あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエンジェル-08


「あの女の子、どこへ行ったんだろう?」

困った表情(にはとても見えないが)をしながら北野君は呟いた。
なんとか使い魔集団を振り切って突如逃げ出したメイド少女を追ってみたものの、既に少女の姿は見えない。
ならば人に聞いてみようか、と考えるものの周囲に声をかけられそうな人間はいなかった。
目の前には食堂内部へ続く大きな扉がある。
あの少女はここに入ったのだろうか?
状況を考えればそれが一番高い可能性だ。
それに、食堂ならば人がいるのは間違いない。
少女の格好からしてここで働いている可能性は高いのだから入ってみる価値はある。

「けど、勝手に入っちゃっていいのかなぁ。うーん、考えるより行動だよね」

少しばかり行動について迷うものの、北野君は食堂に入ることを決断した。
考えてみれば関係者でもない自分が裏口に回るほうがまずい。
むしろ、正々堂々と真正面から入ったほうがいいだろう。
仮に駄目だったとしたら誰かが注意するだろうし、その時は大人しく出て行けばいい。
そう結論を下し、北野君はゆっくりと食堂の扉を開いた。

(うわぁ……)

目に入った光景に純朴な少年は思わず感嘆する。
想像していた食堂とはまるで違ったのだ。
北野君が想像していた食堂とは、いわゆる学生食堂である。
生徒がごった返し、トレイに食事をのせて空いたテーブルを探して歩き回り、テーブルについた生徒たちはお喋りをしながら食事を楽しむ。
だが、異世界の食堂はそんな平凡な彼の想像を遥かに超えていた。
まず、内装が豪美なことこの上ない。
テーブルにはこれでもかというくらいの豪華な飾り付けがなされている。
その上には華やかな色とりどりの花が飾られており、優雅な雰囲気を強調するようにローソクが何本も立ち並んでいるのだ。
壁際には石でできているであろう像が立ち並び、内装自体もどこの宮殿だとばかりに絢爛豪華な雰囲気を醸し出していた。
まるで本で見たことがある中世ヨーロッパの宮殿のようだ。
資料でしか見たことがない光景を見て、無表情にしか見えない少年の肌に興奮の赤が浮き出て行く。

(……皆ぼくと同じくらいかな? 外国の人は実年齢よりも高く見えるっていうからわからないけど)

一通り感動した北野君は食堂にいる学生たちを見回した。
いるのは昨日の広場に集まっていた少年少女たちと同じような年格好のものばかりだ。
ルイズや青髪の女の子、それに赤髪の女性に金髪の少女と見た目が大幅に違う人間ばかり目にしてきたため一概に断言はできないが
恐らくはシステム的に自分のいた学校と同じような構成になっているのだろう。
あるいは、年齢には関係なく入学できるのかも。
何気に主を含む少女たちに失礼なことを考えつつ、北野君はメイド少女を探すべく足を踏み出した。

ざわっ……!
昼時の憩いの場である食事の場にざわめきが広がった。
それは入口の側から徐々に徐々に波紋のように範囲を広げていく。
食事をとっていたもの、祈りを捧げていたもの、歓談に興じていたもの。
その全てがその少年を目にした瞬間、一様に石化をかけられたが如く動きを停止する。

(な、なんだアイツは……!?)
(人間…いや、獣人か!? それともあれがエルフなのか!?)
(お、俺知ってるぞ……アイツ、ゼロのルイズの召喚した使い魔だ!)
(何!? じゃ、じゃああれが……)



『悪魔!?』



彼らの魂のシャウトが心の中で一斉にあげられる。
勿論、声を大にして口にするものはいない。
下手に刺激して、自分に興味を持たれたら一大事なのだ。
途端にざわめきが消え、食堂に静寂が訪れる。
入口から離れた場所は未だ喧騒の最中だが、北野君が歩を進めるたびに静寂の範囲は広がっていく。
触らぬ悪魔にたたりなし。
誰もが初めて見る異色の使い魔に恐怖し、それでいて興味をすてきれずにチラチラと横目で観察するように覗き見てしまう。
黒一色の服装と髪に透き通るほどの白い肌。
対極色のコントラストがその存在感を不気味に引き立てている。
こちら側の視線は感じ取っているだろうに、まるで気にする様子を表情に見せない。
それでいて、何かを探しているかのようにキョロキョロと周囲を見回しながら食堂のど真ん中を歩くのだから生徒たちからすればたまったものではない。

(な、なんであんなに視線を彷徨わせているんだ?)
(というかなんでそもそも奴がここに?)
(食事に来たんじゃあないのか?)
(食事って……何を食べるんだよ悪魔って)
(そりゃあ……!?)

