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ナイトメイジ-16


「空賊だ!」
誰が発したのだろう。
その声と共に甲板は急速に慌ただしくなる。
ある者は帆にとりつき、ある者はロープを持ち、またある者は風石をため込んだ船内に駆け下りていく。
たたまれていた帆が音を立てて広がった。
途端にフネの速度が慣れていないルイズにもわかるほどに上がる。
今までの風石を節約する飛びかたから風石の消費を覚悟してでも速度を重視する飛び方に変えたのだ。
だが、それでも安心はできなかった。


空賊船で舵を握る男はマリー・ガラント号の帆が急速に広げられていく様を見ていた。
「やはりそう来るだろうな」
海賊に襲われた輸送船が取り得る逃走方法は限られている。
その一つが比較的大きな雲に隠れてしまうことだ。
通常ならアルビオンへの衝突防ぐためにそんな目をふさぐようなことはしないのだが、空賊に襲われたのならしかたがない。
だが、現在の天候はアルビオン近辺には珍しく快晴。
隠れる雲は遠くに見えるだけで近くにはない。
ならばこの勝負は速度が決め手となる。
先に雲に隠れてしまえばマリー・ガラント号の勝ち。
その前に捕まえれば空賊の勝ちというわけだ。
「だが、もう遅い。おい、こちらも船足を上げるぞ」
「アイ・サー」
男はその敬礼には不満だったようだ。
首を横に振り、部下の間違いを正してやる。
「今は違う」
「そ、そうでした……わかりやした、親分」
今度は男も満足したようで、深い首肯で返す。
わずかの時間の後、マリー・ガラント号を上回る速度を得た空賊船は猛禽の思わせる勢いでその爪を立てようとしていた。


マリー・ガラント号の甲板でルイズたちは後ろから迫る空賊船を不安げに見ていた。
マリー・ガラント号が速度を上げたときは、これで逃げられると安心した。
だが空賊船はそれを上回る速度を出して迫り、その姿を大きくしていく。
既に甲板に立つ空賊たちの服の色くらいなら見分けられるほどになっていた。
不安を覚えたルイズは婚約者に手を伸ばそうとしたが、その手は彼女の意に反して動かなかった。
アンリエッタがルイズの腕をつかんでいたのだ。
そのアンリエッタも不安を隠せずにいる。
ルイズは残ったもう一方の手も少しでも助けになればとアンリエッタの震える肩にのばした。
互いの息づかいと体温を感じるほどに二人の距離は縮まったが不安は消えはしない。
突如轟音がした。
雷の音に似ていたかもしれない。
だが、あたりには雲はない。雷のはずはない。
音の元はマリー・ガラント号の後方、空賊船。それが大砲を撃ったのだ。
ルイズはアンリエッタの肩に添えた手に力を込め、隣に立つワルドを見上げた。
「心配しなくていい。あの距離ではまだ大砲は届かない。ただの威嚇だよ」
ワルドが空賊船に目を向けた。
ルイズもそれにつられて後ろを見る。
空賊船はさっきよりさらに近づいていた。
「だが……これではまずいな」
見れば空賊船には片側に10を優に超える砲が据え付けられている。
対してこちらは射程の短い移動式の砲が3門。
敵の射程内に入れば勝負にならず、降伏か撃沈かの二者択一になる。
次にワルドは後甲板を見た。
船長は必死で指揮を執っているが、先ほどの威嚇射撃でおびえてしまった者も多く目に見えて船員たちの動きは鈍っている。
「む……う」
ワルドは後ろ甲板の船長に足を向けた。
歩き出す前に、後ろでおびえる少女たちに振り返った。
「着いてくるかい?」
ルイズはアンリエッタの震えを押さえながら、そして自身も震えながらワルドの後を追った。

マリー・ガラント号の船倉には誰にも気づかれないようにこっそり乗り込んでいる女性──ぶっちゃけ密航している──が一人荷物の間に体を押し込め直していた。
「本当に出会っちまったのかい?なんて不運だよ」
フネが揺れて、また荷崩れした荷物が転がってきた。
女性は溜息をつく。
とりあえず隠れ場所を作るのはあきらめることにした。


