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雷撃のタバサ二話-2



アルデラ地方はガリアの首都リュティスから馬で二日、徒歩で五日ほどの距離にある。速さを誇る風竜のシルフィードであれば、二時間の距離であった。
ゲルマニアとの国境沿いを埋める鬱蒼とした深い森は、『黒い森』と呼ばれる。
そんな森の一角にエギンハイム村はあった。戦争のたびにガリアとゲルマニアを行ったり来たりする、人口二百人ほどの小さな村である。

「ゲルマニアの辺境ならともかく、こんな暖かい場所にまで『雪の精霊』が来るなんて信じられないのね、きゅい……」

視界に広がる『黒い森』を眺めやりながら、シルフィードが呟いた。子供といえども知性に優れた風韻竜の一族である。精霊がいかなるものかは十分に心得ている。

「だがよ……どうやらその『雪の精霊』とやらが村を襲ってるのは本当らしいぜ……見な、しるふぃ」
「わわ、真っ白になってる。雪風に包まれているのだわ……!」

果たしてとらが指した方向に、そこだけ白い霧に包まれた場所があった。ぽっかりと雪に包まれているのは、おそらくエギンハイム村であろう。

シルフィードは村のはずれに舞い降りた。
村に一歩足を踏み入れると、たちまち、雪交じりの風が二人を包む。雪に閉ざされた村には、当然ながら人影は人っ子一人見当たらない。
人間の姿に変化し、マントを着込んだシルフィードがくしゅんとくしゃみをした。とっくに雪の季節など過ぎているのに、この雪と寒さは尋常ではない。

「やはりバケモンの仕業だな……妖気交じりの雪だぜ」
「くしゅん……けけ、結構寒いのね……きゅいきゅい……やっぱり、『雪の精霊』がいるのかしら?
 とらさま、まずは村長さんのところに行くこと、ってお姉さまに言われたわ……くしゅん!」

シルフィードの言葉にとらも頷いた。とりあえず、まわりは雪吹雪ばかりで相手の姿も見えない。人間から情報を得るのが先決せあった。
二人は手近な家で村長の屋敷の場所を聞き、村長の家に急いだ。

おおおおおおお…… おおおおおおお……

雪混じりの冷たい風が唸りをあげる。まるで精霊が咽び泣いているような悲しい風音であった。
む、とタバサの姿に変化しているとらが、わずかに顔をしかめる。

(こいつは……まさか)
「不思議な風……まるで泣いてるみたい。きゅいきゅい……」

シルフィードも不思議そうに風の音に耳をすませる。切なく響く風音は、エギンハイム村中に長く尾を引いた。


「なんと、花壇騎士さまでいらっしゃいましたか……! いやはや、お若いのにさすがですな」

村長はぺこぺこと愛想笑いをする。しかし、その内心は複雑であった。
まず、目の前の『騎士』の年齢はどう見積もっても十二、三歳の少女である。まだ年端もいかない子供ではないか。

「そう。こちらは花壇騎士タバサさま! 二つ名は雪か……ううん、『雷撃』! 『雷撃』のタバサ様よ! 『炎』を操るスクウェア・メイジなの。私は付き人のシルフィ!」

そう二人を紹介する二十歳ほどの女性のほうが、よほどメイジらしいといえた。すこし落ち着きがないが。
しかし、それ以上に村長を困惑させているのは、そのタバサという少女の放つ殺気であった。ぎらぎらとした目、邪悪に歪んだ口元……目が合うたびに、村長はびくりと震える。

「そうですか、『火』のメイジさまであれば安心です。あの忌々しい『雪の精霊』をやっつけてくださいませ……
 あのバケモノがこの二週間というもの村を雪で閉ざし、食料や薪の貯えももう限界です。なにとぞ、村を救ってくだされ」

シルフィードがこほん、と咳払いをした。

「そこなの、村長さん。どういったいきさつで『雪の精霊』がこの村を襲ったのか、詳しく話してもらわないと対策が取れないわ!
 ……と、とらさ――こほん。騎士さまが仰っているの! きゅいきゅい」
「はあ、そのことでしたら、私の息子にお聞きになるのがよろしいかと……サム! 騎士様たちにご説明して差し上げろ」

