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零姫さまの使い魔 第六話


「あっしは手の目だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 あっしの芸が当てにならないってのは 先刻述べた通りだが
 これがどういうわけか 占うまでも無い 分かりきった未来に限って
 妙にはっきり見えやがる事が 往々にしてある

 何でこんな事話すかってェと こうしてる今も見えてんのさ
 そう 丁度ここ…… ニューカッスルに来た時から ずっとこんな調子さ

 尤も この国の行く末なんぞ 本来なら手前の知った事じゃねぇ
 手紙さえ手に入れば こんな辛気臭い場所ともおさらばって寸法な筈だが……

 あ~ぁ 何でこういう 大事な先は見えないかねぇ?」





――ニューカッスル

レコン・キスタとの決戦の準備が進む中、城内の一室では
机の上に置かれた封筒を、三人の男女がそれぞれ見つめていた。

「――さあ これが姫からいただいた手紙だ アンリエッタに宜しく伝えてくれ」

「殿下……」

部屋の主、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーの晴れ晴れとした笑顔に、ルイズの表情が曇る。
目の前に置かれた、アンリエッタの手紙。
これを無事に持ち帰れば、見事、王女からの依頼は果たされる事となる。

だが、王女がルイズに対して望んでいたのは、こんな小手先の使い走りでは無いだろう。
ニューカッスルの置かれた絶望的な状況を見るにつけ、ルイズは改めて感じずにはいられなかった。

アンリエッタは、想い人であるウェールズの亡命を望んでいたのだろう。
それは、政治的に見るならば、進んで災厄を招き入れる行動であり、指導者の立場にある者が下してよい命令ではない。
だからこそ、彼女はこの任務を、切れ者の宰相でも有能な魔法衛士隊隊長でもなく、
唯一無二の友であるルイズに頼んだのだ。

そんな、乙女の切なる願いも、ルイズの言を尽くした説得も、遂には王子の決意を崩すことは出来なかった。
任務を達成しつつある現状とは裏腹に、ルイズの胸中は重く沈んでいた。

「夕刻には宴が始まる
 しばし客間にて休息をとった後 是非 出席してもらいたい」

「…………」


ルイズはもはや、王子の覚悟を揺るがすほどの言葉を持ち合わせてはいない。
小さくため息をつき、部屋を後にしようとした。

その動きを、傍らにいたワルドに、軽く抑えられる。

「ワルド……?」

「子爵殿 いかがなされた?」

「おそれながら 殿下に折り入ってお願いしたき儀がございます」

穏やかではあるが、やや緊張が感じられるワルドの口調に、ウェールズが先を促す。

「もし叶うならば 明日 城内の礼拝堂において ウェールズ殿下の媒酌の下
 私と 傍らにいる婚約者 ルイズ・フランソワーズとの結婚式を行うこと お許しください」

「!」
「ワ ワルドッ! あなた こんな時に何を……」

「勿論 式といっても あくまで儀礼的なものさ
 立会いはあくまで殿下ひとりにお願いするつもりだし
 これまでの生活が変わるわけでもない
 ただ…… どの道 遠からず永遠の愛を誓い合うことになるのなら
 面識の無い司祭の前より 誇り高き騎士である殿下にお願いしたいと思ったんだ」

「…………」

「殿下」 

ルイズの沈黙を肯定と捉えたか、ワルドが改めてウェールズに向き直る。

「ニューカッスルに留まる兵達の覚悟 このジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
 武門に名を連ねる者として まこと 深い感銘を受けました
 残念ながら 私は重大な任務を帯びたる身 供をすることは叶いませぬが
 この上はせめて 殿下の媒酌を誉れに 今生の別れに致しとうございます」

ここまで、二人のやりとりを呆然と見ていたウェールズであったが
ワルドの最後の懇願に対し、穏やかな笑顔を見せた。

「素晴らしい話ではないか
 この無能たる我が身に残せる物があると言うなら
 喜んで お役目引き受けさせて頂こう」


「ワルド…… 何で あんな大事なことを突然?」

「ああ
 あれは何も僕たちの為だけではない
 あの申し出は ウェールズ殿下の為でもあるんだ」

「ウェールズ様の……?」

客室へと続く渡り廊下を、二人が進む。
視線を向ける事無く、ワルドが言葉を続ける。

「お優しい殿下の事だ 愛する王女に何一つ残せぬ事も
 その使者として現れた 君の誠意を袖にした事も 
 内心では相当気に病んでおられる筈さ
 その彼が 僕達に対し残せるものがあると分かれば
 少しは心労を和らげる事が出来るんじゃないかと思ってね……」

