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毒の爪の使い魔-05


ギーシュが決闘の場として選んだヴェストリの広場は、学院の敷地内にある中庭である。
二つの塔に囲まれており、更に西側に位置している為、日中でもあまり日が差ささず、
普段はあまり人気の無い場所である。…が、今はギーシュの決闘宣言により、大勢の生徒達が溢れかえり、賑わっていた。
「諸君!決闘だ!」
手にしたバラの造花を高らかに掲げ、ギーシュが叫ぶ。それに合わせるように周囲の生徒達から歓声が上がる。
娯楽の少ない学院生活ゆえに、彼等も暇を持て余しているのだ。
それだけに今回の決闘は彼等にとってこれ以上無い暇潰しであった。…たとえ、結果が知れていようともだ。

「あ~…うるせェ」
広場を囲む生徒達の声にジャンガは顔を顰める。
目の前では自分に喧嘩を売った命知らずのガキが周囲の歓声に答えるように手を振っている。
暫く手を振っていたギーシュはようやく彼へと向き直った。
「とりあえず、逃げずに来た事は誉めてやろうじゃないか、ゼロの使い魔の亜人?」
「偉ぶるんじゃねェよ、気障なだけのガキが。そして喋るな、テメェの声は聞いててムカつくんだよ…」
広場の真ん中に立った二人は互いに相手を睨み付け、罵り合う。
「いいだろう、では始めるとしようか?」
ギーシュは手に持った造花のバラを構えた。それを見てジャンガは一瞬呆気にとられ、そして笑った。
「キキキ、オイオイ…そりゃ何の真似だ?まさか、それで俺と戦うつもりかよ?キキキ…」
小馬鹿にするジャンガを余裕の笑みで見据え、ギーシュは手にした造花のバラを振る。
花弁が一枚、宙を舞う。何の真似だ?と思う暇も無かった。
地面に落ちるやそれは眩い光を放ち、一体の等身大の人形へと変わったのだ。
姿は甲冑を着けた女戦士のようであり、陽光を受けて輝いている所を見ると金属で出来ているようだ。
手には槍の様な武器を持っている。
「何ッ!?」
ジャンガが目を見開くと同時だった。
人形は突如、金属製だとは思えない素早い動きでジャンガとの距離を詰めるや、拳を繰り出してきた。
人形の拳が右胸に叩き込まれる。身体を貫く衝撃にジャンガは一瞬、息が止まった。
次いで右の頬に一撃、そして顎へのアッパーの一撃を受け彼の身体は大きく吹き飛んだ。
背中から地面に激突し、ワンバウンドしてうつ伏せの状態になる。
吹き飛び、地面に落下したジャンガを見据えるギーシュ。
「言い忘れていたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。故に、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ。
それにしても、それで終わりかい?亜人なのだから、もう少し楽しませてもらいたいな」
ジャンガはうつ伏せ状態からなかなか立ち上がらない。
その様子を暫く見ていたギーシュだが、やがて何かを思い出したように手を打った。
「ああ…そう言えば君は右胸を怪我していたはずだったね?うっかりそれを忘れてそこへ一撃を加えてしまったよ。
いや、失礼した…大丈夫かね?」
あまりにも白々しい発言に周囲からは冷ややかな視線が送られる。
離れた場所で決闘を見ているキュルケとタバサもそうだった。
「あれって、どう考えてもわざとよね?」
「わざと」
その時、人込みからルイズとシエスタが飛び出してきた。

