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虚無と狼の牙-09


虚無と狼の牙 第九話

 ウルフウッドとルイズはトリステインへと戻る馬車の中で揺られていた。その幌の中でルイズは小さな唇をきゅっと結び、何かを考えるようにして黙り込んでいる。
ウルフウッドはだらしなく両足を投げ出しながら、そんなルイズの姿を眺めていた。
 魅惑の妖精亭で諜報任務に当たっていたルイズが、その任務半ばでトリステインへ戻っているのには理由があった。
 外の世界からやって来たウルフウッドにはこの世界の情勢はわからない。
しかし、あの時手紙を受け取ったルイズの表情と、彼女の口から出た言葉からおおよその事態は察することが出来た。
「アルビオンでクーデターが起きたわ」
 昨晩、ふくろうから手紙を受け取ったルイズは震える唇でそう言った。その手紙は彼女に任務を与えた王女から送られたものだった。
 ルイズによる手紙の内容の要約は「アルビオンでクーデターが起きた。至急、新たな任務を要請したいので、トリステイン魔法学院にて待機して欲しい」。
 ウルフウッドはルイズの言葉を思い出す――レコン・キスタという組織が暗躍している。今回のクーデターもその組織によるものだった。
 王女が要請したいと言う新しい任務がどんなものか皆目二人には見当が付かなかったが、
今こうしてルイズは不安を、ウルフウッドは事情が読み込めない苛立ちを胸に秘めながら、トリステインへと向かっていた。
 馬車が進むほとほととした音だけが響いていた。


 トリステイン学院に戻ってからの日々は何事もなかったかのように過ぎた。
 さすがにクーデターの件は学校の生徒の間でも話題になっていたが、それは遠い世界の出来事のようで、彼らにとってはまだ現実味のないものだった。
戦争が起こるかもしれない、そんな言葉があちこちで聞こえても。
 しばらく学院を離れていたルイズに対して、キュルケをはじめとする他の生徒たちからの質問がなかったわけではない。
しかしながら、ルイズはそれらの質問に対して頑として答えず、大概がその頑固さに辟易してあきらめるのだった。
 ウルフウッドも例の一件については特に語ることもなく、学院に帰ってきてからはシエスタに礼を述べたくらいであった。
ちなみに、ウルフウッドが無事借金を返したことを知ったシエスタが思いっきり舌打ちをしたことを彼らは知らない。
ウルフウッドはただ、これからルイズが巻き込まれていくであろう何かにただ漠然とした不安を感じていた。
 事態が動いたのはそんな風に彼らの当たり前の日常が一週間ほど続いたころだった。
 その日、ウルフウッドは頬杖を付いて目の前で行われている授業を眺めていた。ギトーというなの教師がなにやら風の魔法について熱く語っている。
だが、魔法などもともと関係のないウルフウッドにとってはどの系統が最も優れているかなどと言う話はどうでもよかった。
――ユビキタス? なんやねん、それ。
 呪文を唱えるギトーの姿を両腕を頭の後ろで組んで眺ていた。しかしそのとき……、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔のミスタ・コルベールが現れた。
 彼は珍妙ななりをしていた。馬鹿でかいロールした金髪のカツラが彼の後光の差す頭を隠している。ついでにローブの胸にはレースの飾りやら、刺繍やらが入った高級仕様。
「ミスタ?」
 呪文の詠唱を中座させられたギトーが不快そうに眉をひそめた。
「あややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
「授業中です」
 コルベールをにらんで、ギトーが短く言った。
「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」
 コルベールは重々しい調子で告げた。教室中から歓声があがる。その歓声を抑えるように両手を振りながら、コルベールは言葉を続けた。
 ウルフウッドはそんなことよりもコルベールの頭に乗っているものが気になって仕方がない。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
 もったいぶった調子で、コルベールはのけぞった、のけぞった拍子に、頭にのっけた馬鹿でかいカツラがとれて、床に落っこちた。ギトーのおかげで、重苦しかった教室の雰囲気が一気にほぐれた。
「……なぁ、センセ。この間ワイらがハゲハゲ言うたのがそんなに」
「ウルフウッド君、心底同情するような声はやめてもらえますか…… これは貴族のたしなみというやつです! 断じてそういうものではありません!」
 神妙な面持ちのウルフウッドに、心底心外そうな顔のコルベール。どうやらコルベールはウルフウッドたちにハゲハゲ言われたのを気にしてカツラを付けていたわけではなさそうだ。
 教室中がくすくす笑いに包まれる。
 一番前に座ったタバサが、コルベールのつるつるに禿げ上がった頭を指差して、ぽつんと呟いた。
「滑りやすい」
 教室が爆笑に包まれた。キュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽんと叩いて言った。
「あなた、たまに口を開くと、言うわね」
 コルベールは顔を真っ赤にさせると、大きな声で怒鳴った。