「…………」

ルイズが視線を落とす。
もし、ワルドの予想通り、ルイズの態度が王子を苦しめているというのならば
その憂いを取り去る為のワルドの方便を、止められる道理は無かった。

「――それから この話は彼女…… 君の使い魔には秘密にしておいた方がいい」
「え?」

ようやく平静を取り戻しつつあったルイズの思考が、再び揺さぶられる。
形だけの使い魔とは言え、彼女とは公的には主従の間柄であり、私的には大事な友人である。
いかに内々の式とはいえ、これまで危険の多い任務に従ってきてくれた彼女を、参列させない道理は無い。

「ここ数日 供に旅をしてきて感じた事だ
 やはり 彼女は我々とは違う」

「それ…… どう言う事?」

「いや 決して悪い意味じゃない
 ただ 今は契約で繋がれてはいるが 
 彼女の価値観は あくまで漂泊の民のそれなのだろうと思う」

「漂泊の民?」

「何一つ権利を持たずに生まれ それ故に 何の義務も負わずに生きてきた人間と言う事さ
 様々な特権に守られ その分 貴族としての在り方に縛られている 僕等とは真逆の存在だ
 世間の荒波に揉まれながら 自らの芸に由って身を立てて来た事だけが彼女の誇りだ
 死に望もうとする貴族の矜持も 今生の誉れを抱きたいという心理も 
 彼女は理解しようとはしないだろう」

「それは…… でも」

「レコン・キスタの圧力が迫る城内に留まり
 任務そっちのけで結婚式ごっこに興じると知れば 彼女は決して良い顔はしない
 君と彼女の関係に 必要の無い亀裂を生む事は無いだろう?」


どこかワルドに言いくるめられた感はあったものの、結局ルイズは押し黙るしかなかった。
手の目が危険を覚悟でついて来たのは、あくまでルイズの身を守るためである。
それを知りながら、結婚式に時間を費やすことは、彼女の献身に対する裏切りに感じられたからだ。

「終わったかい? おふたりさん」

部屋の入り口では、話題の中心人物である手の目が、二人を待ち侘びていた。

「手の目……」
「ああ 王女の手紙は 無事に返却されたよ」

咄嗟に言葉がでなかったルイズを遮り、自然な口調でワルドが言う。

「ついては今後の話だが……
 明朝 城内から避難民を乗せた船が出る
 君はそれに同乗し 一足先にトリステインに戻ってほしい
 我々は 後からグリフォンで追う
 長距離ではあるが 二人乗りならば何とかなるだろう」

「……言ってる意味がさっぱり分からねェ
 手紙が手に入ったんなら こんな所に長居する理由は無いだろうに
 一緒に船で帰ればいいじゃねぇか?」

「――君の立場から言えば 確かにその通りだろうが……
 今の我々は トリステインを代表する大使でもある
 アルビオン皇太子の厚意に甘えっぱなしで 挨拶の一つもせずに去るわけには行くまいよ」

「ふぅん……」

もっともらしいワルドの説明を、いかにも胡散臭げな態度で聞いていた手の目であったが
やがて詮索にも飽いたか、クルリと背を向けると、あてがわれた自室の扉を開けながら――、

「どうでもいいけどよォ 木乃伊取りがナントカってェのだけは勘弁だぜ」

「!」
「なッ……!」

――と、二人が反論する間もなく、バタンと扉を閉めた。


――夕刻

ホールでは、アルビオン王国にとって久方振りの宴が開かれていた。
トリステインの有力貴族であるルイズでも、目を見張る程の贅を尽くしたパーティー
テーブルには豪勢な料理の数々が所狭しと並び、着飾った貴族や貴婦人達が会話に花を咲かせる。
時折、老王自ら、ここまで付き従ってきた忠臣たちを慰撫して回るが
宴の歓喜に当てられたは、王の真摯な憂いすらも冗談として笑い飛ばした。

一切の翳りが無い、明るく、華やかな宴
それが却って、事態の傍観者であるルイズにとって、印象的な光景に映る。

「やれやれ こんな七面倒臭い宴席は初めてだ」

ようやく周囲から開放された手の目が、辟易といった感じで近付いてくる。
その表情は、既に先の冷めたものへと戻っている。

「手の目」

「あ~ぁ あんな浴びるように煽りやがって
 滅多に無ェ上等な酒だぜ あんなの見たら蔵元が泣くよ」

複雑な表情のルイズに対し、手の目の態度は傍観者そのものである。
余りのデリカシーの無さに、ルイズの心中に先の怒りが込み上げて来る。

「アンタねぇ…… あの人達が無理して明るく振舞っているのが分からないの?
 もうちょっと とるべき態度ってものがあるでしょうが」

「そんな事ァ こちとら百も承知さ お嬢の方こそ あいつらに入れ込みすぎなのさ
 目の前の光景は 所詮 隣国で起こってる他人事の一部なんだからよォ」

「そんな言い方……」

尚も反論しかけたところで、ルイズが違和感に気付く。
普段から冷淡な手の目ではあるが、いくらなんでも、今日の彼女の突き放した態度は余りにおかしい。
余りにも冷め過ぎた、傍観者の目線。
その意味するところは……

