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ゼロの独立愚連隊-12



レコン・キスタの旗艦、レキシントン号。その客室で一人の男が脳髄を砕かんばかりの苦痛にあえいでいた。
「ぐぁ……おのれ、ジョゼフ……最期にこんな足掻きを……ぬがあっ」
(何なのだ、これは……ジョゼフめ、大人しく死んでいればいいものを、最期にこんな悪あがきをするか! これだから魔法という奴は……)
 男は、メイジの使い魔だった。だった、と過去形である理由は単純である。今まさに彼の主人であったメイジが死んだはずなのだから、だ。先ほどまで男が見ていた窓の外の風景、かすかにしか見えないはずのガリア王国の王都リュティス。しかし、今はその場所を空からでも知らせる巨大な目印がもうもうと立ち上っていた。
 炎のドームとでもいうべき物が、膨大な熱量により建造物も人も、大地すら蒸発、爆発させながらその破壊は広がり、リュティスをも飲み込んでいるのだ。これにより、あのカウンターとやらを使うエルフに護られた彼の主も死んだ、そのはずだ。だというのに――――
「ぐおおおっ、ぬおっ、はあっはあっ……かはっ……これは、感覚の共有というう奴か、ぬあああっ!」
 男の額に描かれた文字、使い魔のルーン。それが激しく明滅している。それと同期するように男の頭の中に膨大な情報が流れ込み、激しい苦痛を与えているのだ。
(なんだ、この光景は? ヴェルサルテイル宮殿……にしては形が違う。この目の前の男は何だ? シャルル? 誰だそれは、何だこれは?!)
 ベッドから転がり落ち、木の床の上で悶えながら割れんばかりの苦痛を発する頭を両手で締め上げる。少しでも内からの苦痛が減るようにと。しかし、それでも苦痛は止まない。彼の知らぬ光景が、知らぬ顔が、知らぬ名が、脳髄を侵略していた。
「兄さん」
「おめでとう兄さん、可愛い女の子だね。君も兄さんのように立派な人になるんだよ?」
「兄さん! 生まれたんだ、女の子だ! シャルロットって名前にしようと思うんだけどどうかなぁ?」
「兄さん」「兄さん」「兄さん」
(何だこの光景は、この記憶は! 俺を洗脳するつもりか!? ふざけるな、俺は、俺は、ヒデオ・モリだ……!)
 心の中の絶叫。
 だが、それでも脳を侵食する感覚を超えた記憶の共有――いや、侵食というべきか――を押し留めることは出来なかった。それを最期の抵抗に彼の、ヒデオ・モリの意識は、途絶えた。


 ヒデオ・モリ。
 ジョゼフが召喚した、手枷をはめられたその男がジョゼフの腹心となるのに時間はかからなかった。彼の語る未知の世界の話に、そしてその技術に、ジョゼフは心を奪われてしまったのだ。やがてジョゼフはモリに幾人かのメイジを預けてその成果を示すよう命令し、そしてモリの見せた期待以上の新たな世界にジョゼフは狂喜した。
 初め、ジョゼフの気を惹いた切っ掛けは宇宙の話だった。
 召喚されて10日、土メイジに作らせた蒸気機関で車輪を回した。
 召喚されて1ヵ月後、内燃機関を備えた装甲船が竣工した。
 そして2ヵ月後、彼の作った木と鉄でできた怪鳥が、魔法も風石も無しに空を飛んだ。

「現状ではこの程度でしょうな、ジョゼフ王。これは最初に捕らえた風任せで舵の聞かない出来損ないですが、後は実験を重ねて改良を続ければ実用に耐える物が完成します」

 そしてジョゼフはモリをさらに重用し、望む人材があれば提供し、望む材料があれば準備させた。さらにはモリに己の腹心としての立場と任務を与え、各所で暗躍させるようになった。
 ――その結果、致命的な物を与えてしまったのだ。

