あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 19



 ――ああ、まただ。

 ルイズは肩を落とし、目の前の現実に失望したような、深いため息をついた。
 【これ】はいつも、唐突にわたしを襲う。わたしの感情や気分など知ったことでもないように、
 ただいきなり現れて、どうしようもない絶望をわたしにプレゼントしてくれる。  

 ――『あいつ』がわたしの使い魔になってから、果たしてわたしは何度ここに来ただろうか?

 分厚い暗雲に覆われた空を見上げて、ルイズは立ち尽くし、考える。
 敏感な素足が踏みしめる地面の感触は雪のように冷たく、硬い。
 足を少し動かすと、黒い土にまみれて目の見える範囲全てに敷き詰められた、
 変形した人間の死体や骸骨の絨毯が虚しくカラカラと鳴った。
 空には見たことのない銀色に光る体のドラゴンが、およそ生物の羽音とは思えない奇音を発し、
 まるで、地上に落した餌を探すように――文字通りその目を光らせて――徘徊している。 
 ドラゴンは時々その光を放つ眼をルイズに向けることもあるが、探しものはどうやら自分ではないらしく、
 すぐに光を離して暗黒の世界にルイズを引き戻した。

 ルイズはすぅと鼻から息を吸い込んだ。
 鉄と、血と、風化した土と、風化した死体の混ざり合ったそれは、心の奥にある恐怖心をメキメキと
 表に押し上げて来る。
 恐怖を押し上げる自分の心が、ルイズは怖かった。ひたすらに。だが同時に知っていた。
 ここには自分以外の人間がいないのだと。泣いても叫んでも、誰も助けてはくれない。 

 また一人で、現実のわたしの目が覚めるまでここにいるしかない…… 

 ――そういえば、『あいつ』はどうしたのだろうか?

 ルイズの記憶に、初めてここに来た時に見た使い魔の姿が蘇る。夢の中のあいつはシルエットだけは
 人の形を持っていたが、その本質は決して人ではなかった。
 顔の皮が、半身の筋肉がすべて吹き飛び、骨だけを露出させた人間は果たして生きていられるのだろうか?
 あの時は焦りと不安が爆発し、恐怖が足を滑らせた。心があいつの目の前に立つことを拒否していた。
 心配してやるべきだったのかもしれない。一緒に行動するようにと、命令してしまえばよかったかも知れない。
 忠誠を使うべき主君に恐れられた。あのときの自分の行動はあいつの目にどう映っていたんだろう?

 ここはあいつの夢――あるいは記憶――の世界のはずだ。

 どこかで爆音がとどろき、雲と地面の間で火柱が上がった。
 飛び跳ねるように体を抱き抱え、世界を照らす炎を見つめた。
 それは『火』系統に特化したトライアングルメイジが起こした魔法のように、ルイズの目に映る。
 空に届きそうなほど立ち上がった火柱は一瞬で勢いをなくし、後に残る黒い煙を黒い空に溶かしていた。 
 無意識に唾をのみ込んだ。のどがごくりと鳴り、生々しいは感触はルイズを『夢の現実』に引き戻す。 

 あいつ――ターミネーター――を探す必要がある。


 おかしなことに、初めてこの世界に足を踏み入れたとき以来、ターミネーターはルイズの前に
 姿を現したことがなかった。  
 この前の姿を見て、愛想をつかせた? だが、それはないと言い切れる。
 本当のルイズの世界におけるターミネーターは、常にルイズの隣を、歩幅を合わせて歩んでくれるのだ。
 では、もし故意にルイズをこの世界に引き込んでいるのがターミネーターがなら、彼を従える主として
 わたしは「なぜ?」を聞き出す必要がある。

 勇気を宿すように、手を強く握る。目的は決まった。 
 それは希望と言うほど大げさではないが、向かうべき結果へと繋がる大きな第一歩。
 まだ恐怖はある。夢だから危害を加えられない世界であるとわかっていても。
 この夢は思い出すと、それだけで背筋が変にしびれるのだ。
 地面に敷きつめられた、黒い土に汚れた骸骨。それを容赦なく踏みつぶして前進する巨大な銀色のゴーレム。
 空はどす黒い雲に厚く長く覆われ、ルイズに閉鎖された場所にたった一人でいるのだという事実をたたきつけた。
 墓場のような世界に、ただ一人だけ取り残される。それは絶対的な孤独だった。
 吐き気がするような夢。
 『悪夢』と一言でいえば簡単だが、その短い言霊に秘められた恐ろしさを、ルイズは理解していた。

 先ほど火柱の落ちた場所から、歓声が上がった。
 あまりにも突然なその出来事に、夢の中のルイズは眼を大きく開いて、
 遠くに響く雄たけびに近い歓声の大合唱を聞き入った。