「黙りなさい! ええい! 黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとはまったく貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! これでは王室に教育の成果が疑われる!」
 とりあえずその剣幕に、教室中がおとなしくなった。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」
 コルベールは横を向くと、後ろ手に手を組んだ。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」
 教室がざわめいた。
「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」
 生徒たちは、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。ミスタ・コルベールはうんうんと重々しげに頷くと、目を見張って怒鳴った。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」
 王女の来訪に湧く教室の中で、ウルフウッドとルイズだけがその来訪の本当の意味を考えていた。
 ウルフウッドは一人で、見張り塔の上から王女一行の姿を眺めていた。学院の関係者たちは全員迎えに出ているため、周りに人気はまったくない。
 王女がどんな人物かにウルフウッドは興味はあったが、しかしこの歓迎をする列に加わる気はなかった。
ルイズに「敬意が足りない!」と怒鳴られながらも、ウルフウッドは一人抜け出てこの場所にいた。
頬杖をつきながら、王女の姿を見つめてウルフウッドは考える。
 一体の王女はルイズに何をさせるつもりなのか? どう考えてみても、魔法の能力ではルイズに期待を寄せるとは考えにくい。
それ以前に、何か特別な任務にこのまだ世間知らずな少女を選ぶとは一体どういう目論見があるのか。
 遠くからでは王女の表情はわからない。かといって、近くで見たとしても、今の王女の振る舞いから何かを読み取ることは不可能だろう。
 ただ、それ以上にウルフウッドの興味を引いた人物がいた。いや、それは興味というよりも不快感に近いものだった。
 たった一人、王女の傍で大きな獣のようなものにまたがった男が、ウルフウッドのほうを見ていた。
――俺はお前の存在に気がついているんだぞ、とでも言いたげに不敵に笑う。
ウルフウッドの距離からではその表情は羽帽子と長い髭に隠されてうかがえなかったが、確かに彼は不敵に笑っていた。
 その仕草、完璧すぎる振る舞いの全てに、何かを欺こうとしている人間独特の匂いがした。


「いったいどういうつもりなの、あんた!」
「別に、どうもこうもワイはここの国民やないから関係ない話や」
「関係ないって、あんたも一応わたしの使い魔でしょ!」
 夜、ルイズは藁の上でうっとおしそうに胡坐をかくウルフウッドを怒鳴りつけていた。ルイズは今日の昼間のウルフウッドの態度が気に食わなかった。
王女様がわざわざこの学院を視察に訪れたというのに、この使い魔は歓迎もせず「関係ない」の一言と共にどこかへ去っていってしまったのだ。
「わかっているの、ウルフウッド? わたしの前で王女様に対する不敬なんて絶対に許さないんだから!」
 ウルフウッドはうっとおしそうに耳を掻くと、ルイズから視線を逸らしたままフンと鼻を鳴らした。
 ルイズもウルフウッドからプイと顔を背けたまま、乱暴にベッドに座り込む。二人の間を沈黙が包んだ。例の手紙を受け取ってからずっとこうだ。
ウルフウッドは何かを考え込むことが多くなったし、ルイズもずっと落ち着きなくそわそわしていた。
二人とも、その種類は違えども、不安だったのだ。これから起こることに。
 その沈黙をドアをノックする音が破った。
 ウルフウッドは無言のままルイズを見やった。
 ノックは規則正しく初めに長く二回、それから短く三回……。
 ルイズの顔がはっと顔を上げた。跳ね起きるようにベッドから降りると、ドアを開いた。
 そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった、少女だった。
 辺りをうかがうように首を回すと、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。
「……あなたは?」
 ルイズは驚いたような声をあげた。
 頭巾をかぶった少女は、し─っと言わんばかりに口元に指を立てた。それから、頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から、魔法の杖を取り出すと軽く振った。
同時に短くルーンを呟く。きらきらと光の粉が、部屋に舞う。
「……ディテクトマジック?」
 ルイズが尋ねた。頭巾の少女が頷いた。
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
 部屋のどこにも、聞き耳を立てる魔法の耳や、どこかに通じる覗き穴がないことを確かめると、少女は頭巾を取った。
 ウルフウッドはその姿を見て、顔をしかめた。遠目に見ただけだけれども、間違いない。彼女の正体は、例のアンリエッタ王女だった。
