あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔はメイド-05


 雑多な、という言葉がしっくりくる街を二人の少女は歩いていた。
 マントをつけた貴族の少女と、質素な服を着た平民の少女。
 ルイズとシャーリー。
 慣れない道のせいか、それとも先ほどまでずっと馬に揺られていたためか、シャーリーの足はふらふらとしている。
 「ほら、はぐれないようにして。スリが多いんだから気をつけて」
 ルイズはシャーリーの手を引っ張りながら、人ごみをかきわけるように進んでいく。
 その様子は、初めてのお使いに四苦八苦する小さな姉妹のように見えなくもなかった。
 これが二人とも貴族か、平民であればさほど珍しいものではなかった。
 しかし、貴族と平民の、それもあまり垢抜けているとはいえない少女が妙に仲良く歩いている様子はけっこう目立った。
 「あれは衛兵の詰め所ね。で、あっちの看板は床屋。それと、こっちは酒場。あんまり近づかないほうがいいわね――」
 ルイズは並ぶ店を解説しながら、シャーリーを引っ張る。
 「は、はいっ」
 シャーリーも必死でついてこようとするが、やはり三時間の乗馬はかなりきつかったようだ。
 ふらふらして、何度も蹴躓きそうになっていた。
 見ていて、実に頼りない。
 学院内で一生懸命に働く姿からは想像もできないものだった。
 (やっぱり無理があったのかしら……)
 ふらつくシャーリーに、ルイズはちょっとばかり後悔してきた。
 よく考えれば、【いぎりす】とかいう名前さえ知られていない辺境の地からやってきたのだ。
 どんなに元気良く見えても、環境の違いから、肉体的にも精神的にも見えない疲労がたまっているのかもしれない。
 (やっぱり、ダメもとでもイザベラに頼んだほうが……。今さら言ってもしょうがないけど)
 あのワイバーンの翼なら、馬で三時間の距離もあっという間だったろうに。
 とにかく、シャーリーを休ませよう。
 そう思って、ルイズは適当なところはないかと辺りを見た。
 その後で、
 「ああっ!?」
 思わず声を張り上げた。
 シャーリーが、いない。
 ほんの少し目を離した隙に、はぐれてしまったのだ。
 ルイズは大慌てで、歩いてきた道を逆行し始めた。


 「しかし、いつきても、せまっ苦しいとこだぁね」
 ブルドンネ街の往来で、イザベラは呆れ顔で言った。
 「狭いし、汚いし、大したもん売ってないしさ」
 地元の人間に喧嘩を売るようなことを、堂々と言ってのける。
 貴族相手に喧嘩を売る人間はそういないが。
 「そりゃトリステインだもの。あんたのいたリュティスなんかとは違うわよ」
 横に立つキュルケがとりなすように言った。
 蒼い髪と赤い髪の美しいメイジ二人。
 同じ長い髪ながら、それぞれ剛と柔の対照的な雰囲気の少女たちは実によく目立った。
 「で、街まで繰り出してちびっこ二人のストーキングか。情けない話だよ? 肝心の相手はどこにいるんだかわからないしさ」
 イザベラは自嘲気味に言って、自分の広い額を軽く叩いた。
 「駅に馬がとめてあったから、ここにいるのは間違いないんだけど」
 「どうかねえ? ヤクザもんにでも捕まってイタズラでもされてんじゃないのかい」
 「不吉なことを言うわね……」
 キュルケは毒舌を吐くイザベラに肩をすくめた。
 「そんなことになってれば、すぐにもわかるけどね。ぼっかーんって」
 と、キュルケは自分の拳を開いてみせた。
 その途端、自慢のバストが揺れた。
 「モードに匂いでも追わせれば手っ取り早いんだけど、こんなところじゃそうもいかないんだよねえ」
 「あなたのモードは素敵だけど、街中じゃインパクトありすぎるわ」
 キュルケは肩をすくめ、うふふと笑った。
 「ああ。へたすりゃ衛兵にとっつかまる」
 イザベラも肩をすくめた。
 「しかしさ、なんであんな小娘に興味持つんだい」
 「そうねえ。あの子、なんかあると思わない? 学園の使い魔、というか、動物たちに妙に懐かれてて」
 「ふふん」
 「私のフレイムや、それにあなたのモードも。普通の動物ならまだしも、使い魔になった幻獣までってのは、変じゃないかしら」
 「そりゃあそうだが……」
 「あなただって、人間の使い魔ってことで興味わいたんでしょう?」
 そう言われると、イザベラは嫌な顔をした。
