あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

お前の使い魔 3話



 寒い。寒すぎる。何でこんなに寒いんだろう? 確か今は春だったような……うう、寒い。
 冬場のような寒さを感じながら、わたしの意識はゆっくりと覚醒した。

「ん……」

 朝日の射す窓と天井が見える。ということは、間違いなくここは、魔法学院にある寮の中のわたしの部屋だ。
 はて? 外でもないなら何でこんなに寒いんだろう?
 昨日、わたしはふかふかの毛布を肩までかぶって……かぶって……?

「あれ……? もうふ……」

 毛布が無い。
 確かに昨日まであったはずなのに、今のわたしは肌着一枚でベッドの上に乗っている。
 寝ぼけ眼で周りを見ると、わたしの横で、幸せそうに『わたしから剥ぎ取った』毛布に包まってすやすや眠る亜人が見えた。
 寝起きで判断力の鈍っていたわたしの頭が、寒さと怒りで急速に回転しだす。

「起きなさいこのダメ使い魔ああああああっ!!!!!!」

 わたしが叫ぶと、気持ちよさそうな顔から凄まじく迷惑そうな顔へと表情を変え、めんどくさそうに目を開けるダネット。

「人が気持ちよく寝てるのに、邪魔するのは誰ですかもう……」

 そう言って、ダネットは目をしょぼしょぼと擦りながら起き上がり、半分閉じたままの目できょろきょろと周りを見渡した後、わたしをじっと見つめる。

「お前……誰ですか?」

 自分の頭の血管が「ぷちん」と音を立てて切れた気がする。
 わたしはぶるぶる肩を震わせた後、半分閉じていた目をまた閉じようとするダネットの肩を掴み、力の限りがっくんがっくん揺さぶりながら怒鳴りつけた。

「あんたの!!!ご主人様の!!!ルイズ様でしょうがああああっ!!!!!!」

 すると、ようやく起きたのか、ダネットは怒り心頭といった表情になり、怒鳴り返してくる。

「誰が! 誰の! ご主人ですか!!!!」
「わたしが! あんたの! ご主人様だって言ってるでしょうが!! っていうか、毛布さっさと返しなさいよ!!」
「あっ! 何をするのですかお前!! 返しなさい!!」
「これはわたしの毛布よ!! それと、またお前って言ったわねこのダメット!!」
「ダメットじゃないのです!! ダネットです!! 人の名前も覚えられないんですかお前は!! お前こそダメです!! ダメルイなんとかです!!」
「あんたにだけは言われたくないわああああ!!!!」

 そんな感じで、朝も早くからわたしとダネットが怒鳴りあいの喧嘩をしていると、突然部屋のドアがバンという音を立てて開いた。
 驚いたわたしとダネットがそちらを見ると、そこには額に青筋を立てて、杖を構えるツェルプストーの姿が見える。

「ちょっとツェルプストー! ドアには鍵がかかってたはずよ! さてはあんた、校内では禁止されてるアンロック使ったでしょう!!」

 わたしが怒りながらそう言うと、横のダネットもぷりぷり怒りながらツェルプストーに怒鳴り始める。

「誰ですかこの乳でか女は!! 邪魔をするなら出て行ってください!! 私達は大事な話をしているのです!!」

 そう言ってダネットは、ツェルプストーのバストをびしっと指差す。
 こうして、むんと胸を張ってツェルプストーを怒鳴りつけたわたし達が、また向き合って怒鳴りあいを始めようとした所に、ツェルプストーの怒鳴り声が割って入った。

「朝っぱらからうるさいのよアンタ達っ!!!!」

 その怒声にわたし達が動きを止めて、またツェルプストーの方を見ると、そこには、額に先ほどよりも多くの青筋を立て、火球を杖に纏わせたツェルプストーの姿があった。

「昨日の夜だけかと思ったら、朝っぱらからギャーギャーと……こっちの身にもなんなさい!!」

 確かにわたし達は昨日の夜も騒がしかったし、今日も朝から騒いだのだから、隣室のツェルプストーはたまったもんじゃなかっただろう。むしろ、昨日の夜に怒鳴り込んでこなかっただけ優しいといえるかもしれない。
 でも、ツェルプストーに謝罪するというのはプライドが許さない。
 そうやって、どうしたものかとわたしが考えていると、わたしとツェルプストーの間に緑色の光が割り込んできた。
 それは、エメラルドグリーンに輝く短刀を構え、わたしを庇うように立ち、鋭い目でツェルプストーを睨み付けているダネット。

