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復活・使い魔くん千年王国 幕間2・魔女の狂宴

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《いやしくも建築に興味を持つ人間ならば、現在も、また遠い未来にも、
 この宮殿を、長ったらしい腕を持つ大頭の矮人さながらの、まさに『建築のお化け』だと思うに違いない》
  (ヴェルサイユ宮殿についての批判、フランス王国財務総監ジャン・バティスト・コルベール)


王城グラン・トロワの二階にある大広間、『鏡の間(ギャラリー・デ・グラス)』。
ハルケギニアで一番絢爛豪華なヴェルサルティル宮殿の中でも、もっとも贅を尽くした空間がここだ。
庭園に面した全長73メイル、幅10メイル、高さ12メイルの回廊には、窓と向かい合わせに17枚の巨大な鏡が設置され、
大壁画に埋め尽くされた天井から、無数のシャンデリアと金色の燭台が吊り下げられている。

昼間は窓からの太陽光線が鏡に反射し、大広間全体がまばゆく輝くのだが、真夜中に見る鏡の間はかえって不気味だ。
雑多な建築様式の部屋を増改築して寄せ集めた、迷宮のような宮殿内には、どこにもグロテスクな彫刻群が立ち並ぶ。
おお、見れば鏡の中には醜怪な異形のものどもが蠢き、犇きあっているではないか……。

その大広間で、二人の人間が合わせ鏡のように対峙する。
オルレアン派の重鎮、バッソ・カステルモールは、東薔薇騎士団80名余を率いている。
無能王ジョゼフの娘イザベラは、周囲の濃い闇の中に、怪しげな小妖魔の群れを引き連れている。

「……ふん、誰かと思えばイザベラか。いい夜だな」
カステルモールが、小馬鹿にした口調で姫殿下に挨拶した。
騎士団はずらりと軍杖を構えて陣形を作る。この大広間を抜ければ、王の寝室まではすぐそこだ。
イザベラは《王女》ではあっても、ジョゼフ同様魔法の才能には乏しく、そのゆえか残虐で酷薄な《狂女》に育った。
悪魔に魂を売ったという噂すらある。彼女が自信満々に姿を現したということは、何か奸計を弄しているに違いあるまい。
「離宮のプチ・トロワで寝ていると思ったが、なぜ貴様がここにいる?」

先日まで忠臣のフリをしていた男にぞんざいな口をきかれて、イザベラは失笑する。
「くっ、なんだい、父親の家に娘がいちゃあおかしいかい? 夜更かしして悪かったね。
 それにあたしは『北花壇騎士団』の長でもあるんだよ。ここを守るのは当然さ。
 聞けばこの騒ぎは謀反人が侵入したというじゃないの、お前たちは捕まえに行かないのかねえ?」

カステルモールは無表情にイザベラを見下ろし、厭味な問いかけに返答する。
「ああ、確かに我らはここにいる謀反人を捕まえに来た。ご覧の通り、貴様らからガリア王国を奪い返しに参上したのさ。
 我らはジョゼフに暗殺されたオルレアン公の党派、ガリア義勇軍だ。王統は正されるべきだからな」
そう言うと彼は杖を振り、部下に命令する。

「姫殿下を、丁重に縛り上げてさし上げろ」


言葉と同時に数本の『空気の縄』が飛ぶ。
が、突如床から大きな漆喰の壁がせり上がり、イザベラの前に立ち塞がって魔法を吸い込んだ。
その壁には短い手足と眼がついている。妖魔『ヌリカベ』だ。

イザベラはふわりと広間の奥へ跳び、キンキンと響く耳障りな声で反論する。
「けっ、あたしの親父は祖父さんから遺言されて、嫡男として正統に王位を受け継いだんじゃないかい。
 あんたらの主人だって納得していたことだろう。大義名分はこっちにあるさね。
 王弟を逆恨みして殺しちまったのは過失だろうさ、でも国王としちゃ普通のことだろ?
 それに無能な自分と、能力優秀で人格も人気も遥かに優れた弟。あたしだって殺したくなるネ!」

ぺっ、とカステルモールは唾を吐く。田舎の無骨な貧乏貴族出身の自分には、粗暴な振る舞いの方が性に合う。
「それからというもの、我らオルレアン派が嘗めた辛酸と屈辱、貴様らはよぉく知っているだろうな。
 家族は処刑され、家は潰され、官職は追われ、阿諛追従の輩がその財産を奪って高位高官にのし上がる。
 シャルロット様さえ貴様らに侮蔑され、死ぬまで酷使されるところだったのだぞ。
 栄光あるガリアの権威というものを踏みにじり、ジョゼフと貴様はいったい何事をしてきたというのだ!」
言い終わるや風の刃を纏った軍杖が一閃し、『ヌリカベ』は瞬時に8つに分割され、ズズゥンと倒れた。

