あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエンジェル-03


(ね、眠れないわ…)

ごろごろ、ごろごろ。
自室のベッドの上、ネグリジェ姿のルイズは眠れぬ夜を過ごしていた。
既に時間は夜半過ぎ。
このまま寝付けなければ明日の授業で睡眠不足は間違いのないところだろう。
だが、彼女は眠ることができなかった。
それは自分の部屋にいるもう一人の人間? が原因だった。
かささっ。

「ひっ!」

ビクゥ!
藁同士がこすれあう微かな物音。
それを耳にしたルイズはバネ仕掛けの人形のように全身をビクつかせつつ恐る恐る『そこ』を見ようと視線をめぐらせる。
が、すぐさまその視線は元の位置に戻る。
既にルイズのこの奇怪な行動はベッドに入ってから十回を超えようとしていた。
だが、それでも彼女はそれを止めようとはしない。
何故なら、そこに彼が―――今日、自分の使い魔になった男がいるのだから。

キタノ・セイイチロウ。
そう名乗った彼はコルベールに杖を返した後、意外にも礼儀正しい態度を自分たちにとっていた。
恐々と尋ねたこちらの質問にも嫌な顔一つすることなく、きちんと返答してくれた。
この点だけ見ればなんとできた使い魔だろうか、と思えただろう。
しかしルイズは元より、近くで会話を聞いていたコルベールたちもそうは思わなかった。
むしろ、丁寧な応対だからこそよりいっそうの恐怖を感じたといえる。
何せつい数秒前まで、かの者は自分たちに襲いかかろうとしていたのだ。
それだけではない、彼はその際にコルベールの放った火の魔法を真っ二つに切り裂いたのだ。
しかも魔法を一切使わずに!
コルベールの杖が奪われた時、正直殺されると思ったのは自分だけではなかっただろう。
だが、彼は自分たちを殺さなかった。
否、正確には殺す価値を見定めていたのだ。
その証拠として彼は現状を把握するための情報の提示を求めた。
なんと狡猾だろうか。
やろうと思えば場の人間を皆殺しにできたであろうはずなのに、それをせずに情報を引き出すことを優先にした。
それはとりもなおさず、二つの事実が浮かび上がる。
一つは、彼は自分たちなどいつでも余裕で殺すことができるということ。
これはメイジの生命線ともいえる杖をあっさり返してきたことから容易に窺えることだ。
そしてもう一つ。
それは、キタノ・セイイチロウがこの世界、すなわちハルケギニアに興味を持っているということ。
こちらは彼の魂胆によってはとんでもない事態になりかねない。
彼がどれくらいの力を持ち、どのような能力を擁しているかはわからないが
気がつけばトリステインは悪魔に支配されていました、などということになりかねないのだ。

(な、なんて奴を呼び出しちゃったの、私…)

ガタガタ、とベッドの中央でルイズは震える。
メイジの実力をはかるには使い魔を見よ、という言葉がある。
トライアングルメイジであるコルベールを一蹴したキタノ・セイイチロウの実力ははっきりいって底知れない。
格言に従えば自分はとてつもない力を持ったメイジであることの証明となる。
だが、その嬉しさは現状においては本来の十分の一にも満たなかった。
何せ当の使い魔は凶悪な風体の悪魔だったのだから。

(あああ、きちんと面倒を見ますなんて啖呵切るんじゃなかったかも……で、でも私の言葉にはちゃんと従ってたし…)

召喚を行った広場から自室に帰るまで彼は大人しいものだった。
最初に発したような奇声もあげず、自分たちに襲い掛かるそぶりも見せなかった。
あえて奇妙なところをあげるとすれば周囲をやたらキョロキョロと物珍しそうに眺めていたことくらいか。
だがそれにしたところでこれから自分が支配するであろう世界を観察していただけかもしれない。
そもそも、大人しいということ自体がルイズには恐ろしいことこの上なかった。
幼い頃読んだ物語で出てくる悪魔も、粗暴ですぐに暴れる者よりも、一見大人しげで丁寧な物腰の者の方が危険度が高いというパターンが多い。
腹の底で何を考えているかわからない悪魔がすぐ傍にいる。
そんな恐怖を抱える羽目になったルイズにとって、唯一の救いはコントラクト・サーヴァントの成功という事実だった。
この魔法が成功している以上、自分さえしっかりしていれば悪魔が暴れる心配はない。
決して、眠りについているご主人様を頭からガブリと食べようとしたり、首から生き血を啜ろうとしたりはしないはずなのだ…多分!

(そうよ、主人である私がしっかりしないでどうするの! 私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 由緒あるヴァリエール家の三女! たかだか悪魔の一匹? 一人? 一体? にオドオドなんでできないわ!)

ちなみにこの時点でルイズは北野君のことを悪魔だと信じて疑っていなかった。
いちいち「あなた悪魔?」などと聞くはずもなかったし、北野君にしてもわざわざ「ぼく人間です」などという必要性はなかったのだから。
勿論北野君とて自分の素性をいくらか話してはいたのだが、ルイズには聞きなれない単語は悪魔世界の単語にしか聞こえていなかった。
とにもかくにもルイズはいつまでも使い魔風情にビビッていられるかとばかりにグッと拳を握り締める。
だがその視線は未だ明後日の方向を見つめていた。
決意しようが怖いものは怖い。
もしも視線を向けてその先にこちらを舌なめずりして見ている悪魔の姿があったらと思うとどうしても身体が動いてくれないのだ。

しかし迷うこと数十秒、ついにルイズの勇気が恐怖を上回った。
そろそろと後ろを振り返る。
と、その時。

「き……せ……す」
(っきゃああああぁっ!?)

