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いぬかみっな使い魔-20


いぬかみっな使い魔 第20話(実質19話)

 船乗りは上陸が最大の娯楽である。

 巨大な戦列艦も、性能を考えた設計をすれば、大砲や砲弾を積むスペースや
舷側の厚い装甲板、竜などの飛行幻獣を搭載するスペースや重量に
大部分を持っていかれてしまうため、戦闘能力に直接かかわらない人間の
搭載スペースがどうしても削られてしまう。いや、削らざるを得ない。

 そのため食堂は手狭で風呂も無く、船員の寝室は狭い。いや、狭いとはいえ
寝室をもらえるのであればかなりましなほうだ。下士官の下、士官見習いが
数人押し込まれる狭くてベッドしかないような部屋ですら、かなり上等だ。
水兵ともなれば特定の寝室は存在せず、廊下や倉庫などにハンモックを吊るして
そこで寝る事になる。下士官が数時間の間だけ使わないなと判断した一時的な
開きスペースで寝かされるのだ。当然、下士官の読みが外れたり突発事項が
起きたりすれば、その当面使わないはずだったスペースを使う事になり、
睡眠時間を削られる事になる。
航行中はちょっとした天気の急変で船員総出で躁艦をする羽目になることもあり、
やはり睡眠時間や休息時間を削られる事も多い。
食事は出航直後は新鮮な野菜や水も飲食できるが、日が経つにつれて
保存の利く根菜類、乾燥野菜、塩辛い漬物と蛆のわいたビスケットのみに腐った水
と悪化していく。風呂に入って体をすっきりさせることも出来ず、
わずかな水にタオルを浸して体を拭ければいいほう。もちろん飲み水も
制限され、一日に決まった量しか飲めない。酒も制限を受ける。
船上では緊急時を考慮して操船が出来る程度にしか酔えないのだ。
操帆のために帆下駄に登ろうというときに酔っ払っていたら死亡確定だからだ。

 故に、船乗りは上陸が最大の娯楽である。
上陸すればこういったもろもろの悪条件から開放され、思う様飲み食いし、
ゆったりしたベッドで存分に眠り、後先考えずに酔っ払える。女も抱ける。

特に、戦闘艦の場合、戦闘後の血の高ぶりを解消するためには港に行って
商売女を確保するしかないこともあり、戦勝後には“できるだけ”港に立ち寄り、
褒美として最低一晩の上陸休暇を与えるのが慣例となっていた。
それは、海軍だけでなく空軍でも常識であった。

 故に。アルビオン親征艦隊と黒色枢機卿艦隊に乗り込むほぼ全ての将兵達が、
スカボロー港で今夜はゆっくり羽を伸ばせると思っていた。

 港を一つ、艦隊を二つ下し、アンリエッタの戦勝演説のが熱狂的な大盛況で終わった後。
啓太の執務室にぞろぞろと戻る薬草クラブ員達は、笑いさざめきながら
今夜の予定について話していた。
 「どうする、ご褒美たくさんもらっちゃったし、今夜はスカボロー港に繰り出すか?」
 「そうだな、レイナール! 是非そうしよう!」「う、うん、そうだよね!」
 「さすがにモンバーバラみたいないい店があるかどうかわからんけど!」
 「普通の店だって大歓迎さ」「女を射止める経験積まんとな」
 「わっはははは!」「あはははは!」「わははははは!」

 戦勝で沸き立ち、たくさんのご褒美ももらった薬草クラブ員達は、
港に大抵あるという娼館で女を買う相談を、声高にしていた。
上から下まで浮き立っている艦内では声を潜める必要も無く。
当然ながらそこを通りかかったものがいれば丸聞こえな馬鹿話である。

それは。
何の問題も無いはずであった。
そう。
その時。
たまたま、とある精神性疾患に悩む一人のオトコが通りかからなければ。

 「やあ、ケータ君! どうだい、スカボローに着いたら娼館に一緒しないか?」
ヒクリ
レイナールの邪気の無い誘いに、啓太の頬が、ひくついた。
そして、啓太は、相変わらず女を買う相談をしているレイナール達を見。
ついで本来ありえないことにしばらく前からひくつきもしなくなった
自分自身の下半身にちらりと眼をやった。
 「ほう、そうか。」
凄絶な。
実に凄絶な笑みを浮かべて、啓太は笑った。
 「そうか…港で女を、女を買って抱くのか。それに、俺を、この俺を誘っていると。」
レイナールが、彼の後ろで笑いさざめいていた同級生達が、異様な雰囲気を察した。
ぴたりと笑いをやめる。

