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ゼロの氷竜-11


ゼロの氷竜 十一話

郷愁に染まるロングビルの横顔へ、ブラムドが問いを口にした。
「妹を、ここへ呼ぶわけにはいかぬのか?」
「……体が、弱いものですから。……つきましたわ」
ブラムドの疑問にロングビルはわずかなためらいを見せたが、話はそこで途切れてしまう。
本や紙束を抱えたロングビルが器用にノックをし、名乗る。
「ロングビルです。戻りました」
「うむ、入りたまえ」
重苦しい声で許可が下り、ロングビルは扉を開き、左足で一歩を踏み出し、右足を蹴り上げた。
足の先から飛んだ何かはきれいな放物線を描き、扉の先にいたオスマンの右手へ収まる。
「お見事です」
ロングビルの冷たい声が部屋に響き、部屋の主であるはずのオスマンはどこかおびえたよう視線をそらす。
「ご、ご苦労じゃった。資料は見つかったかね?」
オスマンは右手に収まる使い魔をねぎらいつつ、目的が達せられなかったことを残念がる。
……本を抱えていれば足下は見えぬと思ったのじゃがのぅ……。
無論蹴り上げた拍子に持ち上げられた服の裾からも、その奥を見通すことは出来なかった。
その様子を目の端にとらえながら、ロングビルは自らの机へ資料を置く。
「ええ、滞りなく。あとお客様をお連れしました」
その言葉に、オスマンの視線は扉へと注がれる。
「おお、これはブラムド殿。ようこそいらっしゃいました」
恭しく礼をするオスマンに、ロングビルは目を見張る。
今までトリステインの使者などがきても、自分から礼をすることなどはなかったからだ。
それでも学院長という立場にい続けられるオスマンが、これほど敬意を表すとは……。
昨晩観察したところではどういった立場の人間か、どういった力を持つ人間かわからなかったが、ロングビルはブラムドへ強い興味を抱き始めていた。
「邪魔をする」
そういいながら部屋へ踏み入れたブラムドだったが、ロングビルの行動とオスマンの態度の意味がわからず、釈然としない表情を浮かべる。
色欲に縁のない身では、理解のしようもなかったが。
ひとまずロングビルへ歩み寄り、預かっていた本や紙束をロングビルが置いたそれらの隣へと下ろす。
「ありがとうございました」
「なに、案内の礼だ。気にすることはない」
そのやりとりに、今度はオスマンが興味を引かれる。
「ブラムド殿、いつミス・ロングビルと?」
「つい先刻だ。当人はどこかへ行ってしまったが、コルベールに紹介されてな」
「左様でしたか。いや、近いうちに紹介しようと思っていたのです。何しろ今ブラムド殿が着ていらっしゃる服はミス・ロングビルのものですので」
その言葉に、ロングビルは改めてブラムドの服を確かめる。
「似ている、とは思っていたのですが」
「ブラムド殿に合う服の持ち主はミス・ロングビルしか思い当たらなかったのでな」
「そうですか。詳しい説明がなかったので、何に使うのかと思っていたのですが」
そういったロングビルの凍るような視線は、オスマンへと向けられていた。
「変なことに使うわけではないといったじゃろう?」
「ええ、一応真実だったようで安心しました」
「この服の礼は改めてしよう」
そうロングビルへ言うと、ブラムドはオスマンへと向き直る。
「訪ねたいことがあるのだが」
ブラムドの表情に引きずられるように、オスマンもまた表情を真剣なものへと変える。
ブラムドはロングビルへ視線を送り、それに気付いたロングビルはオスマンを見る。
うなずくオスマンに、ロングビルは頭を下げながら静かに扉の外へと出て行った。
わずかな時間の後で口を開こうとするオスマンを、ブラムドが手で制する。
一歩二歩と近づく胸元に視線を集中させていたオスマンだったが、ブラムドの一言でゆるんでいた表情を引き締めた。
「杖を貸してもらおう」





『透視(シースルー)』
魔法の効果で物体を透視する視線の先に、ブラムドは気配を殺して聞き耳を立てる、一人の女の姿を確認していた。
『転移』
魔法の発動と共に、ブラムドの体は視線の先、扉の向こうへと移動していた。

