あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの氷竜-05


ゼロの氷竜 五話

太陽が、地平線と別れを告げていた。
涼やかだった空気も、いつの間にか暖かさを身にまとっている。
小鳥のさえずり、小さくも力強いその羽音。
水をくみ上げているのであろう、井戸の滑車の音。
使用人同士の挨拶の声。
窓の外で繰り広げられるその全てを、ブラムドの耳はとらえていた。
また、窓の外の小さな喧騒とは裏腹に、寮の内側ではまだ何の音も聞こえてこない。
……起こすにはまだ早かろう。
そう考えたブラムドは何とはなしにルイズの顔を見つめ、そのままそっと目を閉じた。
昨日から今朝にかけ、いくつか魔法を使ったものの、体内のマナは十分な力を保っている。
ふと、ブラムドは違和感に気付く。
マナの消耗が少なすぎる。
フォーセリア世界では万物の根源とされるマナ。
地水火風の精霊を操る精霊使いの初歩は、精霊の存在を知覚することである。
同じようにマナを操る魔術師の初歩は、己が内に秘められたマナの存在を知覚することだ。
竜であるブラムドは魔術師が操る古代語魔術と違う、竜に連なるものが使う竜語魔法を元より身に着けている。
竜語魔法を使う際にもマナを使う為、魔術師としての初歩を必要とはしていなかったが、今ブラムドが古代語魔法が使える理由は、一人の魔術師に手ほどきを受けたからだった。
フォーセリア世界の魔法王国、カストゥールと呼ばれた王国の末期、当時の貴族階級である魔術師は魔法を使えない人間を蛮族と蔑み、奴隷階級として虫けらのように扱った。
ブラムドをはじめ、魔術師に捕まった竜はことあるごとにその蛮族たちと戦わされるが、蛮族たちの死は数多ある娯楽の一つに過ぎない。
人間の死が、酒や歌、本や劇と同列にされていた時代。
ブラムドが友と呼ぶ魔術師、かつてのロードス島太守の娘として生まれたアルナカーラは、当時の魔術師としては最たる異端、貴族も蛮族も、動物も魔獣も問わず、生命そのものを最も貴重とする大地母神マーファの信徒であった。
蛮族が人ではなかったころ、人の命そのものが軽視されていた時代では、数え切れない人間たちが実験として殺されていた。
そんな中で、囚われていた自らの境遇に同情したアルナカーラと、ブラムドはやがて交流を持つにいたる。
ロードス島の五色の竜、その中で最も凶暴といわれた火竜シューティングスターは、魔術師に囚われていた憎悪と憤怒を蛮族に向け、その凶暴さから後に魔竜の称号を与えられた。
最も狡猾といわれた黒竜ナースも同じように、残虐さから邪竜の称号を冠される。
二体の竜は当然それで喜ぶわけもないが、蛮族に情けをかけるかのように、すぐとどめを刺してしまう他の三体に比べ、闘技場へ引き出される回数は日に日に増えていった。
やがてブラムドの檻の前は、世話係の他にはアルナカーラの姿ばかりがあるようになり、持て余した時間を魔術の学習などに使うこととなる。
ハルケギニアへ召喚されたブラムドが知る由もないが、フォーセリア世界の魔法王国時代末期に開発された魔法、そしてその滅亡に際して失われたとされている魔法の全てを、ブラムドは扱うことが出来る。
元より感覚の鋭い竜族であり、魔法の研究では最盛期を迎えていた時期の魔術師に魔法を習ったことから、ブラムドの魔術師としての能力は異常ともいえた。
おそらく、ブラムドの持つ全てのマナを注ぎ込めば、太守サルバーンのかけた『制約(ギアス)』の魔法も解くことが出来ただろう。しかしブラムドはその優しさゆえ、アルナカーラの立場を慮ってそれをすることはなかった。
結果として世話係に密告され、太守サルバーンに『制約』の解除をすることも禁じられてしまう。だがブラムドは、今でもアルナカーラを友だと思っている。
魔術師の中の、唯一の友と。