 「ど、どうしたんだい、ケータ君?」
啓太は、顔をうつむかせると、低い、非常に低くて誰にも聞き取れぬ声で
ぶつぶつと陰気に呟いた。
 「そうか。俺が女を抱く事が不可能になってる脇で、女を買いに行く相談か。
初陣を経験し、戦いに勝って手柄を立て、歴史の転換点を作った一員として
生涯誇りに出来るほどの栄誉に浴し、多大なご褒美をもらったという、
最高に幸福なこの時に、俺を尻目に、更なる幸福を欲張って
手に入れようというのか。実に、実にいい度胸じゃないか。」
 「ど、どうしたんだい、具合でも悪いのかい?」
レイナールが、心配そうに聞く。
啓太が、顔を上げた。そのときには、啓太はにこりと笑いを浮かべ、
ごくごく普通の、普段どおりの啓太に見えた。
そう、少なくとも、そう見えた。

 「いやあ、悪いな、みんな。実はそれはもうちょっと待ってもらわないといけないんだ。」
 「ええ!?」「そ、そんな!?」「こんな大勝をした後なのに!?」
 「こ、今夜はしっぽりと思ってたのに!?」「ダメなのかい!?」
皆が驚いて聞き返した。誰も彼もが今夜は羽を伸ばすぞといっている艦内で、
これは寝耳に水の宣告である。
啓太が事実上アンリエッタの軍事顧問として作戦立案を行っているのは、
その作業を手伝っている彼らが一番良く知っている。
ということは。
 「さあ、姫様のために仕事だ。執務室にに戻るぞ、みんな。」
啓太が、ニッカリと。にっこりとではなく、ニッカリと有無を言わさぬ迫力で笑った。
そして。
 「い、イヤだ~~~!」「今夜は、今夜は美人をはべらせて!」
 「これだけの戦果を上げた上にさらになんて!」「欲張りすぎだよ!」
 「少しは! 少しは休ませてくれ~~~」「休暇を! 休暇を請求する~~~!!」
泣き喚く少年達を引きずって、啓太は執務室に入ると、船の進路について通達を出し、
薬草クラブ員達をこき使って徹夜で作戦計画を練ったのであった。

 前日から始まったアンリエッタの覇道は、すさまじい勢いで突き進んだ。

 翌早朝。

 ロンディニウム郊外にある造船港ロサイスを急襲した連合艦隊は、
数と錬度の力押しで勝利し、港を奪取した。ロサイスで長砲身のカノン砲を
搭載中であった巨艦レキシントンを初めとして多くを取り逃がしはしたものの、
代わりに損害も少ない勝利である。その後には陸戦隊を下ろして
ロンディニウムに侵攻、ハヴィランド宮殿を制圧する構えを見せた。
レコンキスタ側は当然戦力をハヴィランド宮殿に集結させる。
だがこれは連合艦隊の欺瞞行動だった。王宮に兵を取られ、手薄となった
ロンディタワーという、昔の王宮にして現在監獄に一隊を潜入させ。
多くの捕虜達を救出し、アルビオン親征艦隊の陣容を分厚くし、
不動の忠誠を確保した。目的を達した連合艦隊は、知らせによって
レコンキスタ艦隊が救援に駆けつける前に早々と撤退した。

 「お見事ですわ、ケータ殿。」
 「ほんと、こんなにあっさり成功するなんて思わなかったわ。」
 「啓太様、すごいです!」「キョロキョロキュ~」

はしゃぐ女性陣に対し、悲痛な声を上げるのが男性陣だ。

 「ああああああ!」「ロンディニウムが、ロンディニウムが遠ざかっていく!」
 「首都で、首都でいい店にいけると思っていたのに!」「ひどいよ!」
 「そうだよ、こんなぬか喜びさせて!」「今度こそって思ったのに!」
 「すまんな、思ったより敵の救援が来るの早かったんだ。」
  泣いて訴える薬草クラブ員達に、啓太はニッカリと笑ってわびた。
 「ううう、この欲求不満をどうしてくれる」「そうだそうだ!」
 「(ふふふふ、貴様らに、貴様らだけにいい思いはさせん!)」 
昨夜に続いて今日も女を抱く機会を失った彼らは盛大にブーイングを上げたが、
啓太はどこ吹く風でさらに彼らをこき使った。


その日の昼ごろ、続々と艦隊が合流した。
 トリスティン後続艦隊。ガリアの傭兵達を乗せていた船をまとめて統率し、
指揮官をシャルロット王女に据えたガリア義勇傭兵艦隊。キュルケの実家が
保有していた大型武装商船3隻を中心としたゲルマニア補給艦隊。

