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未来の大魔女候補2人-04



未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第4話『朝の魔女2人』


 ジュディは、朝日が昇ったのに少し遅れて目を覚ました。
 隣からはルイズの寝息が聞こえてくる。

「ふぁ~ぁ」

 欠伸をしてから、極上の柔らかさを持つ布団から上半身を起こし、眼をしばたかせる。

「う~…ぅん」

 大きな伸びをしてから、ベッドから降りて部屋の中を見回す。
 ジュディの目に映るのは、見慣れた自分の部屋ではなく、自分の部屋が3つは収まる程に広く、見たことも無い位に豪華な部屋であった。ルイズの部屋である。

「そっか…… 夢じゃなかったんだ……」

 ポツリとそう呟き、ガックリと項垂れる。
 部屋の中は薄暗く、カーテンの隙間からは朝日が漏れている。耳を澄ますと外からは、小鳥の囀る声が聞こえてくる。

「ルイズさんが励ましてくれたのに、暗い顔してちゃだめだよね?
 きっと帰れる。うん、きっとダイジョウブ。必ずみんなとは、また会えるから」

 そう、自分に言い聞かせ、顔を上げる。
 薄暗い部屋をゆっくりと横切り、窓の前に立つ。背伸びをして、片側のカーテンだけを開ける。すると、透明な朝日が部屋に溢れた。
 窓を開けテラスに出ると、朝露で湿りを帯びた風が頬を撫で、温かい朝日がジュディを包み込む。
 全身で朝を感じ、ジュディは大きく深呼吸をする。すると、体全体に1日分の活力が漲る。
 太陽が昇ってそれ程時間が経っていないらしく、気温はまだ低い。
 窓から下を見下ろすと、既に起きて仕事をしている人達が目に入った。その人達は一様に、黒地の質素な服に白のエプロンという格好をしている。
 ジュディは昨日、この学院には『メイド』と呼ばれる雑用をしてくれている人達が居ると、ルイズから聞いた事を思い出した。
 ジュディには見慣れない格好だが、あの白黒のいでたちは昨日見たメイドそのものであるので、間違いはないだろう。
 大きく息を吸い込んで、ジュディは眼下に居るメイドに挨拶をする。

「メイドさん、おはよーございます!」
「きゃ! お、お早う御座います!」

 いきなり頭上から呼びかけられた黒髪のメイドは、目を白黒させて驚いた様子である。

「朝早くから、ゴセイが出ますね」
「い、いいえ、滅相も御座いません!」

 黒髪のメイドは、ジュディの言葉に委縮し、畏まってしまう。ジュディは、何故そんな風になるのかわからず首を捻る。

「し、失礼致します!」

 そうこうしている内に、黒髪のメイドは一礼をしてから足早に去って行った。
 ジュディは首を傾げながら部屋の中へ戻る。
 ベッドに目を向けると、スヤスヤとルイズが気持ち良さそうよさそうに寝ていた。髪は乱れて四方八方に広がり、口元には涎が垂れている。

「ルイズさん、ルイズさん。朝だよ、早く起きて」
「ぅん~ なに~?」
「もう朝だよ」
「あと5分~」
「ダメだって。早起きは3クライスの得だよ?」
「ふぁ~ もう朝~?」

 ルイズは目を擦りながら起き上り、ベッドの反対側にある壁に目を向ける。そこには、背の高い振子時計があり、カチコチと時間を刻んでいる。

「なによぉ~ まだ1時間ぐらい眠れるじゃない。おやしゅみーzzz」
「もうっ! しょうがないな~」

 ルイズは再び布団に潜り込む。暫くもせぬ内に寝息が聞こえてくる。
 その様子に、ジュディはあきれた声をあげて頬を膨らます。まるで兄を起こす時のようだ、と、ジュディは感じる。
 ジュディはルイズを起こすことを断念して、着替えることにした。
 鞄からソックスとシャツを取り出し、それに着替える。脱いだ寝巻きは、丁寧に畳んで鞄に仕舞う。
 クローゼットを開け、何時ものスカートと魔道着を着る。そして、姿見の前に立ち、昨日の赤いネクタイではなく黒いリボンタイを締める。
 姿見の前で一回りして、可笑しな所がないことを確認してから、紫のローブを身に纏い、着替えが完了した。
 再びベッドに近寄って、ルイズを揺さぶる。

