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マジシャン ザ ルイズ 3章 (48)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (48)戦いの火

トリステイン四万。
ガリア一万七千。
ロマリア八千。

それが地空合わせた、集結する予定の連合軍の全容であった。


「……壮観なものですね、これほどの船舶が一同に会するというのは」
アンリエッタが呟いた。
白地に百合の描かれたトリステイン国旗を掲げる多数の軍艦、その中でも一際壮麗にして巨大なフネ、旗艦『メルカトール』。
そのブリッジに、今女王としてアンリエッタは立っていた。
「ガリアとロマリアの先遣隊も続々合流しております。本隊も合流するとなれば、この倍にも膨れあがりましょう」
脇に控えたマザリーニの言葉。
「分かりました……先発している地上軍の様子はどうですか?」
続けてアンリエッタはもう片方に控えていた軍服の軍人に顔を向けて、その軍人――将軍ポワ・チエが答えた。
「はっ。先頃対空施設への攻撃を開始したとの報告が入ったところです。我々が到着する頃には制圧している頃かと思われます」
「……そうですか、兵達の士気はどうですか?」
「そちらも万端、何の問題もありません。我が軍の兵士達は皆、女王陛下の元で戦えることに気を漲らせています。このたびの戦、必ずや我々の勝利に終わるでしょう」
「わかりました……」
その発言に、アンリエッタは心中にて思う。
(やはり、ポワ・チエ将軍は無能ではありません……が、有能でもありませんね)
彼が言ったような生やさしい戦いではないことを、アンリエッタは予感していた。
「そうなると、やはり最大の懸念事項が気になりますね……」
「……懸念、ですか?」
「ガリアとロマリアです」
(……若い人材の育成と確保は、我が国の今後の重要課題事項となるでしょうね)



アンリエッタの言葉通り、ガリア軍は万全の体制とは呼びがたい状態にあった。
ガリアは虎の子の両用艦隊を今回の戦に駆りだしている。
しかし、その士気は低い。

その理由を記すにはまず背景となっている事情を知らねばならない。
元々、近年のガリアは王であるジョゼフに従う勢力王党派と、それに反発する謀殺された弟シャルルこそが王に相応しかったとするオルレアン公派との間で、軋轢が広がっていた。
表だっての内戦にこそ発展していなかったものの、それは宮廷内部だけではなく地方領主にまで及んでいた。
何かの契機があれば王家がひっくり返る、そう言う瀬戸際にまで、王家とりまく情勢不安は拡大していたのである。

加えて、王宮は先王ジョゼフの浪費のためにひっ迫した財政状態にあり、そのツケが民衆に跳ね返ってきていたことで、貴族の間だけではなく、平民達の間でも国王に不満を持つ者がほとんどという有様であった。

このような状態で、先王ジョゼフの娘として即位したイザベラへの風当たりも相当に強いものであった。
更に悪いことに、イザベラ自身もあまり評判の良くない王女であったこともこれに拍車をかけた。
特に、隣国トリステインの王女アンリエッタとの比較は彼女の評判を大いに貶める原因の一つとなっていた。

その後、先王ジョゼフの謀殺された弟、その忘れ形見である一人娘のシャルロットを身内として遇し、オルレアン公爵家の名誉を回復し、彼女を新設した近衛騎士団の騎士団長に任命したことで、多少風向きも変わった。
変わったが、それだけである。
それまでの不信を拭い去るほどのものではない。
シャルロットを側に置いたのは、狡知に長けたイザベラの人気取りと取る見方も強く、
特に強硬な反王党派貴族の間では、弱みを握られたか魔法で心を操られたシャルロットが、イザベラに無理矢理に従わされているのだという流言が流布し、イザベラを打倒してシャルロットを王にせよと声高に叫ばれるほどであった。


このような内政不安を抱えた情勢で、イザベラが国外へ動かせる兵士の数にはやはり限界がある。
頼みの綱は諸侯の提供する兵力であったが、これも拒否する者が現れる始末。
特に先王ジョゼフに領地を没収されて、かねてから不満を募らせていた貴族は断固としてこれを拒否、無理強いをすれば内戦に発達しかねないという体たらく。

士気が低い理由は他にもある。
ガリア王国はこの戦が始まった当初、アルビオン神聖共和国と軍事同盟を締結し、トリステイン王国・ゲルマニア帝国に敵対して宣戦布告まで行い、一度は矛まで交えた。
それが短期間の間に翻され、敵であったはずのトリステインと同盟を結んで、アルビオンを裏切ったのである。
これに対して『大義はどこにあるのか』という疑問が末端の兵士の間で拡大し、それが全体に普及するのにそう時間はかからなかった。

