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零姫さまの使い魔 第四話


「あっしは手の目だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 やって来ました舞踏会
 年に一度の催しとくりゃァ あっし達芸人にとってもカキ入れ時ってぇもんだが
 なにやらこの祭典 長い歴史と伝統を誇る
 やんごとなき方々のための まこと雅やかなる『ぱぁてぃ』なんだそうで
 つまるところ あっしみたいなドサ芸人はお呼びじゃないとさ

 そんなわけで 哀れなシンデレラは帰ってフテ寝さ
 それじゃさよなら おやすみなさい」





フリッグの舞踏会は、トリステイン魔法学院における最大規模の催しである。
この日は食堂二階のホールが解放され、贅をこらした料理がテーブルに所狭しと並び、
国中でも名うての楽士達が流麗な音楽を奏でる。
そしてその場に、思い思いに着飾った貴族の子弟が集い、歓談にダンスにと華を咲かせる。
彼らにとってこの一夜は、日常を離れ初めて体験する、夢のような貴族の世界であり
後々社交界で名を馳せるための、実質的なデビューの舞台でもある。
その立ち居振る舞いに、常ならぬ気合が入るのも当然の事と言えよう。

そんな華やかなる貴族達の世界を、少女はバルコニーから眺めていた。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
トリステイン最大の名門、ヴァリエール家の三女であり、未だ蕾ながら、目を見張るほどの美貌の持ち主であった。

本来なら、ホールの中央こそが彼女にふさわしい居場所であろう。
実際彼女は、返答に辟易するほどのダンスの誘いを少年達から受けた。
そして、それらの全てを断って、彼女は舞台の片隅にいた。

勿論それは、貴族の令嬢がとるに相応しい行動ではない、
現に、ホールのいくつかのグループは、壁の花と化したルイズを端目にしながら、何事か囁き合っている。
「ゼロのクセに」と言う呟きまでが聞こえるようだ。
日頃、嘲笑の対象としている少女がとった高飛車な態度だけに、その反発もまた根深かった。

もっとも、彼女がそんなお高く止まった態度をとった所以も、『ゼロ』のふたつ名にあった。
常日頃、自分を馬鹿にしていた男達が、目の色を変えたように誘いをかけてくる様は、彼女にとって却って堪えた。
もって生まれた器量と、名門貴族の肩書きが、彼女のコンプレックスをナイフのように抉る。
魔法が使えない事を面と向かって罵倒されている方が、遥かにマシであった。
御伽噺のような貴族達の世界にあって、彼女はどこまでも孤独であった。


「まるで舞台劇のワン・シーンのようだ」
「え……」

――ルイズが気付いた時、その男は既に彼女の傍らにいた。

切れ長の瞳に、何処か儚げな光を宿した青年であった。
漆黒の黒髪に黒のスーツ、その上に、更に黒の外套を纏うという黒づくめの異装が
かえって男の肌の白さを強調し、まるでこの世の者ではないような、どこか超然とした印象を与えていた。

ルイズは咄嗟に思考を泳がせる。
彼女が知る主だった貴族の子弟たちの中に、彼の顔は無い。
更に不思議な事に、これ程人目を引く容姿でありながら、周囲は彼の存在を気にもしていない。
まるで、そんな男など、この場に存在しないかのように……

「目の前の光景ですよ
 バルコニーから室内までは 距離にすれば5歩もありません
 だが 此処と向こうでは 取り包む空気がまるで違う
 まるで 見えざる舞台でも存在するかのようにね」

「…………」

自身の心境を丸裸にするような男の呟きに、思わずルイズが息を呑む。
確かに、男と自分がいるバルコニーだけが、この祭典の観客席であるかのように、静寂に包まれていた。

「あの あなたは……?」
「人攫いです」
「え……?」

思わず目を丸くして固まったルイズの姿に、男が無邪気な笑顔を見せる。
その笑顔で、ルイズはようやく、それが男の冗談であることに気付いた。
ルイズの反応の楽しむかのように、男が言葉を紡いでいく。

「とある悪玉から頼まれたのですよ
 バルコニーに閉じ込められたウチのお姫様を 退屈な舞台劇から救い出して
 こちらのパーティーに攫ってこい……と
 僕はまあ その悪玉の使いの者 というワケです」