「ねえねえルイズさん、お散歩に行って来て良い?」
「う゛ん~? いってらっひゃい、きおひゅけちぇね」

 布団の中からくぐもったルイズの声が聞こえてくる。
 全く起きる気配のないルイズに、ジュディはため息を付いて
 ジュディは寝癖の付いた髪を梳かす。それが終わると、荷物掛けから大きなとんがり帽子を手に取ってから、ドアノブに手を掛ける。
 扉を開けて、穏やかな寝息が響く部屋から抜け出る。
 廊下には、ポセイドンが昨日と同じ場所に鎮座していた。
 廊下は静かなもので、どの部屋からも物音は聞こえてはこない。女子寮の中で起きているのは、ジュディだけのようだ。

「よしっ。いこっか、ポセイドン」

 ジュディは、大きなとんがり帽子を被って胸を張る。
 知らない場所を探検する事に、心が高鳴るのを抑えながら一歩を踏み出す。
 廊下には、窓から差し込む透明な朝日が満ち満ちており、誰も知らない1日が始まるのだと、ジュディに予感させた。



 ◆◇◆



 学院の中庭に、片手を胸元に当てて乱れた呼吸を整えている少女が居た。先ほど、ジュディが声を掛けた黒髪のメイドである。

「ああ、吃驚した。貴族の方から挨拶されるなんて、夢にも思わなかったわ……」

 メイドというものは、奉仕する者であり、それが当り前のことだ。粗相があれば叱咤されるが、そうでないならば特に何も言われもしない。
 何か言いつけるために呼び止められることはあっても、日常の他愛ない挨拶をされる事など皆無といってよい。
 個人付きで、付き合いの長い主従ならばそういったことも有るだろうが、少女は学院全体の貴族に仕える立場であり、有象無象の1人でしかない。
 で、あるからして、今朝のように丁寧に挨拶をされて、ましてや苦労を労われるなど初めての体験であった。

「ああ…… しまったわ。
 思わず逃げるみたいになっちゃったけど、何か言いつけられるのだったのかも……
 どうしよう、このことが原因で何か罰を受けたりしたら…… いえ、罰で済んだらいいけど、解雇されちゃったらどうしよう?」

 先ほどの自分の態度を思い出し、今更ながら下手な対応をしてしまったと少女は頭を抱える。
 少女の頭の中には、様々なシチュエーションが渦を巻いている。

「どうしよう、どうしよう。謝りに行った方がいいかしら? でも、案外なんとも思われてないかも?
 でもでも、お仕置きされるのは嫌だし、潔く謝った方が…… でも、影腹を切れなんて言われたら…… ブツブツ」

 少女の思考は悪い方向に加速していく。
 貴族にとって、下働きの平民など取るに足らない存在である。些細なことが原因で、無体な仕打ちをされた例もあるのだと、少女は同僚から聞かされている。
 そんな訳だから、平民の貴族への畏怖は強く、また、決して逆らえぬ存在である。
 そんな風に想像が膨らんでいき、戦々恐々としている少女に、声が掛けられた。

「おーい、シエスタ。そんな所に蹲って、一体どうしたんだ?」
「きゃっ! い、いいえ、何でもない…です」

 シエスタと呼ばれた少女は、不意に掛けられた声に仰天して、しどろもどろに応える。
 声を掛けた少年は、そんなシエスタの様子を不思議に思い問い詰める。

「何でも無いって事はないだろう? 顔なんか真っ青じゃないか」
「そ、そんなに酷い顔してますか?」
「ああ。一体、何があったんだよ? 俺だったら何でも力になるから、何があったか言ってくれよ」

 その言葉に力付けられて、シエスタはポツリ、ポツリと、何があったのか話し出した。

「う、うん。実は……」

 話を聞き終えた少年は、腕を組んで難しい顔をする。だがその実、考え込んでいる振りをしているだけなのであるが、シエスタにはそんな事は分からない。
 しばしの黙考の後に少年は、シエスタに笑い掛ける。そのなにも臆したところの見られない態度は、シエスタには頼もしく映った。

「大丈夫だって。あいつ等、気に食わない事があったら直ぐに怒鳴りつけて、杖を振り回すだろ?
 そうしなかったって事は、別に何とも思っちゃいないって事だって。
 何食わない顔してりゃ、別にどうってことないさ」
「そう……でしょうか?」
「そうだって。血眼になって追っかけてこないって事は、全然大丈夫だって。なっ?」
「そう、ですよね?」

