あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と狂信者-23



ルイズは朝起きて、しばらく呆けていた。
辺りを見回しても、自分の使い魔はいない。
それはいい。確かにアンデルセンは自分の使い魔だが、彼の信仰心は知っている。
それを邪魔する権利は自分にはない。
彼の戦闘力、人格は己の使い魔としては過ぎたるものと考えているし、
彼が私に忠誠と、一種の、それは先生が生徒に対するもしくは親が子に対する、愛情を
持っていることは感じている。そしてアルビオンで彼が懸命に、それこそ命がけで己が
受けた任務の成功の為に働いた為、この位の暇は与えてもいい。
大体彼は姫様の依頼で動いている訳で、これはひいては己の為にもなる。
それに彼に付いていったって何ができるでもなく、そもそも授業がある。
などと頭では分かっているのだが、彼女の気分は暗澹たるものだった。
というのも机に置かれた一冊の本による。

なんで私なんかが、

ゼロの私が、

使い魔からは頼りにされない私が、

姫様の結婚式に、詔を……。

といっても、元々彼女ならそれだけでここまでネガティヴにはならないのだが。
(アイツ……。怒ってるよね……)
自分の命の恩人である少年。
何故か他人の気がしない少年。
成り行きとはいえ、私を守ってくれた少年。
というか正直に言ってどう考えても自分の行動、あれは無い。
そして彼女はしばし逡巡し、
「そうだ、同じ男の子に相談しよう」
との結論に達した。といっても彼女に交遊のある少年などほぼ一人だが。



ルイズの部屋。ベッドに座り、正座する二人の少女を見据えるギーシュ。
彼は二人の少女から話を聞く。シエスタも何故か居るのだ。
「ええっと……。もう一回言ってくれるかな?」
ギーシュの問にルイズがもぞもぞと答える。
「だから……。才人がタバサ達と仲好くしてて……。」
「そこまでは分かった」
「女と一緒に風呂入ってて……。」
「ああ、それで?」

「電流つきの首輪を」
「やっぱり解らないなあ」
「斬り捨てようとしました」
「全くわからないなあ!」

「それで許してもらうにはどうすればいいかと?」
ルイズとシエスタはこくりと頷く。
「……。まあ示談で済ますなら金はいるかな。相場はレイナールにでも……」
「いや、そういうんじゃ無くて」
「その……男女の仲として」
「うん。まずは敵味方の仲から脱却したまえ」
もはやぐうの音も出ない。ギーシュは頭を抱える。
「恋とか愛とかそれ以前に人間としてどうかと思うよ。僕は」
正論を吐きながら、ふと窓の外を眺め、溜息と共に二人の少女に告げる。
「彼が帰ってきたからとっとと謝りに行きたまえ」
中庭に青い竜が降り立った。



 才人達は吸血鬼退治を終え帰って来た。地に降り立ったタバサは才人に頭を下げる。
「本当にありがとう」
「いいって、それより怪我大丈夫か?」
 彼はタバサの頭に手を置き、彼女は表情を変えず答える。
「平気」
「ちゃんとレバーとかほうれん草を食べて血を作れよ」
タバサは才人の妙な気遣いにもコクリと頷く。
「……さーて、どうなるかな……」
才人のテンションがやたらと高かったのも言ってしまえばシエスタとルイズの所為だろう。
「……まあ、もし殺されかけたらまたこっち来い」
「隊長……。いえ、もうそうなったら学院をしばらく離れます」
「ず、随分追い詰められてるね」
セラスの問に才人も頭を掻く。
「いえね、ぶっちゃけ俺ルイズと最近ですねえ、何か焼いてるみたいだし『これってフラグじゃね?』
とか思ってたんですけどねー。シエスタも脈ありかと……。ああ、あの頃の浮かれた俺ぶん殴りてえ!」
(あの子達ホント紙一重ですね……。)
(あいつら自分からフラグバッキバキにしたからな……。)
落ち込む才人をタバサが杖でつつく。
「何だよ?」
「アンデルセンは言っていた」
「何を?」
「例え人の世が見捨てても、主は愛して下さる」