いひひひひひひ、はははははは、とイザベラは嘲笑う。
「ほー、要するに、こうかい。自分たちの気に食わないから、王様の首をすげ替えようっていうんだね。
 そいつは立派な反逆罪だ、車裂きでの公開処刑に相当するネ。
 ……ところで、これはあの人形娘が企んだのかい? それともカステルモール、お前かい?」

すうっと霧散し始めたヌリカベを踏み越え、カステルモールは前へ出る。こんな所で手間取っている暇はない。
「大筋は俺が書いたのだが、決められたのはシャルロット様ご自身だ。
 今や天下に反ジョゼフの声は満ち満ちている。俺はその勢力を繋ぎ合わせ、あのお方に結んだに過ぎん」
「へん、あのボロ人形め、あたしらに反逆するような感情がまだ残っていたのかい。
 文句があるなら直接ヴェルサルティルにいらっしゃいってんだ」

律儀に応答していたカステルモールは、とうとうブチ切れた。
「すでに両用艦隊は我らのものとなり、シャルロット様はこちらに向っておられるさ。
 勝てば官軍、負ければ賊軍だ! くたばれ魔女めが、貴様の血肉を野良犬の餌にしてくれる!!」

痺れを切らした団長の合図とともに、一斉に東薔薇騎士団が魔法を放ち、イザベラに襲い掛かる!


《これは、主がそのしもべ、ティシュベ人エリヤによって語られたことばのとおりだ。
 『エズレルの地所で犬どもがイゼベルの肉を食らい、
 イゼベルの死体は、エズレルの地所で畑の上にまかれた肥やしのようになり、
 誰も、これがイゼベルだと言えなくなる』》
  (旧約聖書『列王記・下』第九章より)


「あっははははは、さあ楽しい舞踏会の始まりだよ! 出て来な、あたしのかわいい妖魔ども!!」
イザベラが杖を振り上げて叫ぶや、暗闇が生き物のようにうねり、物の怪たちが現れた。

天井から『釣瓶落とし』『天井下がり』『しょうけら』『おとろし』らが襲い掛かる。
鏡の中から『雲外鏡』『鏡爺』『ぶるぶる』『のびあがり』『がしゃどくろ』らが抜け出してくる。
壁や柱からは『塗仏』『ろくろ首』『傘化け』『子泣き爺』『砂かけ婆』らが現れる。
床からは『餓鬼』『小豆とぎ』『油すまし』『土蜘蛛』『山童』らが這い出す。

さらに彼女の使い魔・墓場鬼太郎が、ゆらりと傍らに立ち現れる。

「ふん、児戯だな。これしきの雑魚妖魔や魔法人形(ガーゴイル)ごときに、我らが負けるものか!!」
メイジ一人の戦力は、ドットクラスでさえ平民の傭兵一個小隊に相当する。
まして東薔薇騎士団80名余は、全員がトライアングル以上の実力を持つ。たかが妖魔の群れに動じる連中ではない。
次々と魔法が命中し、妖魔どもは悲鳴をあげて消滅する。実体のない、鏡像か幻影を攻撃したような手ごたえだ。

「流石にやるねえ。じゃあこれならどうだい、出て来な『北花壇騎士団』!」
イザベラはさらに後退して叫び、鏡の裏の隠し通路から、バラバラと30人ほどのメイジの一群が現れる。
ガリア王家の裏仕事を担う御庭番衆、北花壇騎士団だ。実力ならば相手と遜色はないが……。
「はっ、人数が少しばかり足りなかったようだな! くらえ『ライトニング・クラウド』!!」
10人の騎士が一斉に同じ魔法を放ち、彼らを妖魔ごと吹き飛ばす。しかし深手を負った者はいない。

二つの騎士団が激しく魔法を撃ちあい、豪奢な『鏡の間』はどんどん破壊されていく。


「………どうやら、始まったようだな」
『伝声管』でやりとりを聞いていたジョゼフは寝室で呟き、がたがたと震えるモリエール夫人の膝から起き上がった。

「陛下、陛下、やっとお目覚めですか!? おお、なんてことでしょう、反乱だなんて!
 ひとまずここからお逃げください! あちらに隠し通路もございますから」
「なに安心したまえ、余がついているではないか。心配はいらぬ、『病は気から』というぞ」
「で、ですが、すぐそこまで反乱軍が来ているのですよ!」
彼はまったく動じない。だが魔法の一つも使えない、無力で無能なこの男に何が出来るというのだ?

