あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの鎧竜

春の使い魔召還の儀式にて、ルイズが呼び出したのは漆黒の体躯を持つ竜だった。
頭から尻尾の先までは20メイルを軽く超え、全身を覆うのは正に鎧としか言いようの無い堅殻。
体を丸めて熟睡しているようだったが、その姿はまさに山が眠っているとしか言いようの無い威圧感だ。
元はどこ居たのか、全身から立ち上る熱気が更に凶悪さを増している。

「嘘だろ、ゼロのルイズが……」
「俺、夢見てるみたい」
「すっげえドラゴン……」

普段は軽口を叩く級友達も、あまりの事態に唖然として見守っている。
土埃を恐れてルイズの周囲には誰もいなかったのは幸いだった。もし近くにいれば挽肉のように潰れていただろう。
使い魔の中にはあまりのサイズに驚いたのか、恐慌状態を起こして主人を引きずりまわすものまでいた。

「やった、やったわよ! やった!」

ルイズといえば感激のあまり滝のように涙を流し、危ない薬を致死量寸前まで投与されたようにハイテンションだった。
地面にへたり込んて狂ったように腕を振り回す様など、水メイジが見れば即精神病院に叩き込まれかねない。
そんな状態でコントラクト・サーヴァントを思い出したため、死んでも逃がさないとばかりに竜の顔に突撃して鼻血を噴いた。
熱くなっていた竜に口付けを行ったために火傷し、顔は涙と鼻水と鼻血でグシャグシャになっていたが、この少女の不幸を思えば仕方が無い。
寝そべっているために分かりにくかったが、胸の辺りが光るのを確認したため、コルベールは安心してルイズに話しかけた。

「おめでとうございます、ミス・ヴァリエール。
でも抱きつくのはやめましょうね、死んじゃいますよ。
今日は使い魔と親睦を深める予定の日ですし、ずっと傍にいていいですから、ね」

目をハートマークにして使い魔に張り付こうとする彼女を、コルベールは必死で引き剥がした。
授業中に少女の燻製が出来るなどすれば、彼の教師人生は全力で終了する。それがヴァリエール家の三女なら尚更だ。
結局、他の生徒を返した後でルイズに付き合うことになり、巨大な竜の全身が冷えるまでひたすら風を送り続ける羽目になった。

「凄い! なんて堅いのかしら! それにこの大きさ!
間違いなく高位の竜よね! それに絶対強いわ!」

魔法の使いすぎて干からびているコルベールを尻目に、ライオンに乗ったネズミのごとく竜の体を這い回る。
普段の彼女の身体能力からすればかなり無茶な事だが、人間時には予想以上のパワーを発揮するものだ。
今のルイズならば、空でも海でも土の中でも所構わずこの竜についていくだろう。人間って凄い。
だが竜が目を覚ましてルイズと見詰め合った時など、精神のブレーカーが吹っ飛んだのか気絶してしまった。
竜のほうはいきなり倒れてしまったご主人様を見つめ、心配そうにぺろぺろと顔を舐めるその姿はまさに使い魔そのもの。
ガイコツ寸前だったコルベールは心からの祝福を送り、彼もぶっ倒れた。



すっかり仲良くなった竜の背に乗せられ、ゆったりと学園に戻った時は大騒ぎになった。
博識な教師でもこんなドラゴンは見たことが無かったし、何より馬鹿げているのはそのサイズだ。
眠っている時ですら山のように大きいのだから、立って歩いている姿など山脈に等しい。
一歩ごとに大地が揺れ、踏み固められているはずの街道にすら足跡が残る。どれほど体重があるのか計り知れない。
伸ばした頭から尻尾の先までは30メイルはありそうで、高さは明らかに10メイルを超えている。背中のルイズが小人に見えるほどだ。
そんな彼女らが人目につくのは当然の事で、学校へ向かう途中で足を止めたルイズの周りはあっという間に人垣が出来た。
普段は自分を馬鹿にしていた生徒たちにすら惜しみない賞賛を送られ、教師たちは口々にルイズの努力が実った結果だと褒め称えた。

「ありがとう。来てくれて、本当にありがとう……」

ゼロと呼ばれ続けた日々が長かったルイズにとって、これは強烈だったのだろう。竜の背中の突起にすがり付き、ルイズは再び泣きじゃくった。
罵倒には慣れていても、こういうのには全く慣れていないのだ。ルイズの精神は再びブレーカーを落とす寸前である。
ルイズは見物者が居なくなるまでトコトン自分の使い魔を見せつけ、生まれて始めての圧倒的な優越感に心から浸った。