 発言をしたキュルケに対してではなく、何事か、嫌なものを思い出したという表情であった。
 「どうしたの? 変な顔して」
 「別に。ちょっと、苦手な相手のことを思い出しちまっただけさ」
 「へええ。怖いもの無しで傍若無人のあなたでも、そんな人がいるのね」
 「なんだい、それじゃ私が手のつけられない悪たれみたいじゃないか」
 「悪たれってのは、あってるわよね」
 キュルケは愉快そうに笑う。
 「魔法学院で銃の試し撃ちして停学食らったのはあなたが初めてじゃない?」
 「ぬかしな。学院中で色男どもを食いまくって、学院中の女から総スカンを食った色ボケに言われたかあないね」
 即座にイザベラは言い返した。
 両者の言っていること、共に嘘偽りのない真実だけに始末が悪い。
 イザベラとキュルケはしばらく睨み合った後、急に大声で笑い出した。
 「はっはは。お互い、偉そうなことは言えないか」
 「言えてるわ」
 「まあ、そんなことはいいさ。それよりも、ゼロのルイズとメイドを探さなきゃならないね」
 と、イザベラは何かを取り出す。
 それは拳ほどの羅針盤のようなものだが、針にあたる部分が犬の形をしていた。
 「それって人探しのマジックアイテム?」
 「いーや? 獣が多くいるところを探すためのもんさ。本来は狩猟の時に使うんだがね」
 「こんな街中で?」
 「あのメイド、いっつも獣がそばにいたろ? だったら獣の多くいる場所を探せば、いるかもしれない」
 「へえ。でも、よくそんなの用意できたわね」
 キュルケは感心したように笑った。
 「たまたまだ。いざって時に金にするために、いつも二、三個持ってるのさ」
 イザベラは冗談のようなことを、真顔で言った。
 しかし、イザベラの手にしている羅針盤、作りは地味だが、かなりの値打ちもののようだった。
 いくら貴族でも、そうほいほい買ったり売ったりできる代物とは思えない。
 キュルケは眼を細めた。
 このイザベラという少女と友人になって一年になるが、未だよくわからないところが多い。
 ガリアの出身であるということ以外、詳しいことは誰も知らないのだ。
 イザベラ・ド・モリエールという名も、どうも偽名らしい。
 高価なマジックアイテムを何気なく、しかし数多く持っていることから、かなり裕福な家柄の出身のようだ。
 本人が何も言わないので、キュルケもしつこく問いただしたことはないが。
 イザベラはサボりまくっている割に成績は優秀で、十番より下に下がったことはない。
 優秀というよりは、勉強の仕方が効率的なのかもしれなかった。
 ただ魔法実技に関しては凡庸で、風のラインクラス。
 二つ名は、『木枯らし』。
 口さがないものは、限りなくドットに近いラインと言ったりもしたが。
 もっとも本人はあまり魔法に大きな価値を抱いてはいないようだった。
 「ヘタな魔法よりも手っ取り早い」
 と、銃を扱うことを好んだ。
 金にあかせてゲルマニアの職人に改造させた銃をいくつも持っている。
 こういったところが、性格も含めて学院で鼻つまみ者になっている要因なのだ。
 その中には、キュルケが仲介したものの数多い。
 「さてと、こいつでうまく見つかればお慰み……」
 イザベラが羅針盤を起動させると、すぐに犬の形を模した針が激しく動き出し、ある方向を指し示した。
 「さっそくきたかい。じゃ、いってみるかね」
 イザベラは軽い口調で言って、羅針盤を持ったまま走り出す。
 「ああ、ちょっと待ってよ」
 キュルケもそれに続いた。


 シャーリーは、街角に一人ぽつねんと立っていた。
 というか、途方にくれていた。
 人ごみに流されてしまったと思ったら、いつの間にか主人のルイズとはぐれてしまっている。
 闇雲に歩き回るより、じっとしているほうがいいかとその場に留まっていたが――
 ものすごく心細かった。
 何しろ生まれて初めて足を踏み入れた場所であり、ろくに方角の見当さえつかない。
 学院の中はまだ良かった。
 主人のルイズもよくしてくれたし、メイドの仲間もいた。人懐っこい動物のおかげでほっとできた。
 しかし、こんな場所へ一人で放り出されると、どうにもたまらなかった。
 他の人間がみんな得体の知れない生き物に見えて、不安で仕方がない。
 そのへんをうろついている猫や犬のほうがまだ、心を許せる気がした。
 (え? 猫? 犬?)
