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復活・使い魔くん千年王国 幕間1・狂王の宮殿

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《内部で分かれて争う国は荒れ果ててしまい、内輪で争う町や家は立ち行かない。
 サタンがサタンを追い出せば、それは内輪もめだ。それでは、どうしてその国が立ち行けるだろうか?》
  (新約聖書『マタイによる福音書』第十二章より)


始祖ブリミル暦6243年冬、第一月ユルの月の第二週、降臨祭明けから数日後の深夜。

ここはガリア王国の都・リュティスの東郊に築かれた広大な王宮、ヴェルサルティル宮殿。
先々代の王ロベスピエール3世によって森を切り開いて造られた、この世にも名高い庭園のような宮殿は、
世界中から招かれた建築家や造園師の手による贅を凝らした増築物によって、現在も常に拡大を続けている。
そして、薔薇色の大理石と青いレンガで作られた巨大な王城『グラン・トロワ』には国王ジョゼフ一世が、
薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』には王女イザベラが生活しているのだ。

そのジョゼフ、別名『無能王』は、薄暗い寝室の一つで長椅子に寝そべりながら、
愛人のモリエール夫人に膝枕をしてもらっている。彼の手の中には、ひどく古ぼけたオルゴールがあった……。

「あの、陛下。そのオルゴールは随分古いもののようですね。茶色くくすんで、ニスも剥げていますよ。
 ……カラクリは動いているのに、私には何の音も聞こえませんが、きっと壊れているのでしょう?」
「……ん、まあな、随分と古いさ。なにせ六千年前の品だというからね」
「ろ、六千……! あ、あのまさか、それは『始祖の秘宝』というものでは」
「そのまさかさ、モリエール夫人。アルビオン王家に長らく伝来してきたものを、ちょいと頂いたのだ。
 あちらに我らがガリア王家に伝わる、『始祖の香炉』もある」

ぐうっ、とジョゼフは伸びをすると上半身を起こし、眠たそうな表情のまま呟いた。
彼の指には茶色い『土のルビー』の指輪が嵌っている。
「古代の賢者でピタゴラスという男が、こんな言葉を残しているそうだ。
 『我々に地獄の音楽が聞こえないのは、耳がその音に調節されていないからだ。
 そのように我々が調節すれば、様々な神秘を手に入れることができる』とな。
 ……余には聞こえるぞ、美しい地獄の音楽が。それにあの香炉からは、芳しい地獄の臭気が漂ってくる」

始祖の秘宝は、いわば『虚無の呪文』が封じ込められた宝箱。
始祖のルビーは、その宝箱を開く鍵だ。無論『虚無の担い手』でなければ、それを開くことはできない。
しかし恋愛に生きるモリエール夫人には、そんなことは分からなかった。
愛する人が自分を愛してくれないことほど、悲しいことがまたとあろうか?

……おお、この奇矯で孤独な王様は、次元の異なる夢を見ていらっしゃるのだ。なんと痛ましい、可哀想な王様だろう!
ダメな男が大好きな彼女はうっすらと微笑を浮かべ、追従を述べた。
「まあ陛下、なんと御詩情が豊かなのでしょう! 私は凡俗ゆえ、そうしたことは分かりません。
 けれど、この地上の楽園のような王宮を所有しておられる陛下の感じられるものが、地獄だなんてあんまりですわ。
 いったいどんな音、どんな臭気なのです?」

くっくっ、とジョゼフは忍び笑いをしたが……やがてポロポロと涙を零し始めた。
「そうだな、目の前を髑髏がいくつも舞い踊っているような感じだ。
 心地よい死のメロディと亡者の焼かれる香り。虚無の音色と虚無の臭いだ。
 ―――あああ、俺は本当にわざわいだ! 体は極楽にあるのに、心はいつも地獄をさまよっているとは!」



そこから千数百リーグも離れた外洋の上を、無数の黒く巨大な影が飛んでいる。
ハルケギニアの覇権を握るガリア王国の、力の象徴のひとつ『両用艦隊(バイラテラル・フロッテ)』だ。

海上と空中を制する巨大軍艦の総数は約200隻と、かつてのアルビオン空軍にも匹敵する規模である。
そしてその旗艦こそ、全長150メイルほどもある巨艦『シャルル・オルレアン』。
四年前、狩猟の最中に急死した、いや暗殺された王弟の名だ。
今や、両用艦隊は勅命を受けて軍港サン・マロンを発し、外洋上を全速力でトリステイン王国へと進んでいた……。

「しかし提督閣下、宣戦布告もなしに、仮にも不可侵条約を結んだ国に対して、奇襲をかけるとは……」
「リュジニャン子爵、これは勅命だよ。あの恐ろしいガリアの支配者、ジョゼフ一世陛下が命じられたのだ。
 我らは唯々諾々と命令を実行するしかないし、せねばならん。『灰にしろ』と仰せられたのだからな」

