あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と狂信者-19



三十年前のある街のある夜。
街に買い出しに来た修道女。彼女は月夜の通りを足早に歩いていた。
そこに二つの影が忍び寄る。男の声が通りに、妙な重音で響き渡る。
「眠りを導く風よ」
その声が響いた瞬間、猛烈な眠気が女性を襲った。
その正体が眠りを導く先住魔法だと、賢明なメイジであれば気づいただろう。
襲いかかる睡魔に必死になって抵抗するも、空しくふらりと倒れ落ちる。
獲物に近寄る二つの影。影が女性に手を伸ばした時、異変が起こる。
突然、得体の知れないものが彼らの回りを旋回する。
何か、異国の言葉が書かれた紙片は街の建物の壁に次々と、何処からか出現した鉄の釘で打ちつけられた。
そして、紙の一枚一枚がぼんやりと、神聖さを以て輝き始める。
吸血鬼が驚いて見上げると建物の屋根に人影を確認した。その影は三十メイルの高さのそれから
無造作に飛び降り、影達の眼前に降り立つ。その異様さに影は先住魔法を試み、異変に気づく。

世界に遍在する筈の精霊の力を借りることができない。

同様した吸血鬼が激昂し叫ぶ。
「貴様!! 何をした!?」
その胸にはブリミル教とは異なる十字架が輝く。彼はコキリと肩を鳴らして答える。
「浄化したのさ。貴様らの汚らわしき……大いなる意思だったか? それを使って小細工が出来んようにな……。
ははは! 全く! 大いなる? そんなものは我が神だけが! ヤハウェにだけが許される言葉だ!」
彼はさらに口上を続ける。
「我らは神の代理人、神罰の地上代行者。
我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること――。
AMEN!!」


「さあ、泣き喚け! 死ね! 我が神を喜ばせろ! 化け物共……」
「ほざくなよ! 脆弱な人間風情が!!」
男の不遜な物言いに激昂した吸血鬼が、買い言葉と共に人では追随不可能な身体能力で飛びかかる。
しかしそれに怯むこと無く彼はそのコートから白く輝く長剣を取り出し、洗練された技術で斬りつけた。
その首がにべも無く落とされ、男は生首の髪の毛を掴み持ち上げる。
男は吸血鬼の断末魔の顔を見ながら、破顔した。
悪鬼の如き所業を心底楽しげに笑いながら行う男に戦慄したもう一人の吸血鬼は、敵に背中を見せて逃走する。
男が黙って逃す訳も無く、聖書の紙片が吸血鬼の脚に巻きつく。
それを皮切りに次々とページの群れが襲いかかり、その動きを完全に封殺した。
「お、おねがい! やめて!」
その声でその吸血鬼が女性だと気づいたが、そんなことは彼にはどうでもいいことだった。
「主を愛さない者がいれば」
男は彼女の前に立ち、祈りの言葉を口にし、剣を刺した。吸血鬼の顔が苦痛で歪む。
「呪われよ!」
叫びと共に剣を勢い良く抜き放ち、返す刀で首を刎ねる。
そして転げ落ちた首を、両の手で抱えた彼は、その恐怖に引きつった顔を見ながら、笑った。

狂気を全く隠そうともせずに、辺り一面に響き渡るほど大きく、その凶行が嘘のように愉快に。

彼はひとしきり大笑いした後でふと気づく。
「おっといかん。こいつらつがいか……。その辺に餓鬼がいるやも知れんな」
辺りに散らばった聖書の紙片が一人でに元に戻り、一冊の本に戻る。
それをコートにしまうと、彼はまた町を徘徊し始めた。

その頃には外套を羽織った少女が町はずれの森を疾走していた。

そして現在―――。



タバサはプチ・トロワに居るイザベラの元へ向かっていた。北花壇騎士としての任務を受ける為である。
しかし、その思考は受ける任務では無く別の方へ向かっている。それは想像ですらない、ただの妄想だ。

