あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と金の卵-10


「ではまず君達の無事と、そして成果について祝おう。
 おめでとう、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。
 君らの勇気と深い洞察力によって、ここに土くれのフーケを捕らえることができた。
 いや、実に素晴らしいことだと思わんかね」
「ええ。まさに叙勲ものの快挙と言えましょう」

 オスマンの喜びの放電。
 そしてコルベールの追従――満面の笑みで三人を誉めそやす。

 キュルケ、タバサがスキルニルに騙されていたことに気付いて戻った頃には、本物のフーケが捕らえられていた。
 フーケを捕らえるはずだった立場が逆だったことにキュルケは悔しがり、栄誉を受けることを固辞したが、結局は3人の手柄となった。
『予定は狂ったが、結局皆で行動したことには違いない。それに、一番の功労者はウフコック』
 そうタバサが宥め、
『俺はあくまで君らに追従しただけで、杖を掲げた君らが栄誉を固辞するのはとても忍びない』
 とウフコックが答えていた。
 そして彼女らは三人で学院長室へ赴き、オスマン、コルベールに報告を済ませたところであった。

「うむ、その通りじゃ。ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストーにはシュバリエの申請をしておいた。
 ミス・タバサは既に持っておるから、精霊勲章を申請しておいた」

 三人の顔が輝く。

「本当ですか!?」 キュルケの喜びの声。
「いいのじゃ。君らはそれに値するだけのことをしたのじゃ」
「……あの、ウフコックには何も無いんでしょうか?」

 遠慮がちなルイズの発言。弱ったようにオスマンは首を横に振って、すまんのう、と呟く。

「ルイズ、気にしないでくれ。こうして役立つことができただけで、十分に俺は嬉しい」
「すまないね……ただ、ウフコック君も含め、君らの名誉ある行動は誰もが覚えている。
 それを忘れないでいてほしい」

 コルベールが申し訳なさそうに言って、オールド・オスマンに向き直った。

「さて、次に被害について報告しようじゃありませんか」
「そ、そうじゃの……」

 コルベールの表情は一転して仏頂面に。眼鏡と頭部が冷たく輝き、オスマンはつい目を逸らす。

「まず宝物庫からはスキルニルと眠りの鐘。
 眠りの鐘は回収しました。ですがスキルニルは2体盗んでいたようで、1体はフーケが何処かへ隠したようです」
「ううむ、巧妙な盗人じゃの……」
「もちろん、これで終わりではありません。盗品の補填とは別に、破られた壁を修復し、さらなる固定化を図らねばなりません。
 ……そして私の研究室が、フーケに荒らされたおかげで滅茶苦茶です。
 『破壊の杖』こそ無事でしたが、幾つか貴重な研究資料や実験器具がフーケの錬金で土となって消えてしまいましたな」
「と、とても残念なことじゃったな……」
「ところでオールド・オスマン、差し支えなければ私だけではなく彼女らにも教えて頂きたいのですがね。
 なぜロングビルを秘書にしたのでしょう?」

 コルベールの舌鋒――オスマンに防ぐ術も無く。

「その……飲み屋で優しくしてくれたし……お尻触っても怒らんかったしのう……」
「で、その素性もろくに調べもしなかったと?」
「そうじゃ」
「魔法学院の長が?」
「そ、そうじゃ」
「……そうですか」
「……き、君だってミス・ロングビルに粉かけとったじゃないか!」

 オスマンの反論――だがそもそも責任論になった時点で、総責任者たる学院長の分は悪い。

「生徒の前であまりすべき話ではありませんなぁ。雇ったのはオールド・オスマンご自身ですな?」
「そ、そうじゃとも……」
「さて、研究室ではかなりの備品・機材が使用不可能になりました……というより、研究室自体を新築せねばなりません。
 補償して貰えるものと考えて宜しいですかな?」
「仕方あるまいて……はぁ」

