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ゼロの"憑"き魔 第二話



【第二話 説明するひと、されるひと】

 儀式の場は生徒が恐怖のあまり退散してしまったため、残っていたのはルイズと幽々子、そしてコルベールだけであった。
 この事態を学院長であるオールド・オスマンに報告しようと考えたコルベールであったが、それよりルイズの左手に刻まれたルーンが珍しい形をしていたので、報告など後回しにスケッチを始めた。
好奇心というか職業病というか、いずれにせよ変な所でそれが暴走するのはやめてもらいたいものだ、とルイズは思った。
 写し終わったコルベールはルイズに礼を言うと、そのまま一目散に学院長のもとへ飛んで行った。
 やることも無くなったので、ルイズも幽々子を連れて部屋に戻ることにした。
「あら、皆空を飛んで移動するのはここも同じなのね」

 空を舞うメイジ達を見上げた幽々子はそんな事を呟いた。
 そして視線をルイズの方に戻すと、

「ルイズ、あなたは飛ばないのかしら?」

 当然の疑問を口にする。
 その言葉はルイズの癇癪を起こしかねない危険なワードである。「当然」であるからこそ、彼女に尋ねてはいけない。

「う、うるさいわね! そんなの私の勝手でしょ!」

 思わず歩幅が大きくなる。機嫌を損ねて足早になった彼女の様子を見て、幽々子はその理由が何となく読めたような気がした。
 怒った理由ではなく、飛ばない理由の方である。

「でもこのまま歩くのも面倒でしょう? だからここは――」

 言い終わらない内に幽々子はルイズの体を抱き抱える。両腕でお腹あたりを抱えられたルイズは何のことか分からず暴れるが、数秒後にそれを停止する。
 自分の体が宙に浮きだすのを見てしまったからである。
 浮くどころではない。彼女達の体はどんどんと上昇し、ついには学院全体を見渡せるぐらいの高所まで昇った。

「えええええええ!? わわわわわ、私、ととと、飛んでる~!?」

 ルイズの絶叫がこだまする。魔法の使えない彼女は、今まで一度もフライの魔法で飛んだことがなかったのである。つまり、これが彼女にとって生まれて初めての飛行だったのである。

「や、やややや、やるじゃな、ない。つ、つ、つ、使い魔として、じゅ、十分だわ」

 このどもりはツンデレルイズの照れ隠しではなく、初めて飛んだ事による喜びと、それに対する恐怖によるものである。そりゃ人生初の飛行なのだから、嬉しくて怖いのもしょうがない。
 幽々子はそんなルイズを思わず可愛いと思ってしまい、時折急降下と急旋回を繰り返しては出てくる彼女の悲鳴を聞いて楽しんでいた。
ギャアギャア騒ぎながらも二人はルイズの自室についた。
 学院の女子寮の一室。寮といえども、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが住まうだけあって豪華な造りとなっている。
 幽々子はこの見慣れない洋室を見て、湖のほとりにそびえるあの真っ赤な洋館のことを思い出した。何しろ幻想郷には洋風の建物はあれぐらいしかないのである。
 ただ広い事には別に驚かない。普段自分が住んでいる屋敷の方がよほど広かったからである。
 そうやって呑気に部屋の観察をしている幽々子であったが、一方のルイズは散々と彼女に遊ばれたせいでベッドの上で伸びている。
 足が未だにガクガク震え、呼吸も乱れていて、いやな汗が全身にまとわりついている。
 毒物を食ったのではないかと誤解されかねない。
 やることがなくなった幽々子が彼女に話しかけても、あー、うーんとか呻いているだけで全く反応しなかったので、仕方無く幽々子は窓から赤みが掛かり始めた空を眺めていた。
「・・・それじゃあ、お互いに情報交換といきましょうか」