「……そのお姫様っていうのが 私の事?」

さすがにルイズが怪訝な表情を浮かべる。
今宵、学院の付近の集落で、何らかのパーティーが開かれているなどと言う話は、耳にしていない。
だが、男の言葉には、少女を御伽噺の世界に導く兎のような、奇妙に魅惑めいた響きがあった。

「それで その パーティーって」

ルイズが更に問いかけようとしたその時、徐々にホールの喧騒が収まり出し、楽士達が準備を始めた。
そのタイミングを見計らっていたかのように、男はルイズの言葉を遮り、右手を差し出した。

「その質問に答える前に 一曲 お相手願えませんか?」
「…………」


ルイズが逡巡する。

普段の彼女であれば、ここで見知らぬ男の誘いを受けたりはしないだろう。
だが、男の言う『パーティー』には少なからぬ興味があったし
このまま一曲も踊らずに、周囲から陰口を叩かれ続けるのも癪であった。
勿論、今更同級生達の相手をする気は毛頭ない。
ならばいっそ、この見知らぬ色男をパートナーに、
お高く止まった貴族のダンスを見せつけてやるのも悪くないかも知れない。
そんな事を考えながら、ルイズはやや緊張した面持ちで、男に手を差し伸べた。

男はルイズの手を恭しく包むと、そのままホールには向かわず……

バルコニーの欄干へ足を掛けた。

「さあ Shall We Dance?」
「え……!」

やがて、流麗な音楽の響きに合わせ、ふたりの体が、
まるで重力の枷から放たれたかように、鮮やかに上空へと舞い上がった。

地上からの歓声を受けながら、ふたりは何処までも昇っていく。 
磨かれたように冷たい空気が、ルイズの全身を吹き抜けていく。
大地の支えを失った不安感から、ルイズは身動きがとれず、男の外套に思い切りしがみついた。

「どうしました? 普段のあなたなら もっと優雅に踊れるはず」

「だって これ…… これは……? 私 飛んで……」

咄嗟にルイズは、フライの魔法を思った。
だが、男に詠唱を唱えた気配は無かったし、そもそも彼は、杖すら手にしていなかった。
それに、男の奔放な動きは、飛ぶと言うより、宙を舞うといった形容の方が正しかった。

「これこそが 本当の魔法ですよ」
「本当の…… 魔法?」

彼方から打ち上がった花火の輝きが、男の頬を、紅に緑にと染め上げる。
二人の周囲で、大きな双つの月がグルグルと回る。

「人の持つイメージに限界はありません
 杖も詠唱も イメージを現実の形にするための手段に過ぎない
 現実の殻さえ脱ぎ捨ててしまえば 人は 何処までも自由に飛べるのですよ」

男の言葉は、ルイズには理解できない。
だが、ルイズの体は男の言葉を肯定するかのように、自然と動き出していた。

ゆっくりと、男の懐から離れる。
始めは硬い動きで、足場を確認するかのようにおそるおそる、
そのうちに音楽を聴く余裕ができ、徐々に動きが流れるような柔らなものへと変わる。

心の内から湧き上がる歓びが、彼女のダンスにダイナミックな躍動感を与える。
指先一つで男とつながり、小さな体を精一杯伸ばし、自由な魂を全身で表現する。
窮屈な礼法の世界を抜け出し、ルイズは生まれて初めて『踊って』いた。


――トン、と

曲の終わりと共に、ふたりは見知らぬ異国の街へと降り立っていた。
行き交う人々が皆足を止め、ふたりに万雷の拍手を送る。

色とりどりのネオンに、ほのかな潮の香り、
巨大な尖塔から怪しげな屋台までが混じ入った、魅惑的なオリエンタルな街並み。

歓声を挙げるギャラリーの顔も一様ではない。
馴染み深い金髪の白人から、異国情緒溢れる褐色、東洋人と思しき黒髪
中には明らかに人間では無さそうなものまで混じっている。
そして、ルイズもまた不思議な事に、その様を当然として受け止めていた。

「やんや やんや」

と、くだけた拍手を掛けながら、一人の女性が人ごみを掻き分けて近づいてくる。
見た目は二十歳前後と言った風の、可憐さの中に妖艶な蕾を秘めた黒髪の乙女。
ドレスから除く白い背が魅力的ではあるが、ルイズは何か、彼女に形容のし難い違和感を感じた。

