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Persona 0-16


ペルソナ0 第十六話


 自分はなぜこんなことをしているのだろう?
 降りしきる雨にその体にいくつもの火傷と水疱を作りながら、雪風のタバサは夜の魔法学院を駆ける。
 ある時は魔法で、ある時はその未発達な己の足で地面を蹴って、タバサは狂える獅子竜に向けて突き進む。
 正確にはその足元の意地悪な従妹へと向かって。
 その事実が信じられずタバサはウインディ・アイシクルで目の前の炎の相殺しながら心の中で首をかしげた。
 自分にとってのイザベラは憎みこそすれどこうやって助けに入るような相手ではなかったはずだ。

「イーヴァルディ!」

 いやむしろ死ねばせいせいすると言った類の相手だったはずだ。
 なのに何故自分はこうして身を挺してイザベラを助けにいこうとしているのか?
 奇妙だ、実に奇妙だ。
 だが奇妙だと言うなら先ほどのイザベラの語りからして既に奇妙だった。
 第一……何故現実世界をシャドウがうろつき、ペルソナが力を発揮できるのか?
 わからない、何もかもおかしくなっている。
 そこまで考えて、タバサは余計な思索を頭から締め出した。
 今はただ一人でも多くの命を救い、目の前の化け物を打倒すことが先決。
 そう自分に言い訳して、疑問点の解消を先延ばしにした。
 ――その小さな違和感が、やがて自分を絶望させる花を咲かせるとも知らずに。

 タバサの言葉にその背後から蒼の乙女が駆け抜ける、氷の鎧が雪の結晶を舞い散らせ、長く長く尾をたなびく様は氷で出来た竜の翼。
 左手に構えた“二杖交差”の盾は守ろうと言う誓いに満ち、右手に構えた水晶の剣はあらゆる迷いを断ち切る決意で輝いている。
 鎧の下から覗く肘と膝の間接がマリオネットのようにいくつかに切り離され、宙を漂っているのは人より早く大人にならなければならなかったタバサの心の現れだろうか?
 身体には大きすぎる氷の鎧を纏った少女の騎士、それが炎に照らしだされた『イーヴァルディ』の全景だった。
 その表情は仮面に隠されて伺えない、いやそもそも存在するのかどうかすら分からない。
 氷で出来た蒼と白のぶかぶかな丸い兜は、蒼い瞳以外のすべてを完全に覆い隠している。
 その可憐な瞳に戦意を滾らせ、イーヴァルディは炎の竜に挑む。

「マハブフーラ!」

 最初に炎の雨を広範囲凍結魔法で相殺、道を確保すると同時に本体であるタバサを守る。

「コンセントレイト」

 僅かに出来た隙でタバサは精神を集中、炎の海のなかに出来た一瞬の間隙のなかをひた走る。
 対するは炎の竜、その足元に倒れた意地悪な従妹姫。
 走る、走る、ペルソナの魔法と系統魔法の二乗、さすがにこの一撃ならあの炎の竜とて止められると信じて。
 だが呪文を唱えるタバサを前に炎の竜は大きく息を吸い込んだ、そしておそらくこちらが踏み込むよりも炎の竜があたりに溶岩のブレスをまき散らすほうが早い。
 そうなれば自分自身への攻撃は相殺出来たとしても、竜の足元で気を失っているイザベラはおそらくひとたまりもないだろう。
 タバサの心は理由の分からない焦燥が駆け抜け、〈ウインディ・アイシクル〉の完成を待たずブフダインを解き放とうとしたその刹那。




「エア・ハンマー!」

 それは来た。
 塹壕から飛び出したギーシュよりも早く。
 身を挺してタバサを庇おうとしたキュルケよりも早く。
 真っ先に立ちあがったルイズや、炎の竜に特攻を仕掛けたタバサよりもさらに早く。
 黒い巨大なシャドウの体から突き出した剣から放たれたエア・ハンマーが炎を湛えたニズヘグの鼻先を強かに打ったのだ。
 竜の口の中で炎が滾る、その熱にニズヘグが苦しみ地面にその頭を叩きつけようとした瞬間の隙をタバサは見逃さなかった。
 渾身のフライでイザベラを救いあげ、すぐさま上空に向けて離脱する。
 地響きすら立てて暴れるニズヘグ、それに向かっていく足音一つ。
「これは、これはおい! どう言うことだ、これはどう言うことか説明しろ! なんでお前が、お前が……」
 慌てた声で喚き立てるのは、彼の手に握られたデルフリンガーだ。
「すまねぇ、全部俺が悪いんだ、全部……」
 声の主は悲痛な言葉と共に、シャドウのなかから現れた。
 その体に纏わりついたシャドウの残滓がまるで少年が闇に抱擁されているかのよう周囲の目に映る。
「だから、俺が終わらせないと」
 胸に金色のルーンを輝かせ、夜に濡れた身体を引きずりながら、平賀才人がそこにいた。


