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もう一つの虚無と狂信者-02

由美江と由美子がティファニアに召喚されてから一月ほど。この生活にも慣れてきた。
由美子とティファニアは太陽と共に起きて、朝食の準備を始める。朝食が済めば、由美江に代わって、
今度は薪割りや狩猟といった力仕事を行う。特に薪割りは男でのないウエストウッド村ではかなり
重宝される。この効率のよさは由美江の能力だけではなさそうだ。
(左手のルーン?って奴かな。)
初めて薪割り用の斧を握って見た時、その変化に気づいた。体が軽くなった感覚を覚え、どれだけ
動いても疲れにくい。狩猟用の弓も、使ったことなど全くない由美江でもあっさりと使いこなせた。
ためしに由美子にも使わせてみたが、その効果は変わらず発揮された。無論能力の差はあったが。
これを戦いに応用できれば、対吸血鬼戦で強力な活躍ができるだろう。
しかし、不思議とそんな気はおきない。
「由美江?休憩にしよ?」
主であるティファニア。その生い立ちは暗い。エルフの血を引くというだけで脅えながら暮らす彼女。
母を殺され、国を追われながらそれでも復讐など微塵も考えぬ彼女に由美江はある種呆れていた。
自分ならそんな連中とっとと斬り捨てているだろう。
だが、このか弱く、優しすぎる彼女にはそんな考え思いもよらないのだ。
「はい、紅茶。おいしい?」
「ああ」
自分などよりも数倍シスターに向いているであろう彼女、この少女のお友達になるのも悪くは無い。
まあ、由美江は彼女の姉と同年代なわけだが。
それに孤児達の面倒を見るその姿は自分の敬愛する神父と少し重なる。
無論この少女は狂信者でも二重人格と思えるほどの戦闘狂でもないが。
どの途自分は彼女が居なければ死んでいたのだから、これも主の導きなのだと思っている。
「どうしたの?」
考え事をしていた自分をティファニアがのぞき込む。その頭を撫でてやる。表情は無愛想なままだが。
「なんでもない。」
手の感触に嬉しそうに目を細めながら、ティファニアは話を始める。
「ねえ?また由美江の世界の話を聞かせて?そうね、飛行機の話。」
「ん?そうだな」





向こうの生活様式や技術の話を彼女は飽きることなく聞いてくる。そしてその度に言うのだ。
「私も由美江や由美子の世界に行ってみたいな………。」
この言葉を聞く度に由美江はこの言葉を返す。
「そうか?あたしはそれよりこの世界の色んなところに行きたいがね。」
火竜の棲む山脈、様々な幻獣、いま自分が居るところですら空に浮かぶ大陸だという。
「そうね………。でも私は………。」
ティファニアは耳を塞ぐ。正直こんな少女を畏れるなどと由美江には全く理解できぬことだが、
この世界の人間全てがこのかよわいハーフエルフの少女の敵なのだ。さらにエルフの間でも彼女は迫害の対象らしい。
落ち込む彼女の両耳を由美江はつまんでやる。とたんに身を竦め、顔を赤らめるティファニア。
「ったく!こんなもんのどこが怖いんだかな。」
「ちょっ、止めて……」
「安心しろよ。とりあえずは一緒に居てやるから」
その言葉にハッとするティファニア。そしていつもの優しい笑顔になった。
 意外なことにティファニアは優しい由美子よりもぶっきらぼうな由美江によく懐いていた。
 自分とどこか毛並みの違う所に惹きつけられているようだ。



その夜。ティファニアはハーブを演奏し、何か歌を歌っている。この歌を聴くと、
由美江と由美子の心に郷愁の念が込み上げてくるのは何故だろう。



神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。



神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空



神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。



そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。



四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。





歌が終わり、拍手してやると、ティファニアは笑顔で会釈した。
「ねえ、ワインがあるの、飲まない?」
「ああ……」
頷いた時、由美江が村に迫るその異変に気づいた。



少し離れた所、林の影に、彼女はいた。最後の大隊所属、ゾーリン・ブリッツ中尉である。
子どもが十二、少し大きいのが一人、大人が一人。吸血鬼の脅威的な聴覚は正確に村にいる人間を探知した。
(ティファニア姉ちゃんとか呼ばれていたから……。あの家の二人のどちらか、か)
後は寝静まるころに攫って、聞き出せばいい。
(残った餓鬼どもはどうしようか?)
別に子どもだから特別うまいという程でもないが、彼らにとっては悪いことに彼女は腹を空かしていた。
別に彼女が特別残虐という訳ではない。だがヴェアヴォルフとは普通こういうものというだけだ。
(一人、二人だな………。まあ、あまり取り過ぎると後々困る。)
渇きを癒すその感触を想像し、絶った気配が少し、ほんのわずか緩んだ。
彼女はまさかここに自分に対抗し得る敵がいるなどとは考えていなかった。



