あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの氷竜-06


ゼロの氷竜 六話

窓から入り込む光に、一人の少女が目を覚ます。
燃えるような赤毛と紅玉のような瞳を持つ少女は、名前をキュルケという。
正式には、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
魔法学院が存在するトリステインの隣国、ゲルマニアからの留学生だ。
あくびをかみ殺しながら起き上がったキュルケは、傍らでこちらを見上げている自らの使い魔へと挨拶する。
「おはよう、フレイム」
火竜山脈に生息するというその火トカゲは、喉を鳴らしてうめき声のような挨拶を返した。
ベッドの上で猫のようにのびをしたキュルケは、窓から青空を眺めて着替え始める。
その豊かな胸は、隣室のルイズと比較すれば、まさに大人と子供のようだ。
寮の部屋が隣り合っていることと同じく、彼女たちの実家も隣り合っている。
トリステインとゲルマニアという二国の国境線を挟んで尚、隣り合っていると表現してよいのであれば。
生活圏内が近いこと、そしてそれを分かつものが国境であること、二つの条件が重なった場合、両者の関係が良好であることは極々稀だ。
国の境目とは、戦の痕跡に他ならない。
侵略する側と侵略される側に分かれ、時に立場を入れ替える。
幾人もの死者を出し、その亡骸を踏み越えた結果が国の境目だ。
だが、今現在トリステインとゲルマニアの関係は険悪なものではない。
それはゲルマニアの留学生を、トリステインが受け入れていることからも明白だ。
無論、交流があるとはいえ他国は他国。
水面下での綱引きをしていないわけがないし、長年矛を交えた間柄がそう簡単に怨讐を乗り越えられるはずもない。
過去を忘れられるものもいれば、忘れられぬものもいる。
しかしキュルケはそのどちらでもない。
何故ならキュルケが生まれてから今まで、トリステインとゲルマニアは表立っての争いを起こしたことがないからだ。
ただし、キュルケとルイズの関係が良好なものであるかといえば、二人の関係は険悪であると断言できる。
少なくとも、表面上のやり取りを見ている限りは。
一部の例外を除いて、貴族とメイジが同意であるこの世界で、公爵家という非常に立場の強い貴族の家柄に生まれながら、一切の魔法を使うことの出来ないルイズ。
その劣等感を、耳障りの良い言い方をするのであれば、非常に効率的に刺激するキュルケ。
一年もの間その関係が継続している二者を指して、仲の良い二人、と表現する人間はいないだろう。
ルイズに関していえば、表面的な対応とその心情は合致している。
だがキュルケに関していえば、表面的な対応とその心情は同一の方向性ではなかった。





人間が生活する場と限定した場合、ある情報が伝わる速度は他のあらゆる情報よりも速く伝播する。
醜聞だ。
その醜聞の主役が、他者に知られたくないと思うことであればあるほど、それが広まる速度は上がる。
キュルケがトリステイン魔法学院の入学の際、初めてルイズを見たとき、キュルケはルイズの噂を知っていた。
それはもちろん醜聞であったが、キュルケは自らその類の噂話を集めていたわけではない。
元々、同時期に入学した生徒の大半が知っていた話だ。
噂だけで人を判断する愚かさを、キュルケは知っていた。
だからこそ、ルイズには多少の興味を持っていた。
噂では人となりは理解できない。
同学年生の初顔合わせ、自己紹介の中でルイズは魔法を使えないことを公表した。
メイジ以外の人間でも貴族になれるゲルマニアと違い、貴族絶対主義といえるトリステインの大貴族出身者が、そのトリステインの地で自らがメイジではないことを宣言する。
室内がざわつく中で、ルイズはさらに言う。
だが、自分はいずれ魔法を使えるようになる。
そのための努力は惜しまない、と。
キュルケはそこにルイズの強い誇りを見出した。
教室中から注がれる視線にも、全く表情を変えずに端座している。
そのとき唯一視線を動かしたのは、キュルケが隣り合う国の隣り合う地からきた留学生だと言ったときだけだった。
それからしばらくの間、キュルケとルイズの間で言葉や視線が交わされることはない。
ルイズは宣言の通り、努力を惜しまなかった。
入学してから三ヶ月ほどは、魔法理論をはじめとする座学のみの授業が続く。
ルイズはそこで驚くほどの優秀さを見せ、入学時の宣言で少し斜に構えていた同級生たちを驚かせる。
そのままの優秀さが発揮されていれば、ルイズはゼロと呼ばれることはなかっただろう。
しかし四ヶ月目に入り、授業に実技が加わったときから、ルイズの転落は始まる。
杖を構え、ルーンを唱え、杖を振る。
魔法を使うための一連の動作に加わる結果は、ルイズだけ常に変わらない。
レビテーションでも、ロックでも、フライでも、コモンといわれるもっとも単純な魔法。
メイジとして生まれついていれば使えないはずのない魔法。
その全てにおいて、ルイズは爆発という結果しか得られなかった。
実技が開始されて二週間ほど経った後、ルイズにゼロの二つ名が冠せられるようになる。
誰ともなく囁かれるゼロという単語に、流石のルイズも肩を落とすようになった。
だが隣室にすむキュルケは、ルイズの努力を知っている。
キュルケよりも先に明かりが消されることはなく、ともすればキュルケが起きたときから本をめくる音が聞こえた。
夜中にどこかへ出かけるという友人のタバサも、明け方に机へ向かうルイズの姿を何度も見かけたと言っていた。
ゼロという言葉は、ルイズの輝きを奪おうとしている。
一月前に比べ、わずかに落ちたルイズの肩。
キュルケの口が、艶然と持ち上げられた。
……微熱が、火をつけてあげる。