 2時間後。ようやくまともな会話ができる程度にまで回復したルイズがいよいよ本題に切り出す。

「まず一つ目。質問するけど、そもそもアンタはどういう存在なの?」

 いきなりストレートな質問である。まぁ目の前であれだけのことをされたら、その正体をうかがい知りたくなるものである。
 その質問に、幽々子は深く考えこむこともなく口を開く。

「さっきも言ったじゃない。亡霊よ」
「その『亡霊』っていうのがよく分からないのよ! なんで既に死んでいるのに今もこうしているわけなのよ!?」
「だから、亡霊だからよ」

 いたちごっこである。ルイズは混乱し始めた頭を無理やり働かせ、質問の仕方を変えた。そもそも「亡霊」というのはどんな存在なのか、と。
「そりゃあなた、元は死んだ人間よ。普通は死んだ後は成仏するか、閻魔様の沙汰を受けるのだけど、たまに顕界に居続けることもあるらしいわ。それが亡霊」
「エンマサマ? なんだかよく分からないけど・・・それってアンタがまさに当てはまるじゃない! 一体どんだけこっちにいるのよ!」
「うーん。自分でも覚えてないわ。何しろずっと長いことこの状態だしねー・・・
 あ。でも妖夢がこの前、お誕生日おめでとうございますって言っていたわねぇ・・・
 そのとき・・・せん・・・何歳、とか言ってたかな」

 つまり、目の前にいるこの訳のわからんコイツはすでに1000年以上も亡霊をやっていることになる。なんじゃそりゃ。デタラメすぎるでしょ。ルイズの思考はますます迷走するばかりである。

「というか、なんでアンタ天に召されないのよ! そんなに未練があるの!?」
「それも分からないのよねー。未練があったかどうかも分からないし」

 質問しても新たな疑問しか出てこない。これでは時間の無駄と思い、ルイズは話題を変えることにした。
「それじゃ二つ目。そもそもトリステイン魔法学院すら知らないなんて、アンタ一体どういう教育を受けてきたの? というか生まれはどこ?」
「・・・こう言って信じるか分からないけど、私はこの世界のものではないわ」

 ・・・ヘッ? コノセカイノモノジャナイ? ナニヲイッテンダ、コイツハ?

「そのままの意味よ。私のいた世界はメイジなんてものもいないし、魔法学院なんてものも存在しないわ。そうねぇ、違う部分を列挙したらキリなんてないけど・・・」

 窓に近づき、そのまま開け放つ。暗くなり始めた空には、二つの月が見え始めていたが、

「決定的に違う所は、私の世界には月は一つしか存在しない」

 視野の狭いルイズの脳には到底理解できないことだった。

「――月が一つしかないなんて、そんなトコあるの!?」
「現に私がいたもの。むしろ私から見れば、月が二つあるなんてことが驚きだわ」

 もうルイズは自分の常識というものが信じられなくなっていた。いっそこのまま自分の常識を売り払って、諸国漫遊の旅にでもでてみようか――

(って何考えているのよ、私。)

 質問者の思考を鈍らせる質問などやっていたってしょうがない。彼女は速やかに話題の変更をしようと思った。
「それじゃあ、私が説明するわね。まず使い魔のやるべきことなんだけど・・・」

 自分の使い魔を見る。そういや私、使い魔に憑かれているじゃないか。

「・・・私に取り憑いている状態で何かできるか分らないけど・・・
 まぁいいわ。まず、使い魔は主人と感覚が共有できるはずなんだけど――」
「感覚の共有? あなた、ちょっと意識を私に集中してみて」

 無理でしょうねと言おうと思っていた彼女は出鼻をくじかれてしまった。だが、まぁコイツが言うのなら何か確信があるのかもしれないかも、とも思った彼女は言われた通りに目を閉じて、使い魔に意識を集中させると――
 瞼の裏側に、目を閉じて座っている自分が見えた。

