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ベルセルク・ゼロ-22


「ラ・ヴァリエールの娘を渡してもらおうか」
 ワルド、ルイズ、そしてガッツの前に立ち塞がった仮面の男。低くしわがれたその声は、幾人もの人間が同時に喋っているようで、それでいて妙にざらついた奇妙なものだった。
 ワルドはルイズを庇うように一歩先に出て、杖を抜き、構える。
「こちらの素性を知った上で付け狙うか。何者だ、貴様?」
 もちろん男は黙して語らない。ワルドはやれやれと首を振った。
「まあ何者にしろ…そんな立派な杖を持っているんだ。君も貴族なのだろう? 貴族ならば女性の誘い方くらい心得たまえ」
「どけ」
 短く一言だけ発して、男は地を蹴り、ワルドに踊りかかった。
「速いな―――だがッ!!」
 まるで風のように迫り来る男にワルドは杖を合わせる。
 しかし、そこで仮面の男は突然一歩後ろに跳び退ってワルドの一撃をやり過ごした。
「ヌゥッ!?」
「きゃあ!!」
 ワルドの杖をかわした男は、その背に羽根があるかのように大きく跳躍し、ワルドの頭上を跳び越すとルイズに手を伸ばした。思わずルイズは悲鳴を上げてしゃがみこむ。
「させるか!!」
 即座にワルドが杖を切り返し、男の手を払った。ワルドの杖が迫る刹那、男はチィ、と舌を鳴らし伸ばした手を引っ込める。
 そのまま男はワルドとルイズより少し後ろにいたガッツの頭上をも飛び越え、着地した。
 そこに―――無防備な男の背めがけて、ガッツのドラゴンころしが振り下ろされた。
 しかし男は『まるで後ろに目がついているかのように』、ガッツの方を振り返りもせず前方に飛び、ドラゴンころしをかわした。ドラゴンころしが地面を叩き、土煙をあげる。
 その場にいる者達の立ち位置は反転した。仮面の男の前にガッツが立ち塞がり、ガッツの後ろにワルドとルイズが位置している。
「先に行け。すぐに追いつく」
 ガッツは仮面の男から目を離さずに、背中越しにルイズ達に声をかけた。
 思わぬガッツの提案に、ルイズは驚いて首を振る。
「駄目よそんなの!! 無茶だわ!!」
「そうだ、その男は強い。君一人では……」
 ワルドもルイズに追随した。ガッツは視線を後ろに向け、にやりとワルドに笑ってみせた。
「朝の決闘はこういう時のための判断材料じゃねえのか? 『隊長殿』よ」
 ワルドは口ごもった。ルイズはそれでも納得がいかないらしく、その場から動こうとしない。
「行けッ!!」
 男の方に向き直ってガッツが声を張り上げた。
「やむをえん! さあ、ルイズ!!」
「あ、ちょっとワルド! ……ガッツ!!」
 ワルドが強引にルイズの手を取って駆け出した。巨大な樹木、『桟橋』を目指してワルドとルイズの背中が小さくなっていく。
 仮面の男は二人を追う様子を見せるわけでもなく、ゆっくりとガッツと対峙した。
「くくく……一人で俺の相手をするか。よくよく舐められたものだ」
 仮面の奥からくつくつと笑い声が響く。
「まあよい。ここは貴様の命をもらえれば、それでよい。ヴァリエールの娘を手に入れるチャンスはこれからいくらでもある。そうとも、『いくらでもある』のだ」
 愉快そうに男は笑う。そんな男の様子にガッツは眉をひそめた。ふぅ、とため息をついてドラゴンころしを握りなおし、男に剣先を向け、構える。
