あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエンジェル-05


「んしょ、んしょ…っと」

北野君は気絶した二人の少女を運んでいた。
キュルケはその豊満な肉体故に、タバサは長めの杖を握り締めているが故にルイズと同じように抱っこでは運べない。
仕方なく両脇から腕を差し込んで引き摺るように運ぶ北野君。

「ふう…」

ルイズが眠るベッドの上に二人を運び終えて一息つく。
幸い、ルイズのベッドは三人を横たわらせても余裕がある大きさだったので彼女たちが落ちる心配はなさそうだ。
さて、これからどうしたものか?
北野君は悩んだ。
何故かはわからないがこの二人の少女は気絶してしまっている。
勿論紳士な北野君に少女たちへ悪戯を働こうなどという邪な気は毛頭ない、というか発想すらない。
あるのはただ、少女たちの容態を心配する優しい心だけである。
しかし所詮彼は一介の高校生に過ぎないわけで、介抱の心得などあるはずもなく…
彼女たちが目が覚めるのをじっと待つほかないのだ。
ぐー
と、思い出したかのように北野君のお腹がなった。

(…そういえば、お腹がすいたなぁ)

昨日召喚されて以来、北野君は何も口にしていない。
とはいえ、ルイズの部屋には食べ物があるようには見えなかった。
仮にあったとしても主の許可なく食べるわけにはいかないのでどちらにしろ意味はないことなのだが。
とにかく、お腹が空くという現象は人間にとって必然の欲求であり満たさねばならない事象である。
それは北野君とて例外ではなく…

(でも、この人たちを放っていくわけにも…)

だがしかし、北野君は食べ物を捜し求めて部屋を出て行くということはしなかった。
無防備な女の子三人を放置して長い時間席を外すなど心優しい彼にはできなかったのだ。
ちょんちょん
すると、困った風にベッドの上の少女たちを見下ろしていた北野君の背中をつつくものがいた。
振り返ってみると、俺を忘れるなとばかりにフレイムが尻尾を振っているではないか。

「え、もしかして君が見ていてくれるの?」

おうよ、とばかりに頷くフレイム。
北野君は思案する。
戦闘力という意味では目の前の火トカゲと自分では比べるのもおこがましいほどの差があるだろう。
そういう意味ではここを彼に任せたところで彼女らに危害が及ぶことはないはずだ。
だが、彼女たちが目覚めた時に自分がいなければ状況を説明するものがいない。
ルイズはともかく、残りの二人はいきなり廊下で倒れたのだ。
それが目覚めてみればベッドの上では混乱するだろう。

ぐー、ぐぐー!

しかし北野君のお腹は彼の良心に反して早くメシを食わせろと不平を上げていた。
フレイムも早く行けとばかりにこちらを見つめている。

(うーん……あ、そうだ! 置手紙をすればいいんじゃないか!)

これはうっかりしていた、と北野君は自嘲しながらペンを取るとすらすらと紙に文字を書いていく。
勿論『日本語』で。
なお、これは言葉が通じていたんだから文字も通じるだろうという至極当然の思考によるものである。
何せ北野君はハルケギニアの文字をまだ見たことがないのだから。

「これでよし、と」

北野君は簡単な説明と自分はご飯を食べてくるという旨を書いた紙を枕元に置いた。
ちなみにこの北野君の心配りが後に一人の少女を精神的に追い詰めることになるのだが、それはまた後日の話である。

「それじゃあ、頼んだよ」

任せとけ、と一吠えするフレイムの頭を撫でて北野君はドアのノブに手をかけた。
とりあえず、誰か他の人を見つけなければ。
ここが学校である以上は食堂、ないしは調理場のような場所が存在しているはず。
それらの場所を聞いておきたい。
そんな思考をめぐらせていた北野君は気がついていなかった。
ドアが既にほんの少し開いていたことに。
そして、ドアの向こう側に人影があったことに。
さらに、その人影が隙間から部屋の中を窺っていたことに。
どんっ