結果、両用艦隊を中心として数の上こそ一万以上の兵力が揃えられはしたが、その士気は著しく低いものとなっていた。

両用艦隊の旗艦、アルビオンの超大型艦『レキシントン』が沈んだ今となってはハルケギニア最大のフネである『シャルル・オルレアン』の甲板の上で、イザベラは向かい風を浴びながら、腕を組んでまっすぐに先を見つめていた。
目線の先には、帝都ウィンドボナがあるはずだった。
既にゲルマニア領空に入ってから一日近くが経過している。トリステイン軍と合流する手はずとなっているウィンドボナ南西の空域は近い。

「本当に、付いてきて良かったのか?」
イザベラは、そう背後に居るはずの少女に声を掛けた。
「……いいの」
言葉を返したのは、マントを羽織り、肩にオルレアン公を示す紋章が刺繍されている学生服風の制服を着ている少女。
タバサことオルレアン公爵家当主、シャルロットであった。

「トリステインに母上を残してきているんだろう? そっちについていた方がいいんじゃないのか?」
その言葉にシャルロットは首をふるふると横に振ると、続けて言った。
「……こっちの方が、心配」

心配、あの人形娘が心配である。
その変化に、イザベラはくつくつと笑いをこぼした。
「はんっ、お前に心配されるほどあたしは耄碌しちゃぁいないよ。私はお前の力なんかこれっぽっちも必要としちゃいないんだよ。だからさっさとどことなりでも好きに行くといいさ」
それでも、ポーズは崩さない。
自分と従姉妹の、そんな関係もわりかし気に入っているのだ。

「素直じゃない」
「その方が格好良いだろ?」

そう言うと彼女は前を見たままニヤリと笑った。




さて、ガリアは兎も角、トリステインがそれだけの大軍をこの戦に動員できたことには訳がある。
通常、敵国領土内に軍を派遣する侵略戦争の場合、周辺諸国に隙を見せないために、ある程度の防衛戦力を国内に残すのが普通である。
これは、その戦略上の基本を無視したからこその大軍であった。
防衛最低限の兵力すらも攻撃に割り当てる。なりふり構わぬ捨て身の攻撃。
それが、参謀達が提案し、アンリエッタが承認した秘策であった
宗教庁から『聖戦』こそ引き出すことこそできなかったが、連合軍にロマリアを引き込んだから今だから成り立つ戦略である。
宗教庁が事実上認めた戦争で、同盟国を背後から攻撃するなど、ロマリアにもガリアにもできはしない、少なくともアンリエッタはそう思っていた。
事実、内部に情勢不安を抱えるガリアにはその余力は無かったし、宗教庁を実体上の長としているロマリアは、面子にかけてそのような真似はできなかった。


だが、それでトリステインを攻撃可能な国が無くなったわけではない。
地理上、トリステインに隣接している国はガリア、ロマリアと、もう一国あるのだ。
ゲルマニアである。

大きな音を立てて門が破られる。
トリステインを東西に走る街道の街セダンに、敵が雪崩れ込んでいた。

攻撃を仕掛けたつもりで、その実仕掛けられていた。
強烈なカウンターアタック。
アンリエッタの誤算、それはアルビオンの速すぎる『足』であった。

『あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ』
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー」
『お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛』
甲冑を身につけた腐った死体達が、街の中を全力疾走していた。

その行軍速度は常軌を逸している。
武装した不死者の大軍、それが、疲れを知らぬことを良いことに、整備された街道を恐ろしい早さで移動しているのだ。
この勢いなら途中にあるいくつかの都市を踏みつぶして街道を踏破し、一両日中には首都トリスタニアまでたどり着いてしまうだろう。

その様はゾンビと聞いて緩慢な動作しか出来ないと思い込んでいる人間にとっては、驚愕以外の何者でもない。
だが、幸いにしてそれを前にして卒倒するような人間は一人もいなかった。
いや、街道の街セダンには、人っ子一人残っていなかった。

アンリエッタの誤算、それすらも読んで手を打っていた者が一人いたのだ。
ウルザである。

ウルザは街の全ての住人を、呪文を使って強制的に避難させ、そこの一つの秘策を施した。
その策の要となる人物が街の中心部、高い尖塔の上から地上を見下ろしていた。
「なんてことだ……」
彼は、手足をちぎれるほどに振って、腐汁をまき散らしながら駆け込んでくる完全武装の不乱死体を目にして絶句した。
はげ上がった頭、手には彼がメイジ出あることを示す杖、そしてローブを纏っている。
彼は眼下で起こっている、決壊した川のように死体が雪崩れ込んでくる光景を前に、立ちすくんでいた。

学院の教師、コルベールであった。
その姿はやつれ、疲れた印象を受ける。
いや、事実、彼は全てに疲れ果てていた。
驚きに開いていた目を閉じる。
頬に冷たい風が当たる。その冷気がひんやりと心地よい。
不安にざわめく心を宥めてくれる。

