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ゼロの氷竜-02


ゼロの氷竜 二話

ブラムドはフライを唱えて飛び去っていく生徒たちを視線の端にとらえながら、目の前の年老いた人間から視線を外すことはなかった。
そしてそれはオスマンも変わらず、普段の好々爺然とした雰囲気は掻き消えていた。
ルイズは普段と違うオスマンの態度、この場に漂う張り詰めた空気に気圧され、言葉を発することができない。
「はじめまして、竜殿。わしはそこなミス・ヴァリエールが勉学に励んでいる、トリステイン魔法学院の院長をしておるオスマンと申す。よろしければ尊名をお聞かせいただけまいか?」
ブラムドは虚実を聞き分ける魔法を唱えながら、主であるルイズへ目線を投げかけた。
『虚言感知(センスライ)』
ルイズはオスマンとブラムドの間に視線をさまよわせながら、ブラムドに頷きかける。
小さな主よりの許可を得て、ブラムドはオスマンへ話しかける。
「老いた人の子よ、我が名はブラムド。フォーセリアと言われた世界、アレクラスト大陸の南に位置するロードス島、その北方にそびえる白竜山の主であった」
「丁寧な自己紹介いたみいる。だがわしはフォーセリア、アレクラスト、ロードスといった地名に心当たりがない。お尋ねするが、トリステイン、アルビオン、ガリア、ゲルマニア、ロマリアといった地名をご存知だろうか?」
「聞かぬな。試みに問うが、お主らの信ずる神の名は?」
神、という単語に、オスマンとルイズは不思議そうな顔をする。
神に近しいものといえば始祖ブリミルだが、神そのものという概念は存在しなかったからだ。
「神ではないが、わしらは6000年前に系統魔法を生み出したとされる始祖ブリミルを信奉しておる」
「そうか。我のかつていた世界には神が存在した。神の身ははるか古に滅びてしまったが、その奇跡を伝える人間たちがいた。神の力を借り、死者をもよみがえらせる使い手もいたという」
「なんと!? それはまことですかな!?」
目を見開いたオスマンは、同じような表情を浮かべるルイズと顔を見合わせる。
その驚きように、ブラムドはどこか得心したように考えていた。やはり、この世界は我のいた世界とは違うところなのだ、と。
「ふぅむ、非常に興味深いが、その話はまたいずれの機会にするとして、一つお願いがあるのだが、聞き届けていただけるだろうか?」
「願いの中身を話してもらわねば、是も非も答えることはできぬ」
「確かにそうじゃ。願いというのはブラムド殿の力がどれほどのものか、はかる魔法をかけさせていただきたいのじゃ。無論、調べるだけで他に害はない」
無論、虚実を聞き分ける魔法を唱えているブラムドには、オスマンの言葉に嘘がないことはわかっていた。しかし、ブラムドはあえて即答を避けた。
「主よ」





だが呼ばれたルイズは反応をしなかった。
巨大な竜が自らの使い魔となったこと、それに対する現実感の薄さが、ルイズの普段の明敏さを損なわせていた。
仕方なしにブラムドは今一度呼びかける。
「……ルイズ」
「はっはっはっ、はい? はい!」
どこか他人事のような、傍観者のような気分でいたルイズは、ブラムドに呼ばれたことに気付き、慌てすぎたせいで明らかにおかしな返事を繰り出した。
「オスマンはかように言ったが、我は構わぬと思う。ルイズ、許可はいただけるか?」
あえてルイズに許可を求めたブラムドに、オスマンは彼を信頼することに決めた。
少なくとも主といったルイズに対し、害をなすことはないだろうと。
「わ、私も問題ないと思います」
使い魔に対し、どこか教師へ受け答えするようなルイズの態度に、ブラムドとオスマンは共通した微笑ましさを感じていた。
「主の許可は下りた。思うとおりにするが良い」
「では、失礼する」
ディテクトマジックを唱え、ブラムドに秘められた力を見極めようとしたオスマンは、それが不可能であることを知った。
力が強すぎて己を物差しにして計ることができない。
海の大きさをコップや樽で測るような絶望感を覚える。そして、それほどの竜を使い魔としたルイズを賞賛してやりたかったが、それと相反するように苦悩せざるをえない。
複雑な表情を浮かべたオスマンに、ルイズは不安げな表情を向ける。
ブラムドは表情を変えないまでも、オスマンの態度に違和感を覚えた。
「何かおかしなことでもあったか?」
オスマンはブラムドの言葉にその顔を上げ、長いため息をつく。
「ブラムド殿、今わしにわかったのは、貴殿の力がわしにははかることができぬほど強いということです」
その言葉にルイズは喜色を浮かべるが、ほめるにしては態度がおかしいことが気にかかった。
「貴殿ほどの力を持つ竜を召喚し、使役したミス・ヴァリエールの才能は、わしを軽々と凌駕するものじゃろう」
その苦悶の表情に、ブラムドはオスマンが何を考えているのか想像がついた。
かつてブラムドがいた世界でも、強い力を持った魔術師たちが世界の覇権を握り、巨人族をはじめ、自らも含めた竜族や上位精霊など、本来人間のみでは太刀打ちすることのできない存在を打ち滅ぼし、あるいは屈服させた。
大陸全土を支配した魔術師たちの王国は結果として滅びたが、この世界でも同じことが起こらないとも限らない。
「身内の恥をさらすようだが、今この国に住む貴族どもには馬鹿者が多い。その馬鹿者どもに、これほど強い力があることを知られては困ったことになりかねん」
「困ったこと?」
かたわらの少女が疑問を浮かべる。
言葉に気付いた二つの視線が少女に集まり、少女はその体を固める。
二つの視線の主たちは微かな微笑を浮かべ、ルイズは頭上からの言葉を聞く。
「つまり、戦を始めるかも知れぬということだ。違うかな、オスマン」
「然り。……どこの国、いつの時代であっても人間は同じ事を繰り返すということですかな」
オスマンの寂しげな微笑みに、ブラムドは似たような表情で応える。