 シャーリーは、はたと気づいた。
 いつやってきたのか、すぐそばに一匹の犬がシャーリーを見上げている。
 ちぎれんばかりに尻尾を振りながら。
 向かいに見える建物の屋根には、猫が三匹ほどたむろして、シャーリーを見ていた。
 (……どこかの、飼い犬かな? でも、首輪してないし……)
 考えながら頭を撫でてやると、犬はいかにも嬉しそうに目を閉じ、されるがままだった。
 それを見ていると、不安でたまらなかった心が、急に軽くなった気がした。
 (この子が、ルイズ様を見つけてくれたりしないかな?)
 ふと、そんな都合のいいことを考えてしまった。
 すると犬は急にシャーリーから離れた。
 (え? どうしたの?)
 犬は一度シャーリーを振り向いてから、どこかに行ってしまう。
 「……」
 シャーリーはため息をついて、うつむく。
 やはり、じっとしていてもしょうがない。
 (出入り口のほうに行けば、見つかるかもしれない)
 そう思い、歩き出そうかとシャーリーは顔を上げた。
 (……っ)
 顔を上げて、シャーリーは青くなった。
 自分の周辺を見るからに人相のよくない連中が数人、たむろしているのだ。
 これは、まずい。
 あわてて逃げ出そうとするが、そこを大きな体の男がさえぎってしまう。
 方向を変えて逃げようとしても、別の相手に邪魔をされる。
 とても、よろしくない状況だった。
 「あの……と、通してください」
 必死で言うが、男たちはニヤニヤするばかりで答えようとしない。
 いや口々に何事か言っているが、シャーリーはそれを半分も理解できなかった。
 しかしながら。
 男たちが、どういう目的で自分に絡んできているのかは、初心な少女にもおぼろげながら察することが出来た。
 混乱して向こうの顔もよくわからない。 
 全員がのっぺらぼうのようで、そのくせ不気味な笑みがへばりついて見えた。
 恐怖で、頭が真っ白になりそうだった。
 おもむろに、一人がシャーリーの腕をつかんだ。
 遠慮のない力で締め上げられ、
 「痛い!」
 シャーリーはたまらず悲鳴を上げた。
 ところが、その途端。
 「ぎゃああ!!」
 シャーリーのそれをあっさりかき消すような、ものすごい悲鳴が走った。
 ぱっと、男の手が放されていた。
 シャーリーが驚いて目を開けると、腕をつかんだ男が地面に引き倒されてわけのわからない悲鳴を上げていた。
 その足には、大きな赤犬が噛みついている。
 男たちがどうしたことかあわてるばかりで、仲間を助けることもできない。
 ようやく一人がナイフを取り出した。
 しかし、そこへ何か黒いものが飛んできた。
 それはナイフを持った男の顔や腕に襲いかかる。
 何かと思えば、それは数匹のカラスだった。
 カラスの大きな嘴でつつきまわされ、男の手からナイフが落ちる。
 別の男には、大きなネズミが耳や鼻に引っ付き、噛み付いていた。
 ネズミの歯の力というやつは恐ろしい。
 堅い木や胡桃を容易くかじってしまうのだから、人間のやわな鼻だの耳なんかひとたまりもない。
 襲われていない男たちは、周辺を見回して子供みたいな悲鳴を発した。
 周辺は、猫や犬、そればかりか鳥やネズミにぐるりと取り囲まれていた。
 一体どこから集まってきたのか。
 禽獣たちの目は殺気に満ち、今にも襲い掛かってくる勢いだった。
 刃物を振り回して威嚇したって無駄だろう。
 男たちはひぃひぃと、泣いているのか笑っているのかわからない声をあげながら逃げ出していった。
 「…………」
 シャーリーはあまりにも突拍子のない事態に茫然自失となっていた。
 どうやら助かったらしいが、あの動物たちは一体。
 と、聞き覚えのある声が耳に響いた。
 「ちょっと、はなしなさいよ、このバカ犬!!」
 「あ」
 見ると、さっきの犬が少女の裾をぐいぐいと引っ張っている。
 桃色がかった金髪。
 それはまさしく、
 「ルイズ様」
 「へ? あ、シャーリー!?」
 ルイズはシャーリーに気づくと、目を丸くした。