 少年の言い分も尤もだと思い、シエスタは気持ちが軽くなる。確かに、何も言って来ない所を見ると、大した問題では無いように思えてくる。
 延々と、暗い想像を浮かべて悩んでいた事が馬鹿らしく思えてくる。やはり、この少年は頼りになるとシエスタは思い、頬が紅に染まるのを感じる。

「お貴族様の事で悩んだってムダムダ。
 どうせ考えるならさぁ…… えっと、今度の休みだけどさぁ、よかったら俺と……」

 少年は手をモジモジさせて、シエスタに話し掛けてくる。
 どうやら少年は、シエスタをデートに誘っているらしかった。
 まだ学院に来て間もない少年との仲は、満更でもない。抜けた所もあるが、何度か助けられる事もあったし、何より他人とは思えない雰囲気を感じていた。
 そんな訳で、シエスタは特に抵抗感も無くデートの約束をする。少年は両手を胸の前で組んで感激し『生まれてきて良かった』などと言っている。
 身持ちの固いシエスタだが、初デートという事態に、少年ほどではないが、心が湧き躍るのを感じる。
 やはりここは、近場の森にでもピクニックに行こうか。そして、お弁当を作っていって家庭的なのをアピールするのも良い。
 それよりも、思い切って城下町まで足を延ばそうか。お金なら、今まで貯めてきたへそくりがある、それで都会のデートを楽しむのも悪くない。
 さて、どちらにしようか。と、考えたところで重要なことに気がつく。

「つい、話しこんじゃいましたけど、早く仕事に戻らないとマルトーさんに叱られませんか?」
「おっと、いけね。急いで戻らないと。
 また後で! この話、忘れないでよ!」

 そう言って少年は、踵を返して食堂の方へ走りだす。マルトーとは、学院の胃袋を握っているコック長のことだ。仕事には厳しいが、周りからの信頼は厚い人物である。
 シエスタは、自分と同じ黒髪の少年の背中を見送ってから、自分の仕事へと戻る。

「さて、お洗濯しなくちゃ。うん、今日もいい天気!」

 その言葉の通り、頭上には青空が広がり、陽光が燦々と降り注いでいる。
 天高く純白の雲が流れ、薫風が吹き抜ける。今日も1日晴れのようだ。



◆◇◆



 早朝、学院長秘書ロングビルは、学院の本塔の階段を登っていた。目指すのは最上階の学院長室。
 何時もならば、こんなに朝早くから出勤したりはしない。
 それにもかかわらず、階段を上っているのには理由がある。

「全くあのジジイと来たら、こんな朝早くから一体何の用だい?
 おちおち寝てられやしない……
 ……はぁ。今日もセクハラされるんだろうねぇ、全く嫌になるよ。
 さっさと目的を果たして、村に帰ろう。テファ達に会って心の洗濯をしないとやってられないよ。うん、それがいい。
 ……でも、安定した定期収入も魅力なんだよねぇ、ぶっちゃけ高給取りだし、セクハラさえなかったら本当に就職してもいいのに。
 そうなったら、テファにも堂々と、どんな仕事をしてるかも言えるし…… でも、周りは貴族の馬鹿ガキばっかりだし…… 如何しようかねぇ?」

 その理由は、ロングビルの口から駄々漏れであった。相当にストレスが溜っているらしく、不機嫌な足取りで階段を上っていく。
 愚痴は主に仕事のことであり、ついでに先の人生設計なども考えているようだ。
 文句は尽きることなく、口から衝いて出る。

「ココの教師ときたら、揃いも揃って変人だらけだし、一般人には付いて行けないよ、まったく。
 それにしても、何でこんな高い所に学院長室を置くんだろうねぇ?
 3,4階で良いじゃないか。その方が楽だし、利便性もあるだろうに…… 見栄って奴かい?
 やっぱり、これが貴族のサガなのかねぇ?」

 愚痴は、仕事のことに始まり、同僚のこと、はては学院の構造にまで波及する。
 一通りの愚痴を零し終えて、最上階に辿り着く。身嗜みを整え、小さく息を吸い込んでから、扉をノックして入室する。

「オールド・オスマンお呼びでしょうか?」
「おお、ミス・ロングビル。待っておったよ」

 部屋の奥からオスマンが返事をしてくる。流石に、朝っぱらからは水煙管を吸ってはおらず、朝の清涼な空気が部屋に満ちている。
 先程までの不機嫌さなど、微塵も感じさせない表情でロングビルはオスマンに微笑む。