部屋を後にして遠ざかる足音を演出し、わずかな静寂の後、ロングビルは自らを包み込む違和感に気付いた。
部屋を出たとき、付近に人の気配や、この場へ近づく足音がないことは確認している。
だが今、自らの背後には気配を消した何者かが確かに存在する。
心臓が跳ね上がるような衝撃を受けながら尚、ロングビルは気配を消したままだ。
背後の気配は、肉食獣が獲物の隙をうかがうように観察している。
その予感が、その不安が、ロングビルを微動だにさせず、その背に冷たい汗を流させる。
ブラムドもまた気配を殺し、その手に掴んだロングビルの命をどうするか考えていた。
殺すことは簡単だが、ルイズへ危害が及ばないのであれば、その理由はない。
首筋に何かが触れた瞬間、ロングビルは大きく一度体を震わせる。
『虚言感知』を唱えながら、ブラムドがささやく。
「我が問いに答えよ。どこかの手のものか?」
ついさっき聞いた声を忘れるわけもない。
ロングビルは背後の何者かがブラムドであると知った。
問いの答えに頭を働かせる。
……即座に殺さなかったのはまだ理由がないからか?
……であれば間諜の類としての利用価値を認識させていた方が生き残る可能性は高いか?
その発想がブラムドに誘導されたものだと、ロングビルは気付かない。
「確かに、私はガリアのものです」
明らかな虚偽を認識し、ブラムドはほくそ笑む。
ロングビルの首筋に当てられた手に、力がこもる。
「二度は見逃さぬ。お前は盗人だな?」
嘘を即座に見抜かれ、ロングビルの心と体が緊張に震える。
恐怖がロングビルの心を縛り、虚偽を口にすることができなくなる。
それこそがブラムドの目論見だった。
「はい」
手のひらから伝わる恐怖と、口から放たれる真実に、ブラムドは矢継ぎ早に問う。
「狙いは?」
「まだ明確には決めていません」
決めていないという言葉で、ブラムドは自らの予想通り、ロングビルが組織に属した盗賊ではないことを知る。
「盗みの際に人を傷つけるつもりは?」
「……ありません」
……嘘ではないが……。
「……邪魔をすれば容赦はせぬということだな」
「……はい」
わずかな沈黙が、恐怖で引き延ばされる。
死の不安に体を震わせるロングビルの背中に、ブラムドの声が降り注ぐ。
「二つ、約束してもらおう」
ブラムドはロングビルを振り向かせ、視線を合わせる。
「学院に住まうものに傷をつけぬこと」
青い瞳に浮かぶのは静謐。
だがそれは底なしの青さだ。
計り知れない深さを持つ海に、ロングビルは飲み込まれそうな恐怖を覚える。
「二本足の鼠、という言葉を聞いたとき、すぐに秘書としての仕事に戻ってもらおう」
「ぬ、盗みは?」
「我には関わりのないことだ」
ロングビルが気を緩めかけた瞬間、ブラムドの瞳が爛々と輝く。
「なれど、もし約束を違えたなら……」
それは逆らえば殺されるという、単純で、生物としての恐怖をもっとも喚起する光だ。
「お前という存在は、塵のようにこの世界から消えることになる」
人ではなく、獣でもなく、正体の計り知れない、途轍もなく恐ろしい何か。
息を飲んだロングビルは声も出せず、壊れた人形のようにただうなずくだけだ。
ブラムドの手から解き放たれたロングビルは、震える足に苦労しながら歩き去る。