旗艦の司令室で密談しているのは、艦隊総司令たる海軍大将、提督・クラヴィル卿と、参謀のリュジニャン子爵。
ともに生粋の武人であるが、衆人からの評判はあまり芳しくない。
ハルケギニアのほとんどの将軍がそうであるように、彼らも保身と出世が己のすべてという人物であった。
長い艦隊勤務でよく日焼けした顔を、困惑と期待に歪めさせ、提督は独り言のように呟く。
「あのお方、世間では『無能王』などと呼ばれておるが、とんでもないことだ。
 俺は士官候補生のころから30年以上軍にいるが、あんな恐ろしい王様を見たことがない」

そうとも、俺にとって恐ろしいのは、神や始祖やアルビオンの大艦隊よりも、ネズミやコクゾウムシよりも、あの上役だ。
魔法もまともに使えないくせに、気の触れた頭の方は滅法鋭いときている。
もとより俺は政治には疎いから、内紛には巻き込まれずにすんだ。ただ愚直に、忠実に上の命令を守って働いてきた。
幾度もの戦いを切り抜け、目先のことをやり遂げていくうちに、時間は光の矢のように過ぎていった。
妖魔に化かされているのではないかと思うほどに忙しかった。気がついたら提督閣下だ。
まったく、夏の夜の夢のようだ。


「この理解しがたい勅命だって、気まぐれに発されたわけではない。何年もの下ごしらえがあってのことだろうて。
 しかも『トリステインをくれてやる』ときた。ええ? あの小さな王国をポンと『くれてやる』とさ。
 俺が王様なら、お前は大公殿下だな。士官どもだって男爵は下るまい。
 ちょうどそろそろ退官して領地経営をしたいなぁと思っていた矢先だよ。
 かえって老後の心配が増えそうだが、なに、俺にも財産管理の出来る息子ぐらいはいる」

思わぬ自分の野心に興奮してべらべらと喋りまくる提督に、リュジニャン子爵も頬をひきつらせる。
「ははは、皮算用はまだ早いんじゃあないですか。まぁこの艦隊があれば、あの国は数日で滅ぼせるでしょう。
 灰にしたあとの領土を貰っても、仕方ありませんがねぇ。手加減はしませんと……」

しばらく二人で談笑しつつワインなどを傾けているうち、甲板の方から騒ぎ声が聞こえてきた。
「む? ……何か外が騒がしいな」
「反乱、ではありますまいね。今回の作戦、しっかりと将兵への説明責任は果たしましたから」
「ちょっと見てこよう。それに、そろそろ上陸の目標地点のはずだ」

二人が甲板に出てみると、主だった士官や水兵らが片方の舷に集まり、暗い海の彼方を眺めている。
提督はちょっと不審そうな顔をしてから、芝居がかった口調で鷹揚に呼びかけてみた。

「……やあ、勇敢なる戦友諸君、この集まりはどうしたのかね?
 給金は滞らずに支払っておるし、糧食も慣れればそう不味くはないぞ。
 報酬についても確かに説明したではないか。そのことについて、諸君は特に不平も述べず、万事快諾してくれたものだ。
 此度のことは隠密裏に行う作戦であるから、各々持ち場を離れず精勤せねばならん」

すると水兵の一人が振り向き、頭を下げる。
「これは提督閣下、そろそろ海上国境線にさしかかりますぜ。上陸目的地のダングルテールまでは数リーグほどです」
「うむ、そうだな。見たところあの陸地には漁火どころか、民家の灯火さえ見えぬ。
 情報では亜人が少々住み着いているという、まったくの辺境地域だそうではないか」
「もともと寂しい漁村だったうえ、20年ばかり前に新教徒狩りがあって、無人になったといいますからね。
 アルビオン出征に手一杯で、海上警備の手も行き届かないのでしょう。
 先に潜り込ませて置いた間諜が、もうそろそろあの浜でカンテラを振って合図を送ってくる手筈です」

提督と参謀は望遠鏡を使って、ダングルテールの岸辺を観察する。
……やがて赤い灯火が点き、くるくると回された。二人はにんまりと笑うが、それはこちらへと飛んで来るではないか。
よくよく見れば、灯火を持った人間は風竜の背に乗り、旗竿を立てている。
「おお、風竜に乗って竜騎士が一人、真っ直ぐにこちらへ飛んで来るぞ! 我らガリアの旗印を持っておる」

そう提督が口走った瞬間、周囲の士官らは一斉に彼へ杖を向けた。
「「!!?」」


さあっと群衆が左右に分かれ、つかつかと歩み寄ってくる金髪の女性のために道を開ける。
あれは確か、『ヴィラ号』担当の神官だ。戦列艦以上のフネには、宗教行事を司る神官が乗り込んでいる。
「し、シスター・リュシー……でしたかな? こ、これは何事でしょう?」
「神と始祖と、正義の御名において。
 我らはガリアの現王ジョゼフの暴虐に耐えかね、正統な王を玉座に据えるべく立ち上がる義勇軍。
 すでに艦隊の殆どは我らの手のものになりました。亡きオルレアン公の御名を冠したこの旗艦も、接収いたします」