――もし吸血鬼だったら。

ここから風のように速くあの男の元へ向かい、その喉元に噛みつき、血を吸い、そこから記憶を奪い、母を治す。

そんな馬鹿げた発想にタバサは苦笑する。吸血鬼になったところでそう簡単には行かない。
もしそうならどこぞの王族が吸血鬼に血を吸われたなどという話が立つはずだ。
そう、できない。けれど充分に魅力的だ。あの能力と暴力は。

何処か呆けた様子で、彼女はイザベラの前に立ち、任務を受ける。その任務は前もって聞いていた。
――吸血鬼。
といってもおそらくはハルケギニアの吸血鬼。これも異界の吸血鬼に劣らぬ、否、それ以上に厄介な相手であろう。
しかし、彼女の意思は、その言葉を鍵とし、また先程の空想に旅立つ。

吸血鬼となり、伯父を倒し、母を元に戻し、全てを終わらせ、

アンデルセンに殺される。


イザベラは虚ろな意識で考える。最近嫌な噂が多い。父が得体の知れない人間を宮殿に招き入れていること。
そしてその頃からハルケギニア中で吸血鬼による被害が増えたこと。
おそらく父王が良からぬことを企んでいるのは肌で感じている。それに不安を感じぬでもないので、
気に食わぬ従妹を怖がらせ、せいぜい憂さを晴らそうと吸血鬼退治などを押しつけてみたものの。
「実際あんな青い顔されると……。ねぇ」
そのままの無表情で血の気だけを引いた顔を見て少し可哀そうになる。
「そうだね。あのガキの猫耳でも、もふもふしてるか」
そう言って彼女は侍女の制止も聞かず王宮まで向かった。



前回までのあらすじ
アンデルセンの助手ということで彼が不在の間、使い魔の代わりをしていた俺、平賀才人。
何故かスーパーヤンデレタイムに突入したルイズとシエスタから逃れる為に、タバサの任務に同行する。
セラスさんや隊長も伴って、危険な仕事に向かうのだった。

「はずだったのに、何でこんなにのんびりしてるんだ?」
ここはガリアの領地内にある森林。そこで彼らはキャンプのようなものをしていた。
ついてきたシルフィードは、セラスと水辺で戯れていた。流水は苦痛であるはずだが、
人のいいセラスは付き合っていた。その姿は自分の狩るべき相手とは思えないし、思わない。
「セラスが吸血鬼なのは秘密だからよ。タバサ嬢ちゃんが一人で仕事を受けてるんだ。」
ついでに言えば彼女が高速で飛行することができることも秘密なのでゆっくり行かねばならないらしい。
「吸血鬼って知られるとマズイんすか? ってそりゃそうか」
しかし、どうして騎士とは言え学生の身分であるタバサが危険な任務をするのだろうか。
才人としては気になったものの、タバサに尋ねたところ、何も言わず首を振られた為何も言えなかった。
(まあ、いつか教えてくれるだろ)
流石に無理をして聞く気にはなれなかった。

そこでふと思うのはルイズのこと。
(守るって約束したのになぁ……。あいつ怒ってたし……。俺何か悪いことしたかなぁ……)
学院にいるルイズを四六時中警護する必要もないし、怒りの原因も理不尽なものなのだが、それでも彼は悩んでいた。
(神父にも任せられたのになあ……。情けない……)
学院から出た最初の内は理不尽に雷撃と斬撃を浴びせて来た彼女らに怒っていたものの、
頭の冷えた今ではそれも消えていた。この辺りがこの少年の損な所である。
(汝の敵の為に祈りなさい。か……)
アンデルセンからもらった銃剣を弄びながら、止め処なく考えていた。


その武器、重さとしては一キロ以上あるそれを眺めてふと疑問に思う。
(確か神父ってこれを三本とか四本とか持ってたよな……)
気になったので自分でもやってみる。
(こんな感じで、もっとこう……。もうちょい……)

