あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

割れぬなら……-14


「ほんっ……とに! アイツったら一体全体何を考えて毎日生きてるのかしら」

ヴァリエール家の屋敷の中庭で、不機嫌な少女が小石を蹴りあげる。
両頬をぷくぅっと膨らませて、ルイズは1人ツェルプストーの屋敷のある方向を睨んでいた。
アイツとは曹操の事だ。
降臨祭での上奏、リッシュモンの処刑から2年、ルイズはかろうじて魔法学園を卒業した。
コモンマジック以外全く魔法が使えない駄目メイジの称号は、ついに返上する事はできなかったが。
今は領地で何をするでもなくダラダラと過ごしていた。

アンリエッタは例の一件で貴族に対する不信感を覚え、銃士隊と呼ばれる部隊を結成させた。
その半数以上が平民、残りも比較的中央の権力闘争から縁遠い下級貴族によって構成されている。
隊長は曹操、その下にコルベール、アニエス、さらに魔法学園からギーシュやレイナールといった面々が引き抜かれた。
後の歴史家に言う『曹操と愉快な仲間達』の誕生の瞬間である。

それはそうと曹操はアンリエッタから賜わった領地の管理をルイズに、銃士隊の管理をレイナールに丸投げし、自分は毎日ガラクタ弄りをしていた。
冒頭でルイズが非常に不機嫌だったのは、そのせいだ。
なお開発資金はツェルプストー家持ちである。
どのような詐術を使ったのかはわからないが、曹操はキュルケの家族から好印象で迎えられている。
ルイズはその点も気に入らない。
今更曹操をルイズ個人の所有物だと言い張るつもりは無いが、ツェルプストー家に出入りするのだけはやめてもらいたかった。

「ソウソウも、コルベール先生も、キュルケも、あんな鉄クズ触って何が楽しいのかしら?」

「さて……ね。だけど、君の姉上は楽しんでいる様子だったよ」

中庭にワルドが現れる。
ワルドはルイズの帰郷に合わせ、本当に久しぶりに自分の領地に帰ってきていた。

「ちぃ姉さまが?」

「いいや」

消去法で、ガラクタ弄りに参加しているのがエレオノールの方だとわかる。
ルイズはそれを確認すると心底ホッとして、数秒後に今までにない位に眉間に皺を寄せた。



「まさかソウソウの奴、今度はエレオノール姉さままで手込めにする気じゃないでしょうね。
 嫌よ私、あんなのを『お義兄ちゃん』だなんて呼ぶのは」

「さぁて、わからないぞ。
 君の姉上は今の所特に決まった相手はいない様だし、何より我らのご主君は色を好むからね」

ルイズはムスっとした顔はそのままに、ワルドを睨む。

「我らって何よ? ワルドはともかく、私はソウソウに忠誠を誓った覚えは無いわよ」

ワルドは少し笑って、上質の白ワインと一緒にルイズの隣に座った。
グラスに少量注ぐと、液体は太陽光を吸って七色に輝いて見えた。
相変わらず不機嫌な少女は奪い取る様に杯を握り、一息でそれを飲み干した。

「ねぇワルド、どうして貴方はソウソウのために働くの?」

「そりゃあ、忠誠を誓ったからさ」

酒で唇を濡らしながら、ワルドは答える。

「じゃあ。アルビオンでソウソウから『仕えろ』って言われた時。
 何でワルドは断らなかったの?」

「空腹で、睡眠不足で、疲れていて、追い詰められていて、正常な判断能力を失っていたからだと思うよ。
 ……幸運な事にね」

くいっ……と、2人同時に酒を煽る。

「そういう事が聞きたいんじゃないの。わかってるんでしょ?」

「それはね、ルイズ。僕が出世をすればするほど、自分が何のために、誰のために働いているのかが鮮明になっていったからだよ。
 僕がどんな苦労を重ねて今の地位を手に入れたか知ろうともしないくせに、僕に命令できる事を疑おうともしない連中さ。
 彼等を蹴落とすには、ソウソウに仕え、ソウソウの手足となるのが最も有効な手段だと僕は思っている」