「てめえらがどんな理由でルイズを狙ってんのかは知らねえが……あいにく、あいつに目をつけたのはこっちが先なんだ。ほいほい渡すわけにゃあいかねえな」
 男もまた、杖の切っ先をガッツに向け、構えた。
「図に乗るな、愚か者め。どれほど身体を鍛え上げようと、どれほど技を磨き上げようと、所詮貴様は杖を持たぬ平民に過ぎぬことを教えてやる」
 そう言うと男は杖を振り呪文を紡ぎ始めた。
 即座にガッツは距離を詰め、ドラゴンころしを振るう。風を切り裂き、振るわれた鉄塊は、しかし男の身体には当たらない。
 凄まじい速度で二度、三度と振るわれた鉄塊ではあったが、男もまた常人離れした体捌きでことごとくそれらをかわしていく。
 胴を払いに来た一撃目は身を沈めてかわし、追撃してきた二撃目は跳躍してやり過ごし、三撃目が振るわれるころには男は大きく後ろに跳び退り、ガッツとの距離をとっていた。
「杖持たぬ者には決して至れぬ境地を知れ。見せてやる。これがメイジの持つ真の力だ」
 男が杖を振る。同時に、その身体が光を放つ。
「『ライトニング・クラウド』」
 紡がれた言霊。瞬間、男の身体がさらに強く輝いた。その光はそのまま稲妻と化し、まさしく光の速度でガッツに迫る。
 轟音と共に光速で迫り来る一撃。その一撃をかわす術をガッツは持たなかった。
「がああああああああああああああ!!!!!!!!」
 バリバリと電気が弾ける音が響く。直撃だ。身体を駆け巡る強烈な電流に、ガッツは耐え切れず声を上げた。電流が熱を放ちガッツの身体を焼く。
 魔法で作られた擬似的なものとはいえ、雷鳴轟く稲妻をその身に受けて無事でいられる道理は無い。
 ガッツはがくりと膝を着き、その手を離れたドラゴンころしががらんと音をたてて地面に転がった。
 巨木の根元に辿り着いたワルドとルイズだったが、突如背後から照らされた光に、何事かと後ろを振り返る。
 ルイズの目に、ガッツが残って戦っているであろう辺りから強い光が放たれているのが映った。
 遠目からではどんな魔法なのかは確認できない。だが、鮮烈なその光は行使された魔法がちゃちなドット・スペルなどではないことを予感させた。
「ガッツーーーッ!!!!」
「ルイズ!!」
 無意識のうちに己が使い魔の名を叫び、駆け戻ろうとしたルイズの肩をワルドは押さえつける。
「離して! ワルド!!」
「落ち着くんだルイズ!! 今君が戻って何になる!!」
「でも……でも………!!」
「君は彼の主人なのだろう!? 君が彼のことを信じなくてどうするんだ!!」
 ルイズはぐっと唇をかんだ。再び後方に視線を戻す。
 放たれていた光は既に消え、月の光だけでは遠くの景色は薄暗く翳り、ガッツの様子を確認することは出来ない。
 ルイズはぐい、と目に溜まった涙を拭うと前に向き直った。
「分かったわ……行きましょうワルド」
 ルイズの言葉にワルドは頷き、二人は『桟橋』と呼ばれる巨木、その幹の中へ足を踏み入れた。
 『桟橋』と呼ばれた巨木は根元を中からくり抜かれており、空洞になっていた。木製の階段がいくつもあり、それぞれに鉄のプレートが備え付けられている。プレートには文字が書いてあり、これが案内板の役割を果たしているようだった。
 ワルドに手を引かれ、ルイズは階段を駆け上がる。
(すぐに追いつくって……そう言ったわよね、ガッツ……!!)
 ざわつく心を押さえつけ、ルイズは駆ける。
 後ろを振り返ることはしなかった。