ゴキャッ

静な森に間抜けな少年の指が折れる音と、悲鳴が響き渡った。


「何やってるんだ?お前?」
「あはははは」
銃の整備をしているベルナドットの近くに座り、恥ずかしげに頭を掻く。
ふと、帰って来たタバサがその男の持つ武器に興味深げに視線を送っていることに気づいた。
「おう、おかえり。……何だ? 撃ってみたいのか?」
才人が戸惑いながらも訊ねると、タバサはこくりと頷いた。
ベルナドットは愛用のリボルバー、コルトをタバサに預け、使い方を説明する。
「ちゃんと両手で支えて……。そうそう」
とりあえずという事で10メートルほどの距離の木に円を描き、そこを狙わせる。
しばらく静寂が包み、過保護なセラスだけでなく才人まで何故か緊張してしまう。
その二人とは対照的にベルナドットはニヤニヤして見ており、タバサは明鏡止水極まれりといった顔つきだ。

ドン!

予想以上の衝撃にタバサは吹き飛び、尻餅をつき、変わらぬ無表情でその先を見ていた。
いわゆる茫然とした状態だ。
セラスは慌てて彼女に駆け寄り、ベルナドットは腹を抱えて大笑いし、才人は、萌えていた。
その後、長い杖でその頭を叩こうと、隊長と追いかけっこをし、
尚からかわれているタバサを成程、とても可愛らしいと思った。
その言葉が口に出ていたので彼もまた追いかけられる訳だが。



私は現場へ急行する為に風竜の背に乗りながら考え事をしていた。
彼女達を召喚した時は驚いた、何せ人間二人である。複数の使い魔を従えるなど、始祖降臨以来今まで無かったことだ。
最も彼らから言わせれば、元々二人で一つのような存在だったのが、召喚されたことで元に戻ったものらしい。
目の前の女性を見ながら、つくづく吸血鬼という存在は馬鹿げていると思う。血を吸い、その命を自分のものとする。
戦闘能力、不死性、特殊能力、etc. 馬鹿げていると言ってもいい人間との差。
 一方のベルナドットもまた、相当なものだと思う。あのような銃器を自在に使いこなし、その見識は鋭く、深い。
 というかサイトも普通に使っていたし、反動があんなに凄いものだとは思わなかった。
 異世界で傭兵団を率いていた彼の判断力には敬服している。戦闘に対する気構えの点で言えば私より上だろう。


 しかし、タバサは気づいていない。本当に彼らを必要としている所はそこではないと。
 本当に彼らが自分を救っているのは、例えば命の危険があった後に涙を流し心配してくれることや、
あるいは兄のような笑顔で頭を撫でられた時だということを。

 そして彼女は求めている、力を。彼らが祝福する筈もない、力を。
 母の為に、復讐の為に。誰も彼もそれを祝福しないのに。

 次に私は才人を見やる。正直何故彼を連れて来たのか、自分でもわからない。
単純に戦力が増えるのはいいことだ。風のスクウェアを打ち破った実力は評価できる。
でもそれだけでは無い
ただ、一つ言えるのは彼と私はある意味、近い。

彼も力を欲している。私も力を欲している。
彼はアンデルセンを見た。私はセラスとアーカードを見た。

ただそれだけだ。私はあの男を倒す為だけに、母の為だけに戦っている。
しかし彼は

彼は何故?
あの恐ろしい場所に行くのだろう。


それを見極めたい。いつか彼と相対した時の為に。本当はそうならないのが一番だが。
けれどいつか、私は人間を辞める日が来るかもしれないから。
その時、目的を達するまで死ねないから。