「待って!」
ルイズはギーシュに、シエスタはジャンガに駆け寄る。
「ギーシュ!いい加減にして!決闘は禁止されているはずでしょ!?」
ルイズはよく通る声でギーシュを怒鳴りつける。しかし、怒鳴られている当の本人は涼しげな顔だ。
「禁止されているのは貴族同士での決闘だ。彼は使い魔…それも亜人だ。何ら問題はあるまい?」
ギーシュの言葉に一瞬、口篭るルイズ。
「そ、それは…今までこんな事なかったし…」
ルイズはジャンガの傍へと駆け寄る。シエスタが地面に倒れるジャンガを心配そうに見つめながら声をかけている。
「あ、ミス・ヴァリエール?ジャンガさん…苦しそうに呻くばかりで、全然返事をしてくれないんです」
「ちょっとジャンガ、しっかりしなさいよ?」
ジャンガの肩を掴み、ルイズは声をかける。しかし、苦しそうな呻き声と呼吸音が聞こえるばかり。
ルイズはギーシュを振り返る。
「あんた、こいつに何したの!?」
「何、大した事はしていないさ。ただ…最初の一発が”不幸にも”彼の右胸に入ってしまってね…。
いや、彼が右胸を怪我していた事をすっかり忘れてしまっていたよ」
「あ、あんたねぇ…それわざとね。そんなの卑怯じゃないの!?」
「フッ…負傷している身で決闘の場に臨んだのは彼だ。だから卑怯ではない」
あくまでも自分の正当性を主張するギーシュ。
ルイズは悔しさに歯を噛み締める。と、ジャンガが身体を起こし始めた。
「あ、ジャンガさん?無理をしたら…」
シエスタが心配そうに声をかける。
ルイズは立ち上がろうとする彼の肩を掴んだ。
「これで解ったでしょ、メイジの力が…?あんたがどれだけの力を持っているかは知らないけど、
これ以上はやっても無駄――」
そこでルイズは言葉を止めた。…ジャンガの様子が変だったからだ。
初めは苦痛に身体を震わせているのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
彼の口から聞こえてくる、それは呻き声ではない。…笑い声だ。
「ジャ、ジャンガ…?」
「キ…キキ…キキキ…キ…」
心配になったルイズの声にも反応せず、ジャンガは笑い続けた。

…そして小さく呟いた。



「決めたぜ……アイツ、八つ裂き決定だぜ…」


ジャンガはゆっくりと立ち上がった。しかし、顔は俯いたままである。
「ちょっ、ちょっと…何で立つのよ?」
ルイズは彼を引き止めるべく、その腕を掴んだ。
ジャンガは掴まれた腕をゆっくりと振り上げると、勢いを付けて後ろへと振った。
「きゃあっ!?」
突然の事にルイズは悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。
シエスタが慌てて彼女に駆け寄る。
「ミ、ミス・ヴァリエール…大丈夫ですか?」
「イタタ…」
痛みに顔を顰めつつ、ルイズは身体を起こす。
そしてジャンガの背を睨んだ。
「ちょっと!いきなり何するのよ!?私は主人としてあんたを気遣って上げたんじゃないのよ!?
それを突き飛ばすなんて、どういう事!?」
怒鳴り散らすルイズ。しかし、ジャンガは振り向きもしない。
そんな態度にルイズは更にイライラを募らせた。
「ちょっと、聞いているの!?返事ぐらいしなさ――」

「うるせェ…」

「ウッ!?」
「ヒッ!?」
小さい…しかし、とてつもなく冷たい響きを持った声を出しながら、肩越しにこちらを睨んだジャンガの目に
ルイズとシエスタはそれまでに感じたあらゆる恐怖を通り越した恐怖を感じた。
二人が黙った事を確認し、ジャンガはギーシュへと視線を戻す。
今のやりとりを知らないギーシュは未だ余裕の表情である。
「どうやら手加減が過ぎたようだな。まだ、やるつもりかい?まぁ、無駄だと思うがね」
そんなギーシュの言葉には関心が無いのか、ジャンガは無反応だ。
「どうした?負けた時の言い訳でも考えているのかな?」
「ウゼェ…クソガキが」
ジャンガの一言にギーシュは眉をピクリと動かす。
「…いいだろう。もう手加減は無しだ」
ギーシュの言葉にワルキューレが再び動き出した。
ジャンガに突撃し、左の拳を突き出す。誰もがその一撃に吹き飛ぶジャンガを思い浮かべた。
――だが、その考えは裏切られた。
ガギンッ!!
硬い物を砕くような音が辺りに響いた。
その場に居た――ギーシュを含んだ――誰もが目の前の光景に息を呑んだ。
突き出した左腕を切り落とされ、更に縦に四つに切り裂かれ地面に転がるワルキューレ。
それに一瞥もくれずにギーシュを睨むジャンガ。