耳に入ってきた声にルイズの総身が比喩抜きでベッドの上に浮いた。
勿論フライなど使ってはいないしそもそも彼女にはフライの成功経験はない。
純粋に驚愕で文字通り飛び上がってしまったのである。

(な、ななななななによなによなによ!?)

なんというタイミングで声を出すのだろうか。
もしや寝ているのはフェイクで実はこちらをずっと監視していたのか?
だとすれば迂闊には動けない。
辛うじて声は抑えたものの、次も同じように耐えられるとは限らない。
そうなればこちらが起きていたことがばれる。

(お、落ち着くのよルイズ……ただの寝言かもしれないじゃない。そうよ、ここで怖気づいてはダメ)

己の使い魔に背を向けたままルイズは熟考する。
起きて警戒していたのがバレたら相手は気を悪くするかもしれない。
下手をすれば突如豹変して襲い掛かってくることもありえる。
ここはとにかく様子を探ることが肝心だ。
ルイズは耳をすませて背後の様子に気を配る。
すると―――

「みな……こ…………ろし……す」
(み、みみみみみみ皆殺しーっ!?)

ルイズは聞こえてきた声の内容に身体を硬直させた。
皆殺し、確かに今あの悪魔はそういった。
なんということだろう、ただ警戒していたというだけで自分はおろか関係のない他の人間まで殺そうというのか。
今更ながら自分が召喚してしまったもののとんでもなさに絶望を抱くルイズ。

(こ、こうなったらいざとなれば私が止めるしかないわ! それが私の責任だもの!)

背後の悪魔がいつ動き出しても大丈夫なようにこっそりと杖を手に取りギュッと握り締める。
かくして、誰も知ることのない少女の孤独な戦いが始まるのであった。
「け、結局眠れなかった…」

チチチ…と外から小鳥のさえずる音が聞こえる。
血走った両目を瞬かせながらルイズは身を起こした。
彼女は結局徹夜で見張りならぬ耳張りを行い、一睡もできなかったのである。

「とにかく…トリステインの平和は保たれたわ! 私はやったのよ!」

両の拳を天に突き上げてルイズは達成感に酔う。
大げさにも程があるし、そもそも保たれたといっても一夜だけの話である。
だが、寝不足で気分がハイになっている少女にとっては自身の為した成果は偉業であった。
ルイズはそのまま上気した気分で己の使い魔が寝ているであろう場所へと近づいていく。
太陽が顔を出しているからか、はたまた意味不明の自信のおかげか、昨夜の恐怖はまるでなかったかのように少女は悪魔の下半身を見下ろした。

「頭隠して尻隠さず……ふふ、この私の気迫に恐れをなしたのかしら」

使い魔は藁の上で寝ていたが、寝相が悪いのか首から上は藁の中に埋まっていた。
しかしそれはルイズにとってはプラス材料でしかない。
何せ一番の恐怖である顔が見えないのだ。
ハイなテンションと相まって気も大きくなろうというものだった。

「それにしても、こうしてご主人様がすぐ近くにいるってのに何の反応もしないっていうのはどういうこと?」

藁の中からはすーすーと意外にも静かな寝息が聞こえてくる。
それを聞いたルイズはふつふつと自分の小さな胸の中に怒りがわいてくるのを感じた。
この使い魔は人が一晩中警戒していたというのに、何時の間にか眠りについていたのだ!
ご主人様を舐めるにも程がある!

「ふふふ…これはお、おおお仕置きが必要よね」

最早今のルイズの思考には報復される可能性など欠片もない。
あるのはただ、不届きな己の使い魔を罰するという熱い欲望だけだった。
ヒュンッ!
手に持った鞭を素振りする。
これから自分はこの鞭をこの悪魔に振り下ろすのだ。
ああ、なんとワクワクすることだろう!

「さあ、起きなさい―――!」

空を切り裂く音と共に、ルイズの手が振るわれた。
だがその瞬間。
今までピクリとも動かなかった北野君の身体が跳ね起きる!

「えっ!?」
「きえっ!?」

ザシュッ!
鞭が北野君の首から上を覆っていた藁を切り裂き、削り飛ばす。
パラパラ、と藁が舞い散る中、ルイズは驚愕に眼を見開いた。
藁の向こう側から微かに覗く鋭い視線が自分を捉えている。
ついさっきまで確かに寝ていたはずなのに。
まさか、こちらの殺気に反応したというのか!?
先程までの強気はどこへやら、あっという間に正気を取り戻させられたルイズは途端に顔を引きつらせる。

(だ、大丈夫。私はご主人様なんだから。これくらいで怒ったりはしないわよ……ねぇぇぇっ!?)

カクン、とその瞬間ルイズの腰が抜けた。
彼女は見た、見てしまった。
己の使い魔の、悪魔の髪が。
その全てが天を衝かんばかりに強烈に突き立っている光景を!

(め、滅茶苦茶怒ってるーっ!?)

怒髪天を衝く。
文字通りの光景にルイズの膀胱が緩んだ。
ぶっちゃけていうと、少し漏らした。
だが、今の彼女にそれを気にする余裕はなかった。
目の前には本性を露わにして怒り狂った悪魔がいる。
自分はこれからどうなるのか、殺されるのか、食べられるのか。
逃げ出してしまいたいが、腰が抜けて動けない。
北野君はゆっくりと両手を目に持っていくと、自ら瞳を覆う。
一体何をしようとしているのか―――まさか、変身!? 魔眼!? 食事の儀式!?

(あわわわ…)

恐怖に震えるルイズ。
しかし北野君は一顧だにすることなくゆっくりと手を目から離していく。
それが限界だった。
ルイズは遠のく意識を他人事のように感じながら、ふっと意識を手放すのだった。

「ふあああ……よく寝た。あれ、ルイズちゃん?」


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