あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-05


「………」
 ようやく2冊目を読み終えた。かなり遅いペースである。
 そもそも、いちいち辞書を参照しながら専門書を読み進む―――という行為に無理があるようにも思う。
(ともあれ、焦る必要もないが……)
 1冊目の本を読んでいる時に感じた『強烈な反応』に関しては、少なくともこちらからは絶対にアクションを起こさない、と決定している。『一ヶ月前の反応』も『一週間後の反応』も同様だ。
 こんな未知数な存在を相手に、うかつに行動を起こすほど、自分は若くもなければ勇気もないのである。
 今まさに調べている『魔法』のように、自分の興味を引く物であればその限りではないが、何せ精神年齢はもう70歳近く。
 40年前のように、

(……地球人の凶暴性、ウルトラマン、そしてデビルガンダム……私の汚名を返上するには最高の素材だ……。
 クククク……全宇宙に私の才能を示してやる……)

 このような思考に行き着くのは、少々困難だろう。大体、ハルケギニアの人間に自分の才能を示したところで、あまり大した意味もない。
 そもそもこのハルケギニアでは魔法が使えない『平民』の地位がかなり低いらしい。『貴族にあらざれば人にあらず』―――というほど酷くもないようだが、決定的な『壁』のようなものがあるのだ。
(……どうでもいいことだな)
 今の制度が続こうが、市民革命が起きようが、異邦人である自分にはあまり関係がない。
 ならば自分の趣味に没頭しよう、と本2冊分の知識を元に考察を始める。
(まずは『杖』か)
 エルフなどが使う『先住魔法』とやらは置いておくとして、魔法の行使には絶対に『杖』が必要とされている。
 メイジの『精神力』を外に『出力』するための装置、あるいはメイジが『精神力』を使ってこの『世界』そのものに対して影響を及ぼすための媒介のようなものだろうか。
 ……仮に前者だった場合、『魔法』はメイジ自身の力となり、後者だった場合はメイジというより『世界』自体が反応、あるいは呼応していると捉えることも出来るが。
 『杖』もまた、その辺の木を切れば良いという物ではなく、数日以上かけて契約したその個人専用のものでなくてはならないらしい。
 この行為が『世界』と『メイジ』とを接続するためのものだとすると、後者の方が可能性が高いのではないかと考えられるのだが―――
(あくまで『可能性』の話だからな……)
 あるいは、全く別の要因が絡んでいるのかも知れない。
 なかなか興味深い、などと思いつつ、ユーゼスは次のテーマに移る。
(メイジの能力は遺伝される……ふむ)
 階級制度が導入されているということは、おそらく長い間メイジ同士で血を交わらせてきたのだろうが、そのメイジと平民が子を成した場合、その子供は魔法を使えるのだろうか?
 考えられるパターンとしては、『魔法が普通に使える』、『魔法は使えるが威力は弱くなる』、『魔法が使えない』、『隔世遺伝によって数世代後に発現する』くらいだが、少なくとも自分が読んだ本にはそんな事例は書いていなかった。
 本によると、このハルケギニアには6000年も歴史があるのに、そのような例が1件も無いとは不自然すぎる。
(……平民と子を成すことを『家の恥』とでも考えたのだろうか。ならば記録に残すわけはないな)
 次に、レベルを上げる条件には、大きな感情のうねりかメイジの修練が必要とされる件について。
 ……感情のうねりについては、それこそスーパーモードかハイパーモードのようなものだろう。人間の感情を安易に単純化するのは危険だが、『激しい怒り』や『憎悪』などがキーになるはずだ。……『明鏡止水の境地』に至れば、一体ランクはどうなるのだろう。
 よく分からないのは、修練によってレベルが上昇する場合である。
 これは、ある日突然にレベルが上がるのか、それとも『そろそろ上がりそうだな』などという手応えのような物と共に上がるのか。
 あるいは、その『修練』の果てに至った精神的な境地こそが、レベルを上げるキーなのかも知れないが。

