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ルイズが世界を征服するようです-03




「じゃあ、行ってくるよ」
「……今からでも、考え直すつもりは無いの?」
「無いね。キュルケ、君だってわかってるだろう?
あの主従を同時に敵に回してしまっては、倒すのはまず無理。
どちらかを先に叩く必要があるんだ。なら、潰しやすい方からやるだけさ」

 トリステイン王城前。ローブに身を隠した2人が、細々と言葉を交わす。

「……ギーシュ。あんたのこと、嫌いじゃなかったわよ」
「おいおい、これで永遠の別れってわけじゃないんだ。縁起でもないことは言わないでくれたまえ。
ああでも、これを渡しておこう。モンモランシーに、頼む」

 ギーシュは懐を漁り、封筒を取り出した。表に書かれたあて先は、
『永遠の愛を誓って モンモランシーへ』。

「……ごめんよ。自分で渡しなさい」
「はは。いや、そう言わずに。頼むよ」

 無理やり手紙を押し付けられてしまう。
 軽薄そうな態度を装いながら、ギーシュの瞳は酷く真剣だった。
 ……ふと、元帥にまで上り詰める程に優秀な軍人であったという、ギーシュの父を思った。
 獅子の息子は、やはり獅子だったか。

「じゃあね、キュルケ。僕も、君のことが好きだったよ」

 背を向けながら手を振り、裏通用口の門番へ話しかけるギーシュ。
 既に、ルイズの所へ辿り着くための話はつけていた。頷きと共に、門番はそのまま彼を通す。
 ギーシュは、振り返らなかった。

「キュルケさん。どうですか?」

 背後からかけられた声に振り返ると、同じようにローブ姿の3人。

「……行ったわ。打ち合わせ通り、15分後。突入するわよ」



そして、15分後。

「こちらです!」

 城内を案内する近衛兵と共に、4人は走る。
 強気を装うキュルケの胸中は、不安で押し潰されそうだった。
 ――もし、そこの角を曲がった先に、ギーシュの屍が転がっていたら。
 ――もし、階段を上りきったそこで、ルイズと使い魔が笑っていたら。
 不安を振り飛ばすように、キュルケは走る速度を上げる。

「あと、もう2つ階段を上がれば――がっ!」

 一際広い廊下に辿り着いた、次の瞬間。
 先頭を走っていた近衛兵が、奇妙な声と共に立ち止まった。

「伏せ!」

 背中を走る悪寒と同時に、キュルケは体を床に投げ出す。
 他の3人も、キュルケの言葉に即刻反応していた。
 4人が床に転がったその上を、質量を持った猛烈な風が通過する。
 風の鉄槌を受けた近衛兵が、背後へと吹き飛んでいった。
その胸には、幾つかの氷塊が突き刺さっている。もう息はあるまい。

「ちっ……!」

 立ち上がって体勢を整えながら、キュルケは舌打ち。
 廊下の中心に目を向ける。そこに、

「ここから先は、行かせない」

 かつての親友が、立ちふさがっていた。



――ルイズが世界を征服するようです――



 数人の近衛兵と共に、タバサが攻撃を開始した。
 背の丈3メイル程の石ゴーレムが突撃し、更に雷と炎が渦を巻いてキュルケ達に襲い掛かる。

「サイト!」

 キュルケの言葉と同時に、2本の剣を構えた少年が迎撃。
 左手の大剣で魔法をまとめて吸収、右手の聖剣を振りかざして風の刃を叩きつける。
 対するゴーレムは腕を広げて刃を受け止め、背後の主達を守った。

「シエスタ! 下がってなさい! ティファ! サイトの援護!
私はあいつをやる!」

 戦闘に関する打ち合わせは、既に済ませていた。瞬時に役割分担が成される。
 ティファニアは『虚無』を発動させるべく詠唱をはじめ、サイトはゴーレムの腕を潜り抜けて兵達へと迫る。