自分のワルキューレが、あっさりと破壊された事にギーシュは驚愕の表情を浮かべた。
今の動きと爪の破壊力、先程の無様な姿からは想像もつかないものだ。
と、ジャンガは再び俯いていた。余裕のつもりだろうか?
歯を噛み締めながらギーシュはバラを振る。
再び花弁が宙を舞い、地面に落ちるや先程同様、光に包まれ6体のゴーレムに変わる。
「ゼロの使い魔とは言え、流石は亜人。僕のワルキューレを破壊するとはね」
未だ動揺を抑えられないギーシュは、それでも貴族としてのプライドを守る為、平然とした態度を装う。
そして、バラをジャンガに向かって突き出す。
「だが!君の頑張りもここまでだ。最早、遊びは一切無しだ……この6体のワルキューレが相手では流石に――」
「ウゼェ」
ギーシュの言葉をジャンガの呟きが遮った。

ジャンガはギーシュの言葉など耳に入っていなかった。
召喚されて、気が付いてから、これまで散々堪えてきたジャンガだったが……最早限界だった。
彼の堪忍袋は先程のワルキューレの攻撃で限界を向かえてしまったのだ。
それも、溜め込んだ怒りが半端でない為、堪忍袋の緒が切れるどころか…粉々に欠片も無く吹き飛んでしまい、
溜め込んでいた怒りが完全にぶちまけられる状態となってしまったのである。
何と言えばいいのだろう……怒りが頭どころか体中を駆け巡り、最早何がなんだか分からない。
ただ一つ言える事は……最早、我慢も遠慮も出来ないと言う事だ。
「裏切り、嘘つき、追い討ち…、闇討ち、不意打ち、騙し討ち…、どれも俺の専売特許だ…」
ジャンガは静かに…本当に静かに呟いた。
「よりによって、こんなクソガキにやられるたァな…。キキキキキキ……ウゼェぜ、まったく…」
そこまで呟いてジャンガは両目を見開き、顔を上げた。
その表情には彼の内に秘めた凶暴性が多分に現れていた。
「ちっ…ヤメだヤメだッ!情報を仕入れるとか、居心地を良くする為に大人しくしようだとか、
そんな事を考えているからこうなっちまうんだよッ!」
その場に居た全員が目を見開いた。
ルイズもシエスタも、キュルケも揃ってジャンガの豹変振りに目を見開いていた。
タバサすらも本から顔を上げジャンガを見ている。
もっとも…彼女は彼の言動ではなく、その身体から発せられる”殺気”に反応してだったが…。
そんな周囲の反応など気にも留めず、ジャンガは言葉を続ける。
「俺は俺のやり方でやればいいんだ…、欲しい物は力ずくで奪い、知りたい事は力ずくで聞き出す。
気に喰わねェ奴…、邪魔な奴…、ウゼェ奴…、そういう奴等は全員この毒の爪で切り裂く…。
そうさ…それが一番簡単なやり方だ。変に考える必要なんざ無かったんだ…」
一通り喋り終えるとジャンガは一旦言葉を切り、ギーシュを睨み付けた。
その視線に含まれた殺気にギーシュは怯んだ。
「テメェ、さっき言ったよな…”それで終わりかい?”ってな?ご要望どおり見せてやるゼェ…。
この『毒の爪のジャンガ』様の真骨頂をよォォォォォーーーーー!!!」
――叫ぶジャンガの左袖からは毒々しい紫色の輝きが漏れていた。