才人はしばらく呆けた後、走りだし遠い空に向け叫ぶ。
「神様――! 俺頑張るよ――!」
「よし」
「「煽ってどうする!!」」
満足気に頷くタバサに二人の使い魔がハモリながらつっこんだ。



「あの……サイトさん」
才人の体がピタリと止まる。シエスタとルイズの姿を見とめ、ベルナドットの影に隠れる。
「……。」
才人は少しベルナドットの顔を見て考えた後、今度はセラスの後ろに隠れた。
「おい! 何だ!? 今の『これはちょっとな……』みたいな目は!?」
「……駄目そう」
「な!?」
「……だって隊長今回全く活躍してないじゃないですか」
友と主人と思い人にけなされ、ベルナドットは地面に崩れ落ちた。
「しょうがねえじゃん……。俺普通の子だもんよ……。」
「ドンマイ」
「タバサ嬢ちゃんの『駄目そう』が俺的には一番こたえたよ……」
「大丈夫っすよ隊長! 自動小銃さえあれば!」
「それって俺あれが無いと役立たずってことか?」
「ううん、控え目に言って……」
「よし! だったら辛口で言ってみようか!? セラス嬢ちゃん!!」

などという絶妙なやり取りを見てとった彼女らの間に危機感が芽生える。
(メイド……。あれは不味くない? 何か凄い息ピッタリなんだけど)
(っていうかミス・ヴァリエール。サイトさん完全に私達に怯えてますわ。
色恋沙汰以前の問題です)
(でも確かにあんなことしたしね……)
(早く謝りましょう!)
あまりの危機感にアイコンタクトで会話することまで習得した。
今の二人がバスケをすればスクリーンプレイも問題なくできるだろう。



「あ、あのですねサイトさん」
「はい! 何でしょう!?」
才人は地面に蹲りながらセラスの影に隠れる。犬を通り越してアルマジロを連想させる。
「あ、あの……。ご、ごめんなさい……。あんなことして……。」
シエスタの言葉に才人は呆けたように固まる。

才人はいたずらがばれた子どものようにおずおずと聞き返す。
「……。怒って無い?」
「へ?」
才人の言葉にこの場に居る皆が固まる。代表してギーシュが質問する。
「あのね。サイト。これは悪いのは彼女達だから、別に君に非は無いのだよ?」
この言葉に才人はポカンとして言う。
「え? 何? じゃあ別に電流流されたり斬られたりはしないの」
「うん、まあそうだね」
「じゃあ別にいいよ」
ギーシュは口を開けて呆ける。
「き、君は怒ってないのかね?」
「いや、まあ最初は怒ってたけど……別にもういいや」

才人はこっちに来てからというもの戦闘の巻き添いを喰らい、爆発を喰らい濁流を喰らい、
銃弾を銃剣を喰らい随分と理不尽な目にあったので(いちいち怒ってたら身が持たない)という結論に達していた。
無論、大抵のことはなあなあで済ませる彼の気質も関係している。

だがそれはギーシュの目からすれば聖人君子のものとしか思えない。
「君は何故そんなに心が広いんだね?」
「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格は無い」
「受け売りじゃねえか!」
才人は人差し指を立てそう答え、ギーシュが感嘆の声を上げ、隊長が突っ込む。
彼は恥ずかしげに頭を掻く。



「まあリアルに言うと、俺の親父が言ってたんだよ……。
『男が女のやることにいちいち本気で怒ってたらやってられない』ってさ」
ギーシュは尊敬の眼差しで見つめる。
「あ、だからルイズも気にしなくていいぞ。だが電流だけはやめろ! 本当に止めてくれ!」
ルイズは横を向いて何か口でもごもご言っている。
「電流に何かいやな思いででもあるのかい?」
才人は昔のことを語り出した。
「子どもの頃さ、母さんが『頭のよくなる装置』ってのを買って来た。頭につけるやつさ」
「ほうほう」
「それを使うと、電流が流れて来た」
乾いた笑いが漏れる。なかなかはっちゃけたお母さんである。
「小3の俺はその電流を喰らい続けたのさ。親父が帰って来る三十分の間。
『もうちょっと頑張って』なんて母さんに言われながらな。俺泣いてるのに」
沈黙。
「俺は親父に泣きついた。親父はそんな俺の肩を優しく叩いた」