「ルイズ」
と不躾にファーストネームを呼ぶ。
「何かしら、ミス・ツェルプストー」
礼儀正しく、だがわずかの棘を含んで、返事があった。
「先日発表された成績の順位では一位だったわね。おめでとう、ルイズ」
「ありがとう、ミス・ツェルプストー」
礼を口にしてはいるが、その表情は硬いままだ。
「でもあれには実技が含まれていないわね。ルイズ」
ルイズの肩が、わずかに動いた。
キュルケが視線をわずかに変える。
それは見下ろす角度。
見上げるルイズの眉根に、皺が刻まれる。
「何が言いたいのかしら、ミス・ツェルプストー」
「いいえ、別に何でもないわ。ルイズ」
ことさらに名前を呼ぶ。
ルイズはキュルケの真似をしているだけだ。
だがキュルケは意図を持ってそれをしている。
「ただ、またゼロなのかしらと思っただけよ。ルイズ」
キュルケの視線の先、ルイズの瞳に火がともされた。
それは怒りの炎。
「わざわざ他人の心配をするなんて、随分と余裕があるのね。ミス・ツェルプストー」
「仕方ないでしょう。ルイズ。だって私の魔法は爆発しないもの」
炎が、燃え上がる。
しかしルイズの口元が笑みを形作る。
「毎晩のように盛っているぐらい余裕ですものね。ミス・ツェルプストー」
思わぬ角度からの反撃に、キュルケがはたとまばたきをした。
それでもその余裕は崩れない。
「まぁあなたにはその相手もいないしね。ルイズ」
その一言に、ルイズの炎は頬へと燃え移った。
「関係ないでしょう! この色ぼけ女!!」
まず誉めて、そして貶して、突き落とし、その様をあざ笑う。
ある種基本的とも言える挑発の手法だ。
ことさらに名前を強調するのも効果的で、ルイズは見事にキュルケの術中にはまった。
罵り合い、というには片方の表情が余裕に過ぎるが、その応酬は教師が教室へ入るまで続く。
授業が始まり、ルイズはキュルケへ憎々しげな視線を送りながらも、授業へと集中する。
もう、肩は落ちていない。
その様子を見ながら、キュルケはどこか暖かい視線を送っていた。
不意に、隣の席から小さく短い言葉が投げつけられる。
「心配性」
空色の髪を持つ少女、キュルケが唯一同格の友人とするタバサの言葉に、キュルケは微笑みを返す。
タバサもまた、わずかに、ほんのわずかに口の端を持ち上げた。