 真の連合艦隊となった彼らは、サウスゴータをあっさりと占領し、
膨大な食料を手に入れた。当然連合艦隊は、一晩の休暇を将兵達に与えた。
ガリア義勇傭兵艦隊を除いて。彼らは、レコンキスタのタイン本陣の
後輩に上陸して挟み撃ちにするため、早々に別行動を取っていたからだ。
それ以外は、街に入って、あるいは港に戻ってゆっくりと休暇を楽しんだ。

しかし。

 「ようし、サウスゴータを制圧して兵糧の策源地を手に入れたぞ!」
 「さあ、今日こそ街に繰り出して宴会だ!」「よし、宴会だ!」
 「馬鹿やろう、その前に荷物の積み込みを手伝いやがれ! アルビオン軍が
この補給物資を待ってるんだぞ! 気絶するまでレビテーション使え!」
 「そんな、気絶するまで使ったら今夜遊びにいけないじゃないか!!」
 「るせーるせー、作戦上必要なんだ、文句を言うんじゃねええぇぇ!」
 「うわあああん、なんで俺たちだけ休めないんだああ!」
 「お前らが下士官の下、見習い士官よりも下の臨時だからだ、
  下っ端はこき使われて当然、きりきり働きやがれ!」
 「いやだああああ!」「休暇を、せめて一晩の休暇を請求する!」
 「却下だ~~~!」

 トリスティンには大少数十の魔法学院がある。トリスティン魔法学院ほどの
権威と設備、教育水準を誇る学院は首都トリスタニアにも無いが、
そこには沢山のメイジの男女が学び、修行をしている。
首都にある学院の中で、比較的水準の高い学校から男性メイジ
(生徒だけでなく、教師も含む。トリスティン魔法学院からコルベール等も来た)
をかなりの数連れてきた後続艦隊は、メイジの比率を非常に高いものにしていた。
それらをうまく使い、通常ありえないほどの高密かつ迅速な軍事行動が、
連合艦隊によって繰り広げられていた。メイジを兵士や労役夫のように使う。
魔法を工作機械や工事用重機程度にしか考えない、啓太ならではの運用方法である。
そして、当然のことながら、最も酷使されたのは、啓太の前でうかつなことを
口走ってしまったがために八つ当たりの対象にされた、薬草クラブ員男子達であった。
(-人-) (ちーん)

薬草クラブ員達の過酷な労働は続いていく。

 「よし、風石鉱山を占拠したぞ!」「大量の風石が手に入ったな!」
 「鉱山町ってことは娼館もあるよな?」「ちょっと質は低そうだけど」
 「多分あるんじゃないかな」「よし、今夜こそ!」「いくか!」
 「よし、出航だ!」
 「えええええ!」「え”え”え”え”え”!」「EEEEEEEE!」
 「なんだ、文句でもあるのか?」
 「なんで旗艦だけ出航するんだよ!」 「そうだそうだ!」
 「二つの艦隊の旗艦の振りをしているから忙しいのは知ってるだろ。
  ほれ、ペンキの塗り替えと帆の交換、銘板の交換手伝いやがれ!」
 「そ、そんなああ!」「また、また女の子達が遠ざかっていく~~~!!!」


 「やった、また一つ港を確保したぞ!」「ばんざ~~い!」
 「けど守りきるだけの戦力が足りないぞ?」「なに、問題ない。」
 「物資をもらって放棄すればいいさ。」「そうだな。」
 「連合艦隊の拠点に運べばいいだけだ。」「攻撃こそ最大の防御!」
 「戦争とは経済行動だ!」「もうかりゃいいのさ!」
 「さておき、今夜こそ休暇だよな?」「早速娼館の予約に行こうぜ。」
 「あ、それ無理。」
 「ええええ!」「え”え”え”え”え”!」「EEEEEEEE!」
 「なんでだよ!?」「そうだそうだ!」「説明を要求する!」
 「偉い将官達がすでに借り切ってるからさ。
  もうちょっと早く仕事を終えてればよかったのになあ。お前ら遅いぞ。」
 「そそそそ、そんなあああ!」「こんなに仕事を割り振ったからだろ!」
 「酷い、酷いよケータ君!」「休暇を、せめて一晩の休暇を要求する!」
 「だから。一晩の休暇はやるって。女の確保まではしらんけどな。」
 「ブーブー!」「酷い、酷いよケータ君!」
 「なに見習いの分際で言ってんだ、お前らに必要なのは己を鍛えルことナンダぞ、
  俺はオマエタチを鍛えてやってるんじゃナイか。そのうちこの修行が役に立つYO!」
どこかわざとらしく言う啓太である。当然ながら、薬草クラブ員達は納得しない。
 「そのうちじゃなくて!」「今、いや、今夜だけでいいから!」
 「何とか、何とか!」「ケータ君のコネなら一軒くらい何とかなるだろ!?」
 「すまン、姫様たちすらおふろにまともに入れないのに我慢してるんダ、
  俺にはお前達の力になってやることはできないYO!」 
 「う…それは、確かに。」「姫様たち、暗殺予防のために下船して無いからな。」
 「それと比べればずっとましだけどさ」「でも、せめて、ちょっとだけでも!」
 「だめなんだヨ。 ごめんナ!」