「心配はいらぬというのだ。こんなこともあろうかと、『鏡の間』に細工をしておいた。
 我が娘イザベラが頑張っているようだが、少々加勢してやるかな」

 《Aski-kataski-haix-tetrax-damnameneus-aision……》

おお、無能王はゴニョゴニョと奇妙な呪文を唱え、口からフューーーッと霧を噴き出したではないか……。


イザベラは奥の部屋から霧が湧き出したのを察知すると、ニタッと笑い、鏡に向って叫んだ!
「TEKUMAKUMAYAKON、TEKUMAKUMAYAKON、鏡よ鏡よ、異界の幻影を映し出せ!!
 さあ来な、『朧車(おぼろぐるま)』!!」


  ……フユ~~~ン クユ~~~ン……  ヒューーーーーウ グユ~~~ン……


あたかも生き物のような異様な唸り声が響き渡り、鬼火が無数に現れ、17対の窓と鏡から灰色の濃霧が湧き出す。
シュルシュルと冷たい濃霧はイザベラと鬼太郎の前に集まり、巨大な鬼女の顔を持つ幻の牛車『朧車』となる。
「「!!??」」

霧はさらに湧き出し、戦い合う騎士団を呑み込み、大広間全体に広がり、洪水のように宮殿内外へ流れ出していく……。

  ファオーーーー……  ザワザワザワ ガヤガヤガヤガヤ……

膨大な妖気と霊素を帯びた濃霧は、夜の闇を覆ってさらに暗くし、あるいは妙な光を放つ。
そしていいしれぬ音楽とともに、なんともいえぬ気味の悪い話し声が闇から聞こえてくる。

―――これから起きようとしているのは、世紀の怪気象《ブリガドーン現象》だ。
気圧・気温・湿度・風速など複雑な気象と地質の状態が、ある一定の条件になると、それは出現する。
百年に一度か千年に一度か、いつどこに現れるかは決まっていない。
その中は、実在するお化け、妖怪、幽霊に満ちた、この世のものならぬ白日夢のような異界なのだ……。


「これはまた一体、なんとしたことじゃ」
ただでさえ騒動が起きていたヴェルサルティル宮殿は、更なる大混乱に陥った。
大臣はジョゼフの寝室へ駆けつけようとするが、霧に阻まれて進めない。無理に進むとなぜか元の位置に戻ってしまう。
しかも、その霧の中には妖怪変化がウヨウヨしているではないか!
これはもう、どうにも手のつけようがない。霧に押し出されるように、貴族や衛兵は宮殿から庭園へと退避した。

  「世の終わりじゃ」「宮殿が妖魔に乗っ取られるなんて……」「無茶苦茶な話だ!」
  「大臣はなにしてんだ」「陛下はどうした」

しばらくすると、霧の外へ騎士が何人か迷い出て来た。
「あッ、北花壇騎士団の連中ではないか」「おい、どうした? こりゃア何が起きたんだ!」
「わ、わけがわかりません! 我々はイザベラ殿下をお守りして反乱者と戦っておったのですが、
 殿下がこれこれしかじかのことをすると、急にこの霧が……!!」
「味方も敵も、霧の中です! きっと殿下か陛下が、反乱者を防ぐため、何かの魔法装置の実験でもされたのでは……」

とにもかくにも、どうしようもない。大臣たちは臨時政府を設けて戒厳令を発し、宮殿を捨て王都へ逃げ出した。
謎の霧はずんずん膨張し続け、すっぽりと宮殿を覆い、庭園を越えて数リーグ先のリュティス市街地へ広がりつつある。
その膨張速度は、およそ1分間に2メイル、つまり時速120メイル。
ならば一日に3リーグ弱ずつ広がるとして、一週間後にはリュティス全体が霧に覆われてしまうだろう!

「仮にこの妖霧が晴れないとして……これは、その、オルレアン派の勝利ということになりはすまいか?」
「まだ予測がつかん。陛下の生死もわからんのに、反乱軍に国を差し出すわけにもいかんぞ。
 大体奴らは、陛下に追従して出世したわしらを妬み恨んでおるわい」
「それに、もし奴らが国を奪ったとしても、この霧はお構いなしに膨張するかも知れないぞ!」


一方イザベラと鬼太郎は、隠し通路を通って別室に逃げ込んでいた。争っていた騎士たちは、霧の中へ消え去ったようだ。
ひょこっと鬼太郎の髪の中から、憤慨した様子の『目玉の親父』が姿を見せる。
「おい、鬼太郎ッ! 姫様を助け出したのはまぁよいが、こ、これはどういうことじゃ!」