「舐めるな、ガキが――!」

 近衛兵達も腰から杖剣を抜き、サイトを迎え撃つ。
 国の中枢の防衛を任せられた精鋭たちである。
 数人が連携すれば、その力、決してガンダールヴに劣るものではない。

「『ディスペル』!」

 剣が打ち合わされる甲高い音が響くと同時に、ティファニアの魔法は完成していた。
 ゴーレムの体を維持していた魔法が消滅し、瓦礫となって崩れていく。


「――――」
「――――」

 ゴーレムが崩れる轟音、剣戟の音が響く中。
 2人のメイジは、無言で向き合っていた。
 言葉は要らない。
 別れは既に、あの時に済ませてある。
 ここに居るのは、かつての友などではなく――敵だ。


「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ――」
「ウル・カーノ・ジエーラ――」

 先にタバサの『ウェンディ・アイシクル』が完成。
 数十の氷の矢が、キュルケに殺到する。

「邪魔!」

 『ファイヤー・ウォール』で迎撃。
 氷の矢は溶け、炎と水が音を立てて水蒸気を作る。
 視界を遮る霧の向こうへ、キュルケは続けて『フレイム・ウェーブ』を放った。
 炎3つを組み合わせた、トランアングルスペル。波打つ炎の奔流がなだれ込み、風を呼んで霧を払う。
 しかしその先に、タバサの姿は無い。

「しまっ――!」


 ……確かにキュルケは優秀なメイジだ。あの年齢でトライアングルに達するなど、並みの才能と努力では達成出来ない。
 決別から一年近く。魔法の腕も更に上がっているようだ。
 が、しかし。それでも、自分には勝てないとタバサは思う。
 戦いに必要なのは、魔法の腕などではない。
 それを用いて、いかに殺すか――それこそが、戦闘の勝敗を分けるものに他ならない。
 その技術においては、キュルケは自分に遠く及ばないと、タバサは確信していた。

「…………」

 そもそも、タバサの戦闘スタイルは正面で魔法を打ち合うものではない。
 その小さな体躯を逆に生かし、影から致命的な一撃を加える暗殺者のものである。
 足音を『サイレント』で消し、風で移動を補助しての高速移動。
 瞬時にキュルケの背後へと音も無く移動、腰のナイフを抜く。
 狙うは肝臓。守るものも無い、人体における致命的急所の一つ。
 ――殺った。


「っ!」

 しかしその確信は、驚愕と共に覆された。
 有り得無い速度でタバサに反応するキュルケ。
 視界の端にタバサを捉えるや、体を捻り――

「舐めるなっ!」

 豪快な回し蹴りで、タバサを逆に吹き飛ばす!

「ぐっ!」

 武器であった筈の軽い体は、劣勢になれば途端に致命的な弱点となる。
 咄嗟に両腕でガードしたものの、衝撃は大きい。手からナイフがこぼれ、床に落ちた。
 頭を混乱が支配する。決して反応できないタイミングと速度だった筈が、何故?
 一瞬の迷い。そこを、キュルケは容赦無く突く。
 神速の踏み込み。詰められた間合いに焦り、タバサは咄嗟に右腕の杖を突き出すが、かわされる。
 その右腕を、キュルケは左手で掴む。捕まえた。
 そのまま更に踏み込み。勢いと共に、右腕の肘をタバサの鳩尾に叩き込む。

「がっ!」

 衝撃を逃がすことすら出来ず、息を漏らすタバサ。
 暴風のごとき連撃はまだ終わらない。脇腹に左膝をぶちかまし、崩れかけるタバサの顔面にまた右の肘。
 ここでようやくタバサの右腕を解放、空いた左で更に顔面を殴りつける。
 床に崩れ落ちたタバサを右足で蹴り上げ、続けてバックステップ。右手の杖を構える。
 キュルケが選んだ魔法は得意中の得意、『フレイム・ボール』。
 巨大な炎の玉が瞬時に練り上げられ、床に這い蹲るタバサへと襲い掛かる。
 ――勝った。
 立場を逆転した勝利の確信はしかし、またも覆された。