「そうよ、まずは名前よね!」

数時間後、本日初めて頭がパーン状態から復帰したルイズが行ったことは名づけだった。
入り口が(この竜には)狭すぎて学校の敷地中に入れなかったため、現在は塀の外の草原で使い魔と向き合っている。
目の前の強大な使い魔が死ぬシーンは想像も出来なかったし、つまりは絶対に一生を付き添うことになるのだから、気軽には決められない。
今まで読んだ書物やら聞いた話やらを総動員するも、変に捻った名前では外してしまうかもしれない。
かといって竜だからドラきちとか、黒いからクロちゃんとか、そういう安直な名前では笑われる。
そもそもオスかメスかすら分からないのだから、その辺も考慮せねばなるまい。それで居て立派な名前である事が必要だ。

「やっぱり見た目からつけるのがいいわよね、分かりやすいし……」

この難題に絶対的な解など存在していないのは分かっているが、ベストが無理でもベターな名前をつけたかった。
見た目は山のようで、背中にはトゲのような突起が複数あり、体は冷えた溶岩のように黒い。
いくつもの候補が頭の中を駆け巡り、煙を噴きそうになるほど熟考の末にルイズが出した結論はこうだ。

「グラビティ、略してグラ! ロマリアの古い言葉で重力って意味だけど、重厚そうな貴方にはぴったりよね!」

そう呼ばれた本人はしばらく首を捻っていたが、それが自分の名前だと理解すると嬉しそうに顔をこすり付けた。
顔だけでもルイズより大きく、力加減を誤れば軽く押しつぶしてしまうのは火を見るよりも明らかだが、グラはそれが分かっているかのように優しかった。
ルイズは再びラブラブモードに突入してしばらく使い物にならなくなったが、夕闇が迫る頃になると、食事の問題で正気を取り戻した。

「そういえば、グラって何を食べるんだろう……」

まず体長から見ても膨大な量が必要だと分かり切っていたし、貴重な物を食べるとしたら一大事だ。
人生で初めて成功した魔法で呼べた、人生最高のパートナーを餓死させるなど、到底許せることではない。
もし餌が人肉だと言われれば、躊躇いなく口の中に突撃するような覚悟である。
幸いなことにルイズが食堂から貰ってきた餌用の乾燥肉を喜んで食べたので、少女の血肉飛び散るスプラッタ映像にはならなかった。
馬車に積まれた山のような乾燥肉はあっという間にグラの胃袋へと収められ、学校の管理人が真っ青になるのだが、そんなことは幸せな少女には関係ない。
ルイズは眠る直前までグラの傍におり、脳みそお花畑状態をたっぷりと満喫した。



翌日、使い魔との親睦を深めるために2年生は休校だと通告されてルイズは喜んだ。
だがそれは建前で、本当の理由は教師を動員して図書館に篭り、ルイズの使い魔の正体を調べるためだと言われた日には、ルイズの頭は朝からお花畑である。
グラの食費は国に助成金を申告すればまず間違いなく通るし、駄目でも家に頼めば絶対に出してくれるだろうとアドバイスされたので、さして気にはしていなかった。
昨日、興奮でなかなか寝付けなかったルイズが実家に出した手紙の内容が、新婚ホヤホヤバカップルも真っ青な内容であった事は少女のために黙しておく。

「君のせいでモンモランシーが怒ってしまったじゃないか!」

朝食を取りに行った食堂でちょっとしたゴタゴタがあったが、30メイルのドラゴンに挑む勇気が少年のほうになかったため、何事も無く無事に終わった。
この日もルイズは一日中グラのそばにベッタリと張り付いて過ごし、王都まで遠乗りに出かけようとして教師に止められたりした。
グラの乗り心地は良いとは言い難いが、体のサイズの関係で馬などよりは早いのだ。この事実はますますルイズを喜ばせた。
変わりにと出向いた近くの森で、偶然発見したオーク鬼を一口で捕食した時は唖然としてしまったが、使い魔が強いのはいい事である。
ついでにこの事を教師に話したところ、そのオーク鬼の討伐に近々出向く予定だったと言われ、功績を認められて1週間は自由にしてよいとご褒美までもらった。
その条件としてグラの躾と森のパトロールという任務をいただいたが、ルイズからすれば使い魔のお散歩と食事を兼ねているのだから悪い気はしない。

「グラしゅきしゅき! だいしゅき!」

だからこんなことを延々と2時間も言い続けるルイズを許してあげて欲しい。
力の抜け切った顔を、出来れば見なかったことにしてあげて欲しい。
彼女はちょっとだけハイなだけで、頭の中は至って正常なのだから。多分。