「こんなに朝早くから、一体何のご用でしょうか?」
「なに、大したことではない。朝食が済んだ後、ジュディちゃんに此処に連れて来てはくれんかね?」
『たったそれだけの用事で、朝早くから呼びつけたのかい? このクソジジイ』

 ロングビルは、忌々しそうに毒づく。もちろん、口にも表情にも出さずに、だが。

「ミス?」

 返事をしないロングビルに、オスマンは怪訝な顔で呼びかける。
 ロングビルは、何でも無いと言うように微笑んでから、用件を承諾する。

「それならば、お安い御用です。お任せ下さい。
 それで、お話はそれだけでしょうか?」
「あと1つ、出来るならば引き受けてほしいこともあるんじゃ。いいかの?」
「何でしょうか? 職務に差し支えない範囲でなら、お引き受けしましょう」
「うむ。
 ジュディちゃんをこの学院の生徒にしたいと思っとるんじゃが、問題があるのに気が付いての。
 それを何とかしてほしいんじゃ」
「問題……ですか? それはどんな?」
「読み書きじゃ。ジュディちゃんは、此方の文字の読み書きは出来んじゃろうから、それから教えんといかんのに気が付いてのう。
 授業を見学する分なら何とかなるが、生徒として受けるのなら読み書きが出来んと問題があるじゃろう。
 じゃから、ジュディちゃんに、読み書きを教えてやってはくれんかのう?」

 オスマンの言い分は、ロングビルにも分かる。しかし、何か釈然としないものを感じて、ロングビルは疑問を口にする。

「それは確認したのですか? 言葉は通じていましたし、違う言語を使ってはいませんでしたよ?」
「昨日、ジュディちゃんから地図を貸してもらったじゃろう? そこに書いてある文字は、ワシには全く分からなんだ。
 じゃからして、違う言語を使っていると考えられる」
「なら、どうして言葉が通じているのですか? 違う言語を使っているのなら、言葉が通じるのはおかしいでしょう?」

 そうまくしたてるロングビルに、オスマンは片手を挙げて宥める。オスマンは泰然としたもので、こちらが慌てているのが滑稽に思えてくる。

「まあまあ、落ち着いて、深呼吸でもしなさい」

 オスマンは、オホンと咳払いをしてから説明を始める。

「オホン。それは、サモン・サーヴァントの影響じゃろう。
 使い魔となった動物は、人間の言葉が喋られるようになる場合がある。聞いたことがあるじゃろう?
 そして、喋られるようになる動物は、犬猫などの、長い間、人間の傍にいたモノたちじゃ。
 で、あるからして、人間を呼び出した場合、言葉が通じるようになるのは自明の理じゃ」
「けれど彼女は、使い魔ではありません。そうおっしゃったのはオールド・オスマン、貴方でしょう!」
「落ち着きなさい。ワシはサモン・サーヴァントの影響だと言ったじゃろう? 使い魔になった影響とは言っとらん」
「……サモン・サーヴァントの? 一体どういう事です?」

 少し冷静さを取り戻したロングビルは、分からないといった顔で聞き返す。
 1つ溜息をついてから、オスマンは話し始める。目はいつになく真剣だ。

「使い魔が言葉を話せるようになるメカニズムは、契約時に精神構造と声帯部分が変化するためじゃ。
 そして、コントラクト・サーヴァントを行う事で声帯部分が変化している。どう言う事か分かるかね?」
「つまり、サモン・サーヴァントで呼び出された時点で、精神部分は変化している。と、いう事ですか?」
「そうじゃ。人間ならば声帯の変化は無用じゃからのう。精神部分が変化するだけで充分なのじゃ。
 ジュディちゃんは向こうの言葉で話しているつもりでも、口にする時点でそれは此方の言葉に翻訳されているのじゃろう」

 ロングビルは両手を眉間に当て、オスマンの言葉をかみ砕く。
 何しろ人間が呼び出された例がないので、オスマンの言葉の真偽を確かめる術がない。しかし、特に矛盾も見当たらず、ロングビルは頷くしかなかった。

「それが本当かどうかは別にして、あの子に読み書きを教えることはお引き受けします。
 しかし、本当に生徒にするつもりですか? 読み書きを教え終わる前に、帰る方法が見つかるかもしれませんよ?」
「別にいいじゃろうが。ここは学び舎じゃ、そしてワシらは教える立場なのじゃからな。
 それに、無駄になる知識など無い。それをどう活かすかは、本人次第じゃ。
 知識はいずれ、あの子の助けになっていく。きっとな」

