それはまあ、ちょっとしたことからだったのかもしれない。
トリステイン魔法学院で、毎年行われる使い魔召喚の儀式。
この時、ちょっとばかり予定外のことがあった。
サモン・サーヴァントを行う生徒たちを指導するのは、なかなかに〝健康そうな〟こんもりとした中年の女性教師。
赤土の二つ名を持つこの女性教師、名前をシュヴルーズという。
本来、コレは彼女の仕事ではなかった。
担当するはずであったコルベールは、先日自分のラボで事故を起こし、腰を強打してしばらく動けなくなってしまった。
このため、わりかし暇だった彼女が代役をすることとなったのだ。
儀式は順調だったのだが、最後の最後で面倒なことがあった。
ゼロのルイズといわれる女子生徒。
この生徒がまあ、出来が悪いこと悪いこと。
そう難しいものではないはずのサモン・サーヴァントを何度も失敗し、その度に爆発を起こす。
勉強熱心で真面目な生徒と聞いていたが、まさかこんな欠点があろうとは。
まわりの生徒はやいのやいのとやかましいし、シュヴルーズ自身もいいかげんで焦れてきた。
「ミス・ヴァリエール、ちょっとお待ちなさい」
肩で息をしているルイズをいったん休ませ、自分の杖を軽く振った。
「幸いというのもおかしいですが、私は今使い魔を持っていません。先生が見本を見せますから、ようく見ておくのですよ」
ルイズに言い聞かせ、シュヴルーズはルーンを唱えた。
シュヴルーズの使い魔は、数年前にふとした事故から死んでしまった。
長い間一緒に過ごしてきた半身ともいえる存在なだけに、シュヴルーズはひどく落ち込んだものだ。
次の使い魔を召喚する気にはどうしてもなれず、そのままですごしてきたが、まさかこんなところで召喚することになるとは。
召喚は一発で、成功した。
さすがは教師、さすがはトライアングルメイジ。
が、しかし。
「……なに、あれ?」
「に、人形?」
召喚されたのは、なんと泥か何かで作れたような赤ん坊ほどの大きさをした人形であった。
それもぶっさいくな人形だった。
しかも、何かおかしな悪臭をはなっている。
まるで、何年も体を洗っていないかのような臭いだった。
嘘!? 仮にもトライアングルの私が、何故にこんなもんを!?
シュヴルーズがショックで気が遠くなりかけた時、
「ほんげー、ほんげー!!」
人形のようなものは、赤ん坊のような声で泣き出した。
そのうるさいこと、うるさいこと!
ルイズはもちろん、まわりの生徒は耳をおさえたが、そこは人妻で子育て経験もあるおばさんのこと。
シュヴルーズは急いで人形をかかえて必死にあやすが、ちっとも泣き止まない。
どうやら腹がすいているらしい。
シュヴルーズ先生、すっかり混乱してしまい、
「み、ミス・ヴァリエール? それでは、次にコントラクト・サーヴァントのお手本を見せます」
よせばいいのに、人形に契約のキスをした。
むっとする臭いをじかでかぎ、即効で後悔をしたが。
ルーンが刻まれる痛みのためか、人形はさらに大声で泣き始めた。
これではもう、儀式の続きなんかできやしない。
「み、み、ミス・ヴァリエール、続きはまた明日ということで!」
授業をうやむやにして、シュヴルーズは人形をかかえて食堂に飛んでいった。
文字通り、フライの呪文を使って大急ぎ。
厨房でミルクを用意してもらい、念のために離乳食も作ってもらった。
ミルクを飲ませると人形は泣き止んだが、さあここからが大変。
この人形、食うわ、食うわ、食うわ!!
ミルクを飲み干しては、ほんげー!
離乳食を食べつくしては、ほんげー!
しかも食べる度に、少しずつ大きくなっていく。
そればかりか、人形としか思えなかったものが、だんだんと人間そっくりになっていった。
四、五日たつ頃には、すっかり人間の男の子と同じになってしまった。
体つきはぽっちゃりとしていて、シュヴルーズに似ていたが、髪の毛と瞳は真っ黒というちょっと変わったものだった。
え? ルイズはどうなったかって?
