あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのぽややん 3

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 アオは、窓から顔を出して、空を見ていた。
 日が昇り空が白みだしてくる。鳥のさえずりが耳に心地よい。
 世界は変われど、夜明けは変わらず、か。
 それが嬉しくて、少し笑った。

 自分をこの世界に呼び込んだルイズという少女は、ベッドでだらしない格好で寝ている。
 大口開けて、毛布を蹴り飛ばしている姿はヒロインとしてはどうだろう。
「ほらほら、風邪をひくよ」
 姿勢を整えてやり、毛布をかけ直す。
「……ん~ちいねえさま、もっと~…むにゃ」
 幸せそうな顔で寝言を言っているが、起きる気配は無い。朝早いせいもあるが、夜更けまで転がっていた彼女の眠りは深かった。
「……ああ、姉様そんなにほほをつねらないで…んにゃ…」
 かと思ったら、ひきつけを起こしたように身悶える。悪夢でも見ているのだろうか。
 ルイズの百面相を眺めているのもおもしろかったが、そろそろ仕事を始めようとアオは思った。
 とりあえず洗濯からだったが、一つ問題があった。
 水場がわからない。
 当然といえば当然の事だったが、さてどうしたものかと考える。
 何気なく窓の下に目を向けると、洗濯物を詰め込んだかごを持った人物が目に留まった。
 写真とかでしか見たことはなかったが、あれはたしかメイドといった者ではなかったか。
「ちょうどいいや。あの人に聞いてみよう」
 洗濯物を手に取ると、三階の窓から軽やかに飛び降りる。
「きゃあ!」
 いきなり、目の前に人が降ってきたのだ。当のメイドにしたら、災難と言うほかない。
 かごを取り落として、そのままバランスを崩して尻餅をつきそうになる
 だが、それよりも早く右手をつかまれ、引き寄せられる。彼女は図らずもアオの胸にほほをよせることになった。

 !?!?!?!?!?

 頭の中が真っ白になる。状況の変化に思考が追いつかない。
 恐る恐る見上げると、見知らぬ男の顔が目と鼻の先にある。
 その笑顔と青い瞳に、思わずくらっとくる。
 ……これは夢? 夢なの?
 ならば楽しまなければ勿体ない。
 彼女はゆっくりと目を閉じると、唇を近づける。
「大丈夫?」
 その一言で、夢は覚めた。

「そ、それでは、あ、あなたがミス・ヴァリエールの使い魔になられたという……」
「知ってるの?」
 散乱した洗濯物を一緒に拾いながら、アオが意外そうな顔をする。
「ええ、なんでも召喚の魔法で平民を呼んでしまったて、噂になってますわ」
「そうなんだ。そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名はアオ」
「変わったお名前ですね……。私はシエスタっていいます。貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているんです」
「ああ、やっぱりそうなんだ。っと、これで全部かな。はい、驚かせちゃってごめんね」
 アオは謝りながら、拾った洗濯物をシエスタに手渡した。
「い、いえ、そんな。で、でもアオさん、なんで上から降ってきたんですか?」
「僕も洗濯しようとしてたんだけど、場所がわからなくて困ってたんだ」
「はあ」
「そうしたらあそこから、君の姿が見えたから」
 ルイズの部屋の窓を指差し、当たり前だろうという顔で言うアオ。
 この人物、思えばかならず最速で動いて、何が何でもどんな困難も叩き潰して実行する、そういう存在だった。
「ええっと、じゃあ案内しますね」
 シエスタは深く考えるのをやめ、歩き出した。
 このとき彼女は、ある中年の女教師から預かった洗濯物を一つ回収し忘れるのだが、それはまた別のお話である。

「うわぁ」
 シエスタは目の前に広がる干された洗濯物たちに、感嘆の声を上げた。
 アオがお詫びにと、こちらの洗濯物までまとめてやってくれたのたが、そのスピード、手際たるや、メイドである自分が比較にもならなかった。いつもの半分以下の時間で、洗濯が終わってしまったのだ。
「すごい! すごいですアオさん!!」
「そ、そうかな、はは」
 シエスタの尊敬の眼差しに、照れるアオ。
「でもどうしましょう。こんなにしてもらったら何か御礼をしないといけないわ」
「いいよそんなの……そうだ厨房を貸してもらえないかな」
「厨房を、ですか? わりました、私からマルトーさんに頼んでみます」
「ありがとう」
 アオは、にっこり笑ってみせた。シエスタの心臓が高鳴る。呼吸がとまる。
「どうしたの?」
「え、ええと、わ私、先に行ってますから!」
 シエスタは両手をばたばたさせた後、顔を引き締めて駆け出していった。
 ちょっと困ったような顔で、残されたアオの一言。
「……僕、厨房の場所知らないんだけど」