 肉がこげる嫌な音を立て、ガッツの体が前のめりに傾ぐ。今にも途切れそうな意識の中、ガッツは咄嗟に手を伸ばし、倒れ行く身体を支えた。
 仮面の男はそんなガッツを見て少し驚いたようだった。
「まさか『ライトニング・クラウド』の直撃を受けてまだ生きている……それどころか、意識を保っているとはな。成程、素晴らしくタフな男らしいな、貴様は。だが……」
 男は再び杖を構える。
「我が渾身の魔術を受けて生きていられてはいささか不愉快だ。生存は許さぬ。完全なる止めを刺してやる」
 杖を振り、男は再び呪文の詠唱に入った。紡ぐ術式は先程と同じ『ライトニング・クラウド』。
 ガッツはドラゴンころしを拾い上げると、痛む体を引きずり、立ち上がる。
「無駄だ。足掻くな。その身体ではその剣を満足に振ることは出来まい。往生際を見極めよ。下手な抵抗は見苦しいだけだ」
 男の言うとおり、火傷で引きつった筋肉はうまく言うことを聞いてくれそうにない。
 男の紡ぐ魔法はもうすぐに完成する。次に電撃を身に浴びればおそらく即死。
 そんな絶望的な状況の中で、ガッツは笑った。
「あいにく……俺は往生際が『極めて』悪いもんでね」
「ふん、強がりを……ぐぅッ!!?」
 突然、仮面の男の顔面を衝撃が襲った。ばがぁん、と音を立て、男の顔を覆っていた仮面、その右半分が砕け散る。
「な…に……!?」
 男は咄嗟に己の顔を手で隠した。指の隙間から、地面に散らばる仮面の欠片と共に、小さな一本のナイフが転がっているのが目に入る。
 ガッツはいつの間にかドラゴンころしを手放していた。
「投げナイフ……貴様、こんなものまで……!!」
「なんだ、顔を見られちゃまずいのか?」
 続けざまにガッツはナイフを放つ。男は右手で顔を覆ったまま左手に持った杖で迫り来るナイフを打ち払った。
 人が仮面を被る理由は様々だ。醜い顔を隠すため。あるいは、その正体を隠すため。
 男が仮面を被って現れた理由を、ガッツは後者だと踏んだ。男の声は明らかに魔法で人為的に変えられたものだったからだ。
 そして、その予想は的中していた。
「くっ……!!」
 このまま戦闘するのは圧倒的不利だと知りながら、男は顔を隠す右手を離すことが出来ない。
 男には絶対に正体を知られるわけにはいかない理由があった。
(万が一…! 万が一にでもこの男とルイズがリンクしていたとしたら……!!)
 その可能性は低い、と男自身感じてはいた。
 だが、まさに『万が一』なのだ。万に一つでも可能性があるのなら、目の前の黒い剣士に己の顔を見られる訳にはいかない。
 自分の正体が先を行くルイズ・フランソワーズに伝わってしまっては男の抱える計画は破綻する。
 かといって、目の前の黒い剣士は既に手負いであるとはいえ片手が塞がって勝てる相手ではない。
 仮面の男は、そのことを『よく』知っていた。
(おのれ……! ここは退く……覚えていろ、黒い剣士……!!)
 男は身を翻すと、あっという間にガッツの前から姿を消した。
 ガッツは油断無く周囲に目を走らせる。
 完全に男の気配が去ったことを確認すると、ガッツはドラゴンころしを拾い上げ、背中に仕舞った。
 大きく身体を動かすと、火傷で引き攣った皮膚が引っ張られ、激痛が走る。
「ちっ……魔法ってのは、つくづく厄介なもんだぜ」
 想像以上に仮面の男の『ライトニング・クラウド』は強烈だった。ギーシュや『土くれ』のフーケとの戦いを通じて、少しメイジというものを甘く見ていたのかもしれない。
「さて…大分遅れちまったな。急がねえと」
 ガッツは腰元の鞄を開けた。
「おい、パック……」
 果たしてそこには『ライトニング・クラウド』の余波を受けていい感じに焼き上がった栗妖精が転がっていた。
「おい……おい!」
 ガッツが声を上げてもパックは泡を吹くばかりで返事をしない。
「こら、てめえがいねえとルイズ達の居場所がわかんねえだろが! 起きろ、オイ!!」
 むんずとパックを掴み上げ、目の前で怒鳴る。パックは白目を向いたままカクカクとその首を揺らした。
 パックの復活にはまだまだ時間がかかりそうだった。