「サイ……ト……?」
 ルイズの心にいくつもの疑問が過る。
 あいつは今わたしの部屋のベットで寝ているのではなかったか?
 第一、あの姿は自分の記憶にあるサイト違う。
 少しだけ背が高くて、精悍で、そして体中が傷だらけだ。
 それにあの胸のルーンは……
 そこまで考えて、ルイズの耳に――いや心に直接言葉が響いてくる。

 ――頃合いでしょうか? さぁ、続きを見せてあげましょうトリステインの虚無の担い手よ。

 耳慣れない詠唱、しかしどこか懐かしい呪文。
 その詠唱は長く長くルイズの心の中に響き渡りやがて完成した。

 ――記録<リコード>!

 見知った少年の胸のルーンに対して使われた虚無の魔法によって、ルイズの意識はかつてと同じ、見たことのないはずの記憶へと落ちて行く。
 体中を弛緩し美しいその瞳が虚空を映す、過去へ過去へと引きずり込まれ続けるルイズの目の前で、少年は戦っていた。
 剣のみを手に竜に向かっていくその姿は、まさしく異世界の少女がイーヴァルディを重ねたものと同じものだった。





「ユビキタス・デル・ウィンデ!」
 その言葉と共にサイトがぶれるようにして五人に増えた、そのことになにより驚いたのは風のメイジであるタバサだ。
「風の偏在!?」
 それは風のスクウェアスペル、術者自身と全く同じ能力を持った分身を作り出す魔法だ。
 普通ならば存在そのものが稀有な風の四乗、だがタバサを何より驚かせたのは分身したサイトたちがそれぞれ別のスペルを唱えだしたからだ。
「なにこれ、知らない、私こんなの知らない……」
 それはハルケギニアの常識からすればあまりにも異常な光景だ、一人で四つの属性のスクウェアクラスの魔法を使うなんて常識からすればとても考えられないから。
 どこか見覚えのあるゴーレムの腕がニズヘグを殴りつける、波濤のごとく溢れた水がその体を蹂躙し、炎が地面を陥没させその巨体を地面へと封じ込める。
 そしてサイトの本体、唯一生身である彼が唱えたのは博識を誇るタバサですら聞いたことすらない詠唱で……
「エオルー・スール・フィル・ヤルンサクサ……」
 タバサの眼には目の前の少年がまるで奈落からやってきた化け物のように見える。
「エクスプロージョン!」
 世界を染める発光が夜を染め、ニズヘグを跡形もなく打ち砕く。

 光が収まった後、タバサはクレーターの奥を覗きこんだ。
「ひっ」
 はじめから破壊と殺傷を目的と放たれた虚無の魔法の効果はやはり惨々たるありさまで、いくつもの地獄を潜ってきたタバサですら思わず小さな悲鳴を上げてしまうほど。
 ニズヘグの完全な沈黙を確認し、サイトデルフリンガーを取り落としその場に膝をついた。
 荒い息を繰り返すサイトの胸で、使い魔のルーンが呼応するように明滅する。
 その胸から何かが聞こえてくるような気がするのは、はたしてタバサの気のせいだろうか?
「な、なんだいこの声は!?」
 否、気のせいなどではなかった。
 確かに聞こえてくるのだ、彼の胸から苦痛と怨嗟に満ちた数々の呼び声が。

 ――痛い、痛いよ、ここから出して。
 ――テファ、テファどこにいるんだい、テファ。
 ――俺は力を、ルイズ、苦しい、ルイズ。

 どん、とまるで突き破るようにサイトが自分の胸を叩く。
 増え続ける呼び声はまるで委縮したように小さく掠れていった。
「あなたは、いったいなに……?」
 タバサの問いに、サイトは苦しげに呟いた。