「手の目 アンタまさか……」

「まさかもなにも こうしてる今もはっきり見えるよ
 これから【先】の映像が 握り締めた刺青の上から流れ込んできやがる
 こんなにも見通しが利くのは こっちも初めての事さ……」

ルイズが憂いを抱えているのは、これから先、ニューカッスルで起こる出来事を予想するが故である。
そして、今宵の手の目がどこまでも冷め切っていたのは、これから起こる出来事を確信するが故であった。

「――でも 先が見えると言うのなら あるいは……」

「どうしようもないね 
 今の彼らに何を言った所で 情熱に水を差すことしか出来ないし
 どう助言してみたところで 盤上では既に詰んでるんだ
 あっしが見たものを余す所なく伝えたとしても
 精々 道連れに出来る敵さんの数が増えるってェだけさ……」


「そんな……」

「彼らは別にそれでいいのさ 
 今の彼らに残された問題は いかに誇り高く死ぬかってだけだからな
 だがよ お嬢はそうじゃねェだろ?
 だったら あんなモンに巻き込まれちゃいけねェや」

「…………」

「――他に まだ何か 抱え込んじゃいないか?」

ルイズが再び息を呑む。今宵の手の目の冴えは、まさに異常である。
もっとも、相手は年下とはいえ、長年酒の席を取り持つ事を生業としてきた手練である。
憂いを隠し切れない貴族の令嬢の心理など、裸同然なのかも知れない。

「察するに ワルドの旦那の事だろう?」
「……ええ」

と、ひとまず肯定はしたものの、それっきり、ルイズは言葉に詰まる。
明日起こる出来事を、手の目に話すわけにはいかないが、
その確信を避け、どのように悩みを打ち明ければ良いかが分からなかった。

「あの旦那は 何と言うか 少し近すぎるな」

「近い?」

「ああ あっしは勿論 初対面だし
 お嬢は小さい頃の馴染みとは言え 十年来会っていなかったんだろ?
 あの旦那は その辺の垣根を易々と乗り越えて近付いてくるのさ」

人と人の距離感。
それは、常に人と向き合う仕事で糊口を凌いできた手の目だからこそ、気になる部分であった。
人同士の付き合いには、それぞれに守っておきたい距離が存在し
人付き合いの旨い者であるほどに、踏み越えてはならない一線を把握して、
他人との間に、絶妙な距離感を保つものである。

これがワルドの場合、自分の本心は隠したままで
いつの間にか対手の内側に入り込んでこようとするきらいがあった。
彼がどこまで自覚的にやっているのかまでは分からないが
それこそが、ルイズが感じたある種の違和感、手の目が感じた本能的な嫌悪感の正体だった。

「――ともあれ ワルドの旦那は強引な流れを作り出す節はあるが
 後はお嬢が その流れに乗るか あるいは逆らうか 問題はそこだけなのさ
 だから 本当はあっしがちょっかい出す事でも無いんだが……」

言いながら、手の目がルイズの右手を取る。

「何?」

「なぁに ちょっとしたおまじないだ
 どうしても お嬢が自分で判断を下せなかった時は 
 こいつを試してみるのもいいだろうよ」


「やれやれ やっぱり当分は乗り込めそうにないね」

明朝、港内に集まった人だかりに対し、手の目が絶句する。
脱出に使えるのは、城に残った戦艦一隻のみというのだから
いかに城内に人が少ないとはいえ、混雑を起こすのは当然であった。

出航まで時間がかかるであろう事を覚悟し、手の目が港内の片隅に腰を下ろす。
手の目がトリステインからの大使の一行と知れば、乗員達も率先して道を開けてはくれるのだろうが
不安な表情を浮かべる女子供を押し退けてまで乗り込む程、安っぽいプライドは持ち合わせていなかった。

――と、
後方から感じた気配に、ゆっくりと手の目が振り向く。

洞窟の影から現れたのは、昨夜のパーティで見知った顔。

「あんた…… 王子様 かい?」

手の目の記憶に間違いが無ければ、確かに目の前にいるのは
アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーであろう。
昨夜見たとおりの穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いてくる。

手の目としては、その光景を額面通りに受け取るわけにはいかない
アルビオンの皇太子は、本来なら今頃、ルイズ達の別れの挨拶を受けていなければいけない筈である。

「……わざわざ出向いて下さったのは有難いが
 こんな所で 油売ってていいのかい?」

疑惑の色が混じった手の目の軽口に、男は応じない。
相変わらずの笑顔で、ゆっくりと体を沈め……

次の瞬間、風を巻き、獣の如き跳躍で、手の目の鼻先へと迫った。

「!」

咄嗟にかざそうとした手の目の右手首が、閃光の一太刀で斬り飛ばされる。

「ぐッ……」

返す刀で打ち込まれた強烈な刺突が、手の目の右胸を深々と貫いた。



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