「で?任務って一体何なんだ?」
 布で銃剣を磨きながら訊ねる。
「吸血鬼退治」
 自分に縁深いその言葉に才人はどう反応したものかと考える。タバサは続ける。
「貴方達の世界の吸血鬼では無い。ハルケギニアの吸血鬼」
 彼女の説明によると、ハルケギニアの吸血鬼はセラス達とは異なるものらしい。
 狡猾にグールを操り、敵に正体を悟られること無く血を吸う。先住魔法を操り、人と見分ける方法は無い。
「体温が低かったり、聖書に弱かったりは?」
「体温は人と変わらない、妖魔であって死体では無い。
聖書に関しては未知数。祝福された武器でなくとも傷つけることはできるはず」
成程と才人は唸る。手強そうな印象を受ける。直接の戦闘力で言えばセラスには勝てまいが、
人と見分けがつかず、突然身構える間も無く襲われるのであれば、それは単なる暴力以上の力である。
アーカード達を、力を振るう暴君と言うなら、彼らは智を用いる死神であろう。

「人間と区別がつかないのは、厄介だな……」
 元の世界の吸血鬼であれば、その肌を触れば異常なまでの冷たさによってその正体に気づくだろう。
 それが通じぬのは、成程分が悪い。発見するのは骨が折れそうだ。
「発見した後も問題。力が強い上に先住魔法を使う」
「そうそう、さっきも気になったんだけどよ、先住魔法って何だ?」
ベルナドットも会話に入り、セラスも聞き耳を立てる。
「メイジが扱う系統魔法と対を為す、亜人やエルフが扱う魔法。系統魔法が人の力を使うのに対し、
先住魔法はこの世界に普遍に存在する精霊の力を使う」
「精霊……ね」
 成程ファンタジーだなと納得する。それは皆同じ気持ちのようだ。
「もちろん!この知恵のドラゴンであるシルフィードも使えるのね!
お兄様達好みのナイスバディに変身したのも精霊の力なのね!」


 いらないことを言われ、才人の目線が泳ぐ。女性陣の視線が何処となく痛い。
 才人は強引に話題を転換させようと、今までに無いほど頭を回転させる。
「け、けれどよ。確か顔を変えるくらいの魔法がスクウェアクラスなんだろ?
ってことはワルド以上の強さってことかよ?」
 水と風のスクウェアスペルであるフェイスチェンジを例に出す。今だ目線がキツイもののタバサは頷く。
「一概には言えないけど、そう思っていい」
才人は気を引き締めつつ、ふと思いついて懐から銃剣を取り出す。
その呪文のような形の光を見ながら考える。
 アンチキリスト 精霊 神ならざる力
「いかなるものの形も作ってはならない。あなたはそれらに向かってひれ伏したり、
それらに仕えてはならない……」
「何?」
「何でもない」

サイトはふと辺りの皆を見回して気づく。
「あれ? 隊長のトンプソンとセラスさんのハルコンネンは?」
その言葉に二人は頭を掻く。
「いやあ、大尉に折られちゃって……」
「おれも残弾がほとんどなくなってよ」
「え?どうするんですか?」
「キュルケ嬢ちゃんが修復してくれるっていうから預けた」
ああ、それで彼女達の姿が見えなかったのだなと納得する。
確か彼女の実家であるゲルマニアは治金技術が発展しているらしい。
「成程、まあでも……」
(セラスさんはともかくとして隊長は……)
ちょっと浮かんだ酷い結論にサイトは首を振った。


「十字架や、祝福された武器は、吸血鬼以外の者にも有効なの?」
 タバサの突然の問に、才人は少し驚きながらも丁寧に答えた。
「うーん、何て言うか……。いわゆるアンチ・キリストの化け物全般に効くらしいよ」
「例えば?」
「そんなの本当にいるのかわからないけど。悪魔とか、悪霊とか、そういうの」
 別に吸血鬼という存在があるのだからそう不思議な話でも無いだろう。
 いわゆるエクソシズムも13課の仕事だ。
「そう」
 何故かホッとした様子のタバサを不審に思ったサイトは思考を巡らせる。そして彼女に関する一つの事実に思い当たった。
「ああ、大丈夫大丈夫。多分お化けにも効ポペ」
 その言葉はタバサの杖の一撃により阻まれた。

「で、隊長。気になったんですけど」
「何だよ。セラス」
「お兄様 達 って何ですかね」
「きゅい?それはたいちょーなのね」
(この竜。空気読めねえ……)
 期待するだけ無駄である。セラスはふーんと頷いた。

