば、こんなことを呟いていたに違いない。
「オスカー女優も真っ青だ」と。


「何を言うのホロさん!悪いのは私よ!それに私がホロさんの立場ならきっとそうしていた!」
「違う!わっちが諦めておれば何も起こらなかったのじゃ!否は全てわっちに!」

わっちが!私が!
そろそろ陳腐な雰囲気が醸しだされて来たが、何しろ対象がギーシュである。多少オーバーな方が余計にリアリティが出る。

実際周囲の者が「三股かよ」「いや、実質四股の様なもんだろう」と不名誉なことを囁きあっている状況を見れば、ギーシュの普段の行いが解ろうと言うものだ。

「ちょ、ちょちょちょっと待ってくれたまえよ。僕が何時彼女と夜を共にしたって言うんだい?まさか君達はこんな使い魔君の言うことを……」

じっとりとした周囲の視線は、明らかにギーシュへの疑惑で統一されている。
平民や貴族は関係ない。
結局の所、より心に届いた言葉が真実となるのだ。

「え、えと、二人とも。ここでは何だからもっと静かな場所で話そうじゃないか。うん」

明らかに居心地の悪い空気を感じたのか、ギーシュはホロとシエスタを伴ってその場から立ち去ろうとする。

(下の下じゃな)

ホロはそろそろこの雄を哀れに感じてきた。
機転次第では美談に転化出来る美味しい展開だと言うのに、この雄と来たら保身の為に逃げ出すことしか考えていない。
その上、あわよくばモノに出来ると思っているのか、二人を連れて行こうとする下卑た性根である。

恐らくそこが運命の分かれ道だったのだろう。

鋭利に細められたホロの双眸。
琥珀色の瞳は確実に「本当の地獄はこれからだ」と告げていた。


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