ルイズがグラを呼び出してから半月もすると、もう誰一人ルイズをゼロとは呼ばなくなった。
なにしろメイジの実力を見るなら使い魔を見ろ、である。そんな恐ろしいことはもう誰にも出来ない。
現在のルイズの二つ名は、鎧竜のルイズや巨竜のルイズなどで、まだはっきりとは決まっていないかった。
この間に起きた目だった事件といえば、助成金の視察に来た男がグラを見て腰を抜かしたとか。
ロングビルがとうとうオスマンのセクハラに耐えかねてやめたとか。
周囲の森からオーク鬼が全部逃げ出してしまったとか。
グラの種族が未だに分からず、図書館に篭り切りのコルベールの頭が煙を噴いたとか。
すっかりグラと心を通わせたルイズがグラの特技をねだり、草原にビームで"なぎはらえ"とばかりの一文字を刻んだとか。
そのせいで固まりかけていたルイズの二つ名に、灼熱の、というのが加わって混乱したとか。
使い魔品評会でぶっちぎりの一位を取り、賞を総なめにして伝説になったとか、その程度だ。

ちなみに最後の行は本日のことであり、品評会で散々褒めちぎられた後だったりする。
実家とやり取りしている手紙には、最近縁談の話が急増したとか、貴方は絶対に出来る子だと思っていた等々。
ルイズの人生は長年暗い物で、評価はX軸に張り付かんばかりだったが、ここ最近で急上昇中である。
相変わらず魔法を使うことは出来なかったが、なにやら図書館のコルベールに虚無の可能性があるとか言われて狂喜乱舞した。
まさに人生の絶頂期真っ盛りな今日この頃だったから、発情期アンアン……もといアンリエッタ王女に勅命を受けた時など、二つ返事で了承してしまう。
何やらレコン・キスタという軍勢がアルビリオンを占拠し、間もなくこのトリスティンに攻め込んでくるというのだ。
姫の思い人であったウェールズ・テューダー皇太子様は満身創痍であったが亡命に成功し、現在王宮で治療を受けているという。
現在はまだ"レコン・キスタ側がどの程度本気か分からない"という楽観的な理由により徴兵などは行われていないが、戦況が悪化すればそれも辞さないと。
この姫の頼みはルイズの貴族としての心を、そりゃあもう打ちまくった。

「レコン・キスタ! そいつが原因なんですね! わかりました! 私が姫様の笑顔を守ります!」

「でもルイズ! 死ぬかもしれませんよ!」

「任せてください! グラは無敵です!」

ルイズは薄い胸をドンと張り、グラと共に最前線に立つことを了承した。
本来ならばヴァリエール家の三女であるルイズが前線に立つなど、政治的な理由によりかなりの根回しが必要になる。
しかしルイズが行くと言ってくれれば話は早いし、何より30メイルのドラゴンが先頭に立ってくれれば士気も大違いだ。
数日のうちに戦地となる場所へ立つ事になるが、ルイズの胸には一片の恐れも無かった。
準備期間の間はグラの餌の量、質と共に飛躍的に上昇し、本人は大喜びで餌を貪っていた。召還時より30セントほど成長したらしい。

「わかった? グラ?」

"これは戦争だから、特別。でも普段は絶対に人を襲っちゃ駄目"と言い聞かせるルイズに、グラは実に理解を示した。
つまり自分の縄張りを荒らすものが来たから、助けてくれと言う訳である。単純なだけに実に分かりやすい。
ルイズを背に乗せて咆哮を上げるその姿は、誰の目にも強そうに見えた。






「侵略軍接近! 総員戦闘配備!」

開けた草原に広がる部隊を鼓舞すべく、会戦を告げるラッパが高々と響き渡った。
先頭に立つのはルイズの使い魔であるグラビティで、遠くに見える敵の船を怒りの篭った瞳で睨みつけている。
ビームを放った後のグラは高熱を持ち、周囲には誰も近寄れないので、まさに一騎がけと言っていい。
その巨体を盾にすばよいとばかりの状況にルイズは憤慨したが、グラの任せろという自信に裏打ちされた瞳を見れば、文句など言えなかった。
グラを信じていないわけではない。だがグラが倒れれば士気はすさまじく低下し、トリスティンの敗北は間違いない物になる。

「頑張って、グラ……」

この日トリスティン側に集まった兵士は5000人と、レコン・キスタ側の上陸部隊と比べれば1000人ほど多かった。
しかしトリスティン側にはフネが無く、グリフォンなどの空中艦隊、ドラゴンを操る竜騎士隊でも劣っている。
つまり上空から一方的に攻撃を受ける事になり、たかが1000人の数の優位など、戦況一つで簡単に覆る。
数の優位を確保するために雇ったのは大半が傭兵という事もあり、トリスティンの置かれた状況は実に悪い。