 薬草クラブ員達は、見習いの身でありながら次々と手柄を立て、
分不相応な栄光を思い切り享受しまくっていた。
しかし、彼らはその分、不幸であった。
主に、約一名のビョーキからくる嫉妬によって、実に実に不遇であったのである。

後の歴史家は、この日々の事をこう評した。

アンリエッタ・ド・トリスティン王女は、その日自由に泳ぐ湖を手に入れた。
本人もまた「ケータ殿と私の関係は水魚の交わり」とたびたび発言している。

彼女は、孤立無援の王宮の中で、
1日にして多数の若き協力者達を獲得し、
2日にして専横を振るっていたマザリーニ枢機卿をひざまずかせて
王宮の文官大臣達の忠誠をとり戻して政治を王家に復帰させ、
3日にしてトリスティン艦隊将兵の心を掴んで軍権を掌握し、
4日にして艦隊の錬度を向上させて精強にし、
5日にしてロサイスに巣食った背教者達を捕らえて膨大な金を得るとともに
3度レコンキスタに勝利して多くの艦艇を手に入れトリスティンを強国にのし上がらせ、
6日にしてレコンキスタの支配する首都ロンディニウムを脅かすとともに
ガリア義勇傭兵団とシャルロット王女を救援に差し向けてレコンキスタを敗走させ
(略)
10日にして(略)プリンス・ウェールズとアルビオンを手に入れた。
これを、疾風怒涛の10日間と呼び、各国は覇王アンリエッタを褒め称え、恐れた。


また、ガリア王女シャルロットの勇名もハルケギニア中に鳴り響いた。
ある日を境にまったく宮廷でみられなくなったため、暗殺されたとさえ
囁かれていたシャルロット王女が、突如としてガリア義勇傭兵団を率いて
アルビオン救援に駆けつけたのである。傭兵達への充分な給与と糧食を
支給されていたタバサは、率いるガリア人を中心とした傭兵達の心を
充分に掴んでおり、3千程度とはいえ士気高い兵力を配下としていたのだ。
しかも、使い魔の風韻竜と共に竜騎士隊を率いてもおり、背後を突いた
ガリア義勇傭兵団はレコンキスタを震え上がらせ、浮き足立たせるのに充分であった。
この日、アルビオン軍は一気に攻勢に出て、レコンキスタを敗走させたのである。

 ただ残念なことに、この時追撃はほとんど出来なかった。
意外に思うかもしれないが、戦争において最も戦果を上げられるのは、
正面決戦のときではない。正面決戦で勝利し、敵を追撃する段階になってからだ。
敵は逃げるのであるから当然背後から攻撃する事になり、しかも陣形は乱れており、
敵の戦意は喪失している。この追撃のときにどれだけ余力を残しているかで
大方の戦果が決まるのである。しかし、アルビオン軍にせよガリア義勇傭兵団にせよ、
レコンキスタと比べれば寡兵であり、勝利するのがやっとであったのだ。
勝利後に降伏し、帰順を願い出た部隊を取り込むのに時間がかかったのも
タイムロスとなった。とはいえ、総合的な戦力での逆転は、この一戦で成されたのだ。

 勝利後、アルビオンの主だったものたちと挨拶し、宴に出たタバサは、
黙々と食べ、話をし、それなりに宴を楽しんだ。
今のタバサは、憂いの多くが解消している。
母の毒はルイズのディスペルで無効化され、使用人含めて人質にされそうな
者達は安全な場所にいる。自分の戦力を手に入れ、後見を得たが故に
ガリア王ジョゼフへの復讐の足がかりも出来た。シャルロットの名は
今度の戦で大いに喧伝され、ガリア貴族の取り込みも容易になるだろう、
ジョゼフの足元を切り崩すこともたやすくなる、とケータが請合ってくれた。
つまりは、残る一つの憂い、父の敵を討つという目的の目処もついたのだ。

それゆえに、タバサの心には余裕が出来ていた。
シャルロット王女をウェールズ王子の后に、などという話も持ち上がったりしたが、
「私にはやる事がまだございます、よって、お受けできません。」
と、落ち着いて断る事が出来た。
彼らは、大いに英気を養っていた。そう。レコンキスタとの決戦に向けて。


レコンキスタVSアルビオン軍&連合艦隊。
雌雄を決する決戦は、おそらく明後日と予想されていた。



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