 『女神の杵』亭に残り、敵の足止めをしていたギーシュ、キュルケ、タバサは終わり無く次々と押し入ってくる傭兵たちに、遂に悲鳴を上げ始めた。
「もう、ホントにキリがないわ!! 敵は一体何人引き連れてきてるのよ!!」
 キュルケは叫びながら杖を振るい、一番近くに居た敵を火達磨にした。もう随分敵を打ちのめしたつもりでいたが、店内に転がっているのはたったの五人だ。
 これまでに襲ってきた野盗の類とは違い、鍛えられた傭兵たちは、一度や二度魔法を食らわせただけでは斃れなかった。
「このままではごり押しされる」
 タバサが冷静に言った。
「さて、何か手を考えないといけないわね」
 キュルケは面倒くさそうに髪をかきあげる。
「ど、どどど、どうする? どうしよう? どーしたらいい!?」
 あっという間にワルキューレを一体ぼろぼろにされたギーシュは落ち着きが無い。
「う~ん、確か厨房には油の入った鍋があるはずよね……おつまみに揚げ物が出ていたし……」
 キュルケは顎に手をあててぶつぶつと呟き始めた。
「何をそんなに落ち着いてるのかね君は! ああ、もうほら! 敵がすぐそこまで迫ってきてるのだよ!?」
「うるさいわね!! 今打開策練ってんだからちょっとくらい時間を稼ぎなさい!!」
 しかしキュルケが魔法を止めてしまっては、押し寄せる庸兵たちを完全に足止めすることは不可能だった。
 タバサが懸命に魔法をぶつけているが、討ちもらした傭兵がどんどん迫ってくる。

