あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第四話


 ルイズの爆発で半壊した教室の片づけを終えた二人は、そのまま昼食を取りに食堂に向かっていた。
 その間はお互い無言で歩き続けていたが、ルイズの心に朝からあった憂鬱はすっかり消えていた。ミゴールは変わらず自分に忠誠を誓っている。そしてルイズは己の意思でそれを認め、また自分の目標も定めた。

 カルドセプト。
 世界のあるべき姿を記していた書。

 始祖ブリミルの神話。それをさらに創造したという、世界の始まりの始まりの神話。その全てを丸ごと鵜呑みにする気は無い。しかしミゴールのあの体、世界から拒絶されるていた黒い血の流れ落ちる様を見た。それに、ブリミルがハルケギニアの人類の歴史を作ったのならば、そのブリミルの歴史にも始まりはあるはずだ。以前ならば異端として考えることもしなかった、神話の始まりについてルイズは新たな解釈を持つようになっていた。
「ま、それは後でいいわね。ミゴール、ここが食堂なんだけど……あんた、食べ物は何を食べるの?」
「本来ならばカルドラの力の薄いもの、精霊力の失われた死肉などを糧としております。しかしながらルイズ様より頂いたこの刻印の加護で大気が我が肺腑を焼いておらぬ今ならば、精霊力の過多に拠らずに糧とできるかと」
 ミゴールの口にした死肉という言葉に顔をしかめるルイズだが、これはミゴールに初めてまともな物を食べさせる機会、すなわち褒美を与えるいい機会ではないかと思い直す。うん、とルイズは一つ頷いて近くのメイドに声を掛ける。
「ちょっと、そこのメイド。こいつ私の使い魔だから食事を用意して頂戴」
「は、はい! ただいま……きゃ、トロール鬼?!」
「まあ似たようなものよ。それとこいつはちゃんと言葉が分かるから。適当にこいつが食べたがったものを食べさせておいて」
 そう言って戸惑うメイドをよそに、ルイズはいつもどおり跪いて頭を下げているミゴールへ呆れたような視線を向けながら席へと向かった。基本的にミゴールはルイズ以外の人間には敵意を抱いている、というかバルテアス神の縁の存在以外は全て敵と考えているようだが、とりあえず昨日のオスマンとの約束を覚えていたことから勝手に暴れ出す心配は無いだろう。まあ先ほどのメイドや食堂の人間に嫌悪感や敵意を剥き出しに対応するかもしれないが、正直お腹が空いているのでメイドにミゴールへのフォローを入れる時間すら惜しい。朝にキュルケの使い魔がミゴールに襲い掛かったゴタゴタで、ルイズは朝食を食べ損なっているのだ。思わず駆け足になりそうなのを押さえ込みながら席に着き、口早に祈りを済ませて料理に手を付けた。

(ん~……空腹は最高の調味料、なんて言葉もあったかしら。馬鹿みたいな話と思うけど、お腹が空いている時だと心に染みるわ。ミゴールも、今頃始めて食べるまともな食事で私に感謝してるでしょうね)
 心の内で思いながら半日以上ぶりの食事の幸せにルイズが浸っていると、隣の席に他の生徒が座るのが見えた。ちらり、と視線だけ動かしたルイズの目に入ったのは、まさにその朝食を食いっ逸れる原因の一端であるキュルケだった。
「ルイズ、ここ座るわね。それで、改めて言いたいことがあるんだけどいいかしら?」
 問いかけにルイズは、口元へ運んでいたスプーンを傾けてスープを喉に流し込みつつキュルケの顔の前に手のひらを突き出して言葉を遮る。正直、何を言いに来たかは分かっているのだが、今は原因の一端がルイズの方にもあることを知ってしまった。キュルケが自分に謝罪する、というのはとてもいい気分なのだが、それが誤解、というかキュルケだけが自分の非を認めてルイズは自分にも非があることを隠している、というのは卑怯というものだろう。口の中のスープを飲み干してから、ルイズはキュルケに朝の原因の説明を(多少ぼかしながらだが)することにした。
「その前にキュルケ、あなたに言うことがあるわ。あなたの使い魔が私の使い魔に襲い掛かった原因なんだけど……」