「その時言われたのが、さっき言った言葉だよ」

皆泣いた。

「悲しい実証に基づいた言葉だったんだね」
ギーシュが涙ながらに言う。彼の両親の結婚生活が手に取るように分かる。
しかし才人は至って元気に言う。
「大丈夫! 俺には今凄えイカス神がいるから!」
目がアレだ。
「いいんだ。俺このままカトリックの神父になって孤児院で子ども達を育てて時たま吸血鬼を狩って、
俺の面倒を見た子ども達が大きくなるのを見届けて神の国に行く。
……いい人生だ」
自分で言っていれば世話は無い。
「うん、今適当に並べてみたけど思いのほかいいな……。という訳で勉強する! じゃあな!」



当面の命の危機を脱したので若干テンションが高い。もう見えなくなっている。
「ま、まあ何はともあれ許して貰えましたね。ミス・ヴァリエール?」
「え? ああ、そうね」
一息をつく二人の少女にタバサが訊ねる。
「いいの?」
「? 何がです?」

「カトリックの神父は生涯未婚」

「「へ?」」
などと聞き返すも確かにそうだ。ブリミル教の神官もそうだし、アンデルセンもそう。
「え? 何? じゃあ私達の恋敵って……神様ってことですか?」
タバサは無言で頷く。
「まあ、頑張って」
タバサの中では才人は異性の中では一番上でも恋愛感情は無い。
(それに、彼がそう選択するのなら、それでいい。)

「ま、不味いですよ! ミス・ヴァリエール!」
シエスタに体を揺すられてもルイズとしてはどうしようもない。
「……まあしょうがないわよ。そうなったら、それは私の決めることじゃないわ」
「そんな! 人に電流の流れる拘束具をつける貴女は何処へ行ったんです?」
「もうそれは忘れなさい! 私はやることがあるのよ!」
そう言い残しルイズは去って行った。シエスタはその場で悩む。
「そ、そうですわ! 神様よりも魅力的になればいいんです!」
今度はいい方向に向かったらしい。



ルイズは部屋で溜息をつき、本を見る。
トリステインの国宝、始祖の祈?書。
それをはたと眺め、溜息をつく。
姫の結婚式の巫女に選ばれたものの、詔など思いつかない。
こういうことで頼りになりそうな彼女の使い魔は、今はいない。

「なあ。ルイズ」
いきなり部屋に入られ声を掛けられ驚いて仰け反る。才人はポカンとしている。
「な! 何よ!」
「何怒ってんだよ……。神父は?」
「ア、アンデルセンはまだ帰って来て無いわよ」
「そっか……。色々聞きたいことがあったのにな……」
ふとサイトはルイズの持つそれに注目する。
「? 何だその本?」
「……始祖の祈?書。国宝よ」
「何でお前が国宝なんて持ってるんだ?」
ルイズは淡々と説明をし始めた。

「巫女? 凄えじゃん!」
手放しで褒めるサイトに何処か嬉しくなる。
しかし、次に出てくるのはどうしても負の感情だ。
「でも……私、全然詔も出来なくて……」
「詔? こう、新婦は気立ても良く……とか?」
「それ違くない?」
才人も頭を掻く。彼だってそんなことしたことが無い。
「まあ、でも、そんな大事なこと任されてるんだろ? 凄いじゃないか!」
彼の発破にも彼女は俯いたままだ。
「でも……。私魔法も使えない『ゼロ』なのに?」
才人はキョトンとする。
「何言ってんだ? 詔に魔法が出来ないも何もないだろう?」
それでもルイズは俯いたままだ。