それは普段なら見過ごしていただろう。ただどういう訳か由美江の第六感はその気配を感じた。
「どうしたの?由美江。」
「あ?いや、ちょっとトイレにな。」
そして彼女は外へと出た、愛刀を持って。



誰かが出てくることを察知し、ゾーリンは木の上に身を隠した。成人の女だ。明らかに辺りを警戒している。
ゾーリンはその女の手に明らかにこの世界と異質な武器を持っていることに気づく。
(まさか感づいたか?)
しかし、彼女は辺りを見回すのみでこちらの位置を正確に掴んでいない。
では、話は早い。
今こそが好機。敵はこちらに気づいていない。辺りは夜。しかもあちらからこちらに赴いた。
奇襲の好条件は確実に揃っていた。





(気のせいかな)
元々彼女に敵の殺気を正確に感知するような馬鹿げた力は無い。ただ、歴戦の経験が知らせた違和感に過ぎない。
(ご主人さまのところに戻るか。)
そう思ったところで、またも感じた。それは数多の戦いの感覚と同じもの。
彼女は全速でしゃがみ込みその一撃をかわした。



まさかかわされるとは思いも依らなかったゾーリンはそれでも二撃目を彼女に見舞おうとする。
それは不安定な姿勢の彼女には絶対にかわせぬ筈だった。
しかし、彼女の左手のルーンが光ったと思うと、姿がそこから文字通り掻き消えた。
驚愕の呻きを挙げるも大鎌を目前の敵に突きつけるゾーリン。
由美江はただ、構えた。
腰を落とし、納刀した刀に手をかける。
島原抜刀術の態勢を整えた。





ゾーリンは眼前の敵を自身の記憶にあるデータと照合する。そして答えが出た。
教皇庁13課イスカリオテ機関の要注意人物。
アレクサンド・アンデルセン神父を鬼札とするならば、彼女はエース。
仕事人、狂戦士高木由美江。
おそらく自分と同じ様にこの世界に来たのだろう。
「何しに来た?」
ゾーリンはその問に正直に答えた。
「ここにいるティファニアとかいう女と、そのマジックアイテムに用がある。」
「それをどうするつもりだ?」
「知らないよ。友達に頼まれたのさ。」
「そうか………。」



明らかに人為らぬそれ。夜の者。
「退く気はないか?」
この言葉に目の前の敵は笑って言う。
「噂と違って随分と大人しいんだな。えぇ?イスカリオテバーサーカー?」
そうかもしれない。自分は丸くなった。使い魔のルーンが影響しているか否かはわからない。
ただ、あの哀れで優しい少女がこの者と背後にいる連中に渡ればどうなるかは分からない。
十三課の一員である自分の素性を知る程の地位、もしくは集団に所属するミディアンズ。
消そう。
「んじゃ噂通りいくわ………糞ったれフリークス!!」





島原抜刀術「秋水」
鞘走りとルーンの力により、亜音速の速さと化す切っ先をゾーリンはあっさりとかわす。
切り返し、さらに余勢による連撃、相手が人であるならばとっくに終わっているその攻撃もこともなげにかわされる。
フリークスと呼ばれるもの達のおそろしさは、その不死性ではなくもっと根源の部分。
敏捷性、耐久性、身体能力、瞬発力、五感、第六感。
弾丸をドッジボールのように避け、人を容易くゴミのように引き千切る。
根本的な戦闘能力こそが脅威であり、人間への優位なのだ。
まして目の前にいるのはただの吸血鬼ではない。
ミレニアムの尉官、ヴェアヴォルフの一人、ゾーリン・ブリッツ中尉である。
ただの薙ぎ払いがすでに由美江の抜刀なみの速さである。
ならば。
納刀し、腰を落とす。その構えの狙うところを感じ、ゾーリンも警戒する。
動作を最小に、速度を最大にし、敵が間合いに入るところを、斬る。
「AMEN………。」
そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。
そう教えてくれたことを、今はもういない神父に感謝した。