 続いて、魔法そのもの―――とは言え、コモンマジックについてしか読んでいないが―――について考える。
 『ライト』。そのままストレートなネーミングだ。光を放出する魔法だが、瞬間的に使って敵の眼をくらませる、という使い方も出来るだろう。
 『ブレイド』。魔力を刃とする魔法であり、そのメイジが得意とする系統によって刃の色も異なるらしい。ウルトラマンもスペシウム光線のエネルギーを使って八つ裂き光輪やキャッチリングを使っていたので、原理的には同じものかもしれない。
 『ディテクト・マジック』。魔法やマジックアイテムを探知するための魔法。応用として、その魔法やマジックアイテムの詳細を分析することも出来るのだとか。
 ……かなり大雑把な例えだが、リトマス紙を使って酸性かアルカリ性かを調べたり、ヨウ素液を使ってデンプンを検知するようなものだろうか。しかし詳細を分析するとは……。……自分が使えれば、おそらく乱用しているに違いない。
 『サモン・サーヴァント』と、『コントラクト・サーヴァント』。……これらが『コモン』であるということに非常に納得がいかない。
 仮にも空間を捻じ曲げる魔法と、ゲートを潜り抜けた生物にクサビを打ち込む魔法なのである。ルイズに至っては時空間まで捻じ曲げ、自分に特殊能力まで付加させたのだ。これが専門的なものでも、高度な魔法でもなく『コモン(共通)』。
 ……自分は40年かけてクロスゲート・パラダイム・システムを造り出し、ほとんど生涯を懸けて時空間を超えたのに、『コモン』。
(…………………………)
 ……深く考えると、めまいや頭痛が起きそうなので、これについては打ち切ることにする。
 『ロック』と『アンロック』。………………これに至っては、わけが分からない。鍵の構造など無数にあるはずなのに、それに対して施錠と開錠を行うとは、どういうことだろうか?
 しかも『アンロック』が効かない鍵もあるという。おそらくこの鍵はマジックアイテムの類ではないか……と推測する(あくまで『推測』である)が、そうするとこの『アンロック』の存在意義とは何なのだろうか。
 ―――と、基本的なコモンマジックだけでこれだけの疑問や考察が出て来る。
 これがそれぞれの系統魔法にまで及んだら、おそらくとんでもないことになるのだろうな―――などと考えていると、窓の外の空が白んでいるのが見えた。
(……徹夜してしまったな)
 研究に没頭して時間を忘れるなど、研究者にとってはよくあることである。
 無論、身体に良いわけはないが。
「―――そう言えば」
 自分はルイズから洗濯を頼まれていたのだった。
 率直に言って、こんなことはやりたくないが、これが務めだと言うのなら仕方がない。
 下着や肌着を持ち、ドアを開けて部屋の外に出る。
 そこで気付く。
「しまった」
 ……洗濯はどこでやれば良いのだろう。
 そもそも、この建築物の構造はどうなっているのか。
 いや、それ以前に、洗濯とはどうやるのだろう。
「……むう」
 途方に暮れるユーゼス。
 すると、そこに。
「……あら? たしか、ミス・ヴァリエールの使い魔の……」
 ルイズから状況説明を受ける前に、自分にパンを運んで来てくれた黒髪のメイドが現れたのだった。

 ちょうど良い。洗濯の場所、およびそこに至るまでの経路を説明してもらおう。
「……すまないが、洗濯する場所を教えてくれ」
「え? どうして使い魔さんが洗濯を?」
「御主人様に命じられたのでな」
 あはは、と苦笑しながら部屋の前に置かれた皿とコップを片づけるメイド。
「……えっと、私がやっておきましょうか、お洗濯? 多分、私の方が慣れてると思いますし」
 メイドは朗らかに笑いながら、ユーゼスの仕事の肩代わりを買って出る。
 ……ここまで邪気のない笑顔を向けられたのは、かなり久し振りである。
(逆にやりにくい相手だな)
 敵意や悪意、疑念などを向けられるのに慣れすぎたせいか、このような『見返りを求めない善意』はかえって危険かも知れない。
「……一応、私に与えられた仕事だからな。私が果たさねばなるまい」
「はあ、律儀な方ですねぇ。
 そういうわけなら、私が実地も込みで教えてあげます」
 そして洗濯物を持って歩くユーゼスとメイド。二人は連れ立って歩きながら、
「ふーん、それじゃ使い魔さんは東方から来たんですか?」
「……それに近い」
 正確に言うと『東方』どころではないのだが、東にはクロスゲートが頻出しているようだし、自分は擬似的なクロスゲートから出現したのだから、完全に間違いというわけでもない。ような気がする。
「む?」
 ふとメイドの顔を見てみると、そのすぐ下……襟元に光る物があった。
 よく見ると、それは……。
「? 使い魔さん、どうしました?」
「……その襟に付けているものは、何だ?」
 ユーゼスにとっては、どうにも見覚えのあるマークである。
 何せ、かつて自分が地球に赴任した折に、一番最初に所属した組織のマークなのだから。
「これですか? 我が家に伝わるお守りです。何でも、ひいおじいちゃんの故郷では、選ばれた人しかこれを貰えなかったそうですよ」
 ……あの組織は何だかんだ言ってもエリート集団だったのだから、当然である。