「若旦那 暫く見ないうちに女の趣味が変わったのかい? 
 小便臭いのは閉口……だろ」

「お前こそ 随分と口が悪くなったもんだ 
 どんなに旨く化けたところで 口を開けば里が知れるぞ」

へん、と女が舌を突き出す。いかにも馴染みらしい他愛のないやりとり。
そんな会話の中から、ルイズは先の違和感の正体を突き止めた。

「あんた もしかして手の目なの?
 な なな何よ その格好?」

「へぇ? そりゃあ折角の『ぱぁてぃ』だからね
 たまにゃァ あっしだって 綺麗なベベぐらい着ますさ」

そういう問題ではない、とルイズは思う。
ただでさえルイズは、年下の手の目と変わらない体型なのだ。
このような日に、一人だけ見事なレディに変身して現れるなど卑怯ではないか。

「そんな事より この場はお前の仕切りなんだろう
 ゲストがたったの一人とは 片手落ちじゃないのか?」

「勿論 手前の仕事に抜かりはありませんぜ 若旦那」

手の目の言葉と同時に、ボォン、ボォン、という時計塔の鐘が轟き、
通行人を掻き分けながら、大きな南瓜の馬車が一台近づいてきた。


「あらァ! そちら ステキな殿方」

弾んだ声を響かせながら、先ず、蝶ネクタイを付けたサラマンダーが
次に、胸元の大きく開いたドレスを着こなした赤毛の少女が、
最後に、用心深く周囲を見回す青髪の少女が、トランプの従者のエスコートを受け馬車から降りた。

「フゥン 中々面白そうな所じゃないの」

「キュ キュルケ アンタ なんで……?
 って言うか この唐突な状況にいきなり馴染んでんじゃ無いわよ!」

「なによ ヴァリエール 私達は手の目の招待で来たんだからね
 一人だけ夢の世界で良い目を見ようったって そうは行かないわよ」

「夢の世界……? 招待ですって?」

「夢の中に彼女が現れて 無理やり着替えさせられた……」

ルイズの問いに対しタバサが答える。
彼女は周囲を警戒していたのではなく、単にドレス姿に落ち着かないだけだったらしい。

「もう! 手の目 なんだってツェルプストーを呼んだりするのよ」

「お嬢 その物言いはいけないよ 御三方にはこの間も散々世話になってるんだ
 受けた恩義にはキッチリ報いるのが筋ってもんさ」

「お三方……?」

「きゅい! お姉さま~!」

ルイズの疑念を遮るように、彼方の屋台から聞き覚えの無い女性の声が響く。

「ハンバーガーにフライドチキン フランクフルトにドネルケバブ!
 きゅい! お肉! お肉がいっぱい!
 お姉さまの好きなハシバミ草も たっぷり用意してあるわ~!」

一同が呆然と見つめるその先では、謎の女性が、漫画のような骨付き肉をぶんぶんと振るっていた。

「……もう一人は 声をかけたら勝手に飛んで来ちまった」
「え…… 誰 ?」
「何かしきりにこっちを見てるわね タバサの知り合い?」
「知らない娘」

キュルケの問いに、珍しく強い口調でタバサが答える。

「更に! 今日は出血大サービスだ
 今宵のお嬢の相手に相応しいスペシャル・ゲストを用意したよ」


いつの間にか、手の目はルイズの杖を手にしていた。
一同が注目する中、手の目が出鱈目な詠唱を始めた。

「宇宙の果てのどこかにいるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの僕よ
 神聖で美しく強力なお嬢の使い魔よ あっしは心より求め訴えるよ とっとと観念して出てきやがれ!」

直後、まるでルイズの魔法のような爆発が起こり、広場が悲鳴に包まれる。
やがて、黒煙が晴れた先には、呆然とその場にへたり込む、謎の少年の姿があった。

「え? な な なんだ! ここはどこだ……!」

「いや…… だから誰よ?」

謎の少年は暫くキョロキョロと周囲を見回していたが、
その視界に手の目の姿を捉えると、不意に素っ頓狂な声を上げた。

「あーッ! お前 さっきの誘拐犯……!」

「誘拐とは何だ! 人聞きの悪い
 どうせこいつは夢だ! 朝になったら忘れちまわァ 
 さァ 分かったらウチのお姫様の相手をしねぇか!」

手の目はそう言って少年を無理やり引き起こし、その尻を勢い良く蹴り飛ばした。
少年はバランスを崩しながら前方に投げ出され、ルイズの眼前でかろうじて静止した。
初対面の相手との、息も掛かるほどの間近での接触に、二人の動きがドキリと止まる。