 結局のところ保障・補填はオスマンの懐へと傾く。がくりと肩を落とすオスマン。しかし、かぶりを振って皆に話しかけた。

「まあ面倒な話はここらで止めにしておこうかの……。
 さて、今日はフリッグの舞踏会じゃ。この通り眠りの鐘も戻ってきたことじゃし、平常通り、執り行おう」
「忘れてた、そうでしたわ!」 キュルケの顔がぱっと明るくなる。
「君らこそ今宵の主役じゃ。存分に楽しんでくれたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」

 オスマンの笑みに頷き、キュルケ、タバサは退室しようとする。
 だがルイズとウフコックはその場を動かなかった。

「ルイズ? どうしたの?」
「ちょっと先生に相談したいことがあるの。気にしないで先に行ってて」

 と、ルイズはキュルケの問いに返す。

「あらそう。でも身支度する時間も考えなさいよー」

 手をひらひらさせて、キュルケはタバサを伴って出て行った。

「何か儂に聞きたいことがあるのじゃな? コルベール君、すまんが席を外してくれんか?」
「私もですか? ……ええ、承知しました」

 やや名残惜しそうに、コルベールも退室した。
 扉が閉まるのを確認し、ウフコックは口を開く。

「相談したいこととは、この眠りの鐘についてだ。俺はこれを使い、フーケを眠らせることが出来た。
 ……マジックアイテムとは、メイジでない限り使えないはずだと聞いている。
 俺がこの道具を使える理由について、何かご存知ないだろうか?」

 オスマンは話を聞きつつ、ぷかり、とパイプから煙をくゆらせる。
 しばらく考え込んだ後、重々しい口を開く。

「……まず、君の額のルーンについて、説明する必要があるのう」
「この額の文字が?」
「それは、ミョズニトニルンの印。始祖ブリミルに仕えたとされる、伝説の使い魔の印じゃよ」
「伝説の使い魔……!?」 ルイズが驚きの声を上げる。
「ミョズニトニルンは、あらゆるマジックアイテムを操ったそうじゃ。眠りの鐘を使えたのも、そのためじゃろう」
「……この、眠りの鐘や、あるいはその人形など、魔法を動力にしている道具を俺にも使えるということか」
「そうじゃ」
「……全く実感がわかない。伝説と言われてもな……。そもそも、なぜ俺にミョズニトニルンの印が刻まれたのだろう?」
「それは儂にもわからん。じゃが、古い文献に載っているミョズニトニルンと君は、同じ能力を持っていることは確かじゃ。
 逆にこちらから聞かせて貰いたいのだが……君の変身は、一体どういう能力なんじゃね?
 それもミョズニトニルンの能力なのかもしれんが、儂には見たことも聞いたこともない」
「オールド・オスマン。それを答えるのは義務でしょうか……?」

 遠慮がちにルイズは問いかける。引け目を感じているために、ルイズらしからぬか細い声だった。

「いいや。あくまで君らにお願いしているだけじゃ。ただ……儂にはこの学院を守るという使命がある。
 そのためには、ウフコック君のような強い力を持っている者のことは知っておかねばならん。それを理解して貰えんだろうか」

 心配げにルイズはウフコックを見た。ウフコックは、こくり、と頷く。

「今、君らが見ている俺の姿、それは俺の一部分にしか過ぎない。
 理解し難いと思うんだが……俺の体は、ここではない別の空間と繋がっている」
「……ほう」
「俺の反転変身、ターンとは、その別の空間に溜め込んだ物質を元に、道具を作り出す行為だ。
 そして、あらゆる道具を作り出す、万能道具存在として開発されたのがこの俺だ」

 信じがたいものを見るかのように、オスマンは驚愕の目でウフコックを見つめる。
 だが、ウフコックの言葉に嘘の色は全く無い。そしてそれを裏付ける変身能力――オスマンは溜息をつく。