 ロングビルの言葉にオスマンは、教育者の顔で諭す。
 初めて見るオスマンの真面目な顔に、ロングビルは眼を点にして驚く。
 真面目な顔をしていても、何処か飄々とした態度を消さなかった老人が、ここまで真剣な顔をしているのを見るのは初めてだ。
 腐っても教職に就くものか。と、ロングビルはオスマンに対する評価を改めねばと考える。
 そんな風に少し感動しているロングビルに、紙袋が手渡される。

「これは?」
「それをジュディちゃんに渡しておいてくれ。制服が入っておる」
「制服? あの子に合うサイズの物があったのですか?」
「いんや。ワシが夜なべをして裾直しをした。サイズは合っとるはずじゃ」

 オスマンが、さも当たり前のことのように言ってのける。
 その言葉に、何か不穏なものを感じて、ロングビルは固い声で問いかける。

「……どうやってサイズを知ったのです?」
「なに。ワシのうっふんスカウターにかかれば、お茶の子さいさいよ!
 自慢ではないが、的中率は8割を切っとる!」

 オスマンは、得意満面といった様子で親指を立てて良い笑顔を浮かべる。そこには先ほどの真剣さなど欠片もありはしない。
 それに対しロングビルは、沈痛な面持ちで懐から杖を取り出す。そして、明確な意思を込めてルーンを詠唱する。

「ん? 如何したんじゃ、ミス・ロングビル? なぜ杖を取り出すんじゃ?
 えっ、あっ、ちょっ、待って。無言で杖を振らんでくれい! 怖いから!」
「……少しでも見直した私が馬鹿でした。
 やはり、今日という今日は思い知って貰います!」

 怒り心頭といった表情で、ロングビルは杖を振りかぶる。そして詠唱が完成すると、杖の先には岩塊が出現した。
 杖を振り下ろすと、生まれ出た岩塊はオスマン目掛けてすっ飛んで行く。 
 ロングビルの暴挙にオスマンは、泡を食ったかのように逃げ惑う。何しろ人の頭ほどはある岩塊が飛んでくるのだ。中ればタダでは済まない。
 必死になって避けるオスマンだが、ロングビルの詠唱は徐々に速くなっていく。

「この! このっ! 避けるな、このクソジジイ! 大人しく引導を渡されな!」
「ひっ、ひぃぃー!」

 この騒動は、同じようにオスマンに呼ばれていたコルベールが、間に入るまで続いたのである。そのお陰で、オスマンは正座で説教にまで減刑さることになった。
 ロングビルの魔法は、学院長室を滅茶苦茶に破壊し、その後始末はオスマン本人がする羽目になった。ロングビル曰く、自業自得だそうだ。
 オスマンは、コルベールが時間通りに来てくれていたら、こんな事には成らなかった、と、後に語る。因みに、コルベールの遅刻の原因は、二日酔いであった。
 ロングビルは、如何して朝っぱらからこんな事になるのだろうと、憂鬱に感じながら空を見上げる。
 部屋の片づけをする2人を尻目に、今日もロクでもない1日に成るだろう、と、ボンヤリと思うのであった。



◆◇◆



 春の陽気が風を伝って窓から流れ込み、部屋には暖められた空気が満ちている。既に多くの者が起き出しており、女子寮は少しざわついている。
 気持の良い風にくすぐられて、ルイズは天蓋付きのベッドの中で爽やかに目を覚ました。

「オハヨウ、ルイズさん」

 眼をしょぼしょぼさせるルイズに声が掛かる。
 そちらを見やると、特徴的な紫のとんがり帽子が目に入った。

「んっ? ああ…… おはよう、ジュディ」

 いまだ焦点の定まらない眼を擦って、朝の挨拶をしてきたジュディを見つめる。
 やがて、ぼやけていた視界が定まってくると、目の前には、ジュディの帽子がひょこひょこと揺れている。そして、その紫のとんがり帽子の広いつばには、黄色くて黒い斑模様のある何かが鎮座している。
 顔を近づけてよく見ると、それは毒々しい色彩を持つルイズの天敵であった。