「行き着く場所がこんなところなら、悪くはないのかもしれません……」

暗い過去に思いを馳せながら、そう呟いた。



ジャン・コルベールという人間の半生は、苦悩と共にあった。
タングルテールにあった村を焼いたあの日から、コルベールは常に後悔の炎にその身を焦がし続けてきた。
もしも誰かがそのことを責めてくれたなら、彼の気持ちも多少楽になったのかも知れない。
しかし、幸か不幸か、二十年間彼を弾劾する者は現れなかった。
その間、コルベールは償いとして自分にできる精一杯を尽くしてきたつもりだった。
希望ある若者達に道を示し、破壊と悲しみしか産まぬ火の力を、人々のために役立てる方法は無いかと探ってきた。
全ては償いのためだった。


だが、それこそが相対の連鎖の始まり。
罪の意識に駆られて、代償行為としての贖罪を行う。
しかし加害者としての記憶は、癒えることのない罪の傷跡となり、新たな罪の意識を生み出していく。結果として終わることのない連鎖が生まれてしまう。
罪を償っても償っても、自分が自身を許せはしない。
永久に終わることのない無限贖罪、それが彼を苦しめているものの正体。
彼が強い、あるいは弱い人間だったならば、円環を形成する前に、忘れてしまえたかも知れない。
しかし、コルベールは強くもなければ弱くもない、ただの凡人だった。

彼がここでウルザに頼まれたのは、王都へと迫る脅威の足止めだった。
つまり、今、街を蹂躙している者達を、コルベール一人で止めねばならない。
軍隊相手に、たった一人で足止めを行うなど、聞いたこともない。
しかし、心当たりが無いわけでもない。
結局コルベールは、その頼みを断らなかった。

契機はこれまでいくつもあった。
復讐に取り付かれた狂人、ウルザの姿――自分には想像もつかないような長い時間を、復讐に執着して生きてきた狂人の姿は、彼に復讐と贖罪の違いはあれど、その行いに終わりがないことを告げていた。
道徳の守護者、教皇の言葉――悔いながら、死ぬまで贖罪に全てを捧げ尽くせという、彼の未来を絶つ言葉。

それらは一つの理由にしか過ぎない。だが、彼の選択の後押しをするものとなった。

コルベールは杖を床に置き、足下に置いてあった革袋から、金属の光沢を放つ一組の籠手を取り出した。
そしてゆっくりとそれを手にはめる。杖を取る。
準備は整った。

さあ、終わらせよう、何もかもを。



「ウル・カーノ・ジュラ・イル……」
基本は発火。
それを複合的かつ持続的に掛け合わせてルーンを構成、イメージを形にしていく。
両手につけたグローブのような籠手が、精神力を増幅し、より明確にイメージを現実にしていく。
本来では扱えぬであろう秘奥の境地まで、コルベールを導く。

「ウル・カーノ……」

胸の前で一度手を組み、それから徐々にそこを放していく。
放した両手の間、その何も無い空間を目標に精神を集中させる。
するとそこに小さく光が灯った。


「ウル・カーノ……」

イメージするのは、細かく小さな粒の加速、加速、加速。
呪文を重ねがけするたびに、光の勢いが増していく。
そこで起きているのは、基本の応用、ようは発火の魔法と同じことである。
ただし、本来のそれとは質と規模が違う。
精密精緻。コンマの誤差も許されない呪文操作によって、目的とする空間の温度だけを加熱していく。

「ウル・カーノ……」

最強の系統は何か? そう問われて、メイジならば大体は己の系統を答えるだろう。
コルベールもそう、彼の場合は火だと思っている。
彼の場合、それは何も自信や慢心からそう思っているのではない。
理論や経験でもって、火であると確信を持ってそう答えるものである。

風は偏在し、水は蘇生させ、土はどんなものであっても形作るであろう。
だが、火はそれらとは根本的に次元が違う。

「ウル・カーノ……」

火は、何もかもを焼き尽くす。
それは術者ですらも、例外なく。

「ウル・カーノ・ニエル・ゲーボ」

コルベールの絶望を乗せて呪文は完成し、

『オビリスレイト』

世界は赤い炎に包まれた。



「……嗚呼、神よ……」
最初に気がついた男、行商人の呟き。

セダンの街から十リーグ離れた山中を歩いていた彼は、世界が壊れたような音と衝撃で異変に気がついた。
何を起きたのかを確認するためにその方角を見たとき、彼は生涯に渡って忘れられぬ光景を目にすることとなった。
空がオレンジに染まっている。
地上から天へと、見たこともないような形の巨大な雲が伸びている。
それはまるで大きな笠を持ったきのこのような形をしていた。

何が何だか分からない。だが、恐ろしく冒涜的な光景であることは確信できた。
『きっと地の底から、地獄がこの世に顔を出したに違いない』
そう思った男は、その場に膝を突いて体を震わせながら神に祈りを捧げたと後に語っている。


その日から、地図の上で、一つの街が抹消されることになる。


                        戦いの始まりだ! 女王を称える、ときの声をあげろ!
                                ――トリステインの兵士

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