 途端に、犬はくわえていた裾をパッとはなす。
 「どこにいってたの、心配したのよ!」
 ルイズは叫びながらシャーリーに駆け寄った。
 「申し訳ございません……。とんだお手間を……」
 シャーリーは身を縮こまらせて頭を下げる。
 「手間はともかく、このへんは物騒なんだから……。あなたみたいな女の子が一人でウロウロしたら危ないんだから!」
 ルイズにしたって、シャーリーと比べて安全というわけでもないのだが、そこはそれ。
 「ホントに! 何かあったらどうしようかと…。心配したんだからね!?」
 両手を腰に当て、いかにも年長者という態度でシャーリーを叱る。
 「すみませんでした……」
 シャーリーはすっかり小さくなり、謝罪を繰り返すばかりだった。
 「――まあ、無事だったなら、いいんだけど」
 小さくなるシャーリーに、
 (ちょっと、言い過ぎたかしら? でも、でも危ないのはホントだし……)
 内心色々考えながら、わざとらしく咳払いをした。
 「ごほん! とにかく、いきましょ!」
 と、ルイズはシャーリーの手を取った。
 「……ところで、この犬なに? なんかこいつに引っ張られてここにきちゃったんだけど」
 自分を連れてきた犬を見て、ルイズは不思議そうに言う。
 「さあ……」
 と、シャーリーは首をかしげた。
 ルイズを見つけてきてほしい……。
 ぼんやりと心の中で思いはしたが――
 (……でも、まさかねえ?)
 犬を見ると、パタパタと尻尾を振っていた。
 「…………ありがとう」
 シャーリーは小さく、お礼を言った。
 「え? 何か言った?」
 ルイズが振り返った。
 「いえ、なんでもありません」
 シャーリーはあわてて首を振る。
 「? そお?」
 ルイズは訝しげな顔をしたが、シャーリーの手を握って歩き出した。
 二人の少女は連れ立って歩き出す。
 自分たちを見ている、二つの視線に気づくことなく。


 「なんだ、ありゃ……?」
 イザベラは呆れたような声でつぶやいた。
 羅針盤を頼りに進んでみれば、推測通りシャーリーは見つかった。
 街のチンピラに囲まれて、実に助けがいのある状況にあったが。
 キュルケがすぐさま杖を振ろうとした途端に、チンピラたちはわらわら集まってきた獣の群れに襲われた。
 足をやられたり、顔をかじられた者もいたが、よくまあ、あの程度ですんだものだ。
 「まるで、お姫様を傷つけられた近衛騎士団みたいね……」
 キュルケは身を震わせ、しかし、笑みを浮かべて言った。
 「そういう例えはやめな。好きじゃない」
 イザベラの瞳に、かすかだが殺気が宿る。
 「そうだったわね」
 キュルケは微笑し、ごめん、と言った。
 イザベラはふんと鼻で息をした後、
 「時に、気づいたかい?」
 「なにが?」
 「さっき。あのメイドの右手がチラチラ光ってたのに」
 「……よく見えたわね?」
 「眼はいいんだよ」
 イザベラは自分の瞳をさして、唇の端を吊り上げた。
 「健康優良児だもんね」
 「まーね」
 イザベラはケケケ、と笑う。
 「いずれにしろ、あのメイドが妙ちくりんな力を持ってるのは確からしい」
 「そうねえ……。さすがはゼロのルイズ、とんでもないレアもの引き当てたじゃない」
 キュルケは嬉しそうに指で唇を撫でた。
 ライバルとは、強大であればあるほど燃えるもの。
 「引き当てるねえ? だけど――使い魔なんてもんは、てめえの実力以上のものは呼び出せないんじゃないかい?」
 「それもそうねえ。すると、あの子とんでもない大物になるのかも?」
 「とんでもねーバカか、とんでもねー厄介者かも知らないよ?」
 イザベラのつぶやきには、ひどい実感がこめられていた。
 (しかし――こりゃ、マジモンだわ……。まさかとは思ってたけど、あのヴァリエールが親父と同類だったとはね……)


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