「姫殿下!」
 ルイズが慌てて膝をつく。
 ウルフウッドは横目で二人の様子を静かに見つめていた。来たか、二人に聞こえない声でそう呟く。
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
 ルイズの部屋に現れたアンリエッタ王女は、感極まった表情を浮かべて、膝をついたルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賤な場所へ、お越しになられるなんて……」
 ルイズはかしこまった声で言った。
「ああ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい! あなたとわたくしはおともだち! おともだちじゃないの!」
「もったいないお言葉でございます。姫殿下」
 ルイズは硬い緊張した声で言った。その様子にウルフウッドは二人の関係を大体理解した。
「やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! 
ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。
昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下……」
 ルイズは顔を持ち上げた。
 それから二人は一通り思い出話に花を咲かせた。ウルフウッドはそんな二人の様子を静かに見守る。
今、この瞬間だけを切り取れば、彼女たちは間違いなく、親友と呼べるものだった。そう、あの手紙の一件さえなければ。
「その調子よ。ルイズ。ああいやだ、懐かしくて、わたくし、涙が出てしまうわ」
「でも、感激です。姫さまが、そんな昔のことを覚えてくださってるなんて……。わたしのことなど、とっくにお忘れになったかと思いました」
 王女は深いため息をつくと、ベッドに腰かけた。
「忘れるわけないじゃない。あの頃は、毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」
 深い、憂いを含んだ声であった。
「姫さま?」
 ルイズは心配になってアンリエッタの顔を覗きこんだ。
「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね。ルイズ・フランソワーズ」
「なにをおっしゃいます。あなたはお姫様じゃない」
「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。飼い主の機嫌一つで、あっちに行ったり、こっちに行ったり……」
 アンリエッタは、窓の外の月を眺めて、寂しそうに言った。それからルイズの手を取って、にっこりと笑って言った。
「結婚するのよ」
「……おめでとうございます」
 その声の調子に、なんだか悲しいものを感じたルイズは、沈んだ声で言った。
 そこでアンリエッタは、藁束の上に黒い服を着た大男の存在に気がついた。不機嫌そうな表情で彼は二人を見ていた。
「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だった?」
「お邪魔?」
「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」
「恋人? あの無愛想で気の利かない唐変木が?」
「こらまた随分な言い草やな」
 どうでもよさそうにウルフウッドは応えた。
「姫さま! あれはただの使い魔です! 恋人だなんて冗談じゃないわ!」
 ルイズは思いきり首をぶんぶんと振って、アンリエッタの言葉を否定した。
「使い魔?」
 アンリエッタはきょとんとした面持ちで、ウルフウッドを見つめた。頬杖をついたままウルフウッドもアンリエッタの表情を見返す。
「人にしか見えませんが……」
「これでも一応、人間やで。まぁ、人間扱いされへんのは慣れてるけどな」
 ウルフウッドは当然のように答えた。
「あぁ、そう、ですか。はあ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
「好きであれを使い魔にしたわけじゃありません」
 ウルフウッドの言葉にアンリエッタは一瞬ひるんだものの、そこからルイズに話を振ってなんとかその場をごまかした。
「姫さま、どうなさったんですか?」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……」
「おっしゃってください。あんなに明るかった姫さまが、そんな風にため息をつくってことは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」
「……いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。ルイズ」
「いけません! 昔はなんでも話し合ったじゃございませんか! わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」
 ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」
「三文芝居もそのへんにしとけや。お姫さん、あんたこのじょうちゃんに頼みがあって来たんやろ? 