彼女の父は、さほど身分の高い貴族ではなかったが、かつてオルレアン公に仕えていた。
そのため公が暗殺され宮中に粛清の嵐が吹き荒れたとき、父も官位と命を奪われたのだ。
財産も家屋敷も失ったリュシーの家族は離散し、困窮した彼女は寺院に身を寄せて神官となった。
だが、王政府への凄まじい復讐の念は、神への信仰によって消せるものではなかった……。

無表情のままゆっくりと反逆の言葉を述べ終わるや、リュシーは始祖像のついた杖を二人に突きつける。
そして美しい顔を醜悪に歪ませ、物の怪のように恐ろしい笑みを浮かべた。
「用が済んだらちゃっちゃとおっ死ね、無能王の狗め!!
 ……といいたいところだけど、まだあんたらには使い道があるね。
 ガリア王国をなるべく平和裏に手に入れるため、全力で我らの新女王陛下のために尽くしなさい!」

呪文を唱えると杖の先がぼうっと光り、クラヴィル卿の精神を支配する。水系統の禁忌魔法『制約(ギアス)』だ。
任意の条件を満たした時に、詠唱者の望む簡単な行動をとらせることができる。
「仮にも両用艦隊の提督閣下を殺してしまえば、衆人の反感を買うからねぇ。
 いい? あんたは自分の意思で、ジョゼフに反逆したの。
 その旨を全ガリアに、ハルケギニアに喧伝しなさい。この血判状にサインしてね」

やがて風竜が甲板にふわりと舞い降り、乗っていた小柄な騎士はガリアの旗印を高く掲げる。
オルレアン公女、否、ガリア王国の王位継承者シャルロットは、歓呼をもって迎えられた。


《愛する者たちよ。自分で復讐をせず、むしろ神の怒りに任せなさい。
 『主が言われる。「復讐するは我にあり。我自身が報復する」』と(申命記に)書いてあるからである。
 もしあなたの敵が飢えたなら、彼に食べさせなさい。渇いたなら、飲ませなさい。
 そうすることによって、あなたは彼の頭に、燃える炭火を積むことになる。
 悪に負けてはならない。かえって善を以って悪に打ち勝ちなさい》
 (新約聖書『ローマ人への手紙』第十二章より)


場面は再び、ヴェルサルティル宮殿。その長い外壁の下に、一群の黒いローブを纏った集団がいる。

「団長、なにやら生暖かい霧が出てきましたが。昼に雨が降ったせいで、夜の空気も粘つくようです」
「ちょうどよい、双月も雲が隠している。我らの夜襲を天も支持してくれておるわけだ」
集まっているのは、オルレアン派の『東薔薇騎士団』だ。彼らは団長のバッソ・カステルモールに率いられ、
今から夜陰に乗じてジョゼフの居城グラン・トロワに突入するところであった。

「おお、殿下! 我が敬愛するオルレアン公よ! 殿下のご無念を晴らすときが、遂にやってまいりました。
 殿下は貧乏貴族の家に生まれた私を、『見込みがある』の一言で騎士団に引き立ててくださいました。
 そのご恩に報いるときが、遂にやってきたのです! まさに男子の本懐です!」

今時珍しく騎士道精神に溢れるカステルモールは、感涙に熱く身を震わせ、亡き主君に呼びかける。
それから背後を振り返り、総勢80名を超える部下たちを激励する。いずれも歴戦の勇士たちだ。
「栄光ある東薔薇騎士団諸君! 我らはこれより、神と始祖と祖国に仇なす簒奪者より王座を取り戻す!
 そののちに、しかるべきお方にお返しするのだ! 恐れるな、我らは反乱軍にあらず!
 真のガリア花壇騎士、ガリア義勇軍である!」

一同は鬨の声をあげる代わりに、揃って軍杖を構えて最敬礼し、賛意を示した。
そして彼らは『飛翔』の魔法で石壁を飛び越え、一直線にグラン・トロワへと突進していった。
現在宮殿内にいる貴族は20名程度。ベルゲン大公国出身の衛兵が数百名いるが、彼らはメイジではない。
マスケット銃やハルバードがいくらあろうと、スクウェア級のメイジが率いる精鋭の騎士団の相手にはならない。
恨み重なるジョゼフの寝室へ、破竹の勢いで騎士団は進撃する。

―――だが、『鏡の間』へ突入した騎士団の前に、夜着を纏った小柄な影が立ちはだかった。
青い髪に吊りあがった目、広い額に意地悪そうな表情。別宮プチ・トロワにいるはずの、イザベラ姫であった。
「お~や、誰かと思えばカステルモールじゃあないの。こんな夜中に何か用かい? ケケケケケケケ」

不吉な笑い声をたてるイザベラの周囲には、不快な気配を放つ小妖魔どもが蠢いている……。


《あなたは、あのイゼベルという女を、そのなすがままにさせている。
 この女は女預言者と自称し、私のしもべたちを教え、惑わして、不品行をさせ、偶像に捧げたものを食べさせている。
 私はこの女に悔い改める機会を与えたが、悔い改めてその不品行をやめようとはしない。
 見よ、私はこの女を病の床に投げ入れるであろう…》
  (新約聖書『ヨハネによる黙示録』第二章より)


(つづく)


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