あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの超律-04


「うーん……」

 太陽の光と、何か大きなモノでわき腹をつつかれたような衝撃を受けることで、その日マグナの意識は覚醒した。
 ぼやける視界をそのままに、大きく伸びをして野宿による肩のこりをほぐす。
 あくびをしようと口に手を当てたところで、再び背後から、今度は頭を小突かれた。
 マグナはうるさいなあ、と思いながら視線を衝撃の元凶に向けた。

「きゅい」

 ……。

 沈黙するマグナ。
 ようやく鮮明になった彼は、何か、とてつもなくでっかい生き物とばっちり目が合っていた。
 からみあう視線と視線。好奇の色を隠そうともしない、でっけえ生き物の瞳。

「……?」
「きゅい?」

 首をかしげるマグナ。つられて首をかしげるでかいの。
 目の前のそれは、立派な翼に堂々とした体躯をもち、見事なまでに青い鱗が鮮烈で、パッと見、トカゲのような顔だった。
 ドラゴンである。
 朝、目覚めたら目の前にドラゴンがいた。しかも目が合った。
 悩むマグナ。寝ぼけているので、即座に状況が理解できなかった。
 具体的には、ドラゴンの好奇の瞳が自分に対する食欲なんじゃないかなー、と想像するのに十秒ほどかかった。

「うわーっ!???」
「きゅいきゅいー!?」

 きっかり十秒。ようやく音をたてて、「ずざざ」と後ずさるマグナ。
 ドラゴンびっくり。
 マグナは反射的に腰の剣に手を伸ばしたが、まくら代わりにしていた剣は、鞘に入ったままドラゴンの足元に転がっていた。
 色々とダメである。

「きゅいきゅい」
「ははは……は、話し合おう!」

 「きゅいきゅい」言いながらジリジリと迫ってくるドラゴンに、わりと本格的に生命の危機を感じて後ずさるマグナ。
 その実、ドラゴンは突然の大声に文句を言っているだけなのだが、あいにくマグナはドラゴン語を解さなかった。
 しかし、ついに壁にまで追い詰められたマグナが、話し合おうと言った瞬間、ドラゴンは前進を止め、なぜかキラキラと目を輝かせて三倍速で「きゅいきゅい」鳴き始めた。
 もちろん、三倍速だろうが三分の一だろうがマグナには「きゅいきゅい」としか聞こえない。
 なので、まだ朝も早く、野宿と言うこともあっていい加減に眠いマグナは、増大する睡眠欲に引っ張られた。

(危険は、なさそう、だよな……)

 そう楽観的に判断し、マグナはゆっくり目を閉じて睡魔の甘美な誘惑に身を任せ……。

「きゅいっ!!」
「あぐっ!??」

 そして、ドラゴンの強靭な顎で額を一撃され、問答無用に覚醒したのであった。当然、涙が出るほど痛い。
 マグナが鼻の奥のきな臭さと、額部の鈍痛に目を白黒させていると、ドラゴンは機界ロレイラルの銃器「ガットリングガン」のような勢いで「きゅいきゅい」と鳴き始めた。
 突然ドラゴン語が翻訳されるような都合の良い事はなかったが、話はちゃんと聞けと抗議していることは、マグナにも想像できた。

「ごめん、まだ眠くてさ」
「きゅい……」

 よく居眠りを注意されていたことを思い出して、マグナが小さな言い訳をしつつ謝ると、ドラゴンはしょぼんと頭を下げてしまった。

「あ、落ち込むなって。……起きちゃったから付き合うよ、それと今度はちゃんと聞くから」

 そう言いながら、マグナが鼻先をなでてやると、ドラゴンは再び目を輝かせて「きゅいきゅい」言い始めた。
 やはりマグナには「きゅいきゅい」としか聞こえないのだが、今度は聞く姿勢をとったためか、感情のようなものを感じることができた。
 その感情に応じてマグナが適当に相槌を打つと、ドラゴンの方も素直な反応を返してくれる。そうなると、少し楽しくなってきた。
 頭いいなお前などと言いつつ、その奇妙な「会話」を続けるうちに、マグナは自分の周りの景色が変化していることに気が付く。
 いつの間にか、複数の幻獣や大型動物の類が、うるさそうにしながらもマグナの周囲の地面でくつろいでいたのである。
 どうやら、自分が彼らの住居に寝床を求めたらしいことをマグナが気付くのに、それほど時間は要らなかった。