 しかし。
「曽祖父の故郷?」
「はい。60年前に、東の地から空を飛ぶ『銀の方舟』に乗ってやって来た、ってお父さんは言ってました。
 でも、『銀の方舟』をもう一度飛ばすことは出来なくって、そのまま村に住み着いてちゃって―――」
「……その『銀の方舟』とやらの、形状や色を教えてもらおう」
「えっとですね、『銀の方舟』ですから、やっぱり銀色で……ああ、先の部分あたりが赤かったですね。形は、こう……丸っこい形をしてるんですけど」
 メイドから『銀の方舟』についての情報を聞いたユーゼスは、乗っていた人間やその状況について思考を巡らせる。
(……空間の歪みか、ウルトラゾーンにでも巻き込まれたのか?)
 このメイドの曽祖父が乗っていた物がユーゼスの推測通りの物だとしたら、アレにワープ機能などないはずである。つまりワープ中の事故ではないことになるが…。
(……いや、待て)
 こちらに転移してきたシチュエーションは、大体ではあるが察しがつく。
 その転移してきた人間とやらの詳細については、これも察しがつく。人格などはどうでもいい。
 問題は。
「曽祖父は、お前の村で子を作ったのか?」
「はい。私の髪の色って珍しいでしょ? ひいおじいちゃん譲りらしいです」
「………」
(私の世界の人間と、ハルケギニアの人間で遺伝子交配が出来るだと……!?)
 ユーゼスは機会があればいずれ試してみようか(『試せる』可能性は限りなく低そうだが)とも思ったが、遺伝子交配については十中八九失敗すると考えていたのである。
 極端な話、自分は異次元人のようなものであるし、ハルケギニアの人間と遺伝子配列が極端に似通っている可能性は、限りなく低い。
 一条寺 烈こと、宇宙刑事ギャバンは地球人とバード星人の混血であるが、バード星には遺伝子変換のための技術もある。
 ……いや、そう言えば『母親は遺伝子変換を行ったのか?』と直接に聞いたことは無かったか……。
 仮にギャバンの母親である地球人が、遺伝子変換を行っていないとしたら……。
(……都合が良すぎるな)
 いくら何でも、そんな訳はないだろう。
 ユーゼスは思考をハルケギニアの人間に関するものに戻し、あらためて考える。
(やはり、ハルケギニアは地球の並行世界なのか……)
 隣り合っているとまでは言い切れないが、かなり『近い位置』にあるようだ。
(……まあ、私には関係のないことだな)
 並行世界だの、時空間の移動だのについては、今まで散々研究してきた。
 今はどちらかと言うと、この世界の『魔法』の方が興味深い。
 そして何より、今の自分には『洗濯』という困難な使命がある。
 メイドの襟に輝く流星のマークを視界に入れながら、ユーゼスは彼女と歩いていくのだった。