「よくわからないわ」

「『士は己を知る者のために死す』つまりは、そういう事だよ」



ルイズはボトルごとワインを奪い、一気に飲み干す。
味も匂いもわからないうちに喉を通ったそれは、数瞬の後に吐き気に変わった。

「そんな飲み方をしたら、体に悪い」

「うるさいわね、わかってるわよそんなこと!」

そう、わかってはいるのだ。
曹操がトリステインの屋台骨を揺さぶろうとしている事も。
自分が使い魔に比べて、極端に矮小な存在のような気がする事も。
魔法が使えるとか、使えないとかいう問題ではない。
行動力、影響力、それが圧倒的に足りない。
足りないままでは、トリステインを守れない。
今は女王になった、自分の親友を守れない。

「ワルド、利己的な人は私も嫌い。
 だけど、私は姫様を守りたい。
 どうすれば良いと思う?」

「簡単さ、君もソウソウに仕えれば良い」

簡単に言うが、ハルゲニアの常識で言えば破天荒にも程がある発言である。
メイジが平民に仕える。
それだけならまだしも、メイジが使い魔に仕える。
それはとてもとても常識外れだと言えよう。
しかし曹操に仕える者は、常にその常識という物に立ち向かわなくてはならないのだ。

「決めた、旅に出る」

ルイズはゆっくりと立ち上がる。

「仕えるって言ったって、何の取り柄も無かったらソウソウだって使いずらいに決まってるわ。
 今の私、何の取り柄も無いもの。
 だから旅に出て、勉強する」

そして力をつけて、親友を守る。
そう心の中で誓った。


同じ頃、ガリア王都リュティスは雲一つ無い晴天であった。
気温、湿度共に快適で、昼寝にはもってこいの昼下がりだと言えよう。

そんな中、プチ・トロワ宮殿の王女の部屋の前で、泥だらけになったオッサンが佇んでいた。
原因はわかっている、王女イザベラの侍女達が卵やら泥の詰まった腸詰めやらを投げつけたからである。
男の名は賈言羽、ガリア王ジョゼフの直属の部下、外交官。
王女はともかく、下働き程度は無礼討ちのできる身分である。
……いや、下手をしたら王女すらただでは済まされないかもしれない。
侍女達は怯えに怯え、必死になってカーテンの奥に身を潜めた。

「ふ……ふん、誰かと思ったらカクじゃあないかい。
 こんな所に何の用だい?」

かろうじて放心状態から回復したイザベラが、普段通りのふてぶてしさを取り戻した。

「ガリア王より直々の命令でございます。
 北花壇騎士7号殿のエギンハイムの翼人討伐に同行せよと」

そう言って賈言羽は懐からガリア王直筆の書類を取り出す。
卵黄で文字が滲んでいるが、それにツッコミを入れられる人間はいなかった。

「まったく……また父上の気まぐれかい……わかったわよ、とっととお行き」

まるで汚物でも見るかのような目をして……いや、現実に今の賈言羽は見事なまでに汚いのだが、
イザベラは鬱陶しいとでも言いたげな顔で賈言羽を見る。
賈言羽はその視線を意に介さず、イザベラに背を向け退室する。

「礼と無礼の区別もつかぬか。
 父子ともども大した王族っぷりよ……」

そんな言葉が、小さな声の割に妙にハッキリとイザベラの耳に届いた。

「待ちな。今、何て言った?」

室内が凍りつく。
侍女達がより一層の恐怖に怯えた。
賈言羽はイザベラを無視して歩き続けた。

「待てって言ってるんだ!」

イザベラの怒声に反応して、入口のガーゴイルが動き出す。
身長の倍ほどもある大きな槍を振り上げ、勢いをつけて投擲。

賈言羽はほんの少したりとも避けるそぶりを見せなかった。

大槍はぶぉん、という音と共に賈言羽の脇を通り過ぎ、イザベラの真後ろにあった絵画に風穴を開けた。
そのまま賈言羽は部屋を出た。
イザベラの命令によってのみ動く筈のガーゴイルは、それを止めようともしなかった。

部屋の外でその一部始終を見ていたタバサは、事前に渡されていた物を彼に放ってよこした。
洗濯されたばかりの綺麗な布を受け取ると、賈言羽はそれで顔についた汚れをぬぐった。



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