 4ヵ月後、ジョゼフはモリが捜し求めていた「発掘物」をモリに見せた。
「…………素晴らしい。起動は出来ないが、この程度の状態であればまだ動く部品を取り出せるだろう。感謝いたします、ジョゼフ王。これでさらに面白い物をお見せすることが出来ます」
「そうか、そうか! 楽しみにしていよう。いや、これまでで一番楽しみだ!これが動くのが見られないのは残念だが、次があると思えばいいことだ。期待しておこう」
「はっ」
 忠臣のごとく応えながらも、しかし跪いて頭を伏せるその顔の上に禍々しい笑みを浮かべてモリは時が来たことを確信していた。これさえあれば、忌まわしい使い魔という鎖を断ち切り、彼がジョゼフに成り代わり世界を操る立場に立つ、その道筋が立ったのだ。
 モリが調べていた物、それは各所を失った人型の残骸だった。右の腕が半ばからちぎれ、両の脚は骨のようにも見える中身を晒すほどボロボロ、そして頭と思われる部分が胴体にめり込むように潰されたその姿は、残骸というより死骸と言うべきだろう。だが、それでもその姿には威容があった。そして力も遺していたのだ。
 DRG-1N『ドラゴン』、それがこの人型の名前だった。

 そして、ジョゼフが召喚されてから8ヶ月。破壊の瞬間は唐突に訪れた。
 モリがジョゼフの命令でアルビオンへと渡った数日後。完成直前でモリの最後の仕上げを待つばかりと言われていた『龍の心臓』が、突如その力を解き放ったのだ。
 モリが以前作らせた蒸気機関、内燃機関を遥かに凌駕する力を持つと説明されていたそれは、確かに言葉通りの力を発揮するものだった。ヴェルサルテイル宮殿の一角に作られたモリの地下実験場、そこで『龍の心臓』――メックのエンジンを流用した純粋水爆が爆発したのだ。
 放射線が、熱が、実験場の壁だけでなく地表を、そして宮殿、さらにはリュティスの街並みすらを飲み込み溶かし蒸発させる。衝撃と爆発が土砂を舞い上げ建造物を積み木を崩すようになぎ倒し、そして粉々に吹き飛ばしてゆく。空は舞い上げられた粉塵で汚れ、やがてそれらは雨と共に大地へと還らんと黒い雨を降らせたのだった。

 繁栄を誇っていたガリア王国の王都リュティスは、ガリア王ジョゼフの命と共に死に絶えた。
 そしてモリはそのままレコン・キスタを支配し、乗っ取り己の国を築く。それがモリの描いていた絵図だった。


「ああっ、お目覚めになられましたか!」
「……?」

 突然上からかけられた言葉に、まどろんでいた意識が覚醒を始める。ジョゼフは自分が今ベッドの上に寝かされていたことに気づき、体を起こしながらぼんやりと傍らに目をやる。そこには銀盆を手にした見慣れないメイドが、安堵の表情を浮かべて絞ったタオルを差し出している。いや、何度か見たことはあったか、覚醒を始めた意識でそう思い返しながらタオルを受け取り、強めに顔を拭う。……どうも口周りの感触がおかしい、そんな違和感を感じるが、とりあえずそのままタオルを返しながら今の状況への疑問を口にする。
「ふむ……眠った覚えがないのだが、俺はどうしてここにいるのだ?」
「はあ、それが部屋の中で意識を失われていたのですが……心当たりは御座いませんか? 私どもで看病させて頂いていたのですが、乗船されたその日に倒れられてもう4日目になりますし、どこか具合の悪いところがありましたらおっしゃって下さい。ああ、そうですわ、食事の用意をしませんと。それとお目覚めになられたことを報告してまいります!」
 そういってメイドは一礼すると駆け足気味に部屋を出て行くが、ジョゼフはメイドの言葉に更なる違和感を覚えていた。乗船、と今このメイドは口にしたのだ。
(どういうことだ? 俺は確か……)
 ようやく回りだした頭でジョゼフは目覚める前のことを思い返す。

 玉座で頬杖を付く。
 文官の報告。
 突然の地響き。
 ビダーシャルの叫び。
 ジョゼフとビダーシャルの周囲を残して崩れ、吹き飛ぶ宮殿。
 崩れる足場。
 悲鳴を上げるビダーシャル。
 ――そして、一瞬で全てが閃光のような炎に塗りつぶされた。

