あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの超律-02


 風が変わった。それが、「この世界」に対してマグナが抱いた印象の初めである。
 海水と真水が入り混じった湖から吹く、少しだけ潮の匂いがする風はなくなり、草原の上を走る爽やかな風が吹いている。
 ざわざわと、周囲から大勢の人間のざわめきが聞こえた。

「どこだ、ここ……?」

 正面には召喚師風の格好をした若者が多数。その向こう側には壁に囲まれ、塔を備えた要塞にも見える建築物群。
 王都ゼラム……直前までマグナが認識していた、滝と湖が美しい街ではない。

『平民! ゼロのルイズが平民を呼び出したぞ!』
『ぷ、ふふふふ……あははは』

 誰かが発したその言葉を引き金に、周囲から哄笑が巻き起こる。その中で屈辱に肩を震わせている、桃色の髪の少女が一人。
 言語は理解できないが、マグナにはその理由がなんとなく理解できた。哄笑の種類に覚えがあるのだ。
 周囲に響く笑い声は、自分よりも身分が、能力が低いものを見下してあざ笑う、蒼の派閥でもよく聞いたものだった。

『ミスタ・コルベール! やり直しを、サモン・サーヴァントのやり直しをお願いします!』
『ミス・ヴァリエール、それは許可できません。使い魔は、召喚者にとってもっとも必要なものが呼び出される。それを気にいらないと言う理由だけで拒否することは、始祖の意思に反することになるでしょう』
(……怒鳴っても、余計に笑われるだけなのにな)

 マグナは、怒りを隠せない桃色の髪の少女が額の広い中年男性に詰め寄る様子を、普段の彼とは異なる冷たい思考で眺めていた。

『う、ううっ……』

 やがてルイズは、諦めたように肩を落とした。迷うように振り向いて、それから怪獣のような足音を立ててマグナに近付く。

『平民にこんなことをするなんて……うう、屈辱だわ。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ』
「むぐっ!?」

 突然の口付けに、マグナは驚愕する。彼とて年頃の少年だ。年下とは言え、同年代の少女に唇を奪われては冷静ではいられない。
 しかしそんな思考は、左手に走った、焼きごてを押し付けられたような痛みの前に沈黙した。
 ただの痛みではない。精神力を根こそぎ持っていかれるような激痛だ。

「がっ!? あ、ぐっあ……」
「落ち着きなさい。左手に使い魔のルーンが刻まれているだけよ」
「なっ……痛ぅ」

 唐突に言語が理解できるようになったことに、マグナは驚愕した。
 召喚術。ようやくそこに行き着く。
 マグナの知る召喚術は、召喚した対象にリィンバウムの言語と文字を理解する能力を付加する。絶対服従の誓約とともに。
 リィンバウムでは召喚と誓約を同時にする点で異なるが、それでも自分が異世界に召喚されたと理解するには十分だった。
 召喚師の自分が召喚獣か。滑稽だなとマグナは自身を嘲ってから、それも良い、と諦める。
 どうせ誓約が成されたのなら、反抗は無意味だ。帰還は召喚者の意思によってのみ成される。
 自分は逃げてるなと理解しながらも、マグナは示された逃避場所から目を離せない。

「ほう、珍しいルーンだな」
「ルーン?」
「あなたの左手の文字ですよ」

 先ほど目の前の少女に詰め寄られていた若干頭部の構造物が寂しい人物が、マグナを覗きこんで彼に刻まれたルーンを紙に書き込む。
 書き込みを終わると、コルベールは周囲の若者に解散の指示を出した。
 指示を受けた若者達がふわりと空に舞い上がる。

「人が、飛んだ?」
「当然よ、メイジだもの」
「お前は歩いて来いよなゼロのルイズ! 平民とならお似合いだぜ」
「ッ!」
 上空から降ってきた、ルイズとマグナを侮辱する言葉に、ルイズは顔を真っ赤にしてうつむいた。
 その様子に、マグナは少しだけカチンと来る。彼自身は無能者として嘲られることに慣れている。
 だがその不快感を知っているだけに、ルイズが嘲笑されるその姿に、マグナは無性に腹が立った。
 一瞬、さほど速くも無い速度で飛ぶ無防備な彼らを、召喚術を使ってまとめて撃墜してやろうかと、黒い思考がよぎる。
 幸い、固まって飛んでいる。範囲攻撃ができる召喚獣ならば……