「見逃して、いただけたのですな」
微笑むオスマンのその言葉に、杖を返したブラムドもまた、微笑みながら返事をする。
「やはりお前もあれが盗人であるとわかっておったのだな?」
その予感が、ブラムドがロングビルを見逃した一助となっていた。
鏡に映したかのように人の悪い笑みを浮かべる二人は、日が昇る前にそうしたように、傍らの長椅子へ腰掛けた。
「おそらく、今この国を騒がせている土くれのフーケ、その正体が彼女でしょう」
「あえて懐にその土くれを招いた理由は?」
オスマンの瞳が、わずかに彼方を見やる。
「町の酒場で会った折り、彼女は笑顔を浮かべておりましたが、その瞳の奥が恐ろしく荒んでいるように見えましたのでな」
だがその気遣うような言葉と裏腹に、ロングビルがオスマンを見る目は冷え切っていた。
疑問に眉根をしかめるブラムドに、オスマンが声をかける。
「いかがなさいましたか?」
「お前の考えの割に、ロングビルがお前を見る目は随分鋭かったが?」
「いや、わしはつい調子に乗ってしまうところがありましてな……」
色欲というものがない竜には、そんなものかと漠然と理解する以上のことはできない。
つい考え込みそうになる様子のブラムドを見かね、オスマンは本題をうながす。
「して、訪ねたいこととは?」
その言葉に、ブラムドははたと気付く。
「おお、そうであった。ルイズのことなのだが、先刻練金とやらで石を爆発させてな」
「なるほど。それはまだ続いておりましたか……」
……まだ、か。
「コルベールもいったが、我を召喚したことで爆発がなくなると考えておったのか?」
「左様です。何しろミス・ヴァリエールの爆発は、全く前例のないことですので」
どこか真剣さを欠くような教師たちの言葉に、ブラムドは違和感を覚える。
「原因を探ることはせなんだのか?」
「杖にもルーンにも問題はありませんし、どの系統魔法やコモンでさえも結果が変わりませぬ」
ルイズ自身の言葉や、教室でキュルケをのぞく全ての生徒が机を盾にしたことから、爆発が一度や二度でないことはわかっていた。
だがコルベールであればともかく、このオスマンにも原因がわからないというのは尋常なことではないだろう。
「オスマン、練金を見せてもらえるか?」
「構いませんが……」
不思議そうな顔をしながら、オスマンは机から紙をとって丸め、それに練金をかける。
『魔力感知』でそのマナの流れをつぶさに観察したブラムドは、先ほど確認したルイズの練金との違いを知る。
オスマンのマナが小石だとすれば、ルイズのそれは砂のようだ。
さらに、注ぎ込まれるマナの量が全く違う。
どこか得心したようなブラムドの様子に、オスマンは強い興味を引かれていた。
それに気付いたブラムドは、笑みを浮かべて口を開く。
「手がかりでもつかめれば、と思っていたのだがな」
「ということは、原因がつかめたと?」
先走るオスマンに、ブラムドは首を横に振る。
「そう易々とはいかぬ。何しろ我は東方のメイジだからな」
うそぶくブラムドに、オスマンは性急さを恥じる。
「わしらでは彼女の力にはなれませなんだ。どうか、助けてやってください」
「承知した」
頭を下げたオスマンに、笑顔で答えたブラムドは、ルーンの存在を思い出す。
左手を差し出し、オスマンへと問いかける
「このルーンを、知っておるか?」
その言葉にオスマンはルーンを確かめながら、眉間にしわを寄せる。
「見覚えは……、ありませぬな。調べておきましょう」
「頼む。いわれのわからぬものが身に刻まれておるというのは、あまり気持ちの良いものではないからな」





ところと時が変わり、とある教室の中を奇妙な沈黙が満たしていた。
感情を紛らわせるためか、二人の少女は精力的に掃除をこなしていた。
だが、しばらくすればその熱も冷める。
そうなれば教室内に響くのは、ほうきが床を掃く音だけ。
ルイズの立場としては自分の失敗の尻ぬぐいを頼んでいる状態で、礼の言葉を口にするなり話しかけるなりし、この妙に重い空気を払拭する役目があった。
その気持ちはあったが、気恥ずかしさが先に立って口火を切ることができない。
そんなルイズの様子を尻目に、きっかけを作ったのはキュルケだった。
「それにしても」
つぶやく、というには大きな声に、二人の少女の視線が差し向けられる。
「ルイズはすごい使い魔を呼び出したものね」
それは婉曲な賞賛の声。
しかしそれに続く言葉は、それ以上ないほどに直截的な言葉だった。
「おめでとう、ミス・ヴァリエール」
挑発的だったこれまでと違う率直な言葉、そして今までと違う呼び方は、それまでの行動が励ましであったと露見してしまった開き直りとも取れる。
一方で、二人の関係に変化をもたらすための糸口でもあっただろう。
「あ、ありがとう」
顔も首も、湯気が出そうなほどに赤く染めたルイズが答えたとき、意地っ張りな二人の少女は共に友誼を感じていたのかもしれない。
けれどもその友情はまだ、ルイズがちいねえさまと呼ぶ優しい姉との関係や、学院での唯一の友であるシエスタとの関係のようにはならなかった。
「でも、使い魔に頼るだけでは貴族とはいえないわね」
刹那のうちに、空気が張り詰める。
キュルケは自らの言葉に賭けた。
それはルイズの誇りを信じていたからだ。
だから絶対に強大な使い魔に頼るだけのつもりなどない、と確信を持っている。
ただ同時に確かめておかなければならない。
目の前の少女が、高貴さを泥にまみれさせるのかを。
タバサもまた同じことを考えていた。
だからルイズへ視線を投げ、あえて何も口にしない。
ルイズの肌が朱色から白皙へと冷めていく。
その瞳に火が入る。
だがそれは怒気に支配されたものではない。
その瞳を見た瞬間、二人の少女は自身の心配が杞憂に過ぎなかったことを知った。
「確かに、その通りだわ」
彼女の誇りは宝石のような輝きを保ち続けている。
「私はブラムドに見合うだけのメイジにならなければならない」
挫折の末の諦観など、燃え盛る鳶色の瞳は見ることもないだろう。
「ブラムドの主として、そしてラ・ヴァリエール公爵家の娘として、相応しいメイジに」
その言葉と決意に、二人の少女は安堵し、同時に感嘆を禁じえない。
水は容易に低きへ流れさる。
ブラムドの力は、その主を堕落させるだけの強い魅力を秘めている。
誰が好き好んで果ての見えない苦難を望むだろう。
さらにそれは、半年以上繰り返してきた悪戦苦闘に他ならない。
しかしルイズは一瞬の迷いもなく、艱難辛苦を選んだ。
「ならなければならない、ではないわね。絶対に、なってみせるわ」
キュルケはそれでこそ、と思う。
それで終わってさえいれば、彼女は幸せだったかもしれない。
ところが微熱の気性はそれを許さなかった。
「でも今までみたいに、山を登るのに穴を掘るような真似をしては駄目よ?」
タバサの心のある部分が、もぞりとうごめいた。
普段であれば口を出すことはなかっただろう。
だがつい昨晩、ブラムドに見事なほどやり込められたタバサには、沈黙を続けることなど出来ようはずもない。
ルイズの顔が紅潮し、その口から怒声が響くよりも前に、タバサの声が放たれていた。