 自然と足が動いた。もろくなった骸骨が崩れてルイズはつんのめった。
 誰かがいる。
 確信を得て、慣れたくもない地面によろめきながら、ルイズは走り出した。




              第19話 




 目の下に薄いクマを張らせたルイズは、授業のため教室に向かう道をやや定まらない足取りで進んでいた。
 頭がくらくらする。気を抜けば頭どころか体ごと左右にぶれてしまいそうな気分だった。
 すでにここまでの道中で、ルイズは口に手を当てて何度もかわいらしいあくびをしている。 
 踏み進むたびに足から伝わる廊下の硬さとかすかな刺激が、かろうじてルイズの意識を現世にとどめていた。
 そして、ルイズのすぐ斜め後ろには、ターミネーターが当然のように歩幅を合わせて歩き進んでいた。  

 ルイズは目をこすりながら、ターミネーターの方に首を少し振り向かせた。

 もう、確信に近い――残念ながらルイズのボキャブラリーでは言い表せない――ものを持っていた。
 背をピンと伸ばして胸を張り、無愛想な人の形をしたこれは、人間ではないのだと。
 彼を生み出した世界。そして彼がいたあの夢のことを、いずれは話すべきなのだろうか?

 ……いや、だめね。

 ルイズは思った。
 前、初めて夢を見た時のことを静かに思い出す。わたしはそのとき、ターミネーターに夢のことを全て話した。
 最も、あの暗黒の世界を完全に説明するのはこの世にいる誰でも不可能だとわかるが、それでも、
 体験したありのままを説明をした。だがそのとき、ターミネーターは何も答えなかったのだ。
 主人とその使い魔は普通、感覚的なものを通してお互いに理解し合う存在だ。そういった意味では
 夢という無防備な精神に働きかけてくるターミネーターはある意味で頭がよく、優秀なのかもしれない。

 だが、ルイズはあの夢に、【意味】が見い出せないでいた。
 あのような地獄を一方的に見せて、ターミネーターは何を言いたいのだ?
 お互いを理解するための情報が、あの夢には少なすぎるのだ。しかし、何度も連続で見せるからには、
 それに、なにか理解してほしい重大な意味があるのかもしれない。  
 しかし、ターミネーター当人がそれを理解していないのだ。ターミネーターが嘘を付いている可能性も考えたが、
 一月近く彼を傍で見続けたルイズだからこそ、彼が主たる自分に揚々と嘘をつけるようには思えなかった。

 ――矛盾。

 頭をよぎる一単語。
 しかし、この世界が現実である限り、そしてターミネーターと自分がここにいる限り、それはあり得ない言葉。
 不安が耳に囁く。何が足りない? この言葉を崩して現実に立ち返るために、あと何が必要……?
 わたしは主人だ。少なくとも、ターミネーターの世界にとってはわたしが主人なのだ。 
 主従し、忠誠を誓うものの胸中を探れずして、なぜそのものの主人を名乗れる?
 ましてわたしは貴族――それもそんじょそこらの成金貴族とは違う、由緒正しく誇り高いヴァリエール家三女、 
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのだ。

 その誇りを持って、わたしは霧のように隠れたターミネーターの真意を看破して見せ――! 

「っ――ひゃあっ!」 

 大きな手にいきなり肩を掴まれ、驚きに身が総毛立った。  
 肩に引っ張られて足が身体が大きく前に振られ、思わずこけそうになる。

「な、なによいきなり!? びっくりしたじゃない!!」

 ルイズが胸を押さえて振り向き、いまいちイントネーションの安定しない声で叫ぶと、
 ターミネーターはすっと後方を指さして、なんとなしに疑問を孕んでいるような声で、言った。

「通り過ぎている」

 何の事? と思い、ひょいと視線を指の先に送ると、そこには壁沿いにおいて
 ぽっかりと口をあけている、教室の出入り口があった。


「……ねぇあんた。前にわたしが話したこと、ちゃんと聞いてた?」
「ああ」

 ひっそりと覇気を含ませた声で尋ね、そっけない口調が返ってくる。   
 教室に入って席に着いたルイズの視線が、ターミネーターの手に握られている長い布に止まっていた。  
 ターミネーターは首をかしげる。ルイズの怒りがなんなのかデータを算出しているのだが、それを理解
 できるかはまったくの別問題。そして彼は今、理解しかねていた。

「持ち歩いちゃダメって言ったのよ! わたしは……!」

 手を伸ばすと地面を引きずってしまうほど、異常な大きさの布にくるまれたその中身は、
 ワイバーンを殺したという未知の武器。ルイズの知識の外に存在しているもの――【銃】。
 それは、現在ハルケギニア各国の銃士隊などが使う簡単で脅威を感じさせないおもちゃのような物とは別種。 
 威圧感、重量感、美しさ、そして威力。それらすべてが、まるで別次元の存在。
 ターミネーターは、これを長年愛用し、手に馴染んだ得物であるかのように使いこなせると言う。
 だからルイズは危険を感じた。
 携帯するには物騒すぎる、ここは魔法学院なのだ。メイジとして技量を高めるため、貴族が集まる学び舎。
 言い訳を考えてもフォローしきれないほど、あまりにも必要がない。そんなものは戦争で使えばいい。 