「不快な思いをさせて申し訳ありませんな」
「あ……」

 背後から声をかけられて、マグナはその黒い思考を霧散させた。振り向けば、少々頭髪に目をやり難い中年男性がニコニコと人のいい笑顔を浮かべていた。

「あらためまして私は炎蛇のコルベール。当トリステイン魔法学院で教鞭を執っております。よろしければ、お名前をお教えいただけますかな」

 ニコニコと笑うコルベールに、マグナは完全に毒気を抜かれた。これを分かってやっているなら、コルベールは相当な食わせ物だ。
 自己紹介を求める彼の言葉に、マグナは少しだけ詰まった。今の自分は果たしてどう名乗るべきかと。
 蒼の派閥の召喚師・マグナ。
 これが今までの名乗りだ。今でも、間違ってはいないだろう。
 しかし……。

「マグナ……マグナ・クレスメントです」

 マグナは、あえてその名を名乗った。罪深い自分の名を。
 公式に許可されているわけではない、いわば元貴族が家名を名乗ることと変わらない。
 自虐的でもある。あえて名乗らなければ、この名前から逃げてしまいそうで怖い。
 どちらにせよ異世界だ。目の前の人物には関係ないだろうと思ってのことでもある。
 だが、それは思ったよりも変化をもたらした。

「家名がある、もしやミスタ・クレスメントは貴族……なのですかな?」

 コルベールが驚いたと言うように目を見開いていた。ルイズもまた驚きに満ちた表情を浮かべている。
 それもそうだろう。マグナは貴族の象徴である杖を持っていないからだ。

「平民の成り上がりですよ。家名は……先祖のものです」
「ほう」

 コルベールがめずらしい、と言うように息を吐いた。一方、ルイズは安心したような表情を浮かべている。
 平民から成り上がることはもちろんだが、一度没落した貴族が復権すると言うのもめずらしい。
 周辺国で有能な平民の登用が始まっていることもあり、これからはそういった例も増えてくるのだろうとコルベールは思った。

「ふうん、つまりあなたを私の使い魔にしても問題はないわけね。平民だもの」
「ああ。いまごろ、俺が居なくなって喜んでいるんじゃないかな」
「あまりご自分を貶めるものではありませんよ、ミスタ・クレスメント」

 コルベールは、皮肉に笑うマグナをそっとたしなめた。
 彼が何らかの組織に属していたとしても、貴族と平民の軋轢を考えれば、それも当然かと納得もする。
 マグナは「すみません」と、すなおに頭を下げた。
 自分でも卑屈だと分かっているのだが、先祖の罪が詰められたパンドラの箱を覗いてからというもの、どうにもこういった思考しかできないでいる。
 兎も角も、その二人を前にして、ルイズは小さな胸を張った。

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたのご主人様よ。不満はあるけど、あなたは私の使い魔。……分かった?」
「は、はあ」

 偉そうだなと思いながら、同時にマグナは、ああ俺は召喚獣なんだからこの娘の方が偉いのか、と納得してしまった。
 貴族に関しても、養父同然の師や、やたらとフランクな先輩二人がイメージとして先行するためにとまどうが、考えてみれば、ルイズの態度の方が、貴族としては「当たり前」だ。
 マグナは自分を追放同然の旅に出した貴族、フリップを思い浮かべる。……あの人ほど酷くないよな、とルイズの性格を評価した。

「返事が悪いわね……。まあ、使い魔としての自覚はコレからじっくり教育するとして、とりあえず部屋にもどるわ。付いて来なさい」

 颯爽ときびすを返したルイズに、マグナは慌てるように従った。
 こうして、召喚されると言う稀有な体験をすることになった調律の召喚師と、ゼロのメイジの物語は始まる。
 果たして彼らは、自身に絡みつく因果律の糸を超えることができるのか?
 その答えを知るものはまだいない。


ゼロの超律・2「召喚・後」了



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