第一話
初め、自分の身に何が起こったのか全く理解できなかった。
神崎に「残り時間はあと3日」と告げられてから、丁度3日目の朝。
ほんの少し前までは、これまでの決着を着けるべく、ミラーワールドで北岡と対峙していたはずだ。
銃を連射する北岡に向かって剣を振り下ろしたと思えば、いきなり現れた謎の空間に吸い込まれ、気がつけば見知らぬ草原の上に立っていた。
変身も解け、生身の人間に戻っている。
ほんの少し前までは、これまでの決着を着けるべく、ミラーワールドで北岡と対峙していたはずだ。
銃を連射する北岡に向かって剣を振り下ろしたと思えば、いきなり現れた謎の空間に吸い込まれ、気がつけば見知らぬ草原の上に立っていた。
変身も解け、生身の人間に戻っている。
――何故だ。
薄暗い屋内から唐突に屋外へと投げ出されたため、急に浴びせられた直射日光の暑さと眩しさに苛立ちをおぼえる。
見上げれば、先ほどまで存在していた穴だらけの屋根の代わりに、一面の青空が広がっていた。
見上げれば、先ほどまで存在していた穴だらけの屋根の代わりに、一面の青空が広がっていた。
辺りを見回せば、目の前には桃色の髪のガキが一人と、その後ろに大勢の人だかり。
なにやら口々に騒ぎたてている。
なにやら口々に騒ぎたてている。
彼らも自分と同じ人間のようだ。
…ならば、ここはミラーワールドではないのか。
…ならば、ここはミラーワールドではないのか。
このまま立っていてもらちがあかないと踏んだ俺はまず、目の前でなにやら喚いているガキに状況を尋ねてみることにした。
「おい、ここはどこだ。北岡はどうした」
ルイズは、自らの使い魔を呼び出す『サモン・サーヴァント』という儀式を行っていた。
ルイズは、自らの使い魔を呼び出す『サモン・サーヴァント』という儀式を行っていた。
ほとんどの生徒が儀式を終えて、残るはルイズだけとなったが、何回呪文を唱えてもいっこうに成功する気配がない。
コルベール先生にも、今日はもう諦めるようにと促され、あと一回だけと頼み込んだ末、ようやく召喚に成功したのである。
コルベール先生にも、今日はもう諦めるようにと促され、あと一回だけと頼み込んだ末、ようやく召喚に成功したのである。
が、召喚されたのはよりによって人間の男であった。
蛇の皮を用いたと思われる衣服に、獲物を睨み付けるように鋭い目。
髪の色は金色だが艶がなく、くしゃくしゃである。
見かけない出で立ちではあるが、杖を持ってない以上、魔法が使えるとは思えない。
髪の色は金色だが艶がなく、くしゃくしゃである。
見かけない出で立ちではあるが、杖を持ってない以上、魔法が使えるとは思えない。
最初は召喚が成功したことに驚いていた観衆も、使い魔の姿を見た今では「ゼロのルイズが平民を召喚した」などと口々に捲し立てている。
「なんでよ……なんでいつもいつも私ばっかりこんな目に……」
自身も小声で文句を呟いていた時、目の前の男から突然声がかけられた。
「おい、ここはどこだ。北岡はどうした」
「はへ? あ、こ、ここはトリステイン魔法学院よ。キタオカって何? ともかく、知らないわよ」
「はへ? あ、こ、ここはトリステイン魔法学院よ。キタオカって何? ともかく、知らないわよ」
不意に声をかけられたことで思わず気の抜けた返事をしてしまったが、質問には応じた。
男はそれを聞くと一瞬驚いたような表情を見せたが、再び顔をキョロキョロし始めた。
男はそれを聞くと一瞬驚いたような表情を見せたが、再び顔をキョロキョロし始めた。
それにしても、トリステイン魔法学院を知らないとは、一体どこからきたのだろうか。
その格好もあって、ますます不安になる。
その格好もあって、ますます不安になる。
コルベール先生にやり直しを願い出たりもしたが、答えは否、であった。
召喚に成功したからには、必ず契約しなければならないという。
召喚に成功したからには、必ず契約しなければならないという。
私は渋々、召喚した男に近づくと、右手で杖を出して言った。
「我が名はルイズ……」
「邪魔だ」
「邪魔だ」
男が口を開いたかと思うと、いきなりその左足が持ち上がり、私の無防備な脇腹を横に蹴り飛ばした。
地面に体を勢いよく打ち付けられる。
地面に体を勢いよく打ち付けられる。
「はぐ……あがぁ……」
脇腹を抑えてうずくまり、呻き声をあげる。
今まで罵声を浴びせていた観衆も、それをみた途端、一斉に静まりかえった。
「俺は今、大切な用事を邪魔されて最高にイライラしている……。強い奴なら誰でもいい。相手をしろ」
今まで罵声を浴びせていた観衆も、それをみた途端、一斉に静まりかえった。
「俺は今、大切な用事を邪魔されて最高にイライラしている……。強い奴なら誰でもいい。相手をしろ」
皆が皆呆然としている中で、騒動の原因であるその男はこう言い放った。
獲物を狙うような目で辺りを見回しながら、手をズボンのポケットに突っ込む。
獲物を狙うような目で辺りを見回しながら、手をズボンのポケットに突っ込む。
と、その時。
どこからか呪文が聞こえたかと思うと、強力な風の衝撃が男を吹き飛ばした。
見ると、青い髪の少女が長い杖を構えている。名前は確か、タバサだ。
見ると、青い髪の少女が長い杖を構えている。名前は確か、タバサだ。
男は地面へ仰向けに叩きつけられ、頭でも打ったのかそれきり動かなくなった。
事態が収まったと見たコルベール先生が、ひとまず生徒たちに学院内へ戻るよう指示すると、私の方へと駆け寄ってきた。
キュルケやタバサもこちらに向かって走ってくる。
キュルケやタバサもこちらに向かって走ってくる。
「ミス・ヴァリエール。お怪我のほどは?」
「大…丈夫です。なんとか立てます」
「大…丈夫です。なんとか立てます」
差し出された手に自らの手を乗せ、ゆっくりと立ち上がる。
「まさか、あんな奴を喚んできちゃうなんてね」
「まさか、あんな奴を喚んできちゃうなんてね」
気絶している男を横目に、キュルケは言った。
タバサはなにやら男を観察している。
タバサはなにやら男を観察している。
私の怪我の具合を確かめた後、コルベール先生が言った。
「では、ミス・ヴァリエール。今のうちに彼とコントラクト・サーヴァントの儀式を」
思わず不満が漏れそうになる。
いきなり暴力を振るうような危険な人間と、これからをともにしなければならない。
そう考えると、いっそのこと召喚に成功しない方がよかったんじゃないかと思えてくる。
そう考えると、いっそのこと召喚に成功しない方がよかったんじゃないかと思えてくる。
が、決まりは決まりだ。
「……分かりました」
そう言って、恐る恐る男へと近づく。
気絶しているのを再度確認すると、男の横にしゃがんで、詠唱した。
気絶しているのを再度確認すると、男の横にしゃがんで、詠唱した。
「…我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
言い終わると同時に、彼の唇に口付けた。
少しすると、彼の手の甲にルーンが現れた。契約完了の証である。
少しすると、彼の手の甲にルーンが現れた。契約完了の証である。
(契約したのはいいけど、これから一体どうなるのかしら……)
ルイズの胸中は、目の前の男によって不安一色に染められていくのであった。
ルイズの胸中は、目の前の男によって不安一色に染められていくのであった。