あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ベルセルク・ゼロ-19


 険しい山道を進むと、峡谷にはさまれるように造られた町並みが目に入る。
 月の光に照らされたそこはアルビオンへの『船』を出している港町ラ・ロシェールだ。
 山道に月の光を浴びて影が伸びる。
 ワルドとルイズが跨るグリフォンの影。それとギーシュと少女が跨る馬の影だ。
 ギーシュの馬に跨っているのはグリズネフから救出したあの少女だ。
 少女はメリッサと名乗った。
 メリッサは亜麻色の髪を肩まで伸ばしていて、今はルイズの制服を身に纏っている。メリッサの身長はルイズより頭一つ大きいので、服の丈は足りず、ボタン回りもぱつんぱつんだ。
 そのままではあまりに扇情的だったので、今はギーシュのマントを羽織っている。
 町が見えたことで一同はほっと一息ついた。
 学院を出発してからここまでほとんど休憩を取らずに駆け続けていたのだ。グリフォンに跨っていたルイズやワルドはともかく、激しく揺れる馬上にいたギーシュは疲労困憊だった。
 それでも女の子に弱みは見せられないと、ギーシュは鼻から息を吐いて背筋を伸ばしている。
 ワルドはそんなギーシュにちらりと目を向けると、ふぅと息をついた。
(今日は上等の宿に泊まることにしよう)
 しっかりと疲れを取らなければ明日以降に影響が出る恐れもある。ワルドはそう考えた。実際、ワルドも昼間の思わぬ精神力の消費で少々疲れを感じていた。
 町が見えたことで、自然と一同の足が速くなる。
 その時だった。
 突然、ギーシュが駆っていた馬の足元に矢が突き立った。
 驚いた馬は慄き、立ち上がってしまう。
「うわわわ!!」
 馬から振り落とされたギーシュは地面でしたたかに腰を打ち付けた。
 一瞬遅れて少女・メリッサがさらにギーシュの上に落ちてくる。
「うぼふ…!!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!!」
 慌ててメリッサは飛びのいた。幸い、ギーシュがクッションになって彼女自身に怪我はない様だった。
「うがが……き、気にしなくて結構だ……! 怪我がないようで何より……!!」
 涙目になりながらもギーシュは親指を突き立てる。
 ワルドは油断無く周囲に目を光らせた。
 空気を切り裂く音がして、次々と矢が飛来してくる。
 ワルドが風を巻き起こし、それらの矢を蹴散らした。
 矢は山道を挟む崖の上から放たれている。月の光に照らされて、崖の上で黒い影が蠢くのが見えた。
「何なのあいつら!!」
 ルイズがヒステリックに叫ぶ。
「盗賊か夜盗の類か……? ぬぅ!」
 崖の上だけでなく、岩陰からも影が飛び出した。
 薄汚れた鎧を身に纏ったその出で立ちから、傭兵崩れの盗賊だとワルドは判断する。
 盗賊たちは剣や斧、思い思いの武器を持ち、グリフォンに跨ったワルドたちに襲い掛かる。
 そのうちの一刀がグリフォンの翼を掠めた。
「チィッ!!」
 ワルドは思わず舌を鳴らした。
 ルイズを抱え、バランスを崩したグリフォンから飛び降りる。
「ギーシュ君! 少女を連れてこっちへ!! 私から離れるな!!」
 近くにいた盗賊を一人切り伏せてワルドは叫ぶ。
「ワルド! まずは上の奴らをなんとかしなきゃ!!」
「今飛び上がれば格好の的だ。心配しなくても上からの射撃はもうない。味方に当たるからだ」
 ギーシュがメリッサの手を引き、ワルドの傍に駆け寄ってくる。
「ギーシュ君、その少女は君が守れ。ルイズは私が命をかけて守る」
 ギーシュは不安そうなメリッサを一瞥すると、こくりと頷いた。
 満足そうにワルドは微笑み、頷く。そんなワルドにルイズが食って掛かった。
「ワルド! 私戦えるわ!!」
 ワルドは困ったように微笑み、ルイズの頭を撫でた。
「大丈夫だルイズ。僕に任せて」
 雄たけびが聞こえる。斧を大きく振りかぶった男が間近に迫っていた。
 ―――杖を抜き、一閃。
 男は喉から血を噴き出し、もんどりうって昏倒した。
 ざっと見回して、敵の数はおよそ20。ワルドはしかし、その顔に余裕を浮かべていた。
 メリッサを背中に庇い、ギーシュは胸元のポケットから薔薇の造花を抜いた。
 あのグリズネフとの戦いを経て、精神力は既に空。体も、水の秘薬で治療したとはいえあちこちが痛む。
 敵を鮮やかに切り倒すワルドの姿が目に入る。メリッサの震えを背中に感じる。
「ワルキューレ!!」
 杖を振る。途端に意識が白濁する。唇をかみ締める。痛みで自分を引き止める。
 そこに現れたのは彼の誇る勇壮な戦乙女とは似ても似つかぬ醜悪な青銅の塊。
 ただ、腕があるだけ。ただ、足があるだけ。
 かろうじて人の形を保っているだけの、のっぺらぼうの人形だった。
 これが、からっぽの精神力で作り出せた限界。格好つけのギーシュには耐え難い無様だった。
 しばし、ギーシュは己の錬成した人形を見て唖然とする。
 だが、敵は待ってはくれない。鉄の刃を振りかぶって、ギーシュがかろうじて作り出したゴーレムへと切りかかる。
 ギーシュの脳裏に、グリズネフの言葉がよぎった。