「カエルッ! な、な、な、なんでそんなのを部屋に連れ込むのよ!?」
「?」

 ルイズは、帽子を指差しながら一気にベッドの端まであとずさる。
 ジュディは、何のことか分からない顔をして、帽子を脱ぐ。

「あっ、カエルさんだ。いったいドコから来たの?」
「ジュ、ジュディ! お願いだからどっかやって!」
「しょうがないなぁ」

 両手で顔を隠しながら、ルイズはジュディにお願いをする。
 すると、ジュディは残念そうに、カエルを優しく両手に乗せて部屋から出ていき、直ぐに帰ってくる。もうその手には、カエルは居なくなっていた。

「ルイズさん。カエルさんは外に出したから、もうダイジョウブだよ」
「そ、そう、ありがと。
 で、でも、勘違いしないでね、驚いただけでカエルが苦手ってわけじゃないのだから」

 今更な言い訳であったが、ジュディは特に何も言わずに微笑む。
 ルイズは、プイと顔を背けてバツの悪い顔で話題を逸らす。

「じゃあ、着替えるから少し待っていて。そしたら、朝ごはんよ」
「はーい」

 カエルが居なくなったことで、人心地ついたルイズは着替えを始める。
 ベッドから起き上がり、フラフラと覚束ない足取りでクローゼットまで進む。
 クローゼットの引き出しから替えの下着を取り出し、手早くシルクのネグリジェとレースがふんだんにあしらわれた下穿きを脱ぎすてた。


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「さて、行きましょうか」
「はーい」

 着替えと身支度を終えたルイズが、そうジュディに呼びかける。
 ジュディは、腰掛けていた椅子からぱっと飛び降りると、とんがり帽子を被ってルイズに駆け寄った。

「忘れ物はないわね?」
「うん。戸締りもバッチリよ」
「それじゃ行きましょ」

 支度の確認をしてドアノブに手を掛ける。そして、深呼吸をしてから、ルイズは扉を開けた。すると、そこにはやはり、ポセイドンが鎮座していた。
 表情の判らなオレンジ色の3つの眼が2人を映す。思わずルイズは、目を逸らして呟いた。

「ううぅ…… 居ると分かっていてもこれは……」

 流石に心の準備が出来ていれば叫んだりはしないが、ポセイドンほどの大きさともなれば、ただそこに居るだけでもかなりのプレッシャーを感じる。カエル嫌いのルイズならば尚更だ。

「あっ、さっきのカエルさんだ。どうしたの?」
「えっ?」

 その声に振り向くと、ポセイドンの頭の上に先ほどの毒々しいカエルが、ちょこんと乗っていた。
 ジュディは、カエルを手のひらに乗せて話しかけている。ルイズとは違い、ジュディにとってカエルは可愛いものであるようだ。
 それを一歩引いた位置で眺めるルイズに、声が掛かる。

「おはよう、ヴァリエール」

 声を掛けてきたのは、見事な金髪の巻き毛とソバカスをもつ少女だった。
 学院制服に身を包み、マントは黒の物を纏っている。見事な金髪が透けるような白い肌に映え、ブルーの双眸は宝石のように澄んだ色をしている。
 背はルイズよりも10サントほど高く、スレンダーな体型をしている。

「おはよう、モンモランシー。珍しい事もあるものね、朝っぱらから貴女と出会うなんてね?」
「ええそうね。きっと今日は、始祖ブリミルは御休みしていらっしゃるのね。
 で、それがあなたの使い魔?」

 お互い挨拶と憎まれ口を交わしあう。
 モンモランシーと呼ばれた少女が、ポセイドンを指差す。

「そうよ」
「ふーん、なかなかやるじゃない。貴女、水属性なんじゃない?」
「なに? 羨ましいの?」

 ルイズは薄い胸を張って少し自慢げに問いかける。
 しかし、そんなルイズの態度を、モンモランシーは鼻で笑って一蹴する。

「まさか。羨ましくなんてなんてないわよ。
 わたしには、ロビンが居るからね」

 そう言って、モンモランシーは手の平を突き出す。すると、ジュディの手に乗っていたカエルが飛び上り、モンモランシーが差し出した手に着地した。
 モンモランシーは、手の平に乗せたカエルの背を指で掻いてやりながら微笑む。そして、ルイズの方に差し出す。

「紹介するわ。この子が、わたしの使い魔の『ロビン』よ」

 ロビンは挨拶をするかのように、喉を膨らませて鳴き声を上げる。
 何時ものルイズならば、眼前にカエルを突き出されたなら、腰が抜けるくらい怖がるのだが、ポセイドンを見たあとでは大して怖くないと感じる。