やったら、さっさと本題に入ったらええ。その頼みごとにやましいことがないんやったらな」
 ウルフウッドが話に割って入った。
「ウルフウッド! あんた姫様になんて無礼――」
「お前はだまっとれ」
 ウルフウッドに横目でにらみつけられ、ルイズは言葉を呑んだ。抗えない得も知れない迫力が彼の全身から出ている。
「その通りですわね。いくら美辞麗句を並べ立てても、私が伝えるべき内容のそのおぞましさは変わりませんわね」
 アンリエッタはあきらめたように言う。
 それから、キッとした視線で前を見つめると、彼女の置かれている境遇を話した。
これからゲルマニアへ政略結婚として嫁ぐこと、そしてその結婚の障害となる手紙がアルビオンのウェールズ王子が持っていること。
それをレコン・キスタに奪われる前に取り返して欲しいということ。
「どういうつもりや? クーデターの渦中にある王室にただの一介の学生が向かういうのは? 
なぜあんたんとこの部下を使わへん。少なくとも、このじょうちゃんよりも適任の奴なんてなんぼでもおるやろ」
 一通り話を聞いたウルフウッドは壁に背をもたれながら、あきれ返るような目線でアンリエッタを見た。
「……使い魔さん。あなたは三文芝居とおっしゃいましたけれども、さっきのは紛れもない私の本心なのです。
そして、王女はなんの権限もない傀儡であるということも」
 アンリエッタはここで深呼吸した。ルイズは黙ったまま、二人のやり取りを見つめる。
彼女には今この場で軽々しい言葉を発することは出来なかった。
「私にはこの一件を安心して任せられる人物がいないのです。このルイズを除いては。
今回の一件は愚かな私の過ちであるのも事実です。しかし、それと同時に国の存亡を揺るがす事態であるのもまた、事実なのです」
「あんたのわがままでこんな年端もいかへんガキを死地に送り込むいうんか! 
友達やのなんやの美辞麗句を並べといて、こんなろくに訓練も受けてような子供を!」
 ウルフウッドが大声を上げた。アンリエッタはそんなウルフウッドの視線から目を逸らす。
そのとき、ルイズが二人の間にすっと割って入った。
「姫さま、大丈夫です。わたしはまがいなりにもトリステインの貴族です。
この国のために命を投げ出す覚悟など、生まれたときから持ち合わせておりますわ」
 ルイズは穏やかに微笑みながらそう言う。
「……ありがとう、ルイズ」
 ここでアンリエッタは泣きそうな顔で笑った。
「お前、わかっとんのか? 戦場いうのがどういう場所か?」
「正直、わからないわ。でもウルフウッド、あたしが戦場がわからないように、あなたにはわからないかもしれないけれども、貴族というのはそういうものなの」
「……クソガキが。そん年で気安く、命を懸けるなんて言うもんやない」
 ウルフウッドはルイズたちから目を逸らしながらそう呟く。
「それではアンリエッタ王女。このあなたの直属の女官ルイズに勅命を賜りますよう」
 ルイズはスカートの裾をつまみ恭しく頭を下げた。
「ありがとう、ルイズ。本当にありがとう」
 アンリエッタはゆっくりとその右手をルイズの肩にかけた。


「それで、喧嘩別れするように部屋を出てきてしまったと?」
「まぁな。ワイにはようわかれへんわ。貴族のプライドとかなんとか」
 ウルフウッドはコルベールの小屋の壁に背を預けて座り込んでいた。コルベールはそんなウルフウッドを見て、苦笑いすると、部屋から湯気の立つカップを二つ持ってきた。
「どうぞ、ウルフウッドくん。温まりますよ」
「おおきに、センセ」
 コルベールもウルフウッドの隣に腰を下ろす。
「で、どうするつもりなんですか?」
「どうするって言われてもな」
「ウルフウッドくん。おそらくですが、今回の一件にあなたは完全に無関係ではないと思いますぞ。まぁ、それを言うなら私たちも同罪ですが」
「どういう意味やねん?」