「じゃ、じゃぁどうすればいいんですか!?」
ルイズが悲鳴を上げる。
「主と使い魔が一心同体という前提がある以上、ブラムドだけを残していくことはできません。かといって学生である私が隠遁生活を送るのも無理です」
「……わかっておる。わかっておるのだ。ミス・ヴァリエール」
眉間に深い皺を刻み込むオスマンに、ルイズは感情を叩きつける愚かさを自覚する。
「申し訳ありません。オールド・オスマン」
「いや、気にせんでよろしい」
「オスマン」
落ち込む二人の人間とは対照的に、ブラムドはいたずらを思いついた子供のように楽しげに話しかける。
「何かな、ブラムド殿」
「先ほど我とは違う種だが、竜の姿を見た。であれば竜を使い魔とするのは不思議なことではないのだな?」
「ふむ。確かに竜を使い魔とする人間もおります。数は多くはありませんが……」
「問題は我の大きさということだな?」
「端的にいってしまえばそうですが、まさかその体を縮めるわけにもいきますまい?」
「問題はない」
こともなげなその言葉に、オスマンとルイズは二の句を容易に継ぐことができなかった。
「だが」
たった二文字の言葉に、二人の人間は居住まいを正す。
「お主やルイズと話をするのに、竜の姿は持て余すだろう。ならばいっそ人間に変わるのが良いのではないか?」
二人は呆けた。
文字通り思考が停止した状態にさせられた。
理由は至極単純なもので、想像もつかない高度な現象を、あたかも路傍の石を蹴飛ばす程度の気軽さで言われたからだ。
「ルイズを守るのが使い魔の役目であれば男の姿が良かろうが、共にすごすのであれば女の方が良かろう。どちらにする?」





二人の人間が、同時に口を開いた。
「おと……」
「女じゃ!!」
だが鈴の音を鳴らすような声が響きかけた瞬間、その見た目からは想像もできない張りのある声がさえぎった。
半拍の沈黙がその場を支配した後、オスマンは自らの叫びを継ぐ。
「ミス・ヴァリエール、お主が暮らしておるのは女子寮じゃ。無論学院内である以上、男が立ち入ることは絶対にならんというわけではないが、貴族の婦女子が生活する場に男がいる状況を作り出しては、子女を預かっているという立場を考えた場合、親御さんへの責任問題になりかねん。使い魔であれば特例という形はとれるが、問題の種は出来るだけない方が望ましい。わかってもらえるね? ミス・ヴァリエール!!」
オスマンはルイズの両肩に手を置き、熱意のこもった言葉を一息で言い切った。
当然、普段の緩やかなしゃべり方ではなく、その力強さは一軍を指揮する将のようだった。
だがその目はルイズを見ていない。
ルイズがその顔を仰ぎ見ようとすると、オスマンはさりげなく視線を逸らす。
少女の表情に不信感が満ち溢れるが、目の前の胡散臭い老人の言っていることは正論には違いない。
また、自身の通う学院の院長であることも考えれば、その提案に否やといえる立場でないことも確かだ。
不承不承という言葉がふさわしいように、ルイズはブラムドへ話しかける。
「……女でいいわ」
ブラムドとしては男になろうが女になろうが労力は変わらない。
ルイズの表情が気にかかりはしたが、その口から出た以上は命令といって差し支えない。
「心得た」
ブラムドが詠唱を始める。
オスマンの目がブラムドへと向く。
その瞳を見たルイズは言い知れぬ不安に襲われた。
『変化(ポリモルフ)』
ブラムドの呪文が完成し、その体躯が縮み始めた瞬間、ルイズは自らの不安が目の前に存在したことを知った。
大きな翼が背中へとしまわれていく。
長い首が短くなりながら、その顎が縮んでいく。
長い爪が手足に収まり、その四肢が絞られる。
体中を覆っていた白銀の鱗はいつの間にか消え去り、その鱗に負けない白い肌へ姿を変える。