 気を失う前の僅かな記憶。あれは一体なんだったのか?
――『龍の心臓』の爆発。
 突然ジョゼフの頭の中に、閃くように答えが浮かぶが、その答えの意味が分らない。『龍の心臓』とはジョゼフがモリに復元させていた、あの残骸の部品の名前だ。何故、それが爆発するのだ? そう思ったジョゼフの脳裏に、再び答えが閃くように浮かぶ。
――『龍の心臓』という名前は、バトルメックDRN-1N「ドラゴン」のエ
ンジンを流用したことから付けた物。兵器としての分類は純粋水爆。
 頭の中に閃くように浮かぶ、いや思い出される記憶にジョゼフは首を傾げる。何故、俺はこんなことを知っている。そもそも、龍の心臓が純粋水爆という物だと分っても、今度はその純粋水爆が何だか分らない。と思うと、再び純粋水爆が何か、ということが頭に浮かぶ。
「何だ、これは……俺は一体どうしたのだ?」
 先ほどまでの違和感、そして突然脳裏に浮かぶこの奇妙な知識。ジョゼフは顎に手を当てて首を傾げる。
 顎に当てた右手、そこにあるべき感触が無い。
 今度こそジョゼフの意識は覚醒した。がばり、とベッドから上体を起こすと、メイドが置いていったテーブルの上の水桶からタオルを放り出し、両手で掴みながら覗き込む。

 そこに写っていた己の顔は、青い髭は無い。ただ黒く短い不精髭が僅かにはえているだけ。ぺたぺたと確かめるように顔を探る指の間に移るその顔、それは正しくジョゼフの使い魔であった、ヒデオ・モリの顔だった。

「は、ふは……ふはははははははは、そうか、そうかそうだったか! 俺は死んだのか。思い出した、思い出したぞ!」
 ジョゼフ、と言うべきかモリと言うべきか。その男は両の手を広げて窓辺に歩み寄る。外の風景と共に写る、その黒髪の男の顔に爪を立てるように窓を掻きながらけたたましく笑い続ける。
「そうだ、そうだ! ジョゼフは死んだ、炎に焼かれて死んだ、城ごと、何もかもと一緒に焼き尽くされた! 知っている、俺はここから見ていた。水爆の爆発がリュティスごと俺を飲み込む様を俺はここから見ていた。俺は俺の危機に感覚の共有で俺の感覚を、俺の断末魔を知った! 最高のショウだ、勝利の瞬間だ! いい気分だ、頭が割れる程にいい気分だった! そうさ、俺が俺を殺したんだ!」
 バリン、と両手が窓を突き破る。ガラス片が腕を裂き、血が流れる。モリ・ヒデオの血が流れる。
「違う! 俺は俺に殺された、俺に負けた! 俺の謀反の気を知りながら、俺の力はビダーシャルの先住に届かぬと読み誤った! だと言うのに、俺はここにいる! 俺は死んだのか、生きているのか、勝ったのか、負けたのか? どちらなのだ、どちらなのだ!?」

 と、部屋のドアがノックされる。そしてその向こうから聞き覚えのある/無い声がかけられた。
「やあモリ殿、目が覚めたそうでなによりです。失礼して良いかね」
 その問いかけに、ジョゼフは僅かに考えた後で答えた。
「人払いはしてあるのですか? このような醜態を晒してしまいましたが、それでもあまり私の姿を晒さぬほうが良いでしょう」
「ああもちろんだモリ殿。私としても貴殿の立場は理解している」
 その言葉を聞いてジョゼフは部屋のドアを右手で開き、ドアの向こうにいた人物、クロムウェルを招きいれた。
「もう立ち上がれるのですな。いや、水メイジに治療させるべきか悩んだのですが……とりあえず人目に付きにくいよう平民のメイドに看病だけさせておったのですよ。何事も無く幸いでしたな」
 クロムウェルの言葉を聞きながらジョゼフは後ろ手にドアを閉め、口元が笑みの形に吊り上がりそうになるのをこらえて窓を指差す。その動きにクロムウェルが吊られるように視線を動かし、割れた窓を見て視線を止めた。そして口を開こうとして、

 パン、と乾いた音が響いた。

 崩れ落ちるクロムウェルの体。左手に硝煙を昇らせる拳銃を持ったジョゼフ。口を三日月に吊り上げながら、ジョゼフは崩れ落ちたクロムウェルの体に近づいて様子を見る。
「か、はぁ……何が……ごふ……」
「ふむ、もう一撃いるか」
 パン、ともう一度。今度は心臓の辺りに銃口を密着させての一撃。ビクリ、と体を震わせた後に脱力していくその姿を確認してジョゼフは頷いた。そしてジョゼフはクロムウェルの手から大きな宝石の付いた指輪を抜き取り、己の指に嵌める。
「さあクロムウェル。俺が俺を知るために、俺の感情を、俺自身を確かめるために……働いてもらうぞ、俺の心が成したいと思うこと全てを試すまで」
 ジョゼフは奪った指輪、アンドバリの指輪をクロムウェルの死体にかざしながら、心底楽しそうに笑った。




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