魔術師としての能力を考えれば、ブラムドは魔法王国でも上回るもののない存在だ。
魔法王国が滅びた現在では、比肩しうるものは同じ竜族で古代語魔法を操ることが出来るエイブラだけだろう。
その卓越した魔術師としての能力が、明確な違いを感じていた。
ブラムドが初めから持っていた資質なのか、それとも研究者としての魔術師、アルナカーラに触発された結果なのかは不明だが、ブラムドもまた研究者としての側面を持っていた。
つまり、理論を実験で確認するということを。
無論、実験を今この場で行うわけにはいかない。
単にマナの消費が少ないだけなのか、魔法の効果そのものに何か変化が生じるのか、それを確かめるためにはブラムドが扱うことのできる魔法を、一通り使ってみる必要があるからだ。
昨日から今朝にかけて使ったいくつかの魔法に関していえば、効果に代わりはなかった。
だが主を守護するという目的のためにはきわめて重要な、攻撃に属する魔法は一切使っていない。
威力の予想がつかない魔法を、室内で使うわけにはいかない。
さて、とブラムドは考える。
ルイズやオスマン、そしてシエスタは信頼を置ける。
タバサの嘘は魔法を使うまでもなく見抜くことができる。
だがロングビルのような人間がいるのならば、易々と手の内をさらすのは得策ではない。
……どこか適当な場所がないか、ルイズかオスマンに尋ねてみようか。
ブラムドのそんな考えは、ベッドからのうめき声で中断される。
ベッドを見やると、ルイズの眉間には深い皺が刻まれ、口からは言葉にならない苦悶の響きが漏れている。
「……ルイズ? ルイズ?」
ひとまず頭や顔を撫でさすると、ルイズのまぶたが開きかける。
すぐに目覚めたことで、魔法による干渉でないと安心したブラムドの不意を突くように、ルイズが抱きついてきた。
「ちいねえさま!!」
と、声を上げながら。
「使い魔が出てきてくれないの!! 竜や魔獣なんて贅沢いわないわ!! 犬でも猫でも、カラスだっていい!! トカゲでもカエルでも構わない!! でも爆発するだけなの!!」
ブラムドが慰めの言葉を差し挟むまもなく、ルイズの嘆きは続く。
「お父様は大丈夫って仰ってくださった。お母様も時が来れば魔法を使うことができると仰った。あの姉さまだって、ちびルイズ、あんたはこの私の妹なんだから魔法を使えないわけがないのよっていったわ!! でも、駄目だったの!!」
「ルイズ」
言葉をかけようとブラムドが名を呼んだ瞬間、ルイズの両手がブラムドの胸へと伸びた。
右手と左手で握り、揉んだ。
一回、二回、三回、反応に困って二の句が継げないブラムドに、至極冷静な声音でルイズがいった。
「ちいねえさま胸しぼんだ?」





ブラムドの両手がルイズの顔を挟み込み、胸元から引きはがす。
「ルイズ、目を覚ませ」
引きはがされた瞬間には半ば閉じていたその目が、一度、二度、三度とまばたきをし、その瞳に光が宿る。
「……ブラムド?」
「目は覚めたようだな」
その言葉に、ルイズの頭が急速に活動を開始する。
……寮の私の部屋。
……目の前の人はブラムド。
……すごい竜で、すごい魔法を使う。
……オールド・オスマンがそのままだとまずいって言って、
……ブラムドは人間になった。
……寮に帰ってきてからシエスタと話をして、
……それから胸。
……胸。
…………胸?
両の手が、ブラムドの胸に伸びていた。
両の手を軽く握った。
柔らかい。
この瞬間、ルイズの意識は完全に覚醒した。
そして自分のしていることに気付き、顔や耳どころか首もとまで真っ赤に染め上げる。
さらに降伏でもするかのように両手を頭上にのばしながら、後退して、ベッドから落ちた。
「ルイズ?」
主を追ってベッドから降りたブラムドは、昨晩のようにルイズを抱き上げ、再びベッドへと横たえた。
ベッドから落ちたときに打ったのであろう、後頭部をさするルイズの手をどけさせる。
「大したことはない」
髪をかき分けて患部を確かめたブラムドがそういうと、ルイズは染め上げた顔のまま謝罪を口にした。
「ごめんなさい!!」
「何を謝る?」
人間の、それも特定の性別の感覚で謝られたが、ブラムドにはなぜ謝られたのかが理解できない。
ルイズは自分のしたことが謝罪に値することだと思っていたが、ブラムドの言葉で思考に混乱をきたした。
口を開いたり閉じたりするルイズに、ブラムドは微笑みながら言った。
「ルイズ、お前は幼な子のようなことをするのだな」
その一言で、ルイズの混乱は急速に収まる。
まだ頬や耳を赤く染めながらも、普段通りに話せるようになった。
「こ、このことは誰にも内緒よ?」
「シエスタにもか?」
ブラムドの言葉に再び顔を赤くしながら、ルイズは断言した。
「シエスタにも!!」