「あっそ。 随分毒々しい色をしてるけど、大丈夫なの?」
「毒なんか持ってないわよ、失礼ね」

 さも心外だというように、モンモランシーは憤慨する。そして、ロビンが来た方向、つまり、ジュディへと視線を投げかける。

「この子、昨日の?」
「ええ、そうよ。
 ジュディ、紹介するわ。彼女は『洪水』のモンモランシーよ」
「はじめまして、モンモランシーさん。わたしジュディです。
 ロビンもヨロシクね」

 ルイズの紹介を受けて、ジュディは行儀よくモンモランシーとロビンに挨拶をする。

「ええヨロシク、ジュディ」

 モンモランシーはジュディに挨拶を返した後、ルイズをキッと睨みつける。

「で、誰が『洪水』ですって? わたしは『香水』のモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。
 間違えても『洪水』ではないわ!」
「ふん。アンタなんか『洪水』で十分よ。知ってるんだからね、小さい頃に洪水みたいなオネショしたのを」
「キーッ! アンタなんて『ゼロ』じゃない。
 ゼロゼロゼロ! 『ゼロ』のルイズ!」

 ルイズとモンモランシーは、お互いに悪口の応酬を始める。
 喧々諤々と、放っておいたら何時までも罵り合っていそうな勢いだ。
 しかしそれは、扉が勢い良く開かれたことで一時中断となる。
 開かれた扉から姿を現したのは、キュルケであった。その後ろからは、フレイムが頭だけを部屋から出している。
 キュルケは、不機嫌を通り越した呆れ顔で2人を冷たく突き刺す。

「まったく…… 朝から騒々しいことね。喧嘩なら余所でやってもらえませんこと?
 折角の清々しい朝が台無しですわ。
 もう少し、お淑やかに成ってもよろしいんじゃありません?」
「オハヨウございます、ツェルプストーさん。フレイムもオハヨウ」
「うふふ。朝から元気ね、ジュディ。そんな堅い呼び方しなくても、キュルケでいいのよ」

 2人に対する態度とは打って変わって、元気よく挨拶するジュディには、にこやかに、それでいて色っぽく微笑む。
 喧嘩をしていた2人は、水を差されて不機嫌な目でキュルケを見やる。ルイズの眼は、余計なのが増えたと言わんばかりだ。
 キュルケは、その視線を物ともせずに嫣然と返す。その余裕ぶった態度がルイズの心を逆撫でするのだ。

「ふん! アンタに慎ましさが如何とか言われたくないわね」
「それは同感ね」

 ルイズの言葉にモンモランシーが同調する。
 それを見てキュルケは、からかいを含んだ声色でおどける。

「あらあら、カエルを召喚した者同士、仲が良いのね?」
「それは関係ないでしょ。行き成り出てきて何なのよ!」
「仲が良い? 悪い冗談だわ」

 また喧嘩を始めようとするルイズを、ジュディが窘める。

「ルイズさん、ケンカはダメだよ」
「う……むっ…… はぁ、わかったわ」

 ルイズは言葉を詰まらせてから、しょうがなさそうに頷く。
 ルイズからは先程の喧嘩腰な態度など、微塵もなく掻き消えていた。
 そんなルイズとジュディのやり取りを、キュルケはニヤニヤして見ているが、モンモランシーは顎が外れんばかりに驚き固まっている。よっぽど、目の前の光景が信じられないらしい。
 モンモランシーは、ぎこちなくキュルケに問いかける。

「ねえ、キュルケ。一体どうしちゃったのかしら? 信じられないわ、あのルイズが素直に言う事聞くなんて。
 わたし、まだ寝ているのかしら?」
「さあ? 何があったのかは知らないけど、お姉さんぶりたいんじゃない?」
「まさかっ! ルイズに限ってそんな筈ないと思うけど?
 それにしても、本当に始祖ブリミルは御休みのようね」
「なら『ゼロ』じゃなくなったから機嫌が良いんでしょ」
「ああ、なるほど。『ゼロ』は返上して、今は『ほぼゼロ』のルイズよねー」
「そこっ! 五月蠅いわよ!」

 顔を額がぶつかるほどに近づけて、ヒソヒソ話をしている2人をルイズが怒鳴りつけた。しかし、2人は意にも介さず話し続ける。
 ルイズとて、鬼ではないのだ。ジュディを召喚してしまった責は自分にあるし、昨夜の出来事を鑑みれば、なおさら強気にはなれない。しかし、そんな事は口が裂けてもいえないのがルイズである。
 イライラと、剣呑な目で2人を睨むルイズだが、ふいにマントの裾が引っ張られ、そちらへと振り向く。