「きゃあっ!」

ドアを開けると同時にドアが何かを突き飛ばし、その何かが悲鳴を上げた。
それは、金の長い髪を縦ロールにした女の子だった。
少し時間は遡る。

「いけない、このままじゃ遅刻だわ…♪」

切羽詰った台詞の割にはその口調は軽い。
走るというよりもスキップの勢いで廊下を駆ける一人の少女がいた。
彼女の名はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
香水の二つ名を持つ金髪縦ロールのお嬢様である。
遅刻確定という状況ではあるが、それに反しモンモランシーの機嫌は浮かれ気味であった。
その理由は昨日の出来事にあった。
ルイズによる北野君召喚の折、彼女は恐怖から腰をぬかし、その挙句お漏らしまでしてしまっていた。
それだけでも良家の子女として失格であるのに、その光景を好きな男の子に見られてしまったのだ。
モンモランシーは絶望した。
それはそうだ、男の子の前で粗相するような女の子を誰が好きでいてくれるというのだ。
だが、男の子は―――ギーシュは予想を裏切り自分を蔑むことはなかった。
それどころか、腰が抜けて歩けない自分をお姫様抱っこして部屋まで運んでくれたのだ(途中でバテて魔法を使っていたことには気づかなかった)
当然、その時の彼女の感激は筆舌に尽くしがたかった。
前から好意は持っていたが、この時のことでモンモランシーのギーシュに対する好感度はうなぎ上りとなっていたのだ。
ちなみに、彼女が遅れているのは念入りに化粧をしていた上に散々身につける下着を悩んでいたからだったりする。

「~~♪」

あまりのルンルン気分に鼻歌を歌ってしまう。
ギーシュにもうすぐ会える、そう思っただけで鼓動が弾み、頬の温度が上がる。
どことなくロールもいつもより巻きがよい。
が、彼女の快進撃もそこまでだった。

ずりずり…

何かを引き摺るような音が廊下を駆ける少女の耳へと届く。
なんだろう?
興味を引かれたモンモランシーは音のするほうへと向かう。

(確かあっちはルイズの部屋があるほうよ……ね゙!?)

ビシリ。
廊下を曲がり、音源へとたどり着いたモンモランシーは顔を引きつらせた。
そこには、昨日自分を含む生徒たちを恐怖のどん底に陥れた悪魔がいたのだ。
(あ、あの悪魔、何をして…)

見れば悪魔は何かを引き摺っているようだった。
見つからないように細心の注意を払い、影からこっそりと何を引き摺っているのか確かめてみる。

(あれは…『微熱』のキュルケ!?)

それはグラマラスな体型とエキゾチックな美貌で男子を魅了してやまない級友だった。
彼女は悪魔に引き摺られてルイズの部屋へと連れ込まれていく。
これは一体どういうことなのか。
混乱するモンモランシー。
だが、彼女が考えをまとめる間もなく更なる衝撃が彼女を襲う。
部屋からすぐさま出てきた悪魔はモンモランシーがいる場所とは反対側の廊下の角に歩いていったかと思うと、またしても人を引き摺り始めたのだ。

(こ、今度は『雪風』のタバサ!?)

キュルケとは見た目&性格的に対称的な、にも関わらず何故か仲が良い小柄な少女が引き摺られていくのを呆然と見送る。
先程のキュルケもだったが、彼女らは気絶しているようだった。
僅かに胸が隆起していたため、死んでいるということはないだろう。
ほっとするモンモランシー。

(け、けど…なんであの二人があの悪魔に…?)

考えるまでもない、あの悪魔にやられたに決まっているではないか。
そう結論を導き出した彼女は戦慄に襲われた。
キュルケもタバサもメイジとしては上級に位置するトライアングルクラスのメイジである。
戦闘力という観点からすれば学校の生徒の中でも十指に入るのではないかといわれている存在だ。
その彼女らが為す術もなくやられてしまったというのか。
しかも、見た感じ悪魔は負傷どころか疲労すらしているようには見えない。

「あの悪魔…そんなに強かったの…?」

この時点でモンモランシーには彼女らを助けよう、という気はなくなっていた。
水系統という戦闘にはあまり向かない属性、メイジとしてもキュルケやタバサには遠く及ばない。
それを理解しているが故に、いや、人としての生存本能が故に彼女は指一本すら動かすことができなかった。
そうこうしているうちに、悪魔はタバサをもルイズの部屋へと引きずり込んでいく。

(……ど、どうしよう?)