準備にはいささか早い時間だったが、ルイズはいつものように制服に着替え始める。
すでに顔色は戻っていたが、ボタンを留める手は少し震えていた。
「ルイズ」
「なっ、何!?」
「この近くに、人気のなく、見晴らしの良い場所はあるか?」
疑問を浮かべつつも、ルイズはひとまず答えを返した。
「この近くでなら、昨日の儀式に使っていた草原が一番見晴らしがいいわ。特に秘薬の材料が生えている訳じゃないから、使い魔召喚の儀式以外だとあまり使わないし」
「そうか、では夜にでもゆくとしよう」
身だしなみを整えたルイズが、改めて疑問を口にする。
「なぜそんなことを聞くの?」
「色々な魔法を試したいのだ」
「試す?」
ブラムドはかたわらに歩み寄ったルイズの頭をなぜ、微笑む。
「お前を守るためには、戦うための魔法も使うことがあろう。何しろ今の我は氷竜ではなく、東方より来たるメイジだからな」
使い魔が、自分を守ってくれる。
使い魔が主の望みを叶える、おそらくメイジとしては当たり前のことで、そのこと自体にこうまで強い喜びを感じることはないだろう。
だが、ルイズは魔法を使うことができなかった。
魔法を使うと言うことに対する達成感も充足感も、およそ味わったことがない。
味わったことがあるとすれば、苦渋と挫折だけだった。
それゆえ、ルイズは今まで味わったこともない多幸感に包まれていた。
油断してしまえば、草原でしたように嬉し涙をこぼしかねないほどの。
「ルイズ、頼みがあるのだが」
そしてたたみかけるように、頼み事をされる。
これも学院に来てからはされたことがない。
仕方がないといえば仕方のないことだ。
練金で物を作り出すことを得意とする土メイジは、とかく何か頼み事をされることが多い。
水の秘薬なしでも、小さな傷程度なら治すことのできる水メイジも同じだ。
いずれの系統にも目覚めていないルイズは、頼み事をする対象としてはもっとも適さない人物だった。
それが昨日会ったばかりとはいえ、この上もなく頼りにしている存在からの申し出であれば、喜びはひとしおだろう。
端的に言えば、ルイズは舞い上がった。
「何? 何かほしい物でもあるの? なんでも買ってあげるわ!!」
その主と同じように、ブラムドの心境も同じように端的に言おう。
「武器? 食べ物? 服? アクセサリー?」
正直、ルイズの勢いと奇妙な目の色に少々気圧されていた。
「い、いや、服も必要といえば必要だが、とりあえずはアクセサリーのような物が欲しいのだ。似たような形の物をいくつかの種類で」
「指輪とかネックレスとか?」
「そういった物でも構わないし、そういった物でなくても構わない。例えば何か金属の塊や石、何かの駒や宝石でもいい」
曲がりなりにも公爵家の令嬢であるルイズは、当然装飾品の類も数多く所有している。しかし、それらを寮へと全て持ち込むようなことはしていない。
何よりも学びに来ているのだ。
基本的に真面目なルイズはその原則に基づき、家族との思い出の品など、肌身離さず持っていたい物だけを持ち込んでいた。
ブラムドへ渡すことが嫌だというわけではないが、石でも良いと言われる程度のものとして与えるのには流石にためらわれた。





悩んだ末にルイズが取り出したのは、父であるヴァリエール公爵から与えられたチェスの駒であった。
金と銀でできた駒。
駒の底にはなめし革が張られ、ガラスの盤を傷つけないようになっている。
無論細工も見事な物で、馬をかたどる騎士の駒は息づかいが聞こえてきそうですらあった。
わざわざこのような物を送られる程度には、ルイズもチェスをたしなんでいたが、残念なことにチェスは一人ではできない。
少なくとも、今のルイズには無用の長物と言えた。
以前シエスタに手ほどきをしようと言ったこともあったが、使用人であるシエスタにはそれほど自由な時間はない。
簡単にルイズから駒の説明を受けたブラムドは、満足げにうなずく。
「申し分ない。少なくとも今はな」
「何に使うの?」
六種の金の駒、六種の銀の駒、併せて十二種の駒へ、ブラムドは魔力を込めていく。
『呪物創造(クリエイト・デバイス)』
「魔法を使うには目標が必要だ。自らを対象とするようなもの、敵を対象にするようなものであれば簡単だが、見えないものを対象にするのは難しい」
魔法を使えないルイズは、ブラムドの言葉を想像するしかない。
それでも、見えない物を目標にするという困難さは容易に想像がついた、
「この駒に込めている魔力は、それぞれ少しずつ違う。例えて言えば、それぞれに違う文字のようなものだ」
ブラムドが事実を知ることはないが、本来『呪物創造』は魔法を行使するための発動体を作るための魔法である。
魔法王国カストゥールの魔法も、元々はハルケギニアと同じように発動体を必要としていた。
その形状は杖だけではなく指輪なども含まれていたが、ロードス島での研究が進んだ結果、後に発動体を必要としなくなった。
魔法を物に込める付与魔術の術者であったアルナカーラは、この発動体に別の使い道がないかと研究を進める。
やがてその研究は成果を上げ、隔てた場所を行き来する『転移(テレポート)』や、
『心話(マインドスピーチ)』の目標とすることを可能にした。
数多あるアルナカーラの功績の一つだ。
ブラムドが、魔力を込めた金の女王をルイズに渡す。
不思議そうな顔をし、ブラムドへ話しかけようとしたルイズだったが、ブラムドが口元に当てた人差し指に口を閉じる。
『心話』
……それを持っていれば、こうやって心の声が聞こえるようにもなる。
ブラムドの声、それも心を通わせているからか、竜の姿をしていた時の声をルイズの心は聞く。
……すごい!! こんなこと、ハルケギニアの魔法では絶対にできないわ!!
ルイズの驚きを表す心の声に、ブラムドは愉快そうな笑みを浮かべた。
「ついでに込めた魔力も隠してしまおう」
「そんなこともできるの!?」
「問題はない」
草原で、竜から人へと姿を変えるときにも口にした、こともなげな台詞。
『魔力隠蔽(シール・エンチャントメント)』

自らの使い魔へ畏敬の念を送ると共に、使い魔にふさわしい主になることを、ルイズは改めて誓った。


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