「で、できた! すごい! 奇跡!?」

 椅子から思わず立ち上がるほどルイズは驚き、喜んだ。

「使い魔はできるはずなんでしょ? ま、あなたと私の場合は、私があなたに取り憑いているから、なおさら感覚、特に視覚と聴覚が共有しやすいだけかもね~」

 そして我に返った。そりゃ共有できるのは嬉しいけど、それが亡霊に憑かれているためであるからと思うと、なんかやる度に呪われそうだと思い、気が沈んだ。
 まぁ、それなら使わなきゃいいだけの話なので、気を取り直して話を続ける。


「次に使い魔は、秘薬に使われる材料を集めるの。だけどアンタ材料分からないでしょ?ならこれはいいわ。私も特に必要って訳じゃないし」

 分からないことはないわよ、と幽々子が反論するが、じゃあ硫黄とかどこにあるか知ってる?とルイズが尋ねると、首を横にふった。
 思った通りだと思った彼女は、次の話に移る。

「そして最後に、使い魔は常に主の身辺を守るのだけど・・・これは問題なさそうね」

 何せ自分に取り憑いているのだから、常に自分の傍にいるはずだ。ならそれだけで身辺警護になるだろう。
 どの程度戦力になるか分からないけど。

「後、それの派生で主の身の回りの世話なんかもやってもらうわ。その辺はいいわよね?」
「あぁ、それは無理だわ」
(きっぱり断りやがったわコイツ)
「何せ自分の身の周りのことなんて妖夢や他の幽霊達に任せっぱなしだったから、そういうことはあんまり得意じゃないわ」
「アンタ普段どんな生活をしていたの? その言い方だと貴族のような生活をしていたようにしか聞こえなかったんだけど」
「貴族か・・・どうなのか分からないけど、普段は庭を見ながらお茶を飲んでいたかしらねぇ。たまに幽霊の管理をしていて、たまに妖夢を連れて出かけるとか、そんな感じかしら」
「それじゃ家事なんかはどうしてたの? その妖夢ってのは誰? アンタの召使いか何か?」
「妖夢はうちの警護役兼庭師よ。たまに雑用を任せる時はあるけど・・・基本的には他の幽霊達に任せっぱなしね」

 自分の使い魔から聞けるだけの情報を聞き出したルイズはそれを整理する。
①この使い魔は亡霊で、1000年くらいやっている。
②この使い魔は月が一つしかない世界の出身。
③で、コイツは私に取り憑いて、やろうと思えば感覚共有ができる(やろうと思わないけど)。
④常に憑いているから、警護の点では問題ないだろう。
⑤身の回りの世話は無理。
⑥ちなみに相当高い身分らしい(召使いに家事を任せているあたり)。
 以上をまとめてルイズが出した結論は――

「厄介そうだが、何かと役に立つかもしれない」

 そこら辺の小動物や平民を召喚するよりは、例え取り憑かれていようともなんだか凄そうな亡霊を召喚した方が、格好がつくものだ。ひょっとしたら幻獣並に強いかもしれないし、自分の思ってもみなかった所で役に立つかもしれない。
 ルイズはそう考えると、自然と笑みがこぼれた。
 最初はどうなるかと思ったが、結局自分は使い魔の召喚には成功したわけだ。
 つまり、コモンマジックとはいえ初めて魔法を使う事に成功したことになる。
 よって――自分はもう「ゼロ」じゃない。
 もう「ゼロ」と罵られることもない――
 それだけで、彼女はもう十分だった。
「うん、それじゃもう良いわ。それにしても・・・」

 忘れかけていた左手のルーンを見る。
 座学はトップの彼女は、使い魔のルーンに関しても多少の知識はあり、このルーンはどういったものであるかぐらいは分かるつもりである。
 だけど、自分に刻まれたこのルーンは何か分からない。
 そもそも見たことがなかった。彼女の見た文献の中には、このようなルーンなんて載っていなかったはずなのである。
 だが、それ以前に。