「お前、焔術師だったのですか乳でか女」

 そう言って、すぐにでも飛びかかれるような構えを取り、わたしの方を見ずに「お前、下がっていなさい」とだけ言った。
 焔術師?何のことだろう?ダネットのいた土地特有のメイジの呼び方だろうか?
 一触即発の空気がわたしの部屋に充満する。
 だが、ツェルプストーは「はぁ」と溜め息を一つ付いて火球を消して杖を下げ、敵意が無いことを示す。
 それを見たダネットは、警戒しつつもゆっくりと短剣を下ろした。
 わたしは、部屋の中で乱闘が起きなかった事にほっと胸を下ろし、今度は幾分落ち着いた声でツェルプストーに言う。

「今度から気をつけるわ」

 悪かった、などとは言わない。だが、一応は謝罪しておく。
 そんな意思が伝わったのか、ツェルプストーはクスリと笑うと、今度はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべ、わたしに向かって言った。

「ところでルイズ、もう朝食の時間だけど、ゆっくりしてていいの?」

 ツェルプストーの言葉を受け、部屋の中にわたしの悲鳴が響き渡った。


「お前、どこに行くのですか?」
「食堂よ!」
「昨日の部屋ですか?」
「あれは医務室! ほら急いで!」
「遅いのはお前です! もっと急ぎなさい!!」

 確かにダネットはむちゃくちゃ足が速かった。
 わたしも必死になって走っているのだが、それを平然とした顔でスイスイ追い抜いていく。

「この……筋肉馬鹿使い魔!!」
「馬鹿!? 馬鹿って言いましたか今!?」
「言ったわよ!! バーカ! バーカ!! バカダメットー!!」
「馬鹿って言う方がバカなんです!! バカルイなんとかー!!」

 そんな騒々しい会話をしつつ、どうにかこうにかアルヴィーズの衝動に付くと、ダネットは「ほえー……」と気の抜けた声を出し、食堂を見上げていた。

「ほら、さっさと行くわよ。アルヴィーズの食堂は、本来は貴族しか入れないんだからね。感謝しなさい。」

 わたしはそう言って、アルヴィーズの食堂の豪華さに驚いてるダネットに少し優越感を抱きつつ、自分の席へ移動すと、ダネットはキョロキョロしながらも付いてきた。
 自分の席まで行き、ダネットに向かって言う。

「ほら、椅子を引きなさい」

 しかし、ダネットは全くわたしの言葉が耳に入ってないらしく、まだ回りを「ほー……」などと言いながら見渡している。
 少し口調を荒げ、もう一度ダネットに命令する。

「椅子!!」

 ようやくダネットはそれに気付いたらしく、こくんと頷いて『私の席に座った』

「な……!?」

 あっけに取られたわたしに、ダネットはキラキラした笑顔を向け、テーブルの上に乗せられた食事を指差しながら、幸せそうな声で言った。

「凄く美味しそうです!」

 周りから、クスクスという笑いが聞こえる。
 わたしは真っ赤になりながら、ダネットを席から引き剥がそうとした。

「な……何をするんですかお前!!」
「そこはわたしの席よ!! さっさとどきなさい!!」
「隣の席が開いてるではないですか!! お前がそっちにいけばいいんです!!」
「そっちの席はただの空席よ! 食事が用意されてないでしょ!!」
「なら私が恵んでやります!! 感謝しなさい!!」
「それはわたしの朝食でしょうがあああ!!!!」

 わたしの抵抗も虚しく、ダネットはてこでも動きそうに無いぐらい席にしがみ付いて離れない。こうしていても埒が明かないので、今後ダネットは決して食堂に入れない事を心に誓い、仕方なく隣の席に着く。
 周りの嘲笑は最初よりも大きくなっていて、恥ずかしさで逃げ出したくなったが、こんな事で逃げてはヴァリエール家の名折れだと思い直し、わたしはぐっと我慢をして、始祖ブリミルに祈りを捧げる。
 祈りが終わり、ようやく食事を始めようかと、ダネットの座るわたしの料理を見ると……半分近く無くなっていた。
 そしてその残りは、現在進行形でダネットの口に吸い込まれ、そりゃあもう凄い勢いで消えていく。
 こうして、アルヴィーズの食堂に、今日何回目かもわからないわたしの怒号が響き渡った。