「平賀才人、虚無の使い魔の記すことすら憚れる最後の一人」
 自嘲気味に笑いサイトは言った。
「そして世界を滅ぼした男さ」
 サイトは空を見上げ、そこへと立ち上る黒い煙のようなナニカを見た。
 二つの月、双子に覆い隠されて一つの真月に映る月へと向かっていくそれは“塔”
 人の心の影、シャドウたちが身を寄せ集めて作り出した望郷と郷愁と憎悪の柱だ。
 ハルケギニアとは違う別の世界で、ある狂気の集団が作り出した“タルタロス”と呼ばれるものと本質的に近似のものだ。
「頼む、時間がないんだ。俺に力を貸してくれ……」
 それを見上げ、かつて自分を覆っていたシャドウとニズヘグの亡骸から立ち上るシャドウを見上げ――サイトは祈るようにしてタバサたちに言った。




 ――ルイズはその光景を見た。

「どうしてこんなことになったのか」
 一人の男が灰の大地の上に立っていた。
 何もかもが焼け落ちたそこはかつてガリアと呼ばれた国の跡、体中を煤まみれにして呆然と立ち尽くしているのはかつて無能王と呼ばれた男だった。
 そこにかつての威厳など見る影もない。
 まるでなにもかもが燃え尽きたような顔でジョゼフはなにもかもがなくなってしまったヴェルサルテイル宮殿の玉座の跡で空を見上げている。
 彼が嘆くのは世界が灰になったからではなく、灰になった世界を見ても自分は何も感じないことを知ってしまったから。
 まるで遊び相手を失い、家への帰り道も分からなくなってしまった子供のように途方に暮れることしかできない。
 そのジョゼフの前には世界を滅ぼした化け物が少女の亡骸を手に呆然と立ち尽くしている。

「る……い……ず」

 胸に明滅する黄金のルーン、先ほどまでおぞましい輝きを放っていたその使い魔のしるしは今は薄れて消えかかっている。
 最愛の主人の死、それによって彼は救われたのだ。
 だが救われた先には地獄しかなかったとは実に皮肉な話。
 一人の化け物と一人の王は何もない世界で途方に暮れる。
 そんな世界に一人の悪魔が舞い降りたのは時間がもはや夕刻に差し掛かろうと言う時のこと。

「やり直したいか?」

 千の貌を持つ悪魔は化け物に向かって囁く。
 僅かにたじろいだ様に、化け物が体を震わせる。

「もう一度、時間を巻き戻して最初から始めたくはないか?」

 その問いに虚無の悪魔〈サイト〉は。

「あ…い………だ……い…………」

 頷いてしまったのだ。
 苦しげな様子で悪魔は契約完了だ、と呟くと化け物の右手に焼印を押した。

「よかろう戻してやろう、ただし“心”だけな!」

 その言葉と共に化け物の体から“何か”が抜け落ちた。
 今まで明らかに意思を持っていた化け物が獣じみた仕草をするようになったあたり、それは言うなれば“魂”とでも言うべき存在か。
 獣は手の中の少女の亡骸を地面に下ろすと、まるで何かを探すようにその煌々と二つの光る眼をあちらこちらへと向ける。

「さて、次はお前に聞こうジョゼフ・ド・ガリア」
「なんだ、悪魔か死神かは知らぬが魂でも心で好きなように持って行くがいい」

 地を這う者どもの問答など知らぬげに、化け物は空に浮かぶ二つの月を見つける。
 それが重なろうと言う瞬間、大きく大きく空に向かって吠えた。

「いいのかな? お前はやり直したくはないのか?」

 何を、と問いかける必要はなかった。
 化け物の体から闇が空へ向かって駆けのぼる、その身に取り込んでいたいくつも怒り悲しみ憎悪、あらゆるものを影〈シャドウ〉として開放し化け物は月への梯子を作り出した。
 硝子のような月の表面に浮かぶのは、未だ何もかもがあの頃のままのハルケギニアだ。
 呆然とするジョゼフに向かって、悪魔は言った。

「健気だな、どうやら彼は主の魂を見つけたらしい。もっとも並行世界の存在だがね、ああなってしまえばもはや彼には関係ないのだろう」
「なんだこれは、いったい……」
「虚無の魔法上級の上〈時間門〉だろう、あの狂信者を食ったおかげで使えるようになったらしいな」
「あ、ああ、ああ……」

 ジョゼフはゆっくりと影の階段を上りだした、月に至る道程、そこ見出したのはハルケギニアを灰にした時と同じ闇色をした希望の塊。

「その道で辿れるのはせいぜいがお前の遊戯の初めまでだろう、求めるのなら、欲するのなら、足掻くことだ」

 走り始めたジョゼフの背中を見ながら死にかけの悪魔は笑う。
 やがて来る“虚無”を前に、ただ運命を嘲笑い続ける。



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