才人は聞いたことがある。
ルイズは魔法が使えない為、学院ではいつも馬鹿にされていたと。
努力していることは皆知っている。
他の学業では成績優秀だ。
家柄だっていい。
ただ魔法ができないというだけでいつも馬鹿にされていた。
(自信……なくしちゃったんだな)
彼女のプライドの高さは彼もよく知っている。
それで不味いことになる場合も多々あるが、概ね好ましいことだ。
けれど、それに必要な自己を肯定する自信が、長年の罵倒ですっかり壊されてここまできてしまった。
それはアンデルセンだって心配するものである。
どうにか元気づけられないだろうか。
アンデルセン不在の今、というか彼女に対して何かと面倒見がいいキュルケも不在だ。
(じゃあコイツを元気づけられんの俺だけじゃん)
使命感に燃えてサイトは語り始める。
「あ、あのさあ、ルイズ。魔法ができなくても、お前勉強できるんだろ?
だったらいいじゃないか」
しかし、ルイズの顔は優れない。
「それに、お前貴族だろ? ってことはようするに政治家だろ?
だったら領地の経営とか、民衆の暮らしを良くするとかで頑張れば」
経済や政治の分野は魔法の力など大して必要ない。というか全くないのではないか。
「……確かにそうね。でも駄目なのよ。貴族は魔法が使えなきゃ……」
正直才人にとって魔法がどれだけ凄い技術とて、そこまで全てを決定するものとは思えない。
所詮個人の力である魔法で、例えば国民の生活を向上させたりなどできない。
それより上流階級に求められるのは政治力だと魔法のない世界から来た彼などは考えるのだが、
この少女にはそんな発想はでき無いのだろう。ならば。
「ほら、お前の失敗魔法って凄い威力だろ?それでワルドの偏在ぶっ飛ばしたし」
「でも」
効果無し。



(全く! 誰が魔法を使えるやつが偉くて使えないやつは何やっても屑だなんて決めたんだか! 
んなもんただ強いってだけじゃねえか)
などと会ったことも無い始祖に恨み事を言ってみる。

とにかくこの少女を元気づけようと思案する少年は発想を変えた。
『魔法が使えなくても大丈夫』ではなく、単純に『お前は凄い』と肯定する方向に。
彼女は頑張っている。ならばそれだけを評価してやればいい。

どうやって?

そこでふと彼女の使い魔に教えられた聖書の話を思い出す。
「あーっと。ある所にお金持ちの主人がいてな。主人は三人の下僕にそれぞれ
5000エキュー、2000エキュー、1000エキュー預けた」
ルイズは突然何やら言い始めた才人を呆けた目で見る。
「んで、5000エキュー貰った下僕と2000エキュー貰った下僕はそれぞれ
商売してお金を倍にした。1000エキュー貰った下僕は無くならないように金を土に埋めた」
ルイズは興味深げに頷いている。
「主人は帰って来て、下僕達に金を出させた。んで、前の二人は褒められたけど、
金を地面に埋めていた下僕は主人に怒られて追い出された。
主人は神、下僕は人間、金は俺達が持つ才能だ。」
ルイズは最後まで聞いて、首を傾げた。
「それで……。何が言いたいの?」
「つまり、お前は……。何て言うか……。才能を地面に埋めはしなかったんだろ?
一生懸命練習したり勉強したり……。今まで頑張って来たんだろ?」
才人のたどたどしい言葉にルイズは俯く。
「……でも、私魔法ができるようには……」
「だから……それでも他のことで頑張ったり……。とにかく何もしないで諦めたり
何もしなかったりはしなかったんだろ? だったら……お前は凄い奴だよ」



才人はふと遠い目をして言う。
「俺……。元の世界では学生やってたけどさ……。何もしなかったよ。
まあ、典型的なゆとり学生って奴で……。勉強も真面目にはしなかったし、
適当に……。そう、適当に生きてた。何時だって。パソコンばっかりやってたな」
「学生なのに?」
ルイズの突っ込みに刺さるものがある。
「うん……。だから、それに比べればお前なんか……大したもんだよ。
本当にそう思う」
ルイズは赤い顔を隠すようにそっぽを向く。照れ隠しに話題を変える。
「あ、あんただって、馬鹿みたいに訓練してるじゃない」
才人はしばらく考える。
「俺も……。頑張ってみようかなって……。俺、自分は普通の奴だって思って、何もしてなくて。
最初は憧れだった、でも今は……。俺のできることをしたいんだ。
ひょっとしたらさ、俺が、俺にしかできないことってあるかもしれないから」

ずっと世界は俺無しで回ると思ってた。
俺にできることなんて何も無いと思ってた。
けど。
何か分かんないけどここに来て。
あんな糞みたいな闘いをして、
それでも、救える命があった。
きっとそれは、俺にしかできないことだった。