「あ、あの」
「うん?」

 マグナがドラゴンの相手をしていると、背後から控えめな声がかかった。
 厩舎に入ったことをとがめられるかと、マグナが覚悟をして振り向くと、背後には一人の少女が立っていた。
 黒髪とメイド服が特徴の、清楚な感じがする少女だった。少女は幻獣が怖いのか、マグナから十歩ほど離れた位置にいる。

「君は?」
「は、はい。 学院でご奉公をさせていただいております、シエスタと申します。そ、その、厩舎が騒がしかったので……」
「あ、ごめん! もしかして起こしたのかな?」
「い、いえっ! そんな、貴族の方にご心配をいただくほどのことではなく……あうあうあう」

 早朝から騒ぎすぎたのかと思ってマグナが頭を下げると、おどおどしていたシエスタは、今度は怒涛の勢いで恐縮しはじめた。
 彼女の言葉によって貴族と勘違いされたことを知って、マグナは自分の姿を確認する。
 くたびれた着衣はわらまみれで、触れてみた髪には寝癖がついていた。
 貴族とは間違えようがない格好だった。

「ええと、シエスタさん?」
「し、シエスタとお呼び下さい!」
「はあ、じゃあシエスタ。俺は貴族じゃないよ?」
「え?」

 ポカンとした様子のシエスタを前にして、マグナはとりあえず立ち上がると、まずは衣服についたわらくずをポンポンと払った。

「そもそも、こんな朝早くからわらまみれでドラゴンと遊んでいる貴族なんて居るわけないって」
「は、はあ……でも、それならあなたは一体?」
「名前はマグナ。昨日召喚されたルイズ、様の使い魔ってことになると思う」

 マグナがとってつけた「様」とともに主人の名を告げると、シエスタはようやく納得したように表情を和らげた。
 ゼロのルイズが平民を召喚したことは、同じく平民であることも手伝って、使用人の間でも有名だったのである。

「ミス・ヴァリエールが平民の使い魔を呼び出されたことは聞いていましたけど、本当だったんですね」
「はは。呼び出された日の内に部屋からたたき出されて、ご覧の通りだけどね」

 おかげでわらまみれ、と肩を落としたマグナの様子に、シエスタはくすくすと可愛く笑った。
 きゅいきゅいと鳴き声が聞こえたので、「友達は出来たけど」と付け足すと、ドラゴンが嬉しそうに鳴いた。

「竜になつかれちゃうなんて、マグナさんは不思議な方ですね」
「うーん、同じ使い魔だからかな?」

 一瞬、自分が召喚師だからかなと考えたマグナであったが、口には出さずに別のことを言った。
 それは、マグナの中に召喚師を名乗ることへの抵抗感があったためなのかもしれない。

「ところでシエスタ。顔を洗いたいんだけど、水の使えるところを教えてもらえないかな?」
「はい、いいですよ。そのままでミス・ヴァリエールにお会いになったら、マグナさん怒られちゃいますから」

 クスクスと笑うシエスタに、マグナは恥ずかしそうに頬を指でぽりぽりとかいた。
 「こっちです」ときびすを返したシエスタを追って、マグナは目覚めたばかりの右足を前に出す。
 背後から聞こえる、名残を惜しむようなドラゴンの声に手を振って返しながら、マグナは昇ったばかりの太陽を見上げて、一日の始まりを噛み締めた。

ゼロの超律4「夜、明けて」 了




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