「ねえねえ、ルイズさん」
「ん? 何、ジュディ?」

 振り向くと、ジュディが不思議そうな顔で見上げていた。そして無邪気な顔で聞いてくる。

「さっきから『香水』とか『ゼロ』って言ってるけど、なんなの?」
「えーと…… それはね、あだ名よ」
「あだ名?」

 そう言って、ジュディは首を小さく傾げる。ルイズにとってその顔は、悪魔の如きものに見えた。
 言いにくそうにしているルイズに代わって、モンモランシーが指を立てて説明する。

「メイジの特徴をあらわす二つ名の事よ。例えば、わたしは香水の調合が得意だから『香水』の二つ名を持っているわけよ。
 でも、こんなのメイジなら常識よ。貴女、いったい何処から来たの?」
「ちなみに、あたしは『微熱』よ。意味は…… ジュディには、少し早いわね。うふふ」
「じゃあルイズさんは、何が『ゼロ』なの?」
「えーと、あー… それは……」

 その質問に、ルイズは口ごもる。ジュディは悪気があって聞いた訳ではないし、負い目も感じていることもあり、怒鳴って誤魔化すという事も出来ない。
 意味のないうめき声をあげて、言い訳を考えるルイズに、ジュディが再び問いかける。

「ねえ、どうして? 『ゼロ』ってどういう意味?」
「あー、うー た、大したことじゃないから」
「なにそれ? どうせすぐに分かることなんだから、教えてあげたら?」
「そうそう。みんな知ってるんだから、教えて上げなさいよ」
「うるさい、うるさーい! もうこの話題は終わり。
 さっ、はやく食堂に行くわよ!」

 結局ルイズは、大声で怒鳴って話を無理矢理終わらせ、ズンズンと大股で廊下を進んでいく。
 その気迫に、廊下に居るものは端に寄り、ルイズの進んだ後に道ができていく。

「よかった。あれでこそ、何時ものルイズね」
「まあ、そう簡単に人は変わらないわよねぇ」

 モンモランシーとキュルケは、心底安心したという具合に、互いに手を取り合って頷きあう。

「ポセイドン、いくよ。まって、ルイズさん」

 ジュディはポセイドンを連れてルイズを早足で追いかる。その後を追って、モンモランシーとキュルケが歩いていく。
 学院は、朝の喧騒に包まれて活気に溢れている。
 窓からは、多くの生徒達がぞろぞろと、食堂を目指しているのが見える。そして、そこから空を見上げると、憎たらしいほどの青空が広がっている。
 ルイズは忌々しく太陽を睨みつけ、最低な1日の始まりを恨むのであった。



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次回予告


「チクショオオオオ! くらえワルキューレ! 失敗魔法!」
「さあ来いルイズゥゥ! オレは実は爆破されただけで死ぬぞぉぉ!」

 チュ☆ド―ン

「グワァァァァ!」
「ワルキューレAがやられたようだな……」
「ククク…… 奴はワルキューレの中でも最弱……」
「ゼロごときに負けるとはワルキューレの面汚しよ……」
「くらえええ!」

 ズギュ―――z___ン

「「「グワァァァ――!!」」」

「やった…… ついにワルキューレを倒したわ…… これでギーシュのいるヴェストリの広場に行ける!!」
「よく来たなゼロのルイズ…… 待っていたぞ」

 ギィィィィィイ

「こ、ここがヴェストリの広場だったの……! 感じる…… ギーシュの魔力を……」
「ルイズよ…… 戦う前に一つ言っておくことがある。お前は僕を倒すのに『ガンダールヴ』が必要だと思っているようだが…… 別に居なくても倒せる」
「な、 何ですって!?」
「そして、彼女たちにはすでに謝っておいた。あとは僕を倒すだけだなクックック……」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

「フ…… 上等だ…… 私も一つ言っておくことがある。この私に召喚した使い魔がいるような気がしていたけど、別にそんなことはなかったわ!」
「そうか」
「ウォォォ、いくぞぉぉぉ!」
「さあ来いルイズ!」

 ルイズの魔法が世界を救うと信じて……!



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今回の成長。
 ルイズは、おしゃれL2のスキルパネルを手に入れました。
 ジュディは、建造物の知識L2のスキルパネルを手に入れました。


 第4話 -了-



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