翌日、本人は不満たらたらだっただが、無事に平民の少年を召喚したそうな。
この時、ちょっとばかり予定外のことがあった。
サモン・サーヴァントを行う生徒たちを指導するのは、なかなかに〝健康そうな〟こんもりとした中年の女性教師。
赤土の二つ名を持つこの女性教師、名前をシュヴルーズという。
本来、コレは彼女の仕事ではなかった。
担当するはずであったコルベールは、先日自分のラボで事故を起こし、腰を強打してしばらく動けなくなってしまった。
このため、わりかし暇だった彼女が代役をすることとなったのだ。
儀式は順調だったのだが、最後の最後で面倒なことがあった。
ゼロのルイズといわれる女子生徒。
この生徒がまあ、出来が悪いこと悪いこと。
そう難しいものではないはずのサモン・サーヴァントを何度も失敗し、その度に爆発を起こす。
勉強熱心で真面目な生徒と聞いていたが、まさかこんな欠点があろうとは。
まわりの生徒はやいのやいのとやかましいし、シュヴルーズ自身もいいかげんで焦れてきた。
「ミス・ヴァリエール、ちょっとお待ちなさい」
肩で息をしているルイズをいったん休ませ、自分の杖を軽く振った。
「幸いというのもおかしいですが、私は今使い魔を持っていません。先生が見本を見せますから、ようく見ておくのですよ」
ルイズに言い聞かせ、シュヴルーズはルーンを唱えた。
シュヴルーズの使い魔は、数年前にふとした事故から死んでしまった。
長い間一緒に過ごしてきた半身ともいえる存在なだけに、シュヴルーズはひどく落ち込んだものだ。
次の使い魔を召喚する気にはどうしてもなれず、そのままですごしてきたが、まさかこんなところで召喚することになるとは。
召喚は一発で、成功した。
さすがは教師、さすがはトライアングルメイジ。
が、しかし。
「……なに、あれ?」
「に、人形?」
召喚されたのは、なんと泥か何かで作れたような赤ん坊ほどの大きさをした人形であった。
それもぶっさいくな人形だった。
しかも、何かおかしな悪臭をはなっている。
まるで、何年も体を洗っていないかのような臭いだった。
嘘!? 仮にもトライアングルの私が、何故にこんなもんを!?
シュヴルーズがショックで気が遠くなりかけた時、
「ほんげー、ほんげー!!」
人形のようなものは、赤ん坊のような声で泣き出した。
そのうるさいこと、うるさいこと!
ルイズはもちろん、まわりの生徒は耳をおさえたが、そこは人妻で子育て経験もあるおばさんのこと。
シュヴルーズは急いで人形をかかえて必死にあやすが、ちっとも泣き止まない。
どうやら腹がすいているらしい。
シュヴルーズ先生、すっかり混乱してしまい、
「み、ミス・ヴァリエール? それでは、次にコントラクト・サーヴァントのお手本を見せます」
よせばいいのに、人形に契約のキスをした。
むっとする臭いをじかでかぎ、即効で後悔をしたが。
ルーンが刻まれる痛みのためか、人形はさらに大声で泣き始めた。
これではもう、儀式の続きなんかできやしない。
「み、み、ミス・ヴァリエール、続きはまた明日ということで!」
授業をうやむやにして、シュヴルーズは人形をかかえて食堂に飛んでいった。
文字通り、フライの呪文を使って大急ぎ。
厨房でミルクを用意してもらい、念のために離乳食も作ってもらった。
ミルクを飲ませると人形は泣き止んだが、さあここからが大変。
この人形、食うわ、食うわ、食うわ!!
ミルクを飲み干しては、ほんげー!
離乳食を食べつくしては、ほんげー!
しかも食べる度に、少しずつ大きくなっていく。
そればかりか、人形としか思えなかったものが、だんだんと人間そっくりになっていった。
四、五日たつ頃には、すっかり人間の男の子と同じになってしまった。
体つきはぽっちゃりとしていて、シュヴルーズに似ていたが、髪の毛と瞳は真っ黒というちょっと変わったものだった。
え? ルイズはどうなったかって?
