あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第8話


 天に浮かぶ二つの月が重なり、赤い月が白い月の後ろに隠れて見えなくなって、二つある事実を忘れそうになる。
 ここが異世界であることを実感させる二つの月が、一つしか見えない状況は私に元の世界の人たちを思い起こさせる。
 剣道部の部員たち。顧問の葵先生。合宿先の咲森寺の住職の佑快和尚。共に海神の眠る瑠璃宮に突入した、保美、汀、コハクさん、夏姉さん。
 そして、一緒に混沌の闇へ飛び込んだナミ。
 きっと、みんなに心配をかけている。そのことを考えると、早く帰らなくてはと心がざわめく。
 帰りたいと願ったからといって、すぐに帰れるわけではないことは理解している。ルイズを残して帰るのが、心配だという想いもある。
 けれど、ここは私の世界ではないと。いつまでも、この世界にいてはいけないと。そんな確信が、私の中にあるのだから。

「ワルドに負けたこと、気にしてる?」
「どうかしら?」
 背後から聞こえたルイズの声に、ふり返らず答える。
 悔しいという想いがないわけではない。だけど、負けたのは私の未熟。落ち込むくらいなら、修練を積むべきだ。
 それに、ルイズには何か他に話したいことがあるのだと、なぜか私は確信していた。
「ワルドに結婚しようって言われたの」
 それだけを言って、ルイズは黙り込む。
 どういう意図なのだろう。ルイズは私に何