ゾーリンはその構えの危険性を知りつつ、なおも不敵に笑った。
「ふーん、成程ね……無意味なことを!」
そう無意味だ。自分の能力の前では。あちらが距離を詰めぬのであればむしろ都合がいい。
力を解放し、発揮する。
右手の掌を地面に叩きつけた。



由美江の眼前に現れたのは呪印による無限の迷宮、そのすぐ後、目に焼き付いた光景。
「泣いては………いけません………眠る……前……に………お祈りを………
AMEN」



それは自分が敗れた、あの光景。





敬愛していた先生を足下にし、その死と戦いを侮辱した執事は悠然と話始める。
「人は死ねばゴミになる。ゴミに弔いは必要ありません。」
そうこの後に自分は逆上し、斬りかかる。そのとおりに映像は流れる。
「手前ェら主従の云々なんぞ 知るか! 知ったことか!!」
斬りかかる自分。結果は分かっている。
「島原抜刀術『鐘馗』!!殺ったぞ!」
だがあの執事は事も無げに言う。
「殺ったのではない、殺られたのだ。」
痛みがやってくる。自分の体がバラバラになる。あの時のそのままの痛み。
なぜ今
痛みに呻きながらも確かに呟く。
「これは……嘘だ……」
「ウッソッでえーすぅ」
本物の痛みと、衝撃がやって来る。



かろうじて刀を間に挟むも、その衝撃は由美江を吹き飛ばす。
ゾーリン・ブリッツの特殊能力「幻術」
自らの右半身に施した術式により、人の記憶と心に干渉し、視覚に留まらぬ五感すべてを支配する能力。
視覚に頼らず、複数の魂をその身に宿す吸血鬼には効かないものの、対人戦でこれほど凶悪なものもない。
「さ、て、と」
ゾーリンは、地面をのたうち回り、口から血を撒き散らす由美江に笑いかける。
「シスターってことは処女かい?頂こうかね。」
それは捕食。だが由美江に怒りの感情も憤りも無い。
文句は無い。ただ気がかりが残っている。
「ティファ……ニア……。」
「由美江!!」
聞こえてくるのは、少女の叫び声。



月明かりの中、そこに居たのは、傷付く己の使い魔。
脅え、怯みながらも、ティファニアは由美江を救う為呪文を唱え始めた。





詠唱、それが長いことから強力な呪文だろうか。喰らったところでどうなるとは思わないが、念には念を入れる。
掌を高々と掲げ、勢いよく地面を叩いた。彼女の半身に敷き詰められた呪詛が、地面を侵食するように広がる。
「あんまりオイタが過ぎるとぶっ殺しちゃうよ?お嬢ちゃん?」



「何………あれ………?」
部屋にいた子ども達の眼の前に現れる、巨大な、百メイルはあるであろう、人。
それはゾーリン・ブリッツ中尉の姿を象っていることは彼らにとっては全くどうでもいいこどだ。
彼女が手に持つ得物を叩きつける。崩壊を始める家屋。
「う、うわあぁぁぁあ!!!」



ティファニアの目に映ったのはあの日のこと。
遠い昔に起こり、忘れようと試みたこと。
「お母………さん……?」
優しかったお母さん、色々なことを教えてくれたお母さん。
父を殺され、逃げ落ちて、それでも逃げきれず
「いい?ここに隠れているのよ?」
この結末を知っている彼女は大声で叫ぼうとした。けれども言葉はでない。
(待って!行ったら駄目!)
クローゼットの隙間から見えたその光景は、封印したはずだった。



メイジの炎に焼かれた母。
美しかった母は黒焦げとなる、その姿。
燻った音を上げ、人の油が爆ぜる音。
そしてそのリンと脂の蒸す臭い。



号泣し、絶叫するティファニアを満足そうに見下ろし、由美江に向き直る。
首筋に歯が突き立てられようとしていた。





「あああああああ!!」
叫びとともに、刀がゾーリンの胸に突き立てられる。予想だにしない反撃に顔を歪める。
「あーあっ。たくよー」
由美江はふらりと立ち上がる、左手のルーンは一層輝きを増し、
薄暗い月夜を照らしていた。
「好き勝手まあ、暴れてくれやがって……。人がせっかく大人しくここで暮らしてやってたのによ!
せっかく人が綺麗事で片付けようとしてたのによ!しょうがねえ!」
ティファニアのやるように、このまま静かにやっていてもよかった。
きれいごとで片付くならば。
刀を眼前に構え、己の存在意義を唱える。
「手を汚してでも…片付ける!」