「ちょっと待っててくださいね、私の分の洗濯物を持って来ますから」
 そう言って、メイドはどこかへと小走りに駆けていった。
 待つこと10分ほど。……遠くから、何か布のカタマリのようなものがこちらへと向かって来る。
「………」
「よいしょ、っと」
 そこから聞こえるメイドの声。
 自分が手に持つ洗濯物の量と、メイドの洗濯物の量を、改めて比べてみる。
(……まあ、いいか)
 慣れていない人間に手伝われても、かえって足手まといになるだけである。そのあたりの割り切りは大切だ。
「じゃあ、行きましょうか」
「分かった」
 そして洗い場に到着し、メイドの指導を受けながらの、たどたどしい洗濯が始まった。
「あっ、駄目です、まだ十分に濡れてません……!」
「む、そうか?」
「焦っちゃダメです。もっとゆっくり……そうです、やさしく……」
「加減が……難しいな……」
「ああっ! そんなに乱暴にしたら破れちゃいますっ!!」
「……申し訳ない」
「もうっ、けっこうデリケートなんですからね? まあ、経験を積めば、使い魔さんももっと上手になると思いますけど」
「うむ」
「し、しぼる力が強すぎですっ! ちぎっちゃうつもりですか!?」
「いや、そんなつもりは無いのだが」 
 洗濯終了。……なかなかハードな内容だった。
「それじゃ、私はまだ続きがありますから」
「分かった」
 洗濯物を干す場所は教えてもらったので、メイドに教えてもらった通りに干す。……これも、意外にコツが必要だった。
 干し終わり、遠目に選択中のメイドを見つつ、ルイズの部屋に戻る。……気が付くと、既に日は昇りきっていた。
 ガチャッ
 ドアを開けると、ちょうどユーゼスの御主人様も目覚めた所だったようだ。
「……ぅあ?」
 寝ぼけた様子でこちらを見るルイズ。
「目が覚めたか、御主人様」
「……あ、アンタ、誰?」
「……………御挨拶だな」
 ルイズは数度まばたきをすると、『ああ、そう言えば昨日、召喚したんだっけ』と呟いてベッドから起き上がる。
「下着」
「どこにある?」
「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってるー」
 言われた通りに見てみると、確かに入っていた。
 ……どれを持っていけば良いのか分からないので、適当に選んで手渡す。
 なお、さすがに下着は自分で替えるらしい。
「服」
 椅子にかかっていた制服を無言で持っていき、ブラウスやスカートを着せる。
「顔」
「?」
「……顔を洗うのよ」
「そういうことは前の日の内に言って貰いたい」
「ったく、気の利かない奴ね……」
 明日から仕事が一つ増えるな、などと考えるユーゼスに頓着もせず、ルイズは命令を出していく。
「髪を梳きなさい」
「…………言っておくが、私はその方面は素人だぞ」
「別に良いわよ、わたしの髪は質が良いんだから、ちょっとやそっとじゃ絡まったりはしないの。でも少し乱れてるでしょ?」
「まあ、御主人様が良いと言うのなら構わないが」
 という訳で、言われた通りに桃色の髪を梳く。
「……じゃあ、食堂に行くわよ」
「分かった」
 そうしてルイズと部屋を出ると、ほぼ同じタイミングで真向かいの部屋のドアが開いた。
 そこから出て来た赤髪で色黒、長身でスタイルの良い女性がニヤリと笑って、ルイズに挨拶した。
「おはよう。ルイズ」

「……おはよう。キュルケ」
 面倒臭そうと言うより、嫌そうな顔でその女性に挨拶をするルイズ。
「あなたの使い魔って、それ?」
 女性はユーゼスを指差して、馬鹿にしたような口調で問いかける。
「…………そうよ」
「あっはっは! ほんとに人間なのね! 凄いじゃない!」
(ふむ)
 『人間の使い魔』が異常であるということについては、昨日の時点で主人から言われている。
 しかし。
(『凄い』、か)
 よくよく考えてみれば、あの付加機能を差し引いたとしても、自分は『特殊な例』なのである。凄いと言えば、確かに凄い。
(後で使い魔に関する本も読んでみるか)
 そんなユーゼスの思考などつゆ知らず、女性とルイズの会話は続く。
「『サモン・サーヴァント』で平民を召喚しちゃうなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」
「……うるさいわね」
「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」
「あ、そう」
「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。フレイムー」
 女性が声をかけると、その部屋の奥からのっしのっしと、地球のトラくらいの大きさの、真っ赤な爬虫類と思しき生物が現れ、その生物から熱気が伝わってくる。
(怪獣か)
 特に目を見張るものでもないな、とユーゼスは思った。
 彼のいた世界では、地球や他の惑星や宇宙などに、ウジャウジャこういう類の生物がいたのである。
 切られた尻尾がビチビチ動いたり、火を吐いたり、冷凍ガスのようなものを出したり、光線を吐いたり、その光線を腹から吸収したりする怪獣がいるのだから、今更、熱気を出す程度では全く関心を引かない。
「あら、そっちのあなたは興味なさそうね?」
「……いや、それなりに興味はあるがな」
 『通常の使い魔』という面においては、興味を抱いている。
「襲いかかったりはしないのか?」
「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないから。冷静そうな顔してるけど、意外と臆病なのね」
(命令に従うということは、あの『精神制御』は全ての使い魔に共通しているのか)
 自分のように『この世界よりの思考』を押し付けるものではないだろうが、それでも『主人の命令を聞く』という方向づけはなされているのだろう。
 その後、自分の使い魔の凄さをこれ見よがしにアピールした女性―――『微熱』のキュルケというらしい―――は、ついでとばかりにユーゼスの名前を聞くと、颯爽と去っていった。
「くやしー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」
(希少価値という面で言えば、『人間の使い魔』の方が高いと思うが)
 わめくルイズを冷静に見ながらそんなことを思うユーゼスだったが、おそらくルイズにそんなことを言おうと、慰めにもなるまい。むしろ逆効果の可能性もある。