「そんだけ?」
「へ?」
「ねえ?焼いて? 焼き餅焼いて。そんでボコボコにして!」
「キモイ!!」



件の村に着き、タバサはセラスと才人をそれぞれ指差した。
「囮」
「セラスさんはともかく俺も?」
「タフだから」
成程と才人は納得する。作戦はシンプル、無防備を装うメイジを餌に隠れた攻撃役が撃つ。
元より全員が何らかの一撃で終わらせられる攻撃手段を持っているタバサ主従である。
自分が囮なのは全くもって自然だ。元より勝手について来た身であるから文句は言わない。
セラスはタバサの杖を、才人はマントをそれぞれ身につけ、村に入った。

二人のメイジがやって来た時、村人の反応は芳しくなかった。
「まあ、あんな小さい嬢ちゃんを従者にして……」
「男の方のメイジなんかまだ子どもじゃないか……?」
「従者の男の方がまだ強そうだ……」
「女性の貴族様は凄い美人だな……」
その会話を聞きつけた才人がタバサに耳打ちする。
「評価が低いのって全部俺らの所為かな?」
彼女は沈黙という肯定を返した。


村長の村につき、タバサが(表向きはサイトが)指示したのは体を改めること。
グールには吸血鬼の牙の後が残るためだ。
それこそ老人から子供まで、役割分担して徹底的に洗う。
しかし、山ヒルが多いらしく、それに噛まれた傷と区別などつく筈も無い。
才人もとりあえず何人かメモをとったが彼の分だけで五人もいるのだ。
頭を抱えて部屋に戻ると、セラスが少女に怯えられていた。目が涙で潤んでいる。
「どうしたんですか?」
村長は貴族のマントをつけたサイトに申し訳なさそうに呟いた。
「あの子は両親をメイジに殺されたのですじゃ。それっきりメイジに怯えてしまいまして」
才人はポリポリと頭を掻き、カモフラージュ用のマントを外して近寄る。
「ああ、君。とって食べたりしないから、ね?」
その少女はチラリとこちらを見る。
才人はその変化を見逃さなかった。
少女が自分を見た時の表情、覚えがある。
アンデルセンが吸血鬼を狩った時、その吸血鬼が見せた表情だ。

その目線は確かに、彼の持つ十字架に向けられていた。

「この子の名前は?」
村長は怪訝な表情で答える。
「エルザですじゃ」

次に被害の状況を尋ねる。二ヶ月程で9人の被害、その中にはトライアングルのメイジも含まれる。
「最初に被害に遭ったのは、十二才になったばかりの娘で」
それを聞いた才人は静かに十字を切った。その仕草の意味する所が分からない少女の親は、
それでも才人の痛切な顔を見て、頭を下げた。


セラスとベルナドットが村人を尋問し、タバサと才人が現場検証をするという風に役割分担した。
最後に吸血鬼が現れた家で捜査する。
疑問点は二つ。見張りの村人が必ず眠りこけてしまう点。そして鍵のかかった家にどう侵入したか。
「眠りの先住魔法」
「そうなのか?」
「風のある所ならどこでも使える初歩の先住魔法」
「チートだな……」
「チート?」
「反則な位強かったり性能が良かったりってこと。例文『アーカードさんはチート』」
そんな会話をしながら二人は家の中を調べ回る。成程鍵はしまっている。
窓は板で打ちつけられ、扉は家具で固定されていた。
「となると後は煙突だな」
「小さい」
確かに煙突の幅は狭く、仮に吸血鬼がタバサ位の背格好だとしても無理だろう。
「アーカードさんみたく蝙蝠になったりは?」
「できない」
それでもと才人は煙突の中を見る、しかし煤だらけになるだけで何の成果も無い。
お手上げのポーズをして、サイト達はセラス組の方に向かった。