「『バギマ』……!」


 死に物狂いで搾り出された風の刃が炎球を迎撃。爆発と共に相殺する。
 言葉一つで成立する異世界の魔法が、本来不可能なタイミングでの反撃を可能にしたのだ。

「ちっ……」

 爆煙に包まれながら、千載一遇の好機を逃したことに舌を打つキュルケ。
 一方、タバサは荒い息を何とか整えつつ、必死で頭を巡らせていた。
 ――魔法の使用を許さない程の、超近接距離における戦闘術をキュルケは身につけていた。
 確かに効果的だが――しかしそれだけならば、幾らでも対処の方法はある。
 問題は、あの有り得無い速度だ。
 風のメイジである自分を、炎のキュルケが速度で上回るなど、常識では考えられない。
 補助の魔法を使っている様子も無いのに、一体どのようにして?

「く……」

 煙が徐々に薄くなっていく。
 タバサは軋む体に鞭打ち、立ち上がった。
 体の状態を確認。――あばら骨を何本か、持っていかれたか。
 しかし、この程度ならば問題無い。

「『ベホイミ』」

 癒しの力が、体を包み込む。
 体力を回復させることは出来ないが、傷を塞げれば十分だ。
 やがて煙幕は晴れ、キュルケが再び姿を見せる。


「……ふぅん。あんたも、あの使い魔の力を手に入れたってわけ」
「……あなたも。随分と、変な力を身に付けた」
「はん。あんた程じゃないわ」

 そう嘯くキュルケの右腕には――流星の装飾が施された、美しい腕輪が嵌められている。

「――さて。悪いけど、通してもらうわ」
「そうは、させない」

 彼女――ルイズ達に報いるためにも、ここを通すわけにはいかない。
 ……確かに、彼女は邪悪だった。どうしようも無く悪だった。
 だが。彼女達のおかげで、母は救われたのだ。
 思い出す。母がこちらを見て、名前を呼んでくれた瞬間。
 あの瞬間の喜びは、言葉に表せるようなものではない。
 今まで、誰もその喜びを与えてはくれなかった。誰も、母を救ってはくれなかった。
 悪こそが、母を救ってくれた。ならば、どんな悪だろうとも構いはしない。
 ――神など、糞でも喰らっていろ。

「『ピオリム』」

 速度を上げる補助呪文を使用。
 相手が自分よりも速いのならば、自分が更に速くなるまでのこと。
 速さで勝れば、あのような近接格闘術など恐るるに足りない。
 深呼吸。目の前の敵を、睨みつける。

「――――!」
「――――!」

 双方の声にならない叫びが、戦闘再開の狼煙を上げた。



 そうして。
 舞台は、アルビオンの草原へと移る。

「…………」

 サイト達一行は、言葉を失っていた。
 深紫に染められた巨大な体躯。広げられる翼。
 地を踏みしめる脚はそれだけで人体よりも太く、牙が並ぶ口からは呼吸と共に炎が漏れる。
 怒りの咆哮と共に、周囲の空気が振動して肌を叩く。
 ――圧倒的な力が、そこに存在していた。

「竜……王……!」

 ティファニアは震えと共に、この存在の名の由来を思い知る。
 あの亜人の姿こそが、全力だと思っていた。
 十分に勝算は存在すると、そう思っていた。
 しかし――これでは。

「……まずい」

 竜が首を掲げる。口腔から、抑えきれない炎の端が覗いていた。
 4人は即座に陣形を組み、攻撃に備える。
 サイトは2本の剣を掲げ、キュルケは詠唱を開始。
 ティファニアは懐から、宝玉の取り付けられた杖を取り出した。
 シエスタは何かを祈るように手を組み、俯いている。

「みなさん……凌いで!」

 ティファニアの祈るような言葉と共に――業火が、パーティ目掛けて繰り出される。
 相殺しようとロトの剣から繰り出された風の刃、キュルケの魔法『フレイム・ウェーブ』。
 その2つを瞬時に飲み込み、凌駕して、炎は4人を襲う!