「ふーん……精霊に嫌われている種族、ねぇ。それで私のフレイムが異常に興奮して襲い掛かったって訳? まあ私がフレイムを御し切れてないって事実は変わらないわね」
 そう言ってため息を吐くキュルケ。とりあえず「精霊に嫌われる種族なのでサラマンダーなどの種族にも嫌われやすい」という部分だけ強調して説明したルイズだったが、そこまで気を使わなくてもキュルケは大してルイズの説明に突っ込んでは来なかった。とりあえずフレイムが単純に凶暴な生き物だった訳では無いということは分かったようだが、キュルケが一番気にしていたのは自分の使い魔を御し切れなかったという事と、そのせいでわざとではないにしろルイズを危険な目に遭わせたという事なのだ。
 と、キュルケはしばらく考え込んでいたかと思うと、にっと不敵な笑みを形作るとルイズへ指を一本立てる。
「……そうね……じゃあ、借り1って事にするわ。私がルイズに負い目があるなんてぞっとしない話だし、とっとと返済してすっきりしたいもの」
「あらそう? だったら一生返済なんてできないほど貸しを増やしてあげようかしら。ふふっ、それってすごく楽しそうだわ」
 にやりという笑顔を浮かべながらルイズが返す。ああそうだ、やはりツェプルストーとはこうでなければいけない、そう思う。キュルケの使い魔の治療のための費用を少し出しておくべきか、などとさっきは思っていたが、やはりそうするべきではないだろう。キュルケとはこうやって遠慮や気遣い無くやり合っている方がお似合いだ。そう思えるだけの心の余裕が今のルイズにはあった。
(借りだの貸しだの言ってるけど、忘れたほうがいいわね。だってその方が楽しいもの)

 昼食の時間の終わりを告げる鐘を聞いて食堂を出たルイズは、入り口で待っていたミゴールを見つけて早速食事の感想を聞くことにした。
「それじゃあ午後の授業に行くわよ。ところで食事は普通に食べられた?」
「はっ」
「…………………………」
 そのまま会話が途切れて教室までの足音だけが響く。
「……」
「如何しましたかルイズ様」
 問いかけるミゴールの声に適当に手を振るルイズだが、心の中で首を傾げていた。今までまともな物を食べていなかったミゴールが、初めてまともな人間の食事を食べたはずなのだ。もう少し、なんと言うか感謝とか感動とかを見せる、そういった反応を期待していたルイズは少々肩透かしを食らった感じだった。とりあえず変なものを出されたのかも知れないので、一応探りを入れてみる。
「え~っと……ミゴール、あんた食堂で何を出されたの」
「はっ、肉と植物で御座います」
 滅茶苦茶適当な答えが返ってきた。
 とはいえ、よく考えてみれば死肉を食っていたなどというミゴールにとっては、食べ物などその程度の認識なのかもしれない。そもそも料理などという概念が無いのだろう。それでも味の違いはあるはずだ、そう思いもう一度さぐりを入れてみる。
「そ、そう。ところで味はどうだった?」
「はっ、腐敗しているということは御座いませんでした」
 そんな返答に頭を抱える。まともな食事を与えて褒美とする、というつもりだったのだが全くその意図は伝わっていないようだ。というか、ミゴールにとって食事は楽しむものではなく単純に生命維持のために必要な行動、それだけなのだった。もう単純に食べ物の味を「食べられるもの」「食べられないもの」の判別にしか使っていないのだ。それほど過酷な状況で生きていた種族だったのだから仕方ないとも言えるが。
「ああもう、そっちはもういいわ。それじゃあ……そうね、メイドにでも言ってあんたの服を作らせようかしら」
「? ルイズ様、別段私は何も必要としておりませんが」
「いいの。ていうか、あんたのその外見ってやたら人目を引いてるのよ。何かローブみたいなもの買うわ。後、あんたって戦士なんでしょ?丸腰じゃアレだから武器も探しておいてあげるわ」
 その言葉に、がっ、とルイズの後ろから床を打つ音が聞こえた。まあいつものアレだろうと思いながらも、今度はうんざりした様子を見せず振り向いたルイズの視線の先には、予想通り跪いたミゴールの姿があった。
「ルイズ様直々のお心遣い、誠に勿体無く……」
「ええ、たっぷり感謝しなさい」
 ふふん、と得意げにルイズはふんぞり返った。今まではミゴールの極端な感謝に気後れしていたが、ミゴールの忠誠を受け入れた今は実に気分がいい物に感じられた。正直、高々この程度でミゴールの忠誠に応えているとは思っていない。ミゴール族を救うこと、カルドセプトを手に入れること、それが二人の目標なのだ。カルドセプトに近づく方法が見えない現在だが、少なくとも今できる事は今やっておくべきだろう。
「あんたが言ったんでしょう、力ずくで奪うこともあるってね。だったら、あんたが万全の状態で戦えるようにしておかないといけないわ。あと、今日の夜から魔法の練習を再開するから付き合いなさい」
 できる限りの「主人としての威厳」を出そうとしながらルイズはそう命じた。
(うん、これはなかなか主人らしい振る舞いと言葉だったわね)
 とルイズは心の中で自画自賛していた。この行動を、その日の夜の内に後悔することになるなどとは思わずに。