こんな状況だ。
自分達の仕事を邪魔する者なら相手がなんであれ扱いは悪くなる。
それが、たとえ貴族でもだ。
「貴族様。失礼ながら、こんなところにおられても邪魔なだけです。いいから、船室にでも引っ込んでおいてください」
八つ当たり気味にまくし立てる船長にワルドはきわめて冷静に、そして落ち着き払って言葉を返した。
「僕は風のスクエアのメイジだ。できることはあると思うんだが」
船長は思わず踊り出したくなった。
もっともそんな暇はなく、その希望は果たされることはなかったのだが。


空賊船の射程にマリー・ガラント号をとらえるまであと少しと言うときだ、二つのフネの間が徐々に開き始めた。
マリー・ガラント号が速度を上げたのだ。
あの形式の船としてはあり得ない速度だ。
ならば、考えられることは一つだ。
「ちっ、風のメイジが乗っていやがったか」
しかも輸送船と戦船の差を覆すかなり腕のいいメイジだ。
「おい、こっちも魔法だ。風を使えるやつを呼んでこい。総動員だ!」


トライアングルとスクエア。
クラスにしてみればわずか1つの違いだが、その差は歴然としたものがある。
今起こっているマリー・ガラント号と空賊船の争いはまさにその好例と言える。
「閃光のワルドね」
一人ルイズたちからは離れたところでベール・ゼファーは小さくつぶやく。
「スクエア……というのは伊達ではないみたいね」
ワルドの魔法により加速したマリー・ガラントに対して空賊船も魔法を使って加速している。
「このままだと逃げ切れそうね」
そして、マリー・ガラント号は船の性能差を超えメイジの実力差により空賊船を引き離しつつある。
その先には大きく濃い雲。
あれに突っ込めば、まず間違いなく空賊船はマリー・ガラント号を見失ってしまう。
「運命はルイズたちに味方している……か」
ベルの指先に淡く光るサイコロ2つが現れた。
その目は合わせて10を示している。
「でも、それじゃいまいち面白くないわね」
ベルはサイコロの上を人差し指でさっとなぞる。
指の動きにつれ、サイコロは回りその目を変えていく。
「運命なんて変わるものよ。そう、こんなふうに」
次に出た目は9。
今のワルドにとって不幸を表す数字を出し、どこへともなく消えた。
そこに宿る力は確かに運命を改変していた。


偶然と状況が重なった。
風の魔法を受ける帆はいつも以上の負担を受けていた。
その帆にはわずかだが綻びがあった。
その綻びは出航前の点検で偶然見逃されていた。
大砲の轟音で慌てた船員がその綻びに足を引っかけ、綻びを大きくしていた。
他にもいくつかの偶然がいくつも起こった。
結果、帆は破け、千切れ飛び、帆としての機能を失った。
そして、一番の偶然はそれがマリー・ガラント号のすべてのマストで起こったということだった。


「おおっ!」
海賊船に乗るその男の声は小さい者だったが、込められた感情は大きなものだった。
「神よ、あなたに感謝します。これで……」
男の祈りは神に届いたのだろうか。

「なにっ!」
マリー・ガラント号の甲板でワルドはうめいた。
「まさか、こんな事が!!」
普通ならとうていあり得ないことだ。
信じられない。
しかし、頭の上でばたばたと音を立てるそれは覆しようのない真実としてそこにあった。
「まるで悪魔の悪戯だな」
そう言ってワルドはつばの広い帽子で目を隠した。


そして彼らが感謝し、あるいは呪うべき神と悪魔はここ、マリー・ガラント号の甲板にいた。
それは彼らが考えていた神でも悪魔でもないだろうが、確かにここにいる。
神、そして悪魔である少女は落ちてきた帆の破片が風が吹くままに流される様を満足げに眺めた。


「ほら、運命なんて簡単に変わる」


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