「……まさに想像を絶するのう……。一体、君は何処から召喚されたんじゃ?」
「マルドゥック市、という場所を聞いたことは?」
「全く無い」
「俺も、実を言えばトリステインもハルケギニアも、聞いたことが無かった。恐らく、全く別の世界なのだろう」
「君の世界では、君のような存在がありふれておるのか?」
「いいや、そんなことはない。俺を作り出すためには、数多くの研究者と国家規模の予算が必要だった。
 それでも、本当に俺が生まれるかどうか怪しかったらしい」
「ふむ、オンリーワンというわけか」
「こう見えても、<金の卵>などと呼ばれていた」

 あまりの話の内容に、驚きの感情を隠さぬオスマン。ふう、と溜息をつき、背もたれに体重をかける。

「道具として作り出された……ということは、自分の意思ではなく、他人の望むものを作り出させる、ということはできるのかね?」
「可能だ。……まあしかし、この国、この世界にそれを実行できる人間など居ないだろう。
 俺への変身命令を伝達する特殊な皮膚を移植した人間か、あるいは俺を作り出した研究室に匹敵する施設が無ければ不可能だ」
「特殊な皮膚を移植するなど聞いたことも無いし、君を作り出せる研究室など見たことも無い。
 というより……魔法を伴わない研究室など存在しないから、まずもって有り得んじゃろうな」

 ぷかり、とオスマンは自分を落ち着かせるようにパイプを吹かせ、また口から外す。
 姿勢を直し、ルイズとウフコックを真剣な目で見つめた。

「で、その上で君に頼みたい。反転変身はできるだけ使わぬよう頼みたい」
「……まあ、もっともな話だろう」

 ウフコックは、反論もせずに頷く。
 オスマンは、ややほっとしたように話を続けた。

「顔や姿を変えるだけならば、ハルケギニアに存在する者にも可能じゃ。
 だが、あらゆる機能を持った道具に――というのならば別じゃ。変化の魔法とは、所詮見かけを変えるだけに過ぎん。
 その中身、構造や機能を再現するなど、想像の埒外じゃ」

 わかるじゃろう? とオスマンは視線を投げる。ルイズもウフコックも、頷く。

「しかもその道具が、この国のメイジがどれだけ力を合わせたところで勝てぬほど精巧なのじゃ。
 もし欲深い人間が君に目を付けたならば……これは恐ろしいことになりかねぬ」
「一つ、質問があります」
「なんじゃね? ミス・ヴァリエール」
「オールド・オスマンは、ウフコックのことを、王室に報告なさいますか?」
「……信じてもらう他はないが、儂は胸の内に秘めておくつもりじゃよ。もしこれを知った教師がいたら、その者にも厳重に口止めするつもりじゃ。
 それに、その眼で見ないことには、ウフコック君の存在を信じる者など居らんよ」

 ルイズの緊張が弛緩する――もし報告するとなれば、ウフコックの身柄が危うくなるなど簡単に過ぎる想像だった。
 そしてそうでなくとも、学院長に対して挑戦的な物言いをしていたのだ。

「……ルイズ、ありがとう」
「ば、馬鹿ね、何行ってるのよこんなときに……!」

 ルイズは咳払いし、オスマンに向き直った。

「お話は十分に理解しました」
「うむ」
「ですが、もしウフコックに危機が迫るようであれば、どうしても変身に頼らざるをえないときはあると思います……」
「まあ命には代えられん。死んでもその命令を守れ、とまでも言わんよ。
 それと、服や飾り、日用品など無難なものに変身する分には良かろう。
 むしろ、そうしてただの変化の魔法だと周囲に思わせた方が良いだろう。
 ……対外的には『エコー』と名乗ったほうが良いかもしれんな。ああ、変化が可能な幻獣のことじゃ。
 稀有ではあるが居ても不思議ではない」
「エコー、そういうものがあるのか」
「……ただ、我々の世界にはありえぬような道具に変身し、それを利用するのは、できるだけ避けてほしい。
 それと……君がミョズニトニルンだということも、重ねて秘密にしておこう」

