あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

喰うか、喰われるか




透き通るような青い空。
そして上質なレースにも似た白い雲。
そんな平和で穏やかな世界に突如、轟音が鳴り響く。

ぐーきゅるるるるー、と盛大にお腹の虫が鳴いたのだ。
それも人ならまだしも風竜のお腹である。
近くを歩いている人がいたら雷鳴と聞き間違えただろう。

「はぁ……おなかがへったのね」

ここ最近は忙しくガリアとトリステインを行ったり来たり。
しかもご主人様は節約の為にと偽物のお肉を食べさせたり、
ひどい時にはごはんを抜いたりするという冷血漢なのね。
きっと竜なんだからそこらの魚や鹿でも捕らえて食べろって思ってるのね。
きゅいきゅい、失礼しちゃう! 
そこらの竜なんかとは違って、わたしは聡明で気位の高い風韻竜なんだから!
その辺の所、自覚して欲しいのね! きゅい!

と今この場にいない主人に腹を立ててもお腹は減る一方。
一刻も早くマルトーさんのいる厨房か、魚のいそうな池にいかないと空腹で倒れてしまう。

「きゅい…。お腹と背中がくっついちゃいそうなのね」

ふと視線を落とした彼女の目に何かが留まった。
それは大きいお肉だった。
一瞬、空腹のあまりに幻覚が見えたのかと思った。
しかし漂ってくる匂いは紛れもなく本物。
辺りを見回しても人はおろか獣の姿もない。
つまり誰かの獲物というわけではない。

肉の近くまで降り立ってシルフィードはちらりと周囲を窺う。
拾い食いはダメ、とタバサに言われた事を思い出す。
だけど、ここまで丁寧にまるで“食べてください”と言わんばかりに、
堂々と置かれた肉に手を伸ばさないなど、どうして出来ようか。

(きっとシルフィがいい子だから『大いなる意思』がお恵みをくれたのね)

“それじゃあ、いただきまーす”と口に出さずに思いながら彼女は肉へと歩み寄った。

その次の瞬間、彼女の足元は失われていた。


「な、な、な、なんなのね、これー!?」

じたばたとシルフィードが暴れる。
見れば下半身は完全に地中に埋まり、かろうじて上半身だけが出ていた。
ぽっかりと開いた穴の下には頑丈なネットが張ってあり、
それがシルフィードの足に絡まって自由を奪う。
この、この、この、と苦戦する彼女の前に誰かの影が差す。

(おねえさま、助けに来てくれたのね!)

歓喜を浮かべながら顔を上げるシルフィード。
だが、そこにいたのは彼女の主ではなかった。
そこにいたのは全身を鋼鉄の鎧で覆った戦士風の男だった。
もしかしたら声を聞かれたかも、と焦るシルフィードに男は無造作に近付く。
自分の傍らで何かの作業をしている男を見て彼女は安堵した。
風体こそ変が助けてもらえるなら贅沢はいえない。
……しかし、どこか様子がおかしい。

きゅい?と首を傾げながらシルフィードが男の方を見やる。
いつの間にか落とし穴の横には大きな樽が2つ積まれていた。
そして男はシルフィードを助けようともせず全力で離れていく。

――――凄くイヤな予感がした。

全力で羽ばたき、足をばたつかせるシルフィード。
男が何かを投擲するのと彼女が飛び立つのは全く同時だった。
投げつけられた玉が樽に命中した直後、凄まじい爆風が広がった。
上空にいたシルフィードでさえ身体を大きく揺さぶられる。
もし、あの場にいたら間違いなく命はなかった。

「……ひ、ひどい目にあったのね」

ふらふらとよろめきながらも空を飛んでいく風竜。
その背中を男は黙って見上げていた。


「今度は引っかからないのね!」

あれから2日後、シルフィードはまたしてもお肉と遭遇していた。
まるで仇敵と出会ったかのような視線でお肉を睨む。
ちらりとあたりの様子を窺うが、やはり気配はない。
この状況をどこかに潜んで眺めているのかもしれない。

「シルフィに同じ手が通用すると思ってからに!」

ていっ、と岩を持ち上げてお肉の近くに投げ落とす。
物凄い地響きと轟音を立てて激突する岩と地面。
しかし落とし穴らしきものはそこにはなく、
地面には衝撃で微妙に亀裂っぽいものが走っている。


落とし穴がない=罠じゃない=食べても大丈夫。
完璧な論理的思考でシルフィードはお肉にかぶりついた。
舌の先からお肉の旨みが染み渡っていく、ついでに別の物も。

「きゅい?」

全身の力が抜けてシルフィードはその場にうつぶせになって倒れた。
手足を動かそうにも痺れて満足に動かせない。
まさか食あたり?と思った直後、彼女の前に再びあの男が姿を現した。
その両脇には、またあの恐ろしい火薬樽を抱えている。
痺れて動けない彼女の目の前に積まれる火薬樽。
そして、その天辺に今度は小さな火薬樽を置いた。
ただ他の物とは違い、導火線が取り付けられている。