 ――――ゴーレムに立派な鎧も兜も必要ねえ。人を殺すにゃあ手と足があって、武器が持てりゃあ十分だ

「うわああああああああ!!!!!」
 恥も外聞も無く、ギーシュは叫ぶ。
 鎧も兜も持たぬ人形は目の前に迫った盗賊に向かって突進した。


 ルイズは悔しくて、悔しくて、唇をかみ締めていた。
 守られているだけの自分が悔しかった。求められない自分が悲しかった。
 自分はあの土くれのフーケだって捕まえたんだ。
 もう私は『ゼロ』のルイズなんかじゃない。なのに。
 もうギーシュはぼろぼろだ。操っているゴーレムは普段の形とは異なる、とても単純化されたモデル。それは彼の精神力の限界を示している。
 ワルド。彼もまた、口には出さないけれど疲労しているのだ。
 その証拠に、魔法を使ったのは矢を払った最初の一回だけ。
 それから彼はずっと杖を剣として扱い戦っている。
 盗賊から救出した少女・メリッサはもともと戦う手段を持たない。
 つまりは、今この中で五体満足に戦えるのは自分だけなのだ。
 本来戦うのは自分であるはずなのだ。
 そもそもこれは私が姫様から仰せつかった任務なのだ。
 なのに―――こうやって、二人が戦っているのを後ろから見てるだけなんて、
「そんなの、許されるわけないじゃない!!」
 ルイズは杖を手に取り、駆け出した。
「なっ!? ルイズ!!」
 予想外の事態に、ワルドの動きが乱れる。
 ワルドの射程圏内を外れたルイズに盗賊が迫る。
 ルイズは一瞬恐怖に体が固まりながらも、呪文の詠唱を始めた。
「落ち着いて……出来る、私は出来る!!」
 紡ぐ言霊は『錬金』の魔法。必ず失敗し、爆発を起こす魔法。
 だが、それは発想を転換すれば必ず対象を爆発させる魔法と成りえる。
 フーケとの戦いを経て、ルイズが必死に考えた『戦うための手段』だった。
 問題はその射程の短さ。対象に確実に魔力を伝導させるために必要な距離はおよそ1メイル。
 盗賊の持つ剣が振り上げられる。
 しかし―――
(間に合う!!)
 ギリギリで詠唱を終えたルイズが杖をふる―――その刹那。
 ワルドがルイズの体を抱きかかえ、飛んだ。
 盗賊の振る剣がワルドの羽織るマントを切り裂いた。
 ルイズの制御を離れた魔力はあらぬところで爆発を起こし、四散した。
「…ッ! つぅ……!!」
 ワルドの顔が歪む。剣が掠めたのだろう、ワルドの右肩に血が滲み出していた。
「ワルド!!」
 ルイズはワルドの腕を離れようと身をよじらせる。
 ワルドはどこまでも涼やかな微笑みを浮かべ、ルイズを強く抱きしめる。
「大丈夫だ、ルイズ……安心して。君は、ここでじっとしていればいいんだ」
「違うッ! ワルド、私は……!!」
「ルイズ、僕を信じて」
 そう言い残すとワルドはルイズから離れ、再び盗賊たちと対峙した。
 残されたルイズは、ふるふると力なく首を振る。
「信じているわ……ワルド……だけど………」
 刃と刃が擦れ合う甲高い音が、どこか遠くで鳴っているような感覚に陥る。
「あなたは……私を信じてはくれないのね」
 足元がおぼつかない。見ると、ルイズは池をたゆたう小船の上にいた。
 霧に囲まれて対岸の様子はよく見えない。もちろんこれは錯覚だ。弱いルイズの心がこんな風景を見せている。
 この場所は、幼いルイズが辛いことがあった時に逃げ出していた隠れ場所だ。


(結局、私は―――)

 変わったはずだった。
 土くれのフーケを捕まえて、もうゼロだなんて呼ばせないように、戦う手段を頑張って探して。
 もう私は『ゼロ』なんかじゃない。
 そのつもりだった。
 ルイズの脳裏に、別れの時に見たガッツの背中が思い浮かぶ。

 ――――お前、何か勘違いしてるんじゃねえか?