 学院長室。その中で深々と椅子に腰掛けながらオスマンは考え事をしていた。
昨日からヴァリエール家の三女が召還した、あの奇妙な使い魔の種族が気になって調べ物をしていたが何の成果もなかった。そして今朝、昨夜から本を調べながら眠ってしまっていたことに気づいたオスマンは気分転換にモートソグニルで女子寮の様子を伺っていたのだ。
 別に邪まな意図は無い。あの使い魔の様子を見る、それが目的だ。邪まな目的は無い。
 そしてモートソグニルの目を通じてオスマンは見た。トライアングルメイジが使い魔とした、そのランクに見劣りしないサラマンダー、その牙、火の息、爪、そのどれにも怯まず傷付かずにいたその奇妙な有り様。それらを手がかりにもう一度調べ物を続けたのだが、結局分かったのは「そんな亜人種の資料は無い」ということだけだ。
 正直、他のメイジ達であればそこでもう調べるのをやめてしまっただろう。しかし、オスマンは昨日相対した時にあの使い魔の周囲で風の精霊のかけらたちが怯えていたのを感じていた。
 あの亜人には何かがある。それも、何か良くない物が。

「失礼します、オールド・オスマン!」
 と、突然ノックもそこそこに学院長室のドアが開かれる。部屋に飛び込んで来たのは頭の寂しい教師、コルベールだった。コルベールは手に持ったスケッチと本をずずい、とオスマンに突き出しながまくし立てる。
「一大事ですぞ、一大事なのです! 始祖ブリミルの使い魔なのです!」

 ぴぴぴ、と口から飛び散るつばをローブのすそでガードしつつコルベールから聞いたことを要約すると、どうもあの奇妙な使い魔に浮かんだルーンは始祖ブリミルの使い魔であったガンダールヴと同じものであったということである。その報告を聞き、オスマンは悩みが一つ増えたのを感じて溜息を吐いた。
 特定の精霊に好かれる、というならともかく、精霊に怯えられるという奇妙な特性。そしてサラマンダーの火の息だけでなく牙や爪ですら傷付かないという体。それに加えて始祖との繋がりがあるかもしれないという情報。そもそも、精霊に嫌われているという時点で、尋常な生き物であるはずが無いのだ。それが始祖と縁のあるルーンを宿している……
「……ガンダールヴといえば、あらゆる武器を使いこなし千人もの軍を一人で壊滅させるとこができるとも言われる。それを使い魔としたのは、ゼロなどという二つ名で呼ばれるヴァリエール家の三女。正直、関連性が見つからん。そもそもあの亜人は正体が分からんというのが……」
「はて、亜人の正体ですか? 確かにトロール鬼が人の言葉を解するなどとは聞いたことがありませんが、別に先住魔法を使うわけでもない普通の亜人ですしそこまで気にするほどではないのでは。確かに戦士としては優れた身のこなしでしたが」
 ミゴールが目を覚ました日のことを思い出しながらも、コルベールは首を捻る。その様子を見てオスマンはもういいとばかりに手を振った。正直、今のこの状態でコルベールと相談して分かることは無いだろう。
「もう良いぞ、ミスタ・コルベール。私が気にしておるのはそんな理由ではないのじゃがな」
 そこで言葉を切る。この教師に、あの亜人は精霊に怯えられている、と言ったところで理解はできないだろう。学院の中でこのことが理解できているのは自分だけだろう、ならば無用の混乱を教師に起こすわけにもいかない。ふと話の方向を変えようとなんとなくの思い付きを口にしてみた。
「そうじゃな、あらゆる武器を使いこなすというガンダールヴというのならば、何かをけしかけてみると言うのはどうじゃろうかな。あるいは逆に、何かに対してけしかけてみるとかのう」
 かっかっか、と笑いながらの冗談交じりの言葉。言いながらもオスマンはいつかこれを試してみようか、などという学院長としてあるまじき事を考えていた。

 そしてその考えは、偶然とはいえその翌日に実現した。
 早朝の学院。普段ならばまだ人もまばらなその時間に教師達は宝物子に集まり、それぞれに勝手なことを喚きあい、罵り合っていた。そんな醜い振る舞いの原因は、彼らが今集まっている宝物庫にあってはいけないものが存在し、そしてあるべきものが存在しないからだった。

 宝物庫の壁に開いた、人がくぐれるほどの大きな穴。
 その周辺、特に宝物庫の外に小さな山を作っている大量の土。
 そして壁に書かれた、有名な盗賊『土くれ』のフーケの犯行声明。
『破壊の剣、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 そしてその声明文の通りに宝物庫に収められていた秘宝「破壊の剣」、それがあったことを示す「破壊の剣」と書かれたプレートが張られた台の上――そこにあったはずの破壊の剣が収められていた小箱が、無くなっていた。



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