一人の生徒の推測に場が固まる。
彼らの脳裏に思い浮かんだのは頭からバリバリと食べられる自分たちの図だった。
誰一人として普通に食事をしにきたのだと考えないあたり、外見による先入観とは全く持って度し難いといえよう。
ともあれ、想像図に恐怖した生徒たちは一様に口を閉じ、気配を消そうと勤しんだ。
気をひいてはならない、その一心で石像のように硬直する。
かくして、普段は喧騒で賑わっているアルヴィーズ食堂はたった一人の少年によって沈黙を余儀なくされるのだった。

「なんか静かだな」
「ですね、珍しいこともあるもんだ」
「ふむ、ようやく貴族の坊ちゃんどもも正しいマナーってもんがわかってきたのか?」

一方、食堂で何が起こっているのか知るよしもない調理場では料理長のマルトーが鍋をかき混ぜながら副料理長と会話をしていた。
理由はわからないが、静かなのはいいことだ。
別段、マルトーは食事中に喋ることに対して目くじらを立てているわけではない。
友人らと喋りながら食事をすることもまた食べることの楽しみの一つだ、それを否定する気はない。
だが、ここの学生たちは喋ることが主目的で、折角自分らが丹精込めて作った料理にロクに手を着けない。
熱々のスープに限らず、料理は出来立てが一番美味しいのだ。
それを長々と放置されて、しかもそのいくつかを残されて料理人が良い顔をするはずもない。

「ま、なんにせよ静かに食べるのはいいこった。こっちもカンにさわる声を聞かなくて済むしな」
「全くですね」

ハッハッハ、と朗らかに笑う調理責任者たち。
と、そこに疾風のように駆け込んでくるメイド少女が一人。
額に汗を浮かべて、しかし顔面は蒼白にしたその少女は彼らがよく知っている下働きの少女だった。

「おい、シエスタ……どうしたんだ、そんなに真っ青な顔で?」
「使い魔に吠えられでもしたか? ったく、貴族様もちゃんとしつけとけってんだ」

カクカクと謎のゼスチャーを繰り広げながら頭をぶんぶんと横に振るシエスタに二人は首を傾げる。
とにかく、落ち着かせないことにはどうしようもないと水を入れたコップを差し出す。
すると、シエスタは男らしい一気飲みでそれを飲み干し、はぁーっ! と大きく息をついた。
その豪快な飲みっぷりに思わず感心する男二人。

「はぁ……はぁ……マルトーさん! 私、逃げ……早退します!」
「へ?」

ぽかん、とマヌケな顔をしてマルトーはメイド少女の顔を見やった。
人一倍真面目で働き者な少女が早退?
食堂の静寂といい、今日は珍しい事が続くものだ。
だがまあ、今日は別段忙しいというわけでもないのでメイドが一人早退したところで大勢に影響はない。
切羽詰った顔を見るに、余程の事情があるのだろうし、マルトーとしては受諾に異はなかった。

「ありがとうございます!」

その言葉を聞くや否や、シエスタは脇目も振らずその場を駆け出した。
残された男二人は、わけがわからんとばかりに互いに顔を見合わせるのだった。

さて、一人のメイド少女が猛烈な勢いで着替えを済ましているその頃。
北野君はモーゼのごとく人が割れた食堂のど真ん中を横断していた。

(うーん、いないなぁ)

近場の学生や給仕たちを恐怖のどん底に陥れている自覚など全くなしに北野君は黒髪の少女を探す。
少女と同じような服装の女の子がチラホラと目に付くあたり、探し人がいるのは間違いなさそうだ。
誰かに聞くべきか。
そう考えてみるも、皆忙しそうに働いているのを見ると声をかけるのは躊躇われる。
学生たちは食事をしているのだから、そこに声をかけるのはマナー違反だ。

(困ったなぁ。それに、なんかぼくのせいで場の雰囲気を乱してるような気がするし……)

先程から自分に集まる視線を北野君は感じていた。
こちらから視線を向ければサッと目を逸らされるものの、四方から感じる気配に間違いはない。
ルイズから聞いた話を分析する限り、自分は平民という身分に分類されるらしい。
ひょっとしたら、ここは自分のような人間がうろつくのは珍しいのかもしれない。
半分正解で半分的外れな推測を立てながら、黒衣の少年は思考する。
自分のせいで楽しい食事の時間を邪魔するのは心が痛む。

(いったん外に出るべきかな)

そう考え、足を反転させようとしたその瞬間。
北野君の強化された目がある光景を捉えた。
数十メートルほど先のテーブルに座っている金髪の男子生徒。
彼のポケットから小びんがころりと零れ落ちていったのだ。

(わっ)