「煩わしくってありゃしないわね・・・どうやって隠そうかしら」

 純真な乙女を自称している彼女にとっては、ビジュアルの方が気がかりだった。  そんな彼女を見て、使い魔は何がいやなのかと問う。

「だってねぇ・・・ルーンは本来使い魔の方に刻まれるはずなのよ。それがメイジである私に刻まれるなんて、貴族として汚点よ」
「そう? 私はかっこいいと思うけどなー」

 定例通りコイツに刻まれていたら二人はどんなに幸福だっただろうか。
 心の中で悪態をついたルイズだったが、その使い魔はまた質問してくる。

「このルーンっていうものはなんか魔法的な付加効果はないのかしら? ただの目印ってだけじゃ、なんか悲しいじゃない?」
「うーん、このルーンは見たことないから分からないけど、ルーンには何かしらの効力がものによってはあったような、なかったような。
 ただ、一つだけ共通している付加効果というと・・・主人への従属意識の植え付け」

 自分で言ってルイズは肩をガックリと落とした。

「・・・何よ・・・『自分への』従属意識って、一体何・・・」

 先ほどまでとはうって変わって、彼女の気持ちはズンと盛り下がった。
 その場に体育座りでうずくまり、今にも「鬱だ死のう」と呟きそうなオーラを出し始めた。この娘、喜怒哀楽がものすごく激しい。

「あれよ、自分自身に従うことで、少しは自制心っていうのが生まれるんじゃない!?
 それなら良かったじゃないルイズ。あなた、貴族の娘に少しは近づくわよ」

 そしてこの使い魔、どこまでも呆ける気か。

「・・・それはどういう意味かしら? 私には貴族の娘たる品格がないとでもおおおおお!!!」

 やっぱりこの娘、喜怒哀楽がものすごく激しい。
 鬱は全快したようで、そのまま喚き騒ぎながら幽々子を追い回した。
怒ったり落ち込んだりでさすがのルイズも疲弊した。

「もぅ疲れた・・・今日は寝るわ」

 そういうと、汗のにじんだブラウスをためらいもなしに脱ぎ捨て、そのままネグリジェに着替える。
そのまま床に就こうとするが、

「ねぇねぇ。私の寝場所はどこ?」

 使い魔が悪びれもなく尋ねてくる。
 そう言えばその辺を考えていなかった。普通に獣を召喚したら床で寝せようと思っていたのだが、さすがに亡霊とはいえ女性、しかも高貴な身分らしい彼女を同じように扱うには忍びなかった。
 しかしベッドをもう一つ持ってこさせるには時間が遅い。ならば考えうる手段は――

「しょうがない。今晩は私の隣で寝てなさい」

 そうして自分のベッドに一人分の空きを作る。

「あら、一緒に寝てもいいのかしら?」
「今晩だけよ。明日にはアンタの寝床を調達してくるわ」

 それならば遠慮なく、と幽々子はルイズの隣に身を横たえる。
 外見はやや大人だったが、ちょっと狭いわねと笑いかける彼女の顔は、なんだか無邪気な子供のようだとルイズは感じた。


消灯をしようとしたその時、ルイズは重要な事を忘れていることに気づいた。

「そういえば、アンタのこと普段なんて呼べばいい?」

 隣にいる自分の使い魔に問いかける。

「幽々子で構わないわ。それじゃ、あなたのことはルイズでいいわね」

 そう答える彼女は微笑みを絶やさなかった。
 本当はご主人様と呼んでもらいたかったのではあるが、そういう風に言われてしまうとさすがのルイズも否定することはできなかった。

(まぁ、その方が気楽でいいかな。)

 やれやれとため息をついたが、その表情は穏やかなものだった。
「それじゃおやすみ。ユユコ」

 部屋から明かりが消え、あたりは暗闇と静寂が包みこむ。
 やがて二人の意識も、ゆっくりと夢の中に落ちて行った。

 こうして、ルイズと幽々子の奇妙な「憑き魔」生活の初日が幕を下ろした。

 ――ルイズはまだ理解していなかった。

 亡霊に憑かれるとは、一体何を意味しているのかということを。


  第二話 説明するひと、されるひと 了


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