「お前は、お前にしかできないことをやってるんだろ?
凄いことだよ。魔法が使えるとか、ただ強い奴なんて大勢いるけど。
姫様に詔を言うことができるのはお前だけだ。
だから、その仕事をやればいいんじゃないか?」



私にしかできないこと。
私の仕事。

「あのね……。サイト……」
才人ははっとして彼女の方を向く。
「ありがとう」
彼は一瞬ポカンとして、けれど笑顔になって。
「どういたしまして」
とだけ言った。
(そうしてれば可愛いのにな……)

 ルイズは出て行った才人を見送り、溜息をつく。そして体を突然バタバタさせた。
「な、何よ。あいつ。馬鹿じゃないの……」
そう言いながらも笑みが零れる。そこでふと気づく。
今まで、あんなに懸命になって元気づけようとしてくれたのは彼だけだ。
 何か温かいものが体に溢れて来る。そして思った。
「あ、あいつはああ言ってたけど、やっぱりちゃんと謝っておくべきよね。
貴族だもん」
 素直な気持ちで才人の後を追い、部屋を出た。

「お、タバサ。今から飯か?」
才人は廊下でバタリと会ったタバサの隣を歩く。今は昼中で、夕食まで時間があるため
厨房に貰いに行くのだろう。
「ちゃんと食わないとな。血抜いたし」
「あなたも……」
タバサの返答にキョトンとする。そして、自分も彼女と同じくらい失血したことを思い出す。
「そうだな……俺も行……」
言葉が途切れ、突然才人がタバサに寄りかかった。



 才人は再生者となって度々戦闘をしたものの、自分がどれ位のダメージでどれほど
行動に支障をきたすのか、未だ正確には正確に掴めていなかった。
そしてタバサに指摘された時、自身のダメージを初めて自覚し、己の意志に反してふらりと倒れた。
そこで隣のタバサにもたれかかってしまう。
タバサも小柄な外見ながら、何とか反応し、彼を支えることに成功する。
しかし、流石に力が足りず、たたらを踏んで、強かに壁にぶつかる。
衝撃で才人の意識が覚醒する。

気づくと、まるでサイトが壁にタバサを追い詰めている状態となった。
もしここでキュルケがいたら即座にファイアーボールだったろう。

「悪い……」
「……別にいい」
 彼女は驚いた表情であるものの、別に気にした様子は無い。
 才人はというと自分が何をしているかよく分かっていない。
 何とか再起動しようと試みる彼の視界が、彼女の視線が横を見ていることを捉えた。
 その方向に視線を移す。
「あ、ルイズ」
 三人の間の時がしばし止まる。
 先に動いたのはルイズだった。
 桃色の髪を靡かせ、少女が自身の部屋に戻る。
 数秒後、黒い棒状のものを持って出てくる。
 それが乗馬用の鞭と判断している間にルイズが近づく。

 才人は何が何だか分かっていなかったが、ルイズの表情が能面のようだったのを見て、
(ああ、俺は殺されるのか)
 とぼんやりと思った。
 鞭が才人にぶつかるその瞬間まで、彼女の表情は硬いままだった。



タバサが廊下に仰向けになっている才人の顔を覗く。
「大丈夫?」
 そう言っている瞬間も、才人の傷は治り続けているのだから流石だ。
「なあ、あいつ何なんだ? 俺が何したってんだ? Sなのか? ドSなのか?」
 天井を見上げる才人の脳には怒りが湧き起る。
かと思われたが、才人は自然な、心からの微笑みを浮かべる。
「まあ、あいつが元気になって良かったよ」
 才人はタバサに向き直る。何か悟っているようだ。
 タバサの薄い唇から、溜息が洩れる。
「ああ、まだちょっと床が気持ちいいから先行っててくれ」
 やはり相当効いたようだ。
「そう……」
「あ、ごめんな? 何か変なことして」
「別にいい」
 タバサはふらりと立ち上がる。
「それに」
 その後の言葉を、才人は聞こえなかった。
 彼女の歩みは、普段より少し速い。
「そんなに嫌じゃ無かった」
 その白雪のような肌は、仄かに赤みがさしていた。





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