割れる、と咄嗟に身構えるが、幸い丈夫な造りなのか小びんは割れなかった。
しかし、金髪の少年は落し物に気がついていないのかお喋りに夢中の様子。
このまま放っておいたらそのまま小びんに気がつかないままかもしれない。
盗まれたり、誰かが踏んづけたりしたら大変である。
彼にとって大切なものかもしれないし、気がついた自分が教えてあげるべきだ。
北野君は持ち前の親切心を発揮して、金髪の少年の下へと歩いていく。

「ギーシュ。 お前―――だよ!」

金髪の少年を中心に会話が盛り上がっているのか、彼のいるテーブルはなかなか盛況だった。
この雰囲気に水を差すような真似はあまりしたくないのだが、気づいてしまったものは仕方がない。
北野君は小びんを拾うと、ゆっくりと手を差し出した。
「あの、これ落としましたよ」
「うん?」
友人の少年たちから質問攻めにされていた金髪の少年―――ギーシュ・ド・グラモンは目の前に差し出された手をいぶかしむ。
なんの変哲もない男の手だ。
しかし、その掌の上に乗っているものは問題だった。
紫色の液体が入っている小さな透明のビン。
その存在は彼にとって見覚えのあるものだった。
忘れるはずもない、愛しの存在であるモンモランシーにもらった香水だ。

(げ!)

サッと顔を青く染め上げたギーシュ。
見るものが見れば、この香水がモンモランシーのものだということは看破されてしまうだろう。
そうなれば、自分とモンモランシーの関係が邪推されることは間違いない。
いや、それ自体は別にいい、彼女とステディな関係なのは確かなのだから。
だが、問題はそこではない。
自分は今、下級生のケティ・ド・ラ・ロッタと交際している。
ぶっちゃけると、二股だ。
つまり、もしもこのことがケティの耳に入ればまずいことになる。

(どうする……どうするんだギーシュ・ド・グラモン!)

ギーシュは瞬時に自分の青銅色の脳細胞を働かせる。
一番いいのは白を切りとおすことだ。
幸い、目の前の友人たちが香水に気がついた様子はない。
というか、何故かこちらのほうを見ながら真っ青な顔をしてブルブルと震えている。
食あたりか? でも自分は平気なんだが。
まあそれはさておき、チャンスだ。
幸いにも手の主は丁寧語であることから判断して下級生か平民の使用人だろう。
こちらが強気の態度で押せばきっと引いてくれるに違いない。
この間、僅か三秒。
即興で対策を練ったギーシュは否定の言葉を口にしようとし

「これは僕のじゃ―――!?」

そしてその声を喉でせき止めた。
振り返ろうと曲げた視界の先に、金髪ロールの少女が。
つまり、モンモランシーの姿が映ったのである。
(モンモランシー! なんてタイミングで!)

ギーシュは振り返ろうと身体を半身にした体勢でピタリと動きを止めた。
目に映っているのは間違いなくモンモランシーだった。
何故か息を切らして顔面を蒼白にし、身体を震わせながら血走った視線をこちらに向けているような気がする。
まずい、非常にまずい。
この状況ではこの香水は自分のじゃないといえないではないか!
もしもその言葉を発してしまったら、モンモランシーを傷つけることになってしまう。

(くそっ、こうなったら正直に話してこいつらには口止め―――って、ゲェッ!? ケティ!?)

方向転換して本当のことを口にしようとしたギーシュの口が再度塞がれる。
立っているモンモランシーよりも手前のテーブルに、二股相手であるケティの姿があったのだ。
何故か彼女もモンモランシーと同じく、顔面を蒼白にしてガタガタと震えている。
ヤバイ、ヤバすぎる!
これはもしや、既に二人とも状況を把握しているのではないか!?

(前門の幼馴染、後門の下級生。どちらを選ぶも地獄……考えろ、考えるんだギーシュ! 考えればきっと妙案が……)

必死に頭をフル回転させてこの場を切り抜ける方法を考える二股男、ギーシュ。
だがすぐにそんな都合の良い方法を考えつけるはずもなく、焦りばかりが先行してしまう。

「あの、これ」

ツンツン。
肩を遠慮気味に叩かれ、ギーシュはふと思った。
そうだ、そもそも後ろの奴が原因じゃないか。
コイツがビンを拾いさえしなければ、自分がここまで追い込まれることはなかったはずだ。

(なんか段々腹が立ってきたぞ!)

果てしなく自業自得にも関わらず、ギーシュは自分本位に怒りを表面化させていく。
ハッキリいって現実逃避ともいえるのだが、今の彼を止める者はいない。
いや、厳密には二人ほどいた。
モンモランシーとケティ。
彼の二人の恋人は必死にジェスチャーで訴えていたのだ。
後ろを振り向くな、すぐにそこから離れろと。
しかし残念ながら乙女たちの願いは愛しい少年には届かず。

「おい、お前―――」

ギーシュは、振り返ってしまった。


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