ジャンガの叫びが響き渡る中、周囲の誰もが先程のワルキューレが破壊された時以上の驚愕に包まれた。

無理も無い……一瞬の間に、ジャンガが数十人単位に増えたりすれば…。

「な、何!?」
これには流石にギーシュも面食らった。
相手の亜人が叫んだかと思うと、背後から何かが左右に飛び出した。それが目の前の亜人である事に気が付く前に、
その飛び出した亜人の背後から、そのまた飛び出した亜人の背後から、亜人は次から次へと増えていき、
ついにその総数は数十人単位に増えてしまった。ジャンガの十八番である分身の術だ。
「分身とは…また変わった芸を持っているな?」
「キキキ…、楽に死ねると思うんじゃねェゼ?」
その言葉が終わると同時に数十人のジャンガが一斉に飛び掛ってきた。
それに対しギーシュはワルキューレを突っ込ませた。
数に惑わされてはいけない。風の系統の魔法『偏在』ならばともかく、普通の分身はただの影だ。
それは解っている……だが――
「速すぎる…」
ジャンガと分身はそれこそ文字通り目にも留まらぬ素早さで動き回り、ワルキューレを翻弄する。
攻撃を繰り出しても空振り、掠ってすらいないのでそれが分身なのか実体なのかも判らない。
ガギンッ!!
最初のワルキューレが破壊された時と同じ音が響き、ワルキューレが一体、左肩から右腰にかけて袈裟切りにされる。
次いで一体、また一体と次々にワルキューレはジャンガの爪の餌食となる。
ついに残り一体となり、ギーシュは慌ててワルキューレを自分の目の前に置いた。盾とする為だ。
すると、ワルキューレの前方、少し離れた所にジャンガが降り立った。
無数の分身が降り立った本体に殺到し、まるで水がスポンジに染み込む様に消えて行く。
凶悪な笑みを浮かべるジャンガ。右腕を大きく振りかぶり、爪で前方の空間をなぎ払う。
空気が渦を巻き、円盤状になるや回転しながら真っ直ぐにワルキューレへと、そして後ろのギーシュへと飛ぶ。
ギーシュの第六感が危険を促した。目を閉じ、慌ててしゃがみ込む。
硬い物を切り裂く音、頭上を何かが通り過ぎる音が聞こえ、背後から凄まじい爆音のような音が響き渡った。
恐る恐る目を開いたギーシュがまず目にしたのは、胸の辺りで真一文字に切り裂かれ、
別れた胴体がそれぞれ地面に倒れこむワルキューレだった。
だが、周囲の生徒はそんな事には目もくれていない。しきりにギーシュの背後を見て驚愕の声を上げている。
それに釣られ、ギーシュも後ろを振り返る。ひっ!、と悲鳴が口から漏れた。
学院を囲む城壁が切り裂かれていた。否、砕けていたと言う方が正しいかもしれない。
ほぼ真一文字であるが、中心に近い所が上下に膨らむようになっており、どちらかと言えば楕円に近い。
…そんな形の”穴”が空いていた。向こうの草原や青空がハッキリと見える。――とんでもない破壊力だ。
恐らく、爪を高速で振る事で”エア・カッター”のような風の刃を生み出したのだろうが、正直比べ物にならない。

――あんな物をまともに受けていたら…

ギーシュの背に冷たい物が走った。思わずあとずさり、背が何かにぶつかる。
振り向くとそこにはジャンガが立っていた。

「ひっ、ひぃっ!?」
恐怖のあまり尻餅を付く。ワルキューレが破壊され、打つ手が無くなった事もあり、ギーシュは完全に戦意を喪失していた。

ジャンガは自分のカッターが開けた穴を見て少し驚いていた。…こんなに威力があったか?
考えてみれば先程も妙に身体が軽く感じた。こっちに来る前よりも動きが良くなっていた気がする。…どういう事だ?
だが、そんな事は今はどうでもいい。今は、そんな事よりも…。
足元で腰を抜かし、震えているガキを見据える。

「どうした?…顔色が悪いじゃネェか、キキキ…」
口元は笑っているが、その目は全く笑っていない。
「ま、参った…、降参だ…」
考える前にギーシュの口からは敗北を認める言葉が出ていた。
その言葉にジャンガは目を細める。
「降参だ~?」
「そ、そうだ…。もう、僕に打つ手は無い……素直に負けを認める…」
言い終わるとガックリと項垂れる。
そんなギーシュを見てジャンガは再び凶悪な笑みを浮かべた。
「そうか、降参か…。なら…後は俺に楯突いた事を――」

事は一瞬だった。

故に誰も止める暇が無かった。

唯一、何をしようとしたかを殺気で察知したタバサが杖を手に呪文を唱えようとするも……間に合わなかった。



「あの世で後悔しなァァァァァーーーーー!!!」



――次の瞬間…
全員の目に飛び込んできたのは爪を振り上げたジャンガと、血の糸を引きながら宙を舞うギーシュの姿だった…


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