「朝ですよ、起きてください」
 日も高くなり、まばゆい光が部屋の中に差し込んできている。
 アオは、ルイズを起こそうと体を揺するのだが。
「ん~、あと五分」
 なんでこういう場合、必ず五分なんだろう。
 アオはそう思いながら、とりあえず毛布をはぐことにした。
「な、なによ! なにごと!」
「おはよう、ルイズ様」
「はえ?」
 ルイズは寝ぼけた声でアオを見た。
「……?? ……? ……! ……!!」
 徐々にふにゃふにゃだった表情が赤く染まる。覚醒と同時に、昨夜の事を思い出したのだった。
 ルイズは、顔を隠そうとしてベットから落ちると、一人で壁際に追いつめられた。
 首をかしげるアオ。
「い、いつからそこにいたぁ!」
 アオはさらに首をかしげると、まあいいかと思って、服を手渡した。
「昨日からだよ、寝ぼけちゃってるのかな?」
「そそそそソンなことないもん」
 冷静になれ、冷静になるのよわたし。
 服を受け取り、ネグリジェを脱ごうとして、ルイズの動きが止まる。
「あっち向いてて!」
「いいの?」
「いいの!」

「おはよう。ルイズ」
 なにやら憔悴した様な表情のルイズと部屋を出ると、声をかけられた。
「おはよう。キュルケ」
 ルイズは顔をしかめ、いやそうな声で挨拶を返した。
「おはようございます」
 アオも笑顔で挨拶する。
「あら、おはよう……へえ、あんたの使い魔ってほんとに人間なのね。平民を呼んじゃうなんて、さっすがゼロのルイズ」
「うるさいわね。あんたには関係ないでしょ」
 赤い髪の女の子、キュルケは、ルイズの言葉を半ば聞き流し、値踏みするようにアオを見た。
「良かったじゃない、なかなかの色男で。これでブサイクだったら目も当てられないところだわ。ねえ、色男さん、あなたのお名前は?」
「アオといいます」
「アオ? 変な名前」
 キュルケは、ルイズと真逆のベクトルに成長した体を揺らしながら笑うと、後ろを振り返り手招きする。
 すると彼女の部屋から、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。
「でも、どうせ使い魔にするならやっぱこうでなくちゃ。ねぇ~、フレイムー」
 キュルケは勝ち誇ったように言って、その背を撫でる。
「これってサラマンダー?」
 悔しそうに尋ねるルイズ。
「そうよー。火トカゲよー。見て? この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダー? って、あら? どうしたのフレイム」
 自分の使い魔の様子がおかしい事に気づいて、キュルケが怪訝な顔をする。
 フレイムは、アオとしばらく見つめ合ったと思うと、突然腹を見せてひっくり返った。
「フ、フレイム!? どうしちゃったの!?」
 キュルケの言葉にも反応せず、硬直したように固まっている。いや、小刻みに動いてはいるが、これは……震え?
 アオはそっとフレイムの腹に手をのばすと、優しく撫でながら、震えるサラマンダーだけに聞こえる声でそっと囁いた。
「大丈夫、僕は君を傷つけないし、誰にも傷つけさせない。だから、ね?」
 きゅるきゅる。
 フレイムはアオの手を一舐めすると、お辞儀をして去っていった。
「ちょっと、フレイム? どうしちゃたのよ~」
 あわててキュルケはサラマンダーの後を追いかける。
「あんた、なにしたの?」
 ルイズの質問に、アオは、さあ? と首をかしげてみせた。

「ふわあ」
 アオが食堂の豪華絢爛さに驚くのを見て、ルイズが得意げに言った。
「トリステイン魔法学院ではね、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」
「すごいんだ」
「わかった? ほんとならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。それを特別の計らいで入れてあげるんだから感謝しなさい」
「うん、ありがとうルイズ様」
 ルイズは、椅子を引きながら素直に感謝の言葉を述べるアオに少し調子を狂わされたが、まんざらでもない表情で席に着いた。
「すごい料理だね!」
 アオはテーブルに並べれた、朝食にしては豪華すぎる料理に目を丸くする。
 そしてすぐさま暗い顔をする。
「ど、どうしたの?」
「こんな食事が用意されてるなんて知らなかったから、僕、お弁当を作っちゃったんだ」
「お弁当?」
 アオの差し出した包みを開けると、中からサンドイッチが出てきた。申し訳程度に肉や野菜がはさまれたそれは、さすがにこの豪華さの中にあっては少々、いや、かなりみすぼらしい。
「いいじゃない、あんたが食べれば」
「うん、そうする」
 アオは頷いて、ルイズの隣に腰掛けた。
 ルイズは最初、床に座らせる気だったが、さっきのキュルケの件で機嫌が良かったこともあり、そのまま許した。小さな肉のかけらが浮いたスープや固そうなパンの切れ端を用意していたのも内緒だ。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」
 祈りを終え、料理に手を伸ばす。
 丸ごとのローストチキンを切り分けながら、ルイズはちらりと横を見た。
 隣で、もそもそとサンドイッチを食べるアオは、なぜか小動物を連想させる。
 あれって、アオが私のために用意してくれたのよね。
 そう思うと、少しいたたまれない。
「ねえ、アオ。それ、わたしにも一切れちょうだい」
 アオは、ルイズがひるむような笑顔を向けると、はいっどうぞと、彼女の皿に乗せる。
 あむっとサンドイッチを口にした途端、彼女の目が見開かれた。
 やだ、なにこれ! めちゃくちゃおいしいじゃないの!!
 どう見ても貧相な一切れは、瞬く間に胃袋に収まってしまう。
「……ねえアオ」
「なにかな?」
「わ、わたしは、また作ってくれてもいいんじゃないかな~、て思うわよ」
 もう一切れ、と催促しながら言うルイズに、アオは微笑んだ。


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