 力が抜けて、ルイズはその場にしゃがみこんだ。
 小さく膝を抱えるその姿は、行き場を見失った迷子のようだった。


 結局、私はこの場所から一歩も動いていなかったんだ―――――


 ぽろぽろと涙が零れる。
 子供のようにうずくまり、嗚咽を漏らしながらルイズは泣いた。
「ルイズッ!!!!」
 ワルドの声に、ルイズははっと顔を上げる。
 一本の矢がルイズめがけて飛来していた。
 岩陰から強襲した盗賊の中にも、弓を持つ者がいたのだ。
 ワルドは呪文を紡ぐが間に合わない。既に空に近かった精神力は、新たに魔法を発動するのに致命的な時間を要した。
「馬鹿な……」
 思わず、ワルドの口から声が漏れる。
「何故…何故貴様らはルイズを狙う!!」
 半狂乱になりながらルイズの方へ手を伸ばす。
 ルイズの目には、迫り来る矢の動きがやけに遅く見えた。
 襲い来る激痛を予感して硬く目を閉じる。

 ドン! と重い音がして地面が揺れた。

 矢はいつまでたってもやってこない。

 ルイズは恐る恐る目を開く。

 たなびく黒いマント。いつかのように、広い背中をこちらに向けて。

 ―――黒い剣士がそこにいた。

 ルイズに迫っていた矢は構えた大剣に弾かれ、地面に落ちている。
「ガッ…ツ……?」
 幻ではない。目の前の黒い剣士は、確かな存在感を持ってそこにいる。
「どうして……?」
 事態がうまく飲み込めない。ルイズは恐怖で座り込んだ姿勢のまま、ぼんやりと風に揺れる黒いマントを見つめていた。
「おい」
 低く響くその声に、ルイズの肩がびくりと反応する。
 体は前を向いたまま、ガッツが視線だけをこちらに向けてくる。
「何そんなとこでうずくまってやがる」
「え……?」
 突然現れた黒い剣士の出で立ちに唖然としていた盗賊たちが我を取り戻す。
 ルイズを囲むようにしていた3人の盗賊が、目線で示し合わせて同時に飛び掛ってきた。

 バリリ……!
 響いた音はガッツが歯をかみ締めた音。

「これは……てめえの戦だろうが!!」

 ぎしり、と剣の柄を力強く握りしめ、凄まじい速度で振り切られた鉄塊は、一振りで三人の盗賊を吹き飛ばした。


 駆け出すガッツの背中を、ルイズは呆然と見つめていた。
 胸の中でガッツの言葉を反芻する。
 何故だか―――何故だかはわからないが、胸が熱くなった。
 涙が滲んで景色が歪む。
 だがこれは先程までとは意味の異なる涙。
 ぐし…と袖で目を拭う。
 そうだ―――これは、私の戦いなんだ。
 たとえ、私に戦う力が足りないのだとしても―――戦えないのだとしても!

「『戦わない』なんて選択肢、ありえないのよ!!!!」

 杖を抜き、しっかりと立ち上がって駆け出す。
 ルイズの目は、鮮烈な輝きを取り戻していた。


 決着はあっという間だった。
 盗賊の半数を切り倒したところで、残りの者は散り散りに逃げ出していった。
 ガッツはその背にドラゴンころしを仕舞う。と、ギーシュが話しかけてきた。
「ガッツ、キミはどうやってここに?」
 ガッツはその問いには答えず、空を見上げた。
「あっちも片付いたみてえだな」
「え?」
 つられてギーシュも空を見上げる。
 見覚えのある風竜が空を舞うのが見えた。