「あ……ああああああああああ!」
「くっ……!」


 ――やがて。炎の奔流は途切れた。
 草原は広範囲に渡って焼き尽くされ、火は更に広がり続けている。
 その中心で、一行は何とか持ちこたえつつも……全滅寸前の状態にあった。

「けんじ……いしよ……!」

 まともに声も出せないティファニアが何とか杖を掲げると、癒しの力がパーティを包む。
 しかし、それを大人しく待つような敵ではない。
 竜の巨大な腕が振り下ろされる。
 その一撃は、例えるならば鉄槌。
 巨大な質量で、容赦無く対象を叩き潰さんとする絶対の一撃。
 人間では、決して生み出せない威力のものだ。

「おおおおおおおおおおお!」

 殆ど癒えていない体の力を振り絞り、叫びと共にサイトが迎撃。左手のルーンが、輝く。
 剣と巨腕が激突し、――サイトは、十数メイルを吹き飛ばされる。
 そのまま、動かなくなった。

「く……」

 キュルケは唇を噛み締める。
 本来の予定ならば、近接戦闘ではこちらに分がある筈だった。
 敵の魔法もサイトと自分が相殺することができ、仮に傷を受けてもティファニアが居れば問題は無い。
 ……その筈が……!
 敵が再び頭を掲げる。また、あの炎が来る。
 先ほどと違い、サイトが居ない。こちらはもう満身創痍。
 湧き上がる絶望を必死で押し込めながら、キュルケは詠唱を始める。
 ――それでも。奴らに、屈するわけにはいかない。
 煉獄のごとき炎が放たれる。魔法で迎え撃つが、呆気なく飲み込まれた。
 視界を埋め尽くす劫火を前に、キュルケは覚悟を決め、目を閉じる。
 全滅、か――。


「『フバーハ』!」

 ……肌を焼く熱は、確かに強力ではあったが――覚悟していたものとはほど遠かった。
 疑問に、キュルケは目を開く。
 まず目に入ってきたのは、自分の体を包み込む薄い光の膜だった。
 決して瞳を刺すことの無い、穏やかな、暖かい光。
 視界を移せば、ティファニアや倒れているサイトにもその光は宿っている。
 そして――やはり光に身を包むシエスタが、微笑んでいた。

「すみません。不慣れなもので、詠唱に時間がかかりました。
ティファさん、回復を頼みます」

 ティファニアが慌てて再び杖をかざす。
 火傷は癒えていき、視界の端にサイトが起き上がるのが見えた。

「これで炎への耐性がつきました。回復を怠らなければ問題はありません。
あとはあの打撃対策ですが――『スカラ』」
「うぉ?」

 こちらに駆け寄ってきたサイトが、驚きの声を上げる。

「なんか、力が……」
「キュルケさんにも、『スカラ』。……これで、打撃への耐性がつきます。
それでもあの攻撃は脅威ですが、何とか持ちこたえて下さい。ティファさん、援護を頼みます。
私はまた魔法の詠唱に入りますので、――2分。
2分間、私に時間を下さい」

 キュルケは目を見張った。
 シエスタの半分以上焼き切れたローブの下、何かが輝きを放っている。
 首から下げられた、半円のペンダント。
 それはこの戦いに赴く前、この腕輪と、ティファニアが持つ石と共に
廃墟となったタルブから見つけた物だった。

『……おじいちゃんが、遺してくれたものです。
これは本来の三分の一でしかない、らしいですけど……』

 そう笑って、彼女はそれを自分の首にかけたのだ。
 ……そのペンダントが、この窮地にあって光を放っていた。
 キュルケはシエスタを見つめる。シエスタの黒い瞳は、この窮地にあっても尚輝きを失っていなかった。
 ああ、そうか。
 これが、この瞳とペンダントの輝きこそが、彼らが恐れる唯一の――。