 真剣に悩むオスマンに、ウフコックは慎重に頷く。

「了解した。俺も、俺の世界の武器や道具などには変身しないよう気をつけよう。ミョズニトニルンというのも、黙っていよう。
 ルイズは構わないか?」
「ええ。……話が大きすぎて、正直怖くて他言なんてできないわ」 と、溜息まじりにルイズは言葉を漏らす。
「それさえ守ってくれれば、今まで通り、ウフコック君はミス・ヴァリエールの使い魔として居てほしい。
 正直、君らにとって秘密が重荷であることは承知しているのじゃ。すまないのう……。
 何か困ったことがあれば何でも申し出なさい」

 オスマンは、労わるように言葉をかけ、ルイズ達は頷いた。

「さて、堅い話はここまでとしよう。舞踏会に遅れぬようにな。楽しんできたまえ」
「はい!」





 ルイズはオスマンとの話を終えて寮の自室に戻った途端、疲れた溜息を付く。

「あー、もう緊張したわ」
「……そうだな」

 ウフコックは物憂げに反応し、のそのそと自分のベッド代わりの箱に寝そべった。

「なによウフコック。そんなにミョズニトニルンっていうのが驚いたの? それとも、ターンを控えろって話?」
「いや……。俺がミョズニトニルンというのはそれほど衝撃というわけでも無いんだ。もともと大概の道具には化けられるのだから、
 マジックアイテムを操れるようになったとしても、まあ機能が一つ加わったくらいの気持ちなんだ。
 それに、俺が反転変身する道具には元々法律などで制限がかけられていたし、オスマンの申し出も大体予想がついていた」
「貴方、よくわからないところで呆れるほど自信家よね……。私がミョズニトニルンを召喚しただなんてバレたら、
 学院の皆が上へ下への大騒ぎよ。本当、悩みどころなんだから」

 呆れるようにルイズは言った。

「そ、そうだろうか」
「まあ、貴方が凄いなんて初めからわかってたことだけどね」 言い捨てるように相手を褒める。ルイズなりの照れ方。
「君に認めて貰えるならば何より光栄だとも。だが……」

 ウフコックは言葉を切る。やや躊躇うような口ぶりだった。

「今日は、あれだけ大口を叩いておいて君を危機に陥れてしまった……。正直肝を冷やした。
 メイジといえど同じ人間と、俺は油断してしまっていたんだ。一歩間違えれば、俺達はお終いだった。そうだろう?」
「なによ今更。そりゃ確かに危険だったし、私だって……怖かったわ」

 ルイズの声に怯えが混じる。綱渡りもいいところだったと、今更ながらルイズは恐怖を感じていた。
 だが己の怯えを抑え、決然と話す。

「でも! それでも、誰かがやらなきゃいけないことをやった。そのために冒した危険だって、私たちがやらなきゃ誰かが肩代わりしてたのよ」
「だが、君である必要性は無い。そうだとしても?」
「……そうかもしれない。でも、あの場は私達しかいなかったわ。私は、自分にしかできない、って思ったら、居ても立ってもいられないの。
 負けず嫌いとか、馬鹿にされるのが嫌いとか、確かに、そういうところもあるわ。
 でもそれ以上に、何もしない、何も出来ないまま貴族として腐っていくのは……たまらなく嫌なの」
「そうか……」

 しばらく、迷うようにウフコックは中を見つめる。

「だが、ルイズ、そのために犠牲になるものもある」

 ウフコックは話しながら、自分のベッドから身を起こして腰掛ける。

「確かに、君の今日の行いは、誰もが認める正当なものだ。しかし行動には常に対価が求められる。
 例えば、君自身の安全、俺やキュルケ達の安全なんかがそうだ。
 あるいは、もしかしたらフーケが居るために、助かっていた人が居たかもしれない。
 きっと今の時点で何かを犠牲にしているし、一歩間違えていれば、すべてが犠牲となっている」