タバサはその背中を見ながら考える。

彼は女性に優しい。それは彼の信条であり、曲げられない不文律だ。
そして私は仮定する。もし、私が吸血鬼になった時。
彼は私を殺すだろうか、殺さぬだろうか。
友である私を殺すだろうか、殺せぬだろうか。それとも殺されるだろうか。

「酷い奴」

私は今、とてつもなく残虐で非道な打算で彼の隣にいるのだ。


ふと見ると、一軒の家に鍬や鍬で武装した村人達が集まって、何やら不穏な空気を醸し出している。
慌ててその家に入ると粗末なベッドの回りで人間達が集まっている。その中にセラス達も含まれていた。
「何事です?」
「あ! お嬢様!」
咄嗟にそう言ってしまったセラスの靴をベルナドットが踏む。
「あう……。サイト君、実は……」
曰く、この家に住む占い師の老婆とその息子アレキサンドルが怪しいと、村人達が大挙して乗り込んできたらしい。
しょうが無いのでセラスもこの老婆を日光にあてようとするのだが、
村人が大挙して押し寄せたので脅えてしまったのか言うことを聞かない。
ふとベルナドットが才人の肩を叩いて言う。
「おお、丁度良い。こちらのお方は一級フラグ建築士、故に安心してお任せできる」
「何すかそれ? ……まあいいですけど」
そして才人は老婆に近づく。アレキサンドルが暴れかかるも村人達が取り押さえる
「あのですねー。この人達がどうしてもと言うので、少しお散歩に行ってくれると有難いんですけど」
などと気さくに話かけてみる。殺気のさの字も無い、ある種情けないほどの態度でしばらく
語りかけていると、老婆の方も落ち着いたのか、毛布から顔を出す。
そしてベッドからのろりと立ち上がる。そこでサイトは手を差し出したのだが、彼女はその手を
借りることなく、手を虚空にやる。才人は辺りを見回し、部屋の隅に立てかけられた杖を見つけ、差し出した。
タバサはその光景に一瞬眼光を鋭くした。
「ほら、こっちこっち、お婆ちゃん」
そして背中を押しながら、家の外に出る。
「いい天気だねー、お婆ちゃん」
才人の問いかけにしきりに頷く老婆に村人は顔を見合わせ、引き下がった。
一安心と息を吐く少年の手を、老婆は有難げに擦っていた。
「も、もう分かっただろ!」
息子が老婆に駆け寄る。しかし、その息子の態度にやはりタバサは不審な物を感じた。


「ふう」
「これで安心だな」
「安心?」
ベルナドットの言葉にセラスが首を傾げる。
「ああなった時にはよ、人間ロクなことをしねえもんさ。ああしなかったらいつか焼き打ちでもしてたんじゃねえの?」

「どうしたんですか? お嬢様」
セラスが押し黙ったままのタバサに聞く。
気になったのはさっきの光景。少し違和感を覚えた。
息子が老婆を外に出す時、彼は暴れていた。それは少しおかしいのではないか。
老婆が疑われているなら外に出して身の潔白を証明すればいいのだから。
老婆の病気がもし立てない程深刻だったなら話は別だが、杖があれば歩けたのである。
「杖があれば歩けるのに、杖はベッドの側ではなく、部屋の遠いところに置いてあった」
「というと?」
「まるで老婆が外に出ることを防いでいるようだった。」
才人の頭の中で、例の曲が脳内再生される。
「真実はいつも一つ! タバサ何てバーロー?」
「バーロー?」
「俺の国の有名な探偵だ」
「ほらよ、蝶ネクタイ。」
「隊長。何げに日本文化詳しいっすね」
となると老婆はアレクサンドルに対して恐れていたということだ。
「じゃああの人が吸血鬼?」
タバサは首を振る。
「吸血鬼ならば疑われた時点でとっくに村から出ている。いつまでも村にはいない。おそらくグール。
確証は無いが、見張りをつける」
皆が感嘆の声を上げ、タバサに蝶ネクタイをつける。

その光景を彼らの視界の外で、一つの影が見ていた。





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