ルイズとキュルケの喧嘩が日常になり、ルイズがキュルケをミス・ツェルプストーと呼ばなくなって数ヶ月後、使い魔召喚の儀式が行われる。
開始早々、風竜を呼び出した友人に触発され、気合いを込めて杖を振るう。
召喚の鏡から出てきたのは、微熱に相応しいサラマンダーだった。
風竜に比べれば流石に格は下がるが、キュルケを満足させるには十分だ。
契約の口づけを済ませ、フレイムと名付けたあと、キュルケの視線はルイズを探そうとする。
とはいえ、あえて探すと言うほどのこともない。
いつもの音がする方向へ、目を向ければいいだけのことだ。
だが、キュルケは視線の先で何が起こっているか認識した瞬間、強制的に思考を停止させられる。
その光景が、あまりにも衝撃的だったからだ。
ルイズが爆発の影響を考えて距離をとっていたため、鏡から突き出た足の全景を確認するのに全く苦労はなかった。
にもかかわらず、足から体全体の大きさを想像することもできない。
ルイズの様子を観察することも、タバサと目を合わせることもできない。
そして鏡が割れた後にあらわになる巨躯、契約の前に言葉を話すことで韻竜と判明したこと、キュルケはそれぞれにげんのうで強かに打たれたような衝撃を受けた。
当然のことではある。
韻竜はすでに絶滅したと一部で伝えられ、何よりもあれほど巨大な竜は見たことも聞いたこともない。
それを、あのルイズが召喚した。
その衝撃は軽い物ではない。
だが一方で、ルイズの努力に見合っただけの使い魔ではないのか、という奇妙な得心も存在した。
……ルイズは私の祝福を素直に受けてくれるだろうか。
ひな鳥の旅立ちを見送るような寂寥を感じ、キュルケはどう声をかけようかと考えていた。
心のどこかで叶わぬ夢と知りながら、キュルケは巨大な韻竜との契約を済ませたルイズへと歩み出そうとする。
「ミスタ・コルベール!!」
その歩みを止めたのはオールド・オスマン。
そして祝福をさせなかったのはミスタ・コルベールだった。
「みなさん、それでは学院へ戻ります。使い魔とはぐれないように気をつけてください」
ルイズへと近づくオールド・オスマンを眺め、キュルケは漠然とした不安を感じつつも、フレイムを抱き学院へと飛び去る。
学院へ戻り、夕食を取り、それでもなおルイズは寮へは戻らない。
同時刻、黒髪のメイドがしていたように、キュルケもまたルイズを心配していた。
しかし主を心配するフレイムの様子に、キュルケは憂いを消し去る。
そう、契約はすでになされていたのだ。
それらを独り言のようにフレイムに聞かせ、キュルケは服を着替えてベッドにその身を横たえる。
ルイズへの祝福の言葉を考えながら。





隣り合った二つの扉が、ほぼ同時に開いた。
まず扉から出てきたのは、二人の少女。
キュルケはルイズの姿を見つけて微笑み、ルイズはキュルケの顔を見るならその表情をゆがめる。
二人が顔を合わせるたびに繰り返す、儀式のようなものだ。
だがルイズは気付かない。
キュルケの微笑みが普段と違うことに。
その笑顔の裏にあるのは純粋な好意だ。
もしキュルケが素直に今までのことを謝罪するような性格であれば、二人はその場で友人になることができただろう。
実際の結果はそこまで幸せな結末にはならなかったが。
口火を切ったのはキュルケだった。
「おはよう、ルイズ」
「……おはよう、キュルケ」
「昨日はすごい使い魔を呼び出したのね。ブラムドって言ったっけ?」
そこまでキュルケが口に出した瞬間、ルイズの部屋から銀髪の女性が姿を見せる。
予期せぬ人物に、キュルケの言葉が止められる。
ルイズに視線を投げるも、紹介しようという気配は見られなかった。
であれば、挨拶をするのが貴族の礼儀だ。
「初めまして、私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。親しい者はキュルケと呼びますわ。よろしければミス、お名前を教えてくださいますか?」
挨拶をしながら、キュルケの視線は頭の先から下方へと動いていく。
……銀の髪。こんな髪の人は見たことがない。
……青い瞳。どこかで見かけたような気もする。
……身に付けているローブは見たことがある。でも着ていたのはこの人じゃない。
……胸は、勝ったわね。
わずかに微笑んだキュルケに、銀髪の女性が挨拶を返す。
「丁寧な挨拶いたみいる。ここの貴族たちは随分と長い名前を持つ者なのだな。我が名はブラムド。まだ親しいとは言えんが、我はお前をキュルケと呼ぼう」
「こんな女に挨拶することはないわ」
ブラムドの挨拶に続くように、ルイズが吐き捨てるように呟く。
しかし、その言葉に反応したのはキュルケではなかった。
「ルイズ、礼には礼を以て返すのが当然ではないか」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
そんなブラムドとルイズのやりとりを、キュルケは聞いていなかった。
「……ブラムド? 昨日の?」
思わず指差しながらいうキュルケに、ルイズは小さくため息をつきながら口を開く。
「朝食の時に、オールド・オスマンが説明してくれるわ」
そう言い捨て、ルイズは食堂へと向かう。
「ま、待ちなさいよ」
言いながら急いで追いかけようとしたキュルケに、ルイズがその背後を指差しながら言った。
「使い魔が遅れてるわよ」
ルイズの言葉に振り向いたキュルケは、ゆっくりと歩み寄るフレイムの姿を確かめる。
大分背の高さが違う二人のメイジだったが、流石に四つ足で歩くフレイムとは比べものにならない。
ルイズを追いかけるためにフレイムを抱きかかえようとしたキュルケだったが、狭い寮内でフライを使うわけにもいかず、食堂へと向かうルイズとブラムドの後ろ姿を見送る他はなかった。


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