 やや一言置いて、ウフコックはルイズを見つめる。

「それでも、名誉を求める? 今日のように、君が危機にさらされたり、あるいは誰かを傷付けたりすることがあっても?」

 偽りのできない問いかけ。ルイズは、悲しげに頷く。

「……うん。私は、名誉がほしい」

 名誉――常にその一言で済ませてきたものであり、それこそが今の自分を模る欲望。
 自分のあり方と表裏一体の、もはや人生と柱と言うべき何か。
 薄々気付いていたその存在を、ルイズは直視した。
 その正体は、言葉の響きとは裏腹に、決して清らかなものではない。
 それは、ルイズにとって血肉であり、痛みを伴うほどに実体を持つものであった。

「両親から、姉から、常に貴族たるべし、って教えられて今までずっと生きてきたわ。
 魔法が使えない私には貴族たる能力が欠けてる。それでも……いえ、だからこそ、公爵家に生まれた私は、
 ただ安穏と生きるなんて許されないと思ってる。だから、名誉を取らずに生きる私は、きっと私じゃなくなるの。
 それこそが私の欲で、目標で……それ以外の生き方は、少なくとも今は考えられない。
 だから、何か犠牲や危険を冒すことが必要なら、きっと躊躇しない」

 己の偽らない答えを思い、ルイズは瞳を伏せた。

「……でも、こうして名誉にこだわることが、私の卑しさや残酷さなんだわ。
 貴方が居なかったら、きっと、もっとたくさんのものを犠牲にしているだろうし、周りの犠牲の存在すら気付かなかったと思う」
「誰しも、そうしたものを心の中に持っている。恥じることではない。……だが、君はそれが人一倍強い。
 俺は……君の気高さが、君の大切な何かや、君自身を供物としてしまわないか、心配なんだ」

 ウフコックはベッドから降り、ルイズの手の元へ赴く。
 慰めるように、ルイズの細い指をそっと握った。
 小さすぎるウフコックの手――大切なものが何かを気付かせてくれる微かな温かみを、ルイズは感じている。

「……うん、そうね。確かに、大事なことを犠牲にするのもイヤよ。覚悟しないといけないときは、今後あるかもしれない。
 それでも、貴方も私も傷付いたり傷付けさせたり、死なせたりしない。救えるなら何だって救ってみせるわ」
「ルイズ……。君は我侭だな」
「実はそうだったのよ」

 くすり、と一人と一匹は笑った。

「それとね」

 ルイズは次の言葉を出すのに、苦労していた。口に出すことが少し怖い、と思っていた。
 だが、ウフコックが優しく促す。

「ルイズ、遠慮することはない。君の思っていることは出来る限り受け止めたいんだ」
「うん……オールド・オスマンに言われたってのもあるけど、貴方の力に頼り過ぎるのは、止めておきたいの」
「ふむ……理由を聞こうか」
「その、貴方を武器として使って……凄く驚いたわ。今でも、あの土の腕を砕いた感触が手に残ってる。
 貴方が居れば、きっと何だってできるんだ、って思った」

 ルイズは、自分の手を見つめながら言った。ウフコックは黙って耳を傾ける。

「でもだからこそ怖いわ。自分で成し遂げたことなんだ、って錯覚しそうで。……貴方の力に頼るのは、慎重にならなきゃ駄目だって思ったの」
「……それに、気付けてくれたか」 感嘆したようにウフコックの呟く。
「それに、オールド・オスマンが言ったみたいに、欲に目が眩んで貴方を奪おうとする人だって出てくるかもしれないわ。
 そんな人に貴方が狙われるなんてゴメンよ。貴方もそうでしょう?」
「そうだな。ぞっとする話だ」
「だから、私が何かしなければならないとき、貴方抜きで私がどこまで出来るか見守ってほしいの」

 ルイズにしては珍しく、弱気な口調でウフコックに願い出た。凛とした口調で、ウフコックは応える。

「わかった。君の言う通り、俺は見守らせてもらう。危なければ口は出す。手出しは控えるが、ここぞというときは遠慮などしない。
 それでも……君の可能性を見届けよう」
「ふふ、じゃあ改めて宜しくね。私の使い魔」
「マイ・プレジャー(御意に)」