はからずもとんでもない状況の目撃者となってしまったモンモランシーは途方にくれた。
バタン。
ルイズの部屋の扉が閉まる。
どうする? 助けを呼びに行くべきか?
モンモランシーは自問する。
個人的にはすぐにでもこの場から離れたかった。
このままここにいればあの悪魔に見つかる可能性がある。
そうなれば自分も彼女らの仲間入りだ。
だが、かといってここで自分が逃げてしまえばあの悪魔は彼女たちに何をしでかすかわかったものではない。
そうなってしまえば目覚めが悪すぎる。
モンモランシーはたっぷり数十秒ほど悩んだ後、決断した。

「とにかく…状況を把握しないと」

ロール少女は勇気を振り絞って様子を窺うことを決めた。
本音では逃げ出したかったのだが、昨日の情けない失態を思い出してしまったのだ。
自分の誇りのためにも、こんな自分を好いてくれているギーシュのためにも。
ここで安易に逃げ出すわけにはいかなかったのだ。

(ごくっ…)

そろそろと足音を立てないようにして扉の前へと移動する。
幸い、悪魔が出てくる気配はない。
ゆっくりと、そして静かに扉を僅かに開く。
はたして、そこにはベッドの上に並べられた三人の少女の姿があった。

(ル、ルイズまで…!)

半分予想していたことだが、彼の主であるはずのルイズも既に彼の手に落ちている様子だった。
これから彼女らは一体どうなってしまうのか。
食べられてしまうのか? それとも汚されてしまうのか? もしくは何かの生贄に?
恐怖と好奇心が入り混じった視線でモンモランシーは中の様子を窺う。
ぐー
と、悪魔のお腹から空腹を示す音が鳴った。

(た、食べるつもりーっ!?)

戦慄に顔を引きつらせるモンモランシー。
どうやら自体は深刻な展開を迎えつつあるようだった。
最早一刻の猶予もない、誰かを呼びに行っている暇もない。
だが、自分ひとりでどうしろというのか。
自身には戦闘力は皆無、こういう時頼りになるはずの使い魔のロビンは小さなカエル、とてもではないが戦力としては期待できない。
ぐー、ぐぐー!
悪魔の腹の音が更なる高音を発する。
もうこうなってしまうといつルイズたちが食われてもおかしくはない。
背を向けているため顔は見えないが、きっと奴の顔は醜悪な笑みが浮かんでいるに違いない。
口からは牙が伸び、目は赤く染まって涎をだらだらと流しているのだ。
そんな想像図にモンモランシーは顔面蒼白になってしまう。

(ちょっと、主人の危機なのよ!? どうにかしなさいよ!?)

北野君の足元で大人しくしているフレイムに向けてモンモランシーは罵倒を飛ばす。
だが火トカゲは主人を守る様子も見せず、むしろ悪魔に従う様子すら見せていた。
そういえば、先程から肩に乗っているロビンも大人しい。
普通、あんな悪魔を見れば怯えるか敵意を剥き出しにするはずなのに。
なんということだろう、あの悪魔はコントラクト・サーヴァントの終わった使い魔すら従えることができるというのか。

(ブリミル様…!)

金髪の少女は始祖に祈りを捧げる。
もはや彼女には祈ることしかできなかったのだ。
そして、その願いは聞き届けられた。
じっと三人の少女を見つめていた悪魔が視線を外し、テーブルのほうへと動いたのだ!
奇跡の降臨に思わず瞳を潤ませ、虚空へと更なる祈りを捧げるモンモランシー。
が、それ故に彼女は気がついていなかった。
悪魔が部屋を出ようとしていたことに。
彼がこちらに気づかずにドアを開けようとしていたことに。
どんっ

「きゃあっ!」

いきなり開いたドアに突き飛ばされ、モンモランシーは尻餅をついてしまう。
短いスカートがまくれ、下着がその下から露出する。
しかし彼女にそれを気にする余裕はなく、その視線は魅入られたように眼前の存在―――北野君へと向けられていた。
ぶつかり合う視線。
ゆっくりと悪魔の手がこちらへと伸びてくる。
モンモランシーはこの瞬間、死を覚悟した。


新着情報

取得中です。