サムと呼ばれた村長の息子はごつい大男であった。タバサたちの前に座った彼の左手には包帯が巻かれていた。

「あれは、二週間ほど前のことでさ……」

サムの話によれば、彼はライカ欅の森に向かっていたところ、『雪の妖精』に遭遇したというのである。
『雪の妖精』は人間の娘の姿に化けてサムをおびき寄せ、彼に襲い掛かって凍傷を負わせたのだという。彼は手に持っていた斧で反撃をした。

「これがその時の傷でさぁ。だが、その雪のバケモノ、もっととんでもない怪物連れてきやがった……! ヤツには親がいたんでさ!」

『雪の妖精』は逃げ去ったのもつかの間、翌日には村は雪に閉ざされてしまった。こうして、花壇騎士に退治の依頼が出されたのであった。
サムは拳を握り締める。その目には怒りが浮かんでいた。

「騎士様! あのバケモノをぶっ殺して、どうかこの村を救ってくだせぇ!」

自身が幻獣であるシルフィードは、サムの言葉に微かに顔をしかめる。そっととらの顔を窺うが、とらは黙って話を聞いているだけであった。


「どう思う、とらさま……?」

窓から白い景色を眺めていたシルフィードは、ベッドに腰掛けるとらに聞いてみた。
シルフィードはさっきから悩んでいたのだった。
確かに、サムという男は凍傷になったかも知れないが、知らなかったとはいえ雪の妖精を素手で掴んだのだ。それぐらいは当然の結果である。
人間の斧の一撃で妖精が深手を負うとも思えないが、どうやらそれが『雪の精霊』の怒りをかったらしい。精霊の行動は、人間の尺度で測ることはできないものだ。

「け、斧で殴られたぐらいでくたばる妖怪がいるかよ。『雪の精霊』とやらが怒る理由は別にあるだろうよ……くく、しるふぃ。オメー気付かねぇか?
 かすかだが……この屋敷には妖のニオイがするぜ。雪の妖精とやらと関わりを持ったニンゲンが、もう一人居やがるのよ」

タバサの姿をしたとらはニヤリと笑って扉に目をやる。と、まるで時間をはかったように、緑色の服を着た細身の青年がドアを開けて姿を現した。
シルフィードが目を丸くする。それは昼間村長と一緒にいた息子のうちの一人、サムの弟であった。

「そう、オメェだ……くっくっく……おら、ニンゲン、何しに来た?」

青年はきっとタバサを見つめる。体はサムに比べて細身だが、まじめそうな表情が決意に満ちていた。

「騎士様……『火』のメイジさまだと仰ってましたね。その……『雪の精霊』を退治するつもりなんですか」
「そうだな……そう依頼したのはオメェたちだぜ」
「お願いです、やめてください! 『雪の精霊』が死んだら、アイーシャも死んでしまう!」
「だ、誰? アイーシャって誰のことなの? きゅいきゅい! とらさまも、シルフィのこと置いてけぼりにしないの! もう!」

話が見えずに素っ頓狂な声を上げてシルフィードが聞いた。唇を噛んで青年が俯く。

「俺の名前はヨシア。アイーシャは、『雪の妖精』の名前で……俺の恋人なんです……」


おおおおおおおおお…………

村のはずれの森、ひときわ高いライカ欅の頂上で一人の少女が悲しげに叫びを上げていた。
その少女の声は風になり、冷たい雪を伴って村に吹き込む。
銀色に輝く髪がびゅうびゅうと風に揺れる。真っ白の布をまとった姿は、この世のものとは思われぬほどに美しかった。
少女は男を想い、張り裂けそうな胸に痛切な叫びを上げる。風がいっそう激しさを増していく。


おおおおお……おおおおお…………

女の声は止まない。
……そんな哀しい雪風の吹く晩のことであった。



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