 執事のように大仰に頭を下げるウフコック。
 その姿を見て、<金の卵>というあだ名の由来にルイズは思いを馳せた。
 きっと、ウフコックの世界の人間は、このウフコックこそがあらゆる可能性を秘めているから、そう呼ぶのだろう。
 だが、違う、とルイズは思う。この小さな鼠は、自分自身ではなく、自分を使う人間の可能性を見つめている。
 この鼠のすべてを曝け出す嗅覚の前に、自分の魂を自覚しないものは居ない。
 虚飾を剥ぎ取った先に残る可能性、それこそがきっと<金の卵>なのだ。
 自分の場合、それが一体何であるのか、ルイズはその欠片を見出しつつあった。
 そして、隣の小さな使い魔と共に、その欠片から確固たるものを形作っていきたい。ルイズはそう願った。
 ウフコックは、優しい眼差しでルイズを見つめてる。
 口に出さずとも、思いは伝わっているはずであった。

「でさ、ウフコック。……普通にこの世界にあるものに変身する分には構わない、ってオールド・オスマンは言ってたわよね?」
「ん? そうだが……」
「変身してもらいたいものがあるのよ」





 舞踏会場に改装されたアルヴィーズ食堂の上階。
 その壮麗な扉が開かれ、ルイズは大仰な呼び出しに答えて中へと足を踏み入れる。
 小ぶりで整った顔立ち。宝石をあしらったバレッタに纏められた、桃色の流れるような髪。
 高貴さを決して損なわない、意外とスタイリッシュな体。それを包む純白のパーティドレス。
 男性陣は意外な人間の艶姿に、息を呑んで見つめている。

「あら、ルイズ。……凄く良いドレス着てるじゃないの」

 先に会場に入っていたキュルケとタバサが近づいてきた。
 三人の活躍はすでに多くの人間に知れ渡っており、自然と会場の中央に輪ができ始めていた。

「あら、これがトリステインのモードよ。知らなかった?」

 と、自慢げにルイズは話す。男性陣の賛辞がこれ見よがしに聞こえてくる――絶好調。
 だがキュルケとタバサが訝しむように見つめる。

「……っていうか、何か朝と明らかにスタイルが……。あっ」
「なるほど……」

 キュルケの微笑み/タバサの鋭い視線/間違いなく気付かれている。

「ウフコック、ピスタチオでも食べる?」
「なななな、何言ってるのかしら!?」
「……間違いなく、サイズが大きくなってる」
「考えたものねぇ。……あとで、そのドレスの作り、教えてもらえるかしら?」



 よせて/よせて/上げて。
 タバサの視線から逃げるように、ルイズは手で胸を隠した。
 このメイド・バイ・ウフコックのドレス。胸の部分だけでなく縫製も実に丁寧な仕上がりで、女性陣すら溜息のでる出来栄え。

「な、何よ、悪いっ!? だいたい、使い魔を締め出して楽しむケチな舞踏会が悪いのよ!」
「悪いなんて言ってないわよー?」
「いいえ……とてもズルい」 ギラついた視線でタバサは睨んでいる。
「……いや、まあ、気付かれるだろうとは思っていたが」

 渋みのある男の囁きが聞こえる/声の発生源――ルイズの着ているドレスの胸部。

「あはははっ。ま、ウフコック共々、楽しみなさいな。貴方達が主役なんだからね」

 キュルケが楽しげに呟き、男達ととっかえひっかえ、躍りに興じる。
 タバサは時折ルイズの方に鋭い視線を投げつつ、食事と格闘していた。

 ルイズ達は夜が更けても、歓楽に身を委ね、躍り、遊び倒した。
 とても長い一日――ルイズが使い魔と共に困難に立ち向かった日が、終わり行く。
 やがてやってくる明日を、黄金の可能性に満ちた明日を迎える。
 今日と同じように、小さな使い魔の手を取りながら。


 第一章 使い魔は金の卵――了


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