見上げていた二人の人間の首が緩やかにおろされると同時に、そのうちの一人、ルイズはメイジの証であるマントの留め金を外す。
何かが、期待に充ち満ちた顔をしたオスマンの視界をさえぎる。
ブラムドは人の姿となり、ただ静かに立ち尽くしていた。
空を閉じ込めたような青い瞳。
新雪のような真白い肌。
そして太陽の光を受けて煌めく銀髪は、先刻までその身を覆っていた鱗が姿を変えたかのようだ。
オスマンの顔に、マントをブラムドにかぶせたルイズの視線が突き刺さっていた。
正確に言えば、オスマンの伸びきった鼻の下に。
だが伸びていたのは半瞬に過ぎない。
何故ならあらわになるはずであったブラムドの胸元と下腹部は、ルイズがたった今取り外したマントに隠されていたからだ。
ルイズの眼差しは恐ろしいほどに鋭かった。
かつて学院に在籍していたルイズの姉、エレオノールもかくやというほどに。
オスマンが伸ばした鼻の下を戻し、何かを誤魔化すようにあごひげをしごき始めた瞬間、地の底から這い上がるようなルイズの声が響いた。
「オールド・オスマン」
「何かね? ミス・ヴァリエール」
額に一筋の汗をたらしながらも、声音が変わらなかったことは賛辞に値するだろう。
「私はこのマントを支えていなければなりませんので、服を一着持ってきてはいただけませんでしょうか?」
「んむ、心得た」
言うが早いかオスマンは学院へと飛び去り、その場には一人の少女と一人の女性が残される。





丈がわずかに足りないマントを巻き、夕日に染められたブラムドの姿はあたかも一枚の絵画のようだった。
数瞬の忘我。
「ルイズ?」
ブラムドに見とれていたルイズはブラムドの呼びかけに反応するのが遅れる。
そしてその顔を夕日以外の染料で真っ赤にしながら、高らかに抗議の声を上げた。
「ブ、ブ、ブラムド!」
「何だ?」
「女になったのなら、その肌をさらけ出すようなことは出来るだけしないで頂戴!」
「わかった。だが元々服をまとっていたわけではない。この姿になった瞬間に裸であることは仕方あるまい?」
思わず納得しかけたルイズだったが、それでも再び反駁する。
「で、でも裸になることがわかってるなら、服を用意してから変身したっていいんじゃないの?」
「なるほど、道理だな。ルイズ、お前は頭がいい」
そういいながら、ブラムドはその手でルイズの頭をなぜる。
学院の授業で実技が伴って以降、ほめられた経験のなかったルイズは我知らず涙をこぼす。
「どうしたルイズ?」
ブラムドの言葉に、ルイズは自身が涙をこぼしていることを知る。
慌てて心配がない旨を伝えようとするが、喉が詰まったように言葉が出てこない。
その様子にブラムドはその唇をルイズの顔に寄せ、こぼれた雫を舐めとった。
「ブ、ブ、ブラムド!?」
「塩辛いな。なんだこれは?」
「なんだこれはって、涙よ」
予測もつかないブラムドの言葉に、ルイズは一瞬惚けたような表情を浮かべ、端的に答える。
「妙なものだ。ルイズ、なぜ涙を出す?」
「わからないわ」
「ルイズにもわからないことがあるのか」
その言葉に、ルイズはブラムドの自身に対する強い評価を感じた。
繰り返される実技で、クラスメイトたちの視線は公爵家の子女への敬意から、落ちこぼれに対する見下すものへと変わっていった。
ルイズ自身、その状況に満足していたわけではない。
だがゼロの二つ名を冠せられるようになるまでに、見下されることに慣らされてしまった。
「ルイズ?」
再び涙をこぼし始めるルイズに、ブラムドは気遣わしげな視線を送る。
そしてルイズは自覚する。
自分を評価してくれるブラムドの態度に感動しているのだということを。
「だ、大丈夫、大丈夫よ」
初めてみる涙に、ブラムドは不可解な感情を味わっていた。
それは涙を初めてみることでわきおこったのか、人間に変わったことでわき起こるようになったのかはわからないが、けして不快なものではなかった。
そしてブラムドはその感情に従い、ルイズの頭をなぜながら、その体をそっと抱きしめる。

急ぎ舞い戻ったオスマンは、抱き合うルイズとブラムドの姿を見て、ミス・ヴァリエールと替わりたい、そう切実に思い、悔し涙に頬を濡らした。


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