 ―――ドクン。

 迫り来る傭兵の姿に、ギーシュの中で昨日の嫌な記憶が甦る。
 『鉄屑』のグリズネフを相手に手も足も出なかった無様な自分。
 傍らでテーブルに身を隠すメリッサを見る。メリッサはその小さな肩を震わせ、襲い来る恐怖に健気に耐えている。

 ―――ドクン!

 その姿に、ギーシュの心臓が一際大きく音を立てた。
(何をやっているんだ僕は! このままじゃ昨日と何も変わらない! 何も守れない!! 成長しろ、キュルケに頼るな、お前がやるんだギーシュ・ド・グラモン!!!!)
 己が杖としている薔薇の造花を振り、ゴーレムを錬成する。

 脳裏に浮かぶのは憎き敵であったグリズネフの言葉。
『ゴーレムに立派な鎧も兜も必要ねえ。人を殺すにゃあ―――』

 鮮烈に思い出すのはドラゴンころしを振るうガッツの姿。
 こともなげに巨大な鉄塊を振り回し、敵を吹き飛ばしていく男の背中。

 完成したゴーレムには、鎧も兜もついていなかった。
 それどころか、顔に当たる部分にも全く造形が施されておらず、のっぺらぼうだ。
 人の形をしてはいるが、間接の部分は球体がはめ込まれている。
 そしてその人形の手には、巨大な剣が握られていた。
 ガッツの持つドラゴンころしよりは一回りも二回りも小さいが、それでもその刃渡りは160サントを悠に超えている。
 のっぺらぼうのゴーレムがその手に持つ大剣を振るい、最も近くまで来ていた傭兵を吹き飛ばした。
 キュルケとタバサは呆然として新たに現れたそのゴーレムを見つめている。
「ギーシュ…あんた、それ……」
 ギーシュは横倒しにしたテーブルの縁に立ち上がった。
「聞け! 傭兵共!!」
 狭い足場に器用に立ち、胸を張って叫ぶ。
 当然、いい的である。ギーシュ目掛けて矢が殺到した。
「おぎゃぎゃ!?」
「馬っ鹿ッ!!!!」
 キュルケとタバサが慌てて杖を振るい、魔法で矢を叩き落す。
「考えて行動しなさいよ馬鹿! ノータリン!!」
「愚物」
 目を吊り上げてキュルケはギーシュに罵声を浴びせる。
 タバサもポツリと中々に厳しい言葉を吐いた。
「ふ、ふぃ~~」
 ギーシュは安堵の息をついて、流れた汗を拭った。それから気を取り直して胸を張る。
「我が名はギーシュ!! ギーシュ・ド・グラモン!!」
 かつて、アルヴィーズの食堂で初めてガッツと対峙した時は、自分を大きく見せるために名乗った。
 今は、家名をその身に背負うために名乗る。
「君たちの相手は我がゴーレムが務めよう! さあ、踊れ!!」
 ギーシュの号令の下、ゴーレムが動き出す。
 たった一体のゴーレム。だが、それ故にギーシュの意識はその一体に集中する。
 いつものワルキューレを半ばオートで動かしているのとは異なる、ギーシュの意識の下での完全マニュアル操作。
 ギーシュがイメージするのは脳裏に焼きついて離れない、ガッツがドラゴンころしを振り回し、敵を屠っていくその姿。ギーシュの記憶にあるガッツの動きをなぞるように、のっぺらぼうのゴーレムが踊る。
「なんだこいつは!?」
「突いても死なねえ、くそ!!」
 傭兵たちから悲鳴が上がる。一つや二つの刃を受けても、ギーシュのゴーレムは止まらない。
 これが本来ゴーレムの持つ有用性、人間には有り得ないタフネスだ。結局、ギーシュのゴーレムはその身に7つの刃を受けてようやく沈黙した。
 のっぺらぼうのゴーレムががしゃりと音を立て崩れ落ちる。その頃には、8人の傭兵がゴーレムによって打ち倒されていた。
「手間ぁかけさせやがって……!」
 怒りを露わにして傭兵たちがにじり寄ってくる。
 しかし、対するギーシュはあくまで余裕の表情だった。
 ギーシュが薔薇の造花を振る。杖を離れた赤い花びらが舞い落ちる。舞い落ちた花びらは、その全てがのっぺらぼうのゴーレムと化した。
 その数、11体。
 簡略された造りの新たなゴーレムは、錬成する際の精神力の負担を大幅に軽減した。結果、ワルキューレの時は7体が限界であった錬成数は大きく増した。
「あまりに無様なこのゴーレム。勇壮な戦乙女の名を冠するにはふさわしくない。これはただの『操り人形<マリオネット>』。僕の意思でもって動くただの木偶人形だ」
 マリオネットと名付けられた11体のゴーレムがその手に握る大剣を一斉に構えた。
「まだ…やるかね?」
 ギーシュが杖を掲げると、マリオネット達は大剣を構えたままじりじりと動き出す。
「じょ、冗談じゃねえ……!」
 一人の傭兵が後ずさる。たった一体を相手にするのでさえこれだけの犠牲を出したのだ。
 今度はそれが11体も同時に襲ってくる。どれ程の被害を受けることになるかわかったものではない。
 一人が下がれば後は早かった。傭兵たちは口々に恨み言を吐きながら、次々に退却していった。
 最後の一人が去り、酒場に静寂が戻る。
「勝った……?」
 呆然とギーシュは呟いた。キュルケ、タバサ、そしてメリッサもテーブルから顔を出す。
「やった……やれた……やれたんだ……」