――――またしても凄くイヤな予感がした。

男が導火線に火を付け、全力で走り去っていく。
刻一刻と短くなっていく導火線。
何とか火を消そうとブレスを吐こうとしたが上手くいかず、
ふーふーと、まるでバースデーケーキのロウソクを消すみたいになってしまう。

去っていく男の背を見て、ぶちりとシルフィードの中の何かが切れた。

なんでお肉を食べようとしただけでこんな目にあわなければならないのか、
ただ普通にごはんが食べたいだけなのにそれさえも許されないのか、
込み上げてくる怒りが身体の痺れを打ち消していく。

がしりとシルフィードは導火線の付いた樽を握り締めると、

「きゅいぃぃぃーーー!」

全力でそれを男の背中めがけて投げつけた。
火薬の詰まった樽が凄まじい勢いで空を舞う。
突然の咆哮に振り返った男が目にしたもの、それは自分が設置したはずの爆弾だった。

瞬間、男の視界が白に染まった。
爆風に巻き込まれた男が炎に包まれて地面をごろごろと転がっていく。
そして、その場に倒れ込みピクリともしなくなった。

「……きゅい」

しまった。つい怒りに任せてやりすぎたのね。

死んでしまったかもしれないと恐る恐る近付いていく。
つんつんと指先で突付いて生死を確かめる。
耳を近づけるとしっかりとした呼吸が聞こえた。
放っておいても死にはしないだろう。

「当然の報いなのね、きゅい」

男はその場に残してシルフィードは飛び去ろうとした。
この男はどれほどヒドイ目に合わされたのか、
それを考えれば止めに踏んづけていかないだけでも甘いぐらいだ。

「…………」

ちらりとシルフィードが振り返る。
そこには苦しげに呻く男の姿。
はあ、と小さく溜息をついて彼女は男の元に歩み寄った。



目が覚めるとそこは村の前だった。
爆発でここまで吹き飛ばされたとは思えない。
もし、そんな衝撃だったら自分の身体など、
ジグソーパズルのピースと化していただろう。
よたよたと身体を起こして怪我がないか確かめる。
ふと気付くと鎧に何かが付着していた。
手袋を嵌めた手で掬い取って間近で凝視する。
それが竜の唾液だと気付いた時、ようやく自分が負けた事を悟った。


「やっぱりあの竜さんは怖い生き物じゃなかったんだね」

朗らかな少女の声が村を出て行こうとする男の背に投げかけられる。
それは彼が出立する前に竜を殺さないでくれと頼んだ子供だった。
少女の問いに男は黙って頷いた。
男の返事に少女は嬉しそうに笑みを浮かべる。
その隣には同じ様に微笑む神父の姿もある。

「これ、あげるね。竜さんを殺さないでくれたお礼」

少女が彼に小さな籠を手渡す。
中には、蛙苺というこの世界の野苺が詰まっていた。
戸惑いながら男はそれを返そうとした。
約束を守ったわけじゃない、ただ倒せなかっただけだと。
しかし神父からも受け取るように言われて男は従った。

少女と神父が手を振るのを横目に彼は村の外へと歩き出した。
竜を退治に行くといった時は村人総出で、
そして竜退治を断った今ではたった2人の見送り。
だけど決してイヤな気分じゃない。
何も狩れなかったが得る物はあった。
この世に無駄な冒険なんか一つもない。

口の中に蛙苺を放り込む。
すっぱい酸味が口いっぱいに広がっていく。
――――たまにはこんな報酬も悪くない。


村を遠ざかっていく男の頭上を一匹の風竜が飛んでいく。
その背には本を広げた青い髪の少女。
不意にしおりを挟んで本を閉じると彼女が口を開いた。

「拾い食いした?」
「してない! してないのね!」

人の心を読んだかのような発言にシルフィがぶんぶんと首を振る。
必死にごまかそうとする彼女をタバサが凝視する。
睨み合うこと数十秒、その沈黙を打ち破ったのはシルフィだった。

「……けぷ」

もう弁明のしようもないゲップにシルフィの青い顔がさらに青くなっていく。
掲げられたタバサの杖が彼女の頭に、ぽかぽかと何度も振り下ろされる。

「えーん、ごめんなさいー」
「ごはん抜き」
「そんなー、あんまりなのねー」

透き通るような青い空。
そして上質なレースにも似た白い雲。
そんな平和で穏やかな世界に響くのは腹の虫ではなく、
楽しそうな少女達の喧騒だった。




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