 ……しかし、そんなものをわたしを守るために使うというのだから、そこは少し嬉しい。

「代用品を受け取っていない」 

 その武器を手放さない理由を、彼は短く、わかりやすく言ってのけた。
 あまりにも簡単に、感情もなく返ってくる答えに、ルイズはうっと言葉につまり、
 しかし一瞬ののちに顔に浮かべた感情を怒りに変えた。

「だから、それは……」
「あら~ルイズおはよう。相変わらず顔にしわばかり浮かべてるわね」

 背後からさわやかな声で嫌味を放ったのは、見るまでもなくキュルケだった。
 キュルケは声同様、とても嫌味を言っているとは思えないさわやかな笑顔で近づいてきた。
 その後ろには、分厚い本を小さな手で支えて、うずめる様にして読みふけっている青い髪の子、タバサがいる。

「あーらキュルケじゃない。人の悪いところばかり見ていいところを見ようとしないその姿勢。
 さっすが! ゲルマニアの成金貴族は違うわね」

 ルイズは腕を組んでフンと鼻を鳴らした。ちらと横目で見ると、キュルケはあら、と余裕たっぷりに笑っている。
 それがなんだか頭に来る。くっと奥歯を噛み合わせると、うーと低く唸りながら睨みつけた。
 鋭い視線を浴びながら、それをものともせず、キュルケはターミネーターの隣に立ち、彼の顔を見上げた。 
 ターミネーターもまた、首を下に向けてキュルケを見た。

「あなたごめんなさいねぇ、まだ約束は果たせそうにないのよ」
「かまわない」
「ちょっと! 約束って何よ!!?」

 ルイズは向かい合う二人の間にさっそうと滑り込んだ。

「約束は約束よ? 言葉通りじゃない」
「そこじゃないわよ! 私が言ってるのは約束って言うのが一体何なのか? ってこと」
「くっ! ……この女は……!」

 妖艶に笑って誤魔化すキュルケを切り捨て、ルイズはくるりと方向転換しターミネーターを見上げる。
 彼女が手をちょいちょいと寄せなさいジェスチャーをすると、ターミネーターはルイズの顔の位置まで
 大きな身体をしゃがませた。 



「約束って、なに」

 勢いこそなかったが、対峙した相手を押しつぶすような圧力を散開させながらの言葉は、
 ここにいるのが普通の感性と凡庸な性格の持ち主なら、有無をいわずに腰を抜かしてしまいそうな迫力がある。 
 だがターミネーターはどこまでも冷静で、そしてジョン・コナーの言葉を借りるなら、「クソまじめ」な性格をしている。
 彼のCPUは彼女の様子を論理的に分析しながら、結果として出る如何にしても理解不能な感情に疑問を浮かべていた。 

「彼女は私に武器を用意すると言った」 
「はい……?」

 関節のかたくなった人形のように、ぎこちない動作でキュルケを見た。
 キュルケは微笑みを浮かべ、ルイズの反応を楽しそうに眺めている。  

「ツェルプストー! わたしの使い魔に勝手にものを与えないでよ!」

 キュルケは赤い髪をかきあげてルイズを見た。
 見る者に大きな余裕を見せつける笑顔は印象的で、間近で見る者は忘れることはないと思わせるほどであり、
 それはキュルケという人間の性格と器、相対する者を何かしらで認めていることをよく表していた。 

「彼は犬じゃないのよ。そんな言い方はないんじゃなくて? ま、いいじゃない。手間が省けて」

 ね? と聞いてくるキュルケを見て、ルイズは心の中でうっとうめいた。
 キュルケの言っていることは、悔しいが正論だった。
 ターミネーターは重すぎて、武器を求めて城下に行ったところで道中で馬がつぶれてしまう。
 それなりの準備をしていけば行けるのだろうが、あいにくと手持ちのお金でそれをやってしまうと今度は
 武器を買うお金がなくなってしまう。それじゃあ本末転倒だ。何の意味もない。

「でも、でも……」 

 自信無く口をもごもごさせると、キュルケがかるくため息をついて、またターミネーターに顔を向けた。 

「あなたも大変ね。こんな主人を持って」
「どういう意味よ!?」

 言った通りの意味よ。とつぶやくと、ルイズが飛びついて取っ組み合いが始まった。
 周りにいる生徒は驚いた顔をしたが、すぐに「ああまたかよ」とでも言いたげな、げんなりした表情をした。

「……まだ、理解できない」 
「……うるさい」

 二人の連れ添いは、あたりを気にせず激しい取っ組み合いをする二人を眺めながら、
 それぞれ無感情な顔で、言った。  




 しばらくあと、およそ真面目・硬派で通っているコルベールがまったく似合わない仮装をし、
 あわてた様子で教室に飛び込んでくるまで二人は止まらなかったし、止めようとする者もいなかった。




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