 ギーシュの胸のうちにこみ上げるものがある。昨日の敗北から鬱積していた気持ちが晴れやかになっていく。
 守れた。今度こそ、守ることが出来た。
「やったぁあああ!!!!!!!」
 堪えきれず、ギーシュは叫んだ。マリオネット達もギーシュの喜びを表すように踊り始めた。
 ギーシュの目の端に涙が滲む。メリッサは微笑みながらそんなギーシュを見つめていた。
「こら」
「んがっ!」
 浮かれてはしゃぐギーシュの後頭部をキュルケが小突いた。
「なに格好つけてんのよ。私とタバサがいなかったらあんた蜂の巣になってたわよ」
「あはは…すまない、助かったよ。ありがとう」
「……まあ、結果オーライだからいいけど。これ、どうしたの? ワルキューレは?」
 まだ踊り続けているのっぺらぼうのゴーレム達を指差してキュルケは尋ねた。
「『操り人形<マリオネット>』。僕はそう名付けた。何の装飾も無い粗末なゴーレムだけど、今の僕にはこれくらいがふさわしい。守りたいものを守れなきゃ、どれだけ外見を繕っても意味はないと思い知ったからね」
 少し遠い目をしてギーシュは語る。キュルケはそれを少し意外そうに眺めていた。
(ふぅん……かっこつけのギーシュがいっちょ前に……ここに来るまでに色々あったみたいね)
 二人の会話にぼ~っと耳を傾けていたタバサが、何かに反応した。
「まだ終わっていない」
 ぽつりと呟く。
「え?」
 キュルケがそう言ったのと同時に、巨大な岩の塊が酒場の入り口ごとギーシュのマリオネットを下敷きにした。
 轟音と共に、地面が激しく揺れる。
「な、何よ何なのよ!!」
「ぼ、僕のゴーレムがーーーーッ!!!!」
「きゃーーーーー!!!!」
「きゃー」
 余りにも大きな揺れに4人はバランスを崩して倒れこむ。
 もうもうと土煙を上げながら、岩の塊が動いた。開けた視界、瓦礫の山と化した入り口の向こうに、巨大な岩のゴーレムが立っていた。
 酒場の入り口とギーシュのゴーレムを潰した岩の塊は、そのゴーレムの拳だ。
 巨大なゴーレムの肩で、『土くれ』のフーケは笑う。
「まさかあんたらまで来るなんてね。忘れちゃいないよ。『雪風』のタバサ、『微熱』のキュルケ。このラ・ロシェールで待っていた甲斐があったってもんだ」
 キュルケは『土くれ』のフーケの姿を認めると、髪についた埃を払いながら立ち上がった。
「あーら、随分とお早い出所なのね『土くれ』のフーケ。だめよ、しっかりお勤めは果たさなきゃ」
「冗談。女の花は短いんだ。獄中で時間を無駄になんかしてられるかね」
「ふふ、それは同感だわ。だから私たちなんかに構わないでもっと有意義なことに時間を割いたほうがよくってよ?」
「そういうわけにはいかないさ。私は受けた借りは返さなきゃ気が済まない性質(たち)でね。ストレスを溜めるのはお肌の美容にもよくないし、早々に返させてもらうよ」
 巨大なゴーレムがゆっくりと動き出す。
 キュルケとタバサはゴーレムの正面に並び立ち、杖を構えた。
「あなたはその子を連れて店の奥に」
 タバサがギーシュに指示を出した。
「ぼ、僕も戦うぞ!!」
「あれだけの量のゴーレムを錬成した。もうあなたの精神力は空っぽ。違う?」
 首を振るギーシュを、タバサは冷静に諭す。
 しかし、女の子に任せて自分は隠れるという状況に、ギーシュは容易に頷くことは出来ずにいた。
「しっかり守ってやんなさい」
 そう言って、キュルケがギーシュにウインクしてみせる。
 その瞳はとても優しい光を湛えていた。
「……わかった。君たちも気をつけて」
 ギーシュはメリッサの手を取ると店の奥へと走っていった。
 フーケの操る岩のゴーレムが、キュルケとタバサを纏めて押し潰そうと拳を振り上げた。
「1、2の3で散開」
「オッケーよ」
「1、2の」
「サンッ!!」
 キュルケとタバサは同時に駆け出し、ゴーレムの拳をかいくぐる。二人は勢いを殺さずそのまま外まで走り抜けた。
 ゴーレムの拳が『女神の杵』亭を半壊させる。
 それが開戦の狼煙となった。


 ギーシュとメリッサは既に裏口から『女神の杵』亭を飛び出していた。
 ゴーレムの拳によって吹き飛ばされた細かな瓦礫が飛んでくる。
「伏せて!!」
 ギーシュは己の体を盾にしてメリッサを庇った。
「大丈夫かい!?」
「ええ、なんとか……」
「とにかく安全なところへ。急ごう」
 メリッサの手を取り、立ち上がらせてから再び駆ける。
 駆けながら、ギーシュはちらりと後ろを振り返った。ゴーレムは巨大な腕を振り回している。既に二人との戦闘が始まっているのだろう。
 二人の無事を祈る一方で、ギーシュの頭の片隅に何か引っかかるものがあった。
 フーケの姿を見たときから、奇妙な違和感が拭えない。
 だが、今は後回しだ。今はとにかくメリッサを安全なところへ連れて行く。
 そう無理やり自分に言い聞かせて、ギーシュは走った。



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