「例のフーケの件です。あの一件を私たちが王室に報告したせいで、このような事態にミス・ヴァリエールが巻き込まれているのでしょう。
ウルフウッドくん、キミは知らないかもしれないですが、それこそフーケというのは非常に厄介な盗賊でしてね。それを捕まえた事の意義というのはおそらくキミの想像以上です」
「つまり、じょうちゃんは例の一件のせいで姫さんに目を付けられて、こないなってしまったと。そんで、あの一件に関係しているワイにも責任の一端があるというわけやな」
「もちろん、その場合私たちにも責任はありますね」
 ウルフウッドは息を吐いて空を見上げる。今日も二つの月が空高く上っている。
「もちろん、行くのでしょう?」
「……まぁ、あのじょうちゃんの面倒みたるのがワイの仕事みたいやさかいな。しゃあないわ。メシも食わしてもろてるし」
 その言葉にコルベールは思わず吹き出す。
「なんやねん」
「いえ、素直じゃないな、と。心配なら心配と言えばいいのに」
「アホか」
「そうと決まれば、私も微力ながら協力いたしましょう。例のばいくを動かすがそりんは実はもう大量に練成してあります。アルビオンということなら、おそらくラ・ロシェールを経由することになりますな。結構な距離ですがそれでも十分な量は備蓄してあります」
「そらおおきに。助かるわ。馬、いうのはあかんな。非力やし、ケツ痛いし。それに、バイク使えるんやったらパニッシャーも運べる」
「メンテナンスはばっちりですぞ。お任せください。しかしですな、一つ問題があるのです」
「問題?」
「例のがそりんは揮発性が高すぎるうえに発火しやすい。私はそれを保存持ち運びするのに簡単な錬金で固化させているわけですが、あなたが遠出をするとなるとその予備の燃料を錬金しなおすメイジが必要になるわけなのです。
ミス・ヴァリエールは、その……あれですし」
 コルベールは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「じょうちゃんに任せたら大爆発が起こってまうな」
 ウルフウッドはカラカラと笑う。
「というわけで、そうですな。土のメイジを一人連れて行くのがよろしいか、と」
「土のメイジ?」
「ええ。その名の通り土を操る術を得意とするメイジです。例えば、我々の知り合いでいうと、例の腐敗の……じゃなかった赤土のシュヴルーズ先生とかですな」
「……腐敗のシュヴルーズ先生はなんとなくパスやな」
 ウルフウッドは何か背中につめたいものを感じた。
「土のメイジといえば例のフーケもそうやな?」
「ええ。ゴーレムを操るのはそう思っていただいた結構です」
「と、なると。よし、一人適任が居るわ」
「適任?」
「ちょっとした貸しがあるねん。そいつを引っ張り出すわ」
「はぁ」
 コルベールは不敵に笑うウルフウッドの意図がわからず曖昧に相槌を打った。
「ところで、ウルフウッドくん。話は変わるのですが、一応あなたの耳に入れておいて貰いたい話があります」
「なんや。改まって」
「……例の土のフーケが何者かの手により脱獄したそうです。
それが直接今回の一件に絡んでいるとまでは言えませんが、彼女を捕まえたあなたたちに復讐を企てる可能性があります。くれぐれも注意してください」
「わかった。一応注意しとくわ」
 そしてウルフウッドは「なんかしつこうそうな姉ちゃんやったしな」と言ってわざとらしく冗談めかして笑った。


 翌日の朝。ルイズは一人門へと歩いていた。
 結局あれから、喧嘩別れをするように出て行ったウルフウッドは戻ってこなかった。どこをほっつき歩いているのか、と思うが、今わざわざ彼を気にしている余裕はない。
彼女はアンリエッタに指示された場所へ向かわなくてはならないのだ。
(ウルフウッドの馬鹿。なんでわかってくれないのよ)