「キュルケはルイズを心配していた」
機先を制されたルイズは、声の主に目をやる。
ブラムドが教室を離れて以降初めて冷静さを取り戻したルイズは、彼女の名前を思い出す。
……隣国ガリアからの留学生。
……使い魔召喚の儀式で、ブラムドをのぞけば一番の当たり、風竜を召喚した少女。
……風のトライアングルメイジ、確か二つ名は雪風。
「タバサ!?」
……そう、名前はタバサ。
振り向いたキュルケの驚愕の表情は、タバサの頬を緩めさせるためにはわずかに足りなかった。
表情を浮かべないままにタバサが続ける。
「時々、あんなに睡眠時間を削って倒れたりしないかしら、と私に言っていた」
普段口を開くことがめったにないタバサの言葉、そしてその内容に、キュルケは声も出せないほどの衝撃を受けていた。
ルイズもまた、キュルケがそれほど自分を心配していたことを知り、怒声を放つどころか紅潮の質を変えて口をつぐむ。
「ついこの間も、スティックスがルイズをさらし者にしたのを見て、火の実技でこっそり彼の魔法を暴走させていた」
キュルケはルイズに勝るとも劣らず顔を紅潮させるが、片意地を張っているのかタバサの口を封じようとはしない。
ルイズはスティックスの行動を思い出して立腹したが、彼の額についた火傷の理由を知って少し溜飲を下げた。
タバサの暴露する内容は、キュルケが今までルイズにしてきた挑発を取り返すように、頑なな二人の心を閉ざす大きな氷を少しずつ溶かしていく。
ただし、その結果は副次的なものに過ぎない。
言い方を変えれば、今タバサがキュルケの行動言動を暴露し、二人の表情を楽しんでいるのはそのわだかまりを解消する為ではなく、憂さ晴らしとない交ぜになった娯楽である。
常日頃表情や感情を押し殺しているタバサが、嗜虐的な一面を生まれて始めてあらわにした瞬間だった。
何よりの証左として、後日キュルケとルイズからこの件に関して礼を言われたとき、タバサは表情を変えないながらも非常に恐縮することになる。
しかしタバサは今この瞬間、キュルケの弱みをつく矛を収めるつもりはない。
「あと……」
タバサがさらに言葉を継ごうとしたそのとき、キュルケの忍耐が限界を迎えた。
「そのぐらいにしないとあとでひどいわよ?」
キュルケの右手がタバサの口元を塞ぐ。
声音は確かに強いものではあったが、褐色の肌の上からもわかるほど顔や首を紅潮させていては、その説得力は弱くなる。
口元を塞ぐその手を取り去ろうとするタバサの瞳に、キュルケは強い共感を覚えていた。
目元に表情はないし、押さえている口元も特に緩んでいるようには感じられない。
だがキュルケはタバサの瞳の奥に、嗜虐的な光が浮かんでいるのを見た。
それは、同属ゆえに共有する感覚であったかもしれない。
だからこそ、キュルケの心に不安が鎌首をもたげる。
力ずくでなければ止めようがないのではないか、という不安が。
その不安を敏感に捉えたのか、とうとうタバサの目元口元がわずかに緩んだ。
愉悦混じりの笑みを浮かべたタバサに、キュルケが戦慄を覚えた瞬間、いつの間にか近付いていたルイズがうつむきながら二人を抱く。
二人の視線がうつむいたルイズの頭に集中し、わずかな静寂が訪れる。
「……ありがとう、キュルケ。ありがとう、タバサ……」
ミス・ツェルプストーではなくキュルケと、そしてタバサと呼んだその声には、感謝と歓喜が溢れていた。
タバサの笑みから毒気が抜け、それに気付いたキュルケが手を離す。
二本の手が、ルイズの背中にそっと置かれる。
ルイズがブラムドを召喚した翌日、一人の少女に、二人の友人が増えた。
確かな変化の兆しが、見え始めていた。


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