「え…… あれ? お前……」
「な な 何よ…… アンタ……」

微妙な静寂。
例えるならば、慨視感という言葉が近いだろうか。
何か、因縁めいたような懐かしさを、ふたりは互いの瞳から感じていた。

「も もう! こんなヤツを連れてきてどうしようって言うの? 手の…… あ あれ?」

緊張感に耐えかね、咄嗟にルイズは手の目に抗議しようとしたが、彼女の姿は無かった。
いつの間にか、黒づくめの青年も姿を消している。

そして、ふたりと入れ替わるかのように、後方から歓声が沸き起こった。


巨大な音色を響かせながら広場に現れたのは、異形の楽団であった。
いつの間にか姿を見せたその一行は、ルイズ達が見たことも無い多様な楽器を手にしている。

そして、楽団員は、皆、人間ではない。
多彩な楽器に負けず劣らず、個性的な格好をした妖怪達であった。

長いトロンボーンを見るからに窮屈そうに吹く、長い首の女。
阿吽の呼吸で見事な連壇を披露する、つがいの獅子顔。
自慢の陰嚢で重低音を轟かす古狸。
三台のマリンバを、複数の尻尾で打ち分ける化け猫。
前の口でクラリネットを、後頭部の口でオーボエを吹く女性。
トランペットを吹いた勢いで、回転しながら飛んでいく一本足の傘。

色とりどりのパーカッション、胸躍るリズム、
個性と個性がぶつかりあって奏でられるハーモニー。
百鬼夜行のパレードに、花火が上がり、観客が沸き立ち、広場が興奮に包まれる。

「きゅい! きゅい! 体が勝手に!」

楽団のパワーに本能を刺激されたのか、知らない娘が中央に躍り出て、カクカクと全身を動かし始める。
それを合図に、周囲のギャラリーも曲にあわせ、思い思いに踊り出す。

陽気で奔放なゲルマニア人の血がそうさせるのか、
キュルケも颯爽と中央に飛び込み、邪魔なドレスの長い裾をナイフで切り裂くと
とても即興とは思えない激しいダンスを披露した。

タバサは何とか平静を装おうとしていたが
一団のメロディにあわせ、うずうずと手足を動かしている。

「……ねぇ アンタ これは夢…… なのよね?」

「し 知らねぇよ そんな…… でも 多分……」

「ただの夢なら 見知らぬ少女のエスコートをして下さってもいいんじゃない?」

「……俺 踊れねぇぞ」

言いながらも、少年はルイズの手を引き、一行の興奮の中へと加わった。




「おい手の目 何だこの騒がしいのは」

「ハハ 若旦那! 夢 夢 夢でさァ!」

巨大な牛鬼の背に乗って、サクソフォン片手に手の目が叫ぶ。

「あれも夢 これも夢 みィーんな夢でさァ!
 今宵はハチャメチャな夢の一夜だ
 踊る阿呆に見る阿呆 同じ夢なら踊らにゃソンソン!
 さァ若旦那 あっしとも一曲お相手しておくれよォ」


「ン……」

朝の光をまぶたに感じ、ルイズが瞳を開けた。
何の変哲も無い天井、普段通りの自分の部屋。

漠然とした記憶をゆっくりと整理する。 
昨日は…… フリッグの舞踏会。ルイズは一晩中、壁の花と化していた。
にも拘らず、何故か体の節々が痛い。
それに、確かに昨日の宴で味わったはずの熱狂の残滓が、未だ胸中で疼いていた。

「ようやく起きなすったかい? いくら虚無の曜日だからってだらけ過ぎですぜ」

聞き覚えのある軽口に顔を傾ければ、
案の定、彼女の使い魔がティータイムに興じていた。

とっさに言葉を返そうとして、ルイズが彼女の格好に気づいた。

「アンタ…… その帽子 どうしたの?」

「ああ これかい?
 今回の探索の礼にって 学院長がくれたのさ
 ただの帽子と分かったからとは言え あの爺さん 中々太っ腹だねェ」

「それで嬉しくて 室内でも被ってるの?
 やあねぇ ……もしかして 寝るときも被ってるんじゃないでしょうね?」

「へへ……」

手の目が無邪気に笑う。
寝ぼけ眼のルイズには、彼女の笑顔に、見知らぬ大人の女性の面影がダブって見えた。

「おかげさまで い~い夢見れましたぜ」



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