「……了解。サイト、私と一緒に前衛。遠慮なく攻めるわよ。
ティファ、回復を。隙があったら、大爆発を叩き込んでやりなさい」

 2分間。
 迎え撃つ相手を考えれば、永遠よりも尚長い時間ではあったが、キュルケは提案を受け入れた。
 竜に向き合う一行。
 ペンダントの光に対し、怯むような素振りを見せていた竜が再び咆える。

「仕切り直しね。いくわよ」

 戦いが、再開された。


 ――それは、まさしく。幾多の英雄譚に謳われる戦い、その再現だった。
 圧倒的な力を持つ竜。
 軽減できると言っても炎の威力は尚凄まじく、腕や尾から繰り出される一撃は必殺。
 対する者達は、力の方向を逸らし受け流すのにすらも、全身全霊の力を振り絞る必要があった。
 正面から相対すれば、即刻死が訪れる。それほどの戦力差。
 また、癒しの力も万能ではなく、失われた体力を取り戻すことは出来ない。
 時間の経過と共に、確実に追い込まれていく。
 防御に専念してすらその有様、増してや打倒するなど――奇跡を幾度起こせば足りるのか。
 しかし。
 太古の英雄達はそれでも諦めず、全身から血を流しながらも、歯を食いしばって立ち上がり、
好機をただ待ち続け――そして、巨人や竜などの圧倒的強者を滅ぼしたのだ。


 紫竜が再度、高く吼える。
 そして、その口から青く凍てつく、力の波動を繰り出した。

「な……!」
「光が!」

 その波動は、傷を与えることこそ無かったが――
一行にかけられた補助魔法、『フバーハ』と『スカラ』。その2つを打ち消していた。
 まずい、と歯噛みする間も無く、キュルケは絶望そのものの光景を目にする。
 竜が、またもあの炎を繰り出そうと構えていた。
 必死に頭を巡らせる。今あれをまともに喰らえば、パーティは確実に全滅するだろう。
 それだけは、何としても避けなければならない。
 ……ならば……!

「サイト! 先に叩くわよ!」

 言葉と共に、竜へと全力で突進する。
 振り下ろされる腕をかわし、振り回される尾の下を潜り抜け、竜にたどり着いた。
 体の凹凸を足場に、1度、2度と跳躍を繰り返す。
 最後に、一際強く肩をけりあげ――

「だ、あああああああああああああああああああああ!」

 空中から、竜の横っ面を渾身の力で殴りつけ、

「おおおおおおおおおおっ!」

 更に反対側から、サイトが両腕の剣、そして風の刃で3連撃を叩き込む!

「――――――!」


 轟音。
 発射口を叩かれ、行き場を無くした炎が口腔内で爆発したのだ。
 自らの炎で身を内部から焼かれ、一歩後退する竜。
 まさに、絶好の好機。
 いかなる奇跡か、まさしくその瞬間に詠唱を終えたシエスタが叫んだ。

「いきます! 離れて!」

 着地と共に、サイトとキュルケが竜から飛び退く。
 シエスタはそれを確認、練りに練りこんだその力を解放する――!

「『ギガ』――――」

 それは、勇者のみが扱える最強の呪文。
 空を引き裂き、天空からの一撃を叩き落す神の鉄鎚!

「――『デイン』――!」

 幾条もの白い稲妻が、竜に殺到。
 全身を、凄まじい威力で焼き尽くす!
 その一撃、たとえ竜族の王であろうと耐えられるものではない――!

「――――!」

 声にならない絶叫を上げる竜。
 これを逃してはもう終わり、全力で畳み掛ける!

「『エクスプロージョン』!」

 ティファニアの一撃。
 不得意な魔法でありながら、それでもありったけの精神力を叩き込んだ大爆発が竜を包む。

「おおおおおおおおおっ!」

 サイトの一撃。
 防御用の大剣を捨て、聖剣を全力で頭部に叩き込む!