「グラ、落ち着いて……。もっと引き寄せるの! 攻撃はそれからよ!」

ルイズとアンリエッタは後方の本陣で護衛に囲まれていたが、心を通わせる事が出来たルイズの目にはグラの見たものがしっかりと写る。
ジリジリと近づいてくる敵影を前に、不慣れな戦争という状況に立たされたルイズの心は悲鳴を上げていた。
それを必死で抑えているのは、見守るしか出来ない自分が不安になって、グラを怖がらせてはいけないという一心からだ。
だが心で繋がった使い魔は、その事実をはっきりと認識していた。同時に燃えるような怒りを覚えてもいた。
あの敵のために大切なご主人が心を痛めている。これだけでグラを激怒させるには十分過ぎた。
野生だった時は、満足に餌が取れない時もあった。ハンターたちが自分を狙い、激しく傷つく事もあった。
しかしそれでもグラは生き延びていたし、現在の体調は野生の時では考えられないほど良い。
ルイズは優しいし、この世界は平和で、餌の心配をする必要も無く、外敵に怯えることも無く眠れる。
それをぶち壊す奴等など、ただの一匹たりとも許すわけが無い。

「グラ、まだ早い! ……いけるの?」

ビームを放つために力を集め始めたグラに、ルイズはついに緊張に耐えられなくなったのかと焦った。
しかしグラは大きく頷き、安心しろとばかりに微笑んでいる。
体内にマグマすら蒸発させかねない熱を湛え、グラの胸に刻まれたルーンが眩いばかりの光を発していた。
かつてのグラでさえ、溶岩に足を突っ込んでも無事なハンターを吐き払うだけのパワーがあったのだ。

「分かったわ。目標はあのフネ! レキシントン号!
不沈だなんて言われるけど、グラなら大丈夫よ!」

ならばこの状況、守るべき物が出来たグラに、その程度のことが出来ないとは言わせない。
それにルーンとか言うこの胸のは、自分に力を与えてくれていた。野生の頃では考えられないほど力が満ちている。
今なら大空を飛び回ることすら不可能ではないだろう。それは確信だった。

「よーし、グラ……やっちゃえ!」

レキシントン号をその相貌で睨みつけ、グラはオーク鬼ですら一飲みにする口を大きく開けた。
ご主人様を泣かせるヤツは絶対に許さない。体内で荒れ狂う熱量を収束させ、光の束として放つ。
火山の噴火のように煌いた光は、ありとあらゆる防御をぶち抜いてレキシントン号に大穴を開けた。
膨大な熱量は大量に積載していた硫黄に着火し、不沈艦とよばれたそれが上空で爆散する。

「すごい! 凄いわよグラ! その調子!」

体にたまった高熱を一気に噴出し、グラは浮き足立っている敵の群れへ一直線に突っ込んだ。
彼の体からすれば爪楊枝のようなサイズの矢が無数に降りかかるが、マカライト鉱石で出来た武器すら弾く彼の黒い堅殻を傷つける事は無かった。
敵は怯えていたし、敵の武器は弱く、彼は怒っていた。負ける要素など一つも無いのだ。
一歩ごとに草原に穴を開け、大地を揺るがす地響きを伴って疾走するグラを止められるものなど誰一人居なかった。
大木すら一撃で真っ二つにする太い尻尾を振り回すと、その範囲内に居た敵は全て潰れて吹っ飛んだ。
無数の火の玉が四方からグラに襲い掛かってきたが、マグマの中を泳いで移動する彼にとって、この程度はそよ風に等しい。
上空のフネから発射された砲弾はダメージにはなったが、十分に接近したグラがビームを放つと、フネとやらは2,3個まとめて燃えた。
他にもたくさんの攻撃が彼に降り注いだが、どれもこれもグラに決定的なダメージを与えるものではない。
怒り狂った巨竜に立ち向かえるものは誰一人おらず、もとより司令官を失っていたレコン・キスタの敗走を止める者は誰も居なかった。



この戦をきっかけに、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは英雄の道をひた走る事になる。
かつてゼロと呼ばれ、落ちこぼれとして蔑まれた彼女の姿はどこにも無い。
戦女神、神竜の使い手、絶対なる力。これらは全てミス・ルイズを指し示すための言葉だ。
トリスティンが真の平和を持つことが出来たのは、ひとえに彼女のお陰といっていい。
彼女が逝去して今年で100年目になったが、今もその栄誉は留まることを知らず、数多くの作品で取り上げられている。
彼女の死後、使い魔であるグラビティの行方が知れていないのも、物語の人気を上げる一つの要因だ。
別世界から来たとされる彼が今どこに居るのか、無数の学説はあるがどれも確証には至らない。
ただ間違いなく言われているのは、もしトリスティンが襲われれば、どこからともなくやってきてくれるという事だけ。
なにしろ、この国は彼の縄張りらしいから。



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