その声は確かにティファニアに届いていた。その幻影と過去の記憶に苦しみつつも呪文を唱え続ける。
メイジとしての精神力か、ゾーリンの幻術にある程度の耐性があるらしい。
舌打ちをし、ティファニアに詰め寄るゾーリン。本能で感じ取った。何かマズイと。
そのゾーリンを追おうとする由美江は未だ幻術の支配下にある。
この支配を脱出するには。
ティファニアの詠唱は彼女のルーンに安心感と使命感を与えていた。
そして思い出した。自己の使命を。
神に仇なす化け物を倒す。
その敵を眼前に放置して何がイスカリオテか。
「頼むぜ。由美子」
シスターは目を閉じた。無論それだけで幻術は破れない。彼女は二重人格。その精神は二つ。
由美江は由美子に代わる。
(うう、怖いよお)
ガンダールヴの力で、由美子は背後から詰め寄る。
そして彼女は、ゾーリンの術式を、ほんの少し傷つけた。
ゾーリンの驚愕の呻きと共に幻術が解かれる。非常事態に一歩、バックステップをとったのが命取りだった。
島原抜刀術 ショウキ
縮地といわれる独特の移動法により瞬時に距離を詰め、敵を切り裂く。
それは確かにゾーリンの左手を切断した。
そして崩れ落ちる由美江。ゾーリンの大鎌はそれでも由美江を切り裂いていた。
満足気に崩れ落ちる由美江。一言だけ呟いた。
「そうあれかし(アーメン)………。」
ティファニアの呪文が完成された。




神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、
導きし我を守りきる。





由美江が起きたとき、夜は明けようとしていた。おそらく三分にも満たない戦闘。
意識を取り戻した由美江は傍で顔を埋めているティファニアを叩き起こした。
「あ!!由美江!!良かった……。」
寝ぼけるティファニアを揺さぶる。
「早く出るぞ!テファ!」
その言葉にキョトンとするティファニアに由美江は説明する。
昨夜きた敵は何者かの指示でここに来たこと。
もし退けられたとしてもいずれ追手が来ること。
二度目の対戦で自分があの敵に勝てる保証はないこと。
またあの敵が来るという可能性はティファニアを怯えさせた。
「ど、どうしよう。」
「誰かいねえか?お前等を世話してくれる奴!」



アルビオン、トリステイン間の定期便に乗るウエストウッド村の住人達。
「はーい!みんな点呼とるよー!」
由美子は旗を振って子ども達に合図する。全員揃っているようだ。
ティファニアの姉がトリステイン魔法学院という所で働いているというのでそこに厄介になることにしたのだ。
由美子は子ども達を船室に置き、ティファニアの居る甲板に行く。
「はあ、しっかし本当に浮いているのね………」
その眼にあるものが飛び込んでくる。
「うわあ!綺麗!!」
空に悠然と浮かぶアルビオン大陸。そこから流れ出る水と作られる霧。そして虹。
しばし感動に揺れる。
(こりゃ凄いな………。)
由美江ですら感嘆の感想を述べる。ティファニアはボケっとそれを見て、不意に笑った。
「おかしいな……私見たことなかったんだ。私が生まれた国の姿…………。」
彼女もまた感動しているのだ。ポンとその頭を撫でる由美子。
「落ち着いたら、またどっか行きましょ?」
「………ええ!」





自分のことを、妹のように思ってくれる使い魔。
自分のことを、命を懸けて守ってくれた使い魔。
マチルダ姉さんが見たらどう思ってくれるかしら?
そんなことを考えながら甲板で二人語り合う。
子ども達は元気に走り回っている。
日当たりが実に良く、立ったまま眠ってしまいそうになる。
ふと、周りが騒がしいことに気づく。
「どうしたのかしら?」
どうもこちらの方を見ているようだ。二人同時に振り向く。
そこに見えたのは、ゆっくりとこちらに向かって来る戦艦。
下の方にぶつかり、甲板が崩れる。
ふわりとティファニアが海に落ちた。
そしてチェンジした由美江が後を追う。



「誰か落ちたぞー!!!」

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