 宿場『女神の杵』。ラ・ロシェールで一番上等の宿だ。
 そこの一階に備え付けてある酒場で、一行はくつろいでいた。
 よほど疲れたのか、机に突っ伏しているのはギーシュで、それを心配そうに見つめているのはメリッサだ。
 死んだようなギーシュにパックがおもしろそうにちょっかいを出している。
 ガッツはコップに注がれた酒を傾けていて、キュルケがそのすぐ隣で熱っぽい目をガッツに向けている。その隣には黙々と本を読み続けているタバサの姿があった。
 ガッツとパックをここまで運んだのはタバサの使い魔である風竜シルフィードだったのだ。
 ルイズとワルドの姿はここにはない。二人はアルビオンに向かう船の調達に向かっていた。
「それにしてもあんたぼろぼろねえ」
 キュルケが膨れ上がったギーシュの頬をつつく。
「痛い痛い! 頼むから触らないでくれたまえ! 大体なんで君たちまでここにいるんだ! ガッツをここに連れてきたらもう用は無いんだろう!?」
「だぁっておもしろそうなんだもん」
「君なぁ……これは極秘の任務なんだぞ? 遊びじゃあないんだ!」
 よろよろと体を起こしながらギーシュはビシッ、とキュルケを指差す。
「硬いこといわないの!」
 芝居がかったその仕草に少しイラついたキュルケは強めにギーシュの後頭部をはたいた。
 抵抗する力がこれっぽっちも残っていないギーシュは強かに額をテーブルに打ち付ける。
 メリッサはそんな二人のやりとりを止めるに止めれずおろおろとしていた。
 額から血を流し痙攣するギーシュの目の前にシュタッと栗頭の妖精が舞い降りる。
「極上の傷薬はいかがかね?」
 まるで商談に使うような眼鏡をかけてパックはギーシュの眼前にずずいと詰め寄る。
「な、なんだきみは!」
「なんだチミはってか。何を隠そうこの私こそが『鉄の城』ガッツの家主であるパックだ」
「はあ!? ってちょっとおい何を!」
「見れば随分体を痛めているご様子…この『妖精の粉』を用いれば明日にはもう完全、完調、絶好調でございます。なぁにお代は後払いで結構でゲスよ」
 いやらしい笑みを浮かべ、ギーシュの返事も聞かずパックはギーシュの体に己のりん粉を擦り付ける。
「な、なんだこれ。痛みがみるみる引いていく……!」
「どうでげす? いい具合でざんしょ?」
「す、凄い!! もっとやってくれ!!」
「お安い御用ざんす」
 後に、ギーシュは法外な値段を請求され、パックの奴隷と化すことになる。
 ワルドとルイズが戻ってきて、出発は明後日になることを告げた。
 ワルド、ルイズとメリッサ、ギーシュとガッツ(とパック)、キュルケとタバサ、一行はそれぞれ割り当てられた部屋に戻る。
 メリッサの今後など考えるべきことはあったが、それは全て明日に回して今日はとにかくしっかり休むことになった。

 月の光を浴びる丘に、一人の女が立っている。
 女が見下ろす先にはルイズ達が泊まる『女神の杵』亭があった。
 カツン―――と小石が転がる音がする。
 気配を感じて女は後ろを振り返った。
 そこには白い仮面を被った長身の男が立っていた。
 男の手には血に濡れた杖がある。
 しばしの無言。
 月の光を浴びて、岩肌に二人の影が伸びている。
「どういうつもりだ」
 先に口を開いたのは仮面の男だった。
「何がだい?」
「とぼける気か?」
 男は血に濡れた杖を女に突きつけた。
「逃げた奴に聞いた。貴様が言ったらしいな。『桃色の髪の女を討ち取った者には倍の金を出す』と。俺は『ルイズにだけは手を出すな』と言ったはずだな?」
 仮面の男から殺気が漏れる。
 しかし、喉元に刃のように鋭い杖を突きつけられてなお、女はくつくつと笑った。
「少しあのお嬢ちゃんには怖い思いをしてもらおうと思っただけだよ。それくらいのお遊びは許されるだろう? 何しろあの子は私を捕まえた憎き相手なんだからさ。それに―――」
 女は―――『土くれ』のフーケは目を細める。その瞳には嘲りの色が浮かんでいた。
「まさか、あの程度の連中にあの『閃光』のワルドが遅れをとるとは思わなかったんでね」
 男の手がピクリと揺れる。対するフーケはあくまで余裕。
 またしばし無言が続く。
 仮面の下で、男は舌を鳴らした。
「二度目はないぞ」
 そう言って、杖を引く。マントを翻し、フーケに背を向けた。
「次に勝手な真似をすれば、殺す」
「心得とくわ、ボス」
 わざとらしくそう呼んで、フーケは笑った。



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