 それでも心の中で油断すればそう呟いてしまう。彼女はそんな自分に対して深く嘆息した。そして気を取り直すように前を向いた。
「遅いやないけ、じょうちゃん。カゼ引いてまうやないか」
「って、あんたウルフウッド!」
 ルイズは門の脇で立っているウルフウッドの姿を見て、大声を上げた。ウルフウッドはいつもの服装で、サイドカーをつけたバイクに浅く腰をかけていた。
「な、なんであんたがここにいるのよ! そ、それにその大きななんかよくわからないものは何?」
「バイクも知らんのか、この田舎モンめ。それになんでて、ワイはじょうちゃんの使い魔やないけ」
 フンと鼻を鳴らすようにウルフウッドは答えた。そして、ルイズはウルフウッドの脇にいる人物に気がついた。
「……やぁ、ルイズ。ご機嫌いかがかな」
「ギーシュ、ってあんたまでこんなところで何してんのよ?」
「それは僕が訊きたいよ、ルイズ。今朝突然ウルフウッドが僕の部屋にやってきて、手を貸してくれと言うやいなや、ここまで引っ張り出されてきたんだ」
「この小僧にはワイは貸しがあるからな。今回の一件でチャラにしたろ、いうありがたい話や」
 ギーシュは情けない表情で肩を落とす。例の決闘以降、ウルフウッドに頭が上がらないのだ。
「あぁ、なんで、貴族の僕がこんなことに……」
 大げさに地面に手を突いて嘆いてみせるギーシュ。と、そこで彼の目の前の地面がもこもこと盛り上がった。
「な、何?」
 ルイズが慌てて、そこから距離をとる。その盛り上がった地面は徐々に大きくなっていき、そして――
「ヴェルダンデ! ヴェルダンデじゃないか!」
 大きなモグラが顔を出した。
「あぁ、いとしの僕のヴェルダンデ、突然拉致された僕が心配で来てくれたんだね」
 そのままギーシュはヴェルダンデを抱きしめて、頬ずりをする。
「じょうちゃん、なんやアレ?」
「ジャイアントモールね。ギーシュの使い魔よ」
 一人盛り上がるギーシュをよそに二人はヒソヒソ話をする。
 そこでヴェルダンデがルイズたちの存在に気がついた。地面から飛び出し、まっすぐにルイズめがけて向かってくる。
「え、ちょ、ちょっと、いや、なに!」
 ヴェルダンデはそのままルイズを押し倒してしまった。
「あれ、どうしたんだい、ヴェルダンデ?」
「じょうちゃんはモグラにはもてるみたいやな」
 不思議そうな顔をするギーシュと、からかってくるウルフウッド。
「あ、あんたたち、そんなこと言ってないでなんとかしなさいよ!」
 ルイズがもがきながら、大声で叫んだ。そのときだった。
 ウルフウッドの目が一瞬で鋭くなり、右手でバイクに備え付けれたパニッシャーを取った。そのまま、それを持って回転するようにルイズの隣に立つ。
そして、何かが叩きつけられる音と衝撃が彼らのいる辺りを通り抜けた。
慌ててその衝撃の来た方角を振り向いたルイズはそれがウルフウッドのパニッシャーに命中したものだと気がついた。
「……おんどれ、これは何の真似や?」
 ウルフウッドが低い声を投げかけた。その先には大きな幻獣にまたがったはね付き帽子をかぶった男が一人、ルイズたちに杖を向けていた。
「そんなに怖い顔をしないでくれよ。僕の婚約者が襲われているように見えたのでね、ついつい彼をどかすために魔法を撃ってしまっただけさ」
 そのままその男は地面に降り立った。
「いきなりモグラ相手に魔法をぶっ放すとは、随分穏やかやないな」
「僕の早とちりだったことは謝るよ」
 男は大仰に両手を広げた。ウルフウッドはそのままの体勢で男をにらみつける。
 一触即発の空気が流れたとき、ルイズが大声を上げた。
「わ、ワルド様!」
 その声にウルフウッドとギーシュは同時にルイズを振り向く。
「やぁ、愛しのルイズ。久しぶりだね」
 そのルイズの声に、ワルドは爽やかに笑って応えた。


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