「全く……ご飯を少し食べられたぐらいで怒るなんて、お前は卑しいのです」
「卑しいのはあんたでしょうが!」

 騒々しい食事を終え、わたし達は教室に向かっていた。
 ちなみに、ダネットの今後の食事は、コックやメイドが食事を取る場所で行うという約束を取り付けたので一安心。
 余談だが、食堂で騒いだ罰として、食事抜きを宣言しようとしたのだが、途中まで言ったところでダネットが笑顔で指をパキポキ鳴らしながら「首根っこへし折られたいですか?」と本気で言ってきたのでやめておいた。
 べ……別に怯えたわけじゃないんだからねっ! 命あってのモノダネっていうじゃない!
 わたしがそんな事を考え、ぐっとこぶしを握っていると、ダネットが言葉を続けた。

「ところで、今度はどこに行くのですか?」
「教室よ。朝食の後は授業だもの」

 ダネットは人指し指を頬に付け、首を傾げながらわたしに尋ねる。昨日もしてた仕草だけど、結構かわいい。

「きょーしつ? じゅぎょう?」
「教室は勉強する場所。授業は勉強する事よ。あんたの住んでた所に、学院とか無かったの?」

 それを聞いたダネットは「むぅ」とうなった後、わたしから少し目を逸らしながらこう言った。

「私は……両親が死んだ後、隠れ里でずっと過ごしてきました。そこではずっと戦いの訓練ばかりしてました」

 その答えを聞いたわたしは、思わず固まった。
 ダネットは凄く能天気だ。悪く言えばバカだ。だからきっと、今までの生活だってのほほんとしたものだったに違いない。
 なんとなくそう思っていた。
 でも、よく考えてみれば、ダネットはまだ若い。にもかかわらず、あんな短刀を手にし、一般常識が欠けている。それはつまり、常識より優先して戦う必要があったという事だ。
 あの話が本当だとは思わないけれど、少なくとも過酷な環境で育ってきたというのは間違いではないだろう。
 それに今、ダネットは両親が死んだと言った。
 わたしのお父様とお母様と、二人居る姉の上の姉様は元気で、下の姉であるちぃねえさまも体は弱いが生きている。もし、わたしの家族の誰かが死んでしまったら、わたしはダネットと同じように笑えるだろうか?
 いや、多分泣き喚いて、もしその傷に触れようものなら、それが誰であろうと怒り散らすだろう。
 そう考え、ダネットに言葉をかけようとしたが、どんな言葉をかけていいかわからない。
 ごめんなさい? 元気を出して? 忘れなさい? 言える訳が無い。どんな言葉も、何一つ経験の無いわたしが言っても薄っぺらな偽物だ。
 だから「あ…」と間抜けな声をあげる事しかできず、固まったままのわたしに、ダネットは横を向いたまま言った。

「だから勉強は苦手です。で、でもバカではないのですよ? ちょっとだけ苦手なだけなのです」

 そして、少しだけ赤くなった顔をわたしに向けた。
 そこにあったのは、自分の境遇を悲しむものではなく、単に勉強が苦手だと告白する事が恥ずかしいというだけの表情。

「へ?」

 思わず出てしまったわたしの間抜けな返事を聞き、ぷうっと頬を膨らませたダネットは、少しだけ怒りながら言葉を続けた。

「上等です! そのジュギョウとやら受けて立ちましょう! 私が優秀だというのを思い知りなさい!」

 それを聞いたわたしは、自然と微笑んでいた。
 その微笑みを、馬鹿にされたと思ったらしいダネットは、肩をいからせながらずんずんと廊下を歩いていく。
 わたしは、そんなダネットの背中に、小さな声で呟きかける。

「あんたは強いわね……ダネット」

 ダネットは振り向き、頬に指を当て、首を傾げる。

「へ? 何か言いましたかお前?」
「別に、何でも無いわよ。さて、行きましょうか。早くしないと授業に遅れるわよ」

 こうしてわたしと、能天気なダメダメ使い魔は、朝日差す廊下を歩いて教室に向かうのだった。





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