 ルイズは『う゛~』と唸って自分を見ると、
「ああもう、メイジの実力を測るには使い魔を見ろって言われているぐらいなのに! なんであのバカ女がサラマンダーで、わたしがこんな平民なのよ!」
 今度は、ユーゼスに向かって喚き出した。
「それは私の方が聞きたい」
 ユーゼスもユーゼスで、主人と同じ疑問を主人自身に投げかけてみる。
「うっさいわね! ……ああそうだわ、今後、あの女には近付かないようにしなさい。いいわね?」
 主人はその疑問を一蹴し、かなり一方的な通告を使い魔に行った。
「理由を尋ねても良いか?」
「……そうね、どうもアンタは理屈で動くタイプみたいだから、ちゃんと説明してあげる」
 ルイズ曰く、
 ・キュルケはゲルマニアの貴族である。
 ・わたしは成り上がりのゲルマニアが大嫌い。
 ・実家のヴァリエールの領地はゲルマニアとの国境沿いにあり、逆にキュルケの実家のツェルプストーの領地はトリステインとの国境沿いにある。
 ・つまり両国が戦争になったら、真っ先にヴァリエールとツェルプストーの戦いになる。
 ・要するに、先祖代々、両家は戦争のたびに殺しあっている関係。
 ・加えて先祖代々、婚約者や奥さんを寝取られている。
 ・小鳥一匹だって、あの女には取られたくない。
「わかった!?」
「概要はな」
(先祖はあくまで先祖であって、今代には直接的な関係はないのではないか?)
 そんな考えが頭に浮かぶが、どうもこの世界の『貴族』という人種は、歴史や伝統などを重要視しすぎる傾向にあるようだ。メンタリティの違いという物は、そう簡単に受け入れられるものではあるまい。
 ……自分が、地球人を受け入れられなかったように。
 それに、この主人の個人的な性格もある。下手な刺激は火に油を注ぐ結果になるだろう。
 頭から煙が噴き出しそうな勢いでプリプリ怒りながら、ルイズはユーゼスを連れて食堂へと歩いていくのだった。

(……私の趣味ではないな)
 トリステイン魔法学院の食堂の内装を見た、ユーゼスの感想はそれだった。
 とにかくきらびやかで、派手、豪奢、贅沢、豪華絢爛。
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
「ふむ」
「貴族たるべき教育も存分に受けるの。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」
「ふむ」
「ホントならアンタみたいな平民は、この『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」
「『アルヴィーズ』?」
「小人の名前よ。周りに像がたくさん並んでいるでしょ。夜になるとアレが踊ったりするわ」
「ほう……」
 どういう原理で動くのだろう、などとユーゼスがまた思考しようとすると、
「椅子」
 思考する間もなくルイズから指示が飛び、ユーゼスは無表情で主人の椅子を引く。
「アンタはそれを食べなさい」
 椅子に腰掛けたルイズが指差した先には、床の上にスープが一皿と、パンが二個。
「……………」
「ホントなら、使い魔は外なんだから。アンタはわたしの特別な計らいで、床。感謝しなさい」
「……………感謝しておく」
「よろしい」
 凶暴な地球人と傲慢なハルケギニア人、どちらがマシなのだろう……などと考えつつユーゼスは床に座り込む。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我らに与えたもうたことを感謝いたします」
 唱和の声が、アルヴィーズの食堂に響く。
(ささやか、か)
 ここでは『ささやか』という言葉の意味が、自分の知っているものとは違うのだろうか、と思ったが、翻訳機能の正確さからすると同じなのだろうと溜息をつく。
 そもそも、朝から大きな鳥のローストや、高級そうなワイン、マスの形をしたパイなど、明らかにカロリー多可である。
 よく胸焼けや胃が重くなったりしないものだ。
(これもこれで極端だが……)
 固いパンをスープでふやかしながら、ユーゼスはこの使い魔生活が早くも嫌になって来たことを自覚していた。
(………かと言って、支配や征服や君臨などをする気力もないし、滅亡させるのも意味がないがな)
 ゆっくりやっていこう、と改めて思う使い魔であった。
「ああそうだ、昨日は部屋の中にいたけど、今日からアンタも魔法の授業について来なさい」
「? 良いのか?」
 魔法に興味がある自分としては願ったり叶ったりであるが、この扱いからすると『授業に出るな』と言われると予想していたのである。
「……使い魔を連れてないせいで、色々と言われるのよ」
「ふむ」
 何はともあれ、『魔法の教育』が見られるのはありがたい。
 ユーゼスはその内容を期待しつつ、取りあえず今日一日の手始めのエネルギーの摂取を第一に行った。




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