翌日、本人は不満たらたらだっただが、無事に平民の少年を召喚したそうな。
結局情の移ってしまったシュヴルーズは、この使い魔の男の子に、「力」という意味で、ストレングスと名づけた。
五日日、ストレングスはシュヴルーズにこう言った。
「ご主人様、おらに、重くて丈夫な鉄の棒をつくってくんろ!」
なんともおかしなことを言うと思ったが、そこは土メイジ、すぐに鉄の棒を錬金してやった。
重さにすると、400キロ近い代物である。
「こんなもの、何に使うの?」
たずねると、ストレングスはそれを軽々と持ち上げ、まるで竹ざおみたいに振り回してみせた。
「使い魔はご主人様を守らねばなんねえ。そのために武器がいるだ!」
こんな怪力を持っていれば武器なんかいらないような気もするが、使い魔の力はメイジの力の証明だ。
シュヴルーズ先生は驚きながらも、満更悪い気分ではなかった。
ところが鉄棒を作ってやってすぐに、ストレングスは揉め事を起こした。
というか、揉め事に首をつっこんだ。
ルイズの召喚した平民の使い魔と、生徒のギーシュとの決闘に割って入ったのだ。
ギーシュのゴーレムに痛めつけられている平民をかばい、
「弱い者いじめをするとは、貴族のくせにけしからんやつだ。おらが相手になってやる!」
運が悪いことに、ギーシュはこの男の子が何者であるのかを知らなかった。
シュヴルーズが生きた人形のようなものを召喚したとは知っていたけれど、それが目の前にいる相手は予想もしない。
調子づいてゴーレムをけしかけてはみたものの、結果はさんざん。
恐ろしく重い上に、固定化までかかっている鉄棒をぶんぶん振り回すストレングスに、青銅製のゴーレムは手も足も出なかった。
あっという間にもみくちゃにされ、戦乙女を模ったゴーレムはガラクタと化した。
この一件で、ルイズの使い魔・サイトはすっかりストレングスに心酔し、ついには一の子分になってしまった。
子分ができたことで気を良くしたストレングスはシュヴルーズに頼んで、サイトにも武器を作ってもらった。
それは小型のメイスだったが、武器を手にした途端、サイトは力がモリモリ沸いてくることに気づいた。
これを知ったルイズは、サイトにデルフリンガーというしゃべる剣、インテリジェンスソードを買ってやった。
五日日、ストレングスはシュヴルーズにこう言った。
「ご主人様、おらに、重くて丈夫な鉄の棒をつくってくんろ!」
なんともおかしなことを言うと思ったが、そこは土メイジ、すぐに鉄の棒を錬金してやった。
重さにすると、400キロ近い代物である。
「こんなもの、何に使うの?」
たずねると、ストレングスはそれを軽々と持ち上げ、まるで竹ざおみたいに振り回してみせた。
「使い魔はご主人様を守らねばなんねえ。そのために武器がいるだ!」
こんな怪力を持っていれば武器なんかいらないような気もするが、使い魔の力はメイジの力の証明だ。
シュヴルーズ先生は驚きながらも、満更悪い気分ではなかった。
ところが鉄棒を作ってやってすぐに、ストレングスは揉め事を起こした。
というか、揉め事に首をつっこんだ。
ルイズの召喚した平民の使い魔と、生徒のギーシュとの決闘に割って入ったのだ。
ギーシュのゴーレムに痛めつけられている平民をかばい、
「弱い者いじめをするとは、貴族のくせにけしからんやつだ。おらが相手になってやる!」
運が悪いことに、ギーシュはこの男の子が何者であるのかを知らなかった。
シュヴルーズが生きた人形のようなものを召喚したとは知っていたけれど、それが目の前にいる相手は予想もしない。
調子づいてゴーレムをけしかけてはみたものの、結果はさんざん。
恐ろしく重い上に、固定化までかかっている鉄棒をぶんぶん振り回すストレングスに、青銅製のゴーレムは手も足も出なかった。
あっという間にもみくちゃにされ、戦乙女を模ったゴーレムはガラクタと化した。
この一件で、ルイズの使い魔・サイトはすっかりストレングスに心酔し、ついには一の子分になってしまった。
子分ができたことで気を良くしたストレングスはシュヴルーズに頼んで、サイトにも武器を作ってもらった。
それは小型のメイスだったが、武器を手にした途端、サイトは力がモリモリ沸いてくることに気づいた。
これを知ったルイズは、サイトにデルフリンガーというしゃべる剣、インテリジェンスソードを買ってやった。
その後ストレングスは学園でシュヴルーズのもと、力仕事に励み、使用人たちからも我らの力といって慕われた。
レコン・キスタがタルブを攻めてきた時は、ストレングスは子分のサイトと一緒にこれに立ち向かった。
他にもトリステインの危機には真正面から鉄棒を振るって活躍した。
子分のサイトも、共に奮戦した。
なんだかんだとあるうちに、ストレングスたちはその功績を認められて貴族にまで出世した。
シュヴルーズは英雄の主というか、母親のようなものとして称えられ、後にはオスマンの後をついで魔法学院の学院長になった。
ストレングスは気立ての良いお嫁さんをもらって、幸せになったということだ。
え? サイトやルイズはどうなったかって?
ずいぶん昔のことなので、今となってはよくわかりません。
レコン・キスタがタルブを攻めてきた時は、ストレングスは子分のサイトと一緒にこれに立ち向かった。
他にもトリステインの危機には真正面から鉄棒を振るって活躍した。
子分のサイトも、共に奮戦した。
なんだかんだとあるうちに、ストレングスたちはその功績を認められて貴族にまで出世した。
シュヴルーズは英雄の主というか、母親のようなものとして称えられ、後にはオスマンの後をついで魔法学院の学院長になった。
ストレングスは気立ての良いお嫁さんをもらって、幸せになったということだ。
え? サイトやルイズはどうなったかって?
ずいぶん昔のことなので、今となってはよくわかりません。
めでたし。めでたし。
まんが日本昔ばなしから「力太郎」を召喚でした