ケケケケ、と鬼太郎は不愉快な笑い声をあげ、親父をギュッと掴んだ。
「父さん、ぼくにもうあれこれ指図するのはやめてください。ぼかぁ自立したんです。
 これからあの《ブリガドーン現象》が発生し、この国を呑み込み始めますよ。
 ぼくら幽霊族がこそこそと人間なんかに混じって生きなくてもいい、妖怪と悪魔による王国が築かれるんです!
 すばらしいでしょう、父さん! 想像してみてください、古代幽霊族の栄光の日々が甦るんですよ!」

幽霊族は、紀元前二万年ごろ繁栄の絶頂を極めたという古代種族だ。
人間という凶暴で好奇心旺盛な生き物が現れてから、彼らは森へ、洞窟へ、地底へ逃げ隠れた。
そして人間の襲撃を恐れながら、モグラのように蟲を食べて惨めに生きてきた。
祖先の霊毛を編んで作られた『ちゃんちゃんこ』はあるが、いまや生き残りは鬼太郎と親父だけ。
……ならば、この鬼太郎が幽霊族の王国を再興したいと考えたって、いいではないか。

「き、鬼太郎! お前は悪魔にだまされているんじゃあ!
 人間は悪い連中ばかりではない、わしらは彼らとも共生せねばならん!」
「へん、人間社会の正義や道徳なんか、もうウンザリだ! 父さんは宝物庫の番でもしていてください!」
鬼太郎はそう言うと、甲高い声で叫ぶ親父をガラス瓶に詰め込み、ポケットにしまいこんでしまった。
「鬼太郎、気でもくるったのかーっ!!」

おお見よ、鬼太郎とイザベラの瞳はドクロの形に変わり、悪をはびこらせたい気持ちで心が満たされているではないか!
きっと洗脳されたのだ。なんという恐ろしいことであろう!

「ケッケケケ、それでいいのさキタロー。子供は成長したら、親から自立しなきゃあねぇ。
 さーて、あたしも親父陛下にご挨拶しとこうかい」


ブリガドーンの中心部であるジョゼフの寝室には、ほとんど霧はない。
あの『朧車』は、ジョゼフと『ミョズニトニルン』と悪魔ベリアルが、魔力と知識の粋を結集して作り上げた魔法兵器だ。
怪気象ブリガドーンを発生させて地上に定着させ、周囲の生気を吸い取り『妖気』に変換して膨張させている。

「モリエール夫人、どうやら静かになったようだよ。……時に、貴女は余を愛してくれているかね?」
「………え、は、はい! 勿論ですわ!」
彼女には、何が起こってどうなったか分からないし、知らなくてよい。
ただ、愛するジョゼフに『愛しているか』と問われれば、はっきりと返事はできる。

「けれど私は、陛下がお美しく、強大な国の王だからお慕い申し上げているのではありませぬ。
 陛下のお心にはとても深い闇があって、ご自身をいつも孤独のままにし、苦しんでおられます。
 私は陛下を愛することで、そのお心を少しでも癒したいのです。ただそれだけが望みです!」

フム? とジョゼフは怪訝そうな表情をした。
「愛、か。余は神も始祖も教会も信じていないが、愛とはそういうものなのか?」
「はい。本当の愛には、見返りは不要です。それが神の本質です。
 そして、富や名誉、知識や信仰をどれだけ持ち、いくら善行や自己犠牲をしようとも、
 そこに愛がなければ何の価値もないのです……ああ、つまらないことを申し上げました」

モリエール夫人は微苦笑するが、突然ジョゼフに強く抱き寄せられてキャッと驚いた。
「それは、愛ではない。自分を尊び他人を、俺を蔑む、差別と憐憫に過ぎない!!」
狂人ジョゼフは彼女にのしかかると、喉首に両手をかけ、恐ろしい手力で絞め殺した。
「…………………神は、死んだ。これからは、悪魔の時代だ」

殺人を終えたジョゼフは、乾き切った表情で虚空の一点を見つめている。
彼にはもはや、意味のある外界の事柄は感じられない。その魂は、生きながら死んでいるようなものだ。

「さあ、行こうシャルル。我が愛しい弟。神を倒し、民を殺し、国々を滅ぼし、世界を潰しに行こう。
 あらゆる美徳と栄光に唾を吐きかけ、この妖霧で天地を覆い尽くし、全ての人間の営みを終わらせよう。
 俺の心の空虚を満たすために、人間らしい感情を少しでも取り戻すために、ただそれだけのために。
 ああ、お前を手にかけたその時から、俺の人生はまったくむなしくなってしまった!」


《かばかり怪しき天地の中にいて、おのが身のあやしきをさへ、え知らぬ人のさとりぬるをや》
 (柏本『稲生物怪録』序より、平田篤胤)


(つづく)


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