「サイト、離れなさい! これで終わりよ。……『爆熱』――!」

 そして、キュルケの一撃。
 禿頭の師より授けられ、更に改良した彼女最強の禁呪。
 空気中の水蒸気を錬金、空気と攪拌して点火。
 凄まじい衝撃波と共に、数千度に達する超高熱の大爆発を引き起こす。
 これだけでも既に十二分に強力だが、この魔法が特殊なのは、ここからだ。
 まず、爆発の保持時間が長い。爆風が従来の魔法よりも長く維持されるため、
相手はその間焼かれ続け、爆風に晒され続けることとなる。
 更に、第2段階。
 周囲の酸素を急激に消費した結果発生するのが、急激な気圧の変化。
 人間ならば内臓破裂を引き起こす程のものであり、その威力は至近距離においては凄まじいレベルに達する。
 また、空気中の酸素バランスが崩れることにより、いくら呼吸しても酸素が取り込めないという状況を作り出し、
加えて酸素不足の状態で燃焼するため大量の一酸化炭素が発生、中毒を引き起こす。

 ……限定された空間内だけにこれらの効果を発生させるのは極めて困難であり、
また、余りに過ぎる破壊力のため、師より使用を禁じられた大魔法だ。

「どう、だ……!」

 文字通り、全ての力を注ぎ込んだ連続攻撃。
 体力も精神力も、徹底的に使い果たした。
 これで、倒せないようならば――終わりだ。 

 竜はその全身を焼かれ、立ち尽くし――
轟音と共に、その身を地に横たえた。

「…………」
「…………」
「……やっ……たのか……?」



 剣を杖に立ちながら、疑問の声を上げるサイト。
 一行が顔を見合わせ、喜びを浮かべかけた瞬間、



「――『ベホマ』」
「…………え?」

 絶望の、声が、響いた。
 竜の全身を、癒しの力が包む。
 呆然と見守る4人の前、竜の傷が次々と癒えていき――やがて竜は、再びその体を掲げた。

『なるほど、人としては中々だが――しかし、それまでだな』

 脳裏に、嘲笑の声が響く。
 ティファニアが膝から地に崩れ落ち、サイトが絶望に呻く。

「うそ、だろ……?」
『これが、人と我らの、決定的な力の差というものよ』

 ククク、と笑う竜。
 キュルケがよろめきながらも杖を構え、シエスタは再び魔法の詠唱を始める。

『無駄なことだ、かの者達の子よ。最早、貴様の仲間に戦意など――』

 突然、りゅうおうは念話を打ち切る。
 目の前のことなど些事でしかない、というように首を回し、遥か遠くの空を見つめ始めた。

『…………まさ、か…………!』


 りゅうおうの視線の遥か先、ガリア王国ヴェルサルテイル宮殿。
 ……いや、元宮殿と言うべきか。
 既に建造物はあらかた崩壊し、そこにあるのはただ瓦礫の山だった。

「は、ははははははははははははははは! 待っていた!
待っていたぞ、そなたのような存在を!」

 その瓦礫の中。
 宮殿を失った王は、しかし狂ったように笑い続ける。
 巨大な『それ』を見上げながら、腕を広げ、踊るように回る。廻る。

「ははははははははははははは!
さぁ、壊してくれ! ……世界を! 全てをだ!」

 踏み潰され絶命するその瞬間まで、王は嬉しくてたまらない、というように笑い続けていた。
 『それ』は辺りを見回し、そして自身の力を解放する。

 ――その夜、ガリア王都リュティスは、氷の海に沈んだ。

 それは全てを滅ぼすもの。
 全ての命を生け贄とし、世界を絶望で覆い尽くさんとするもの。
 ……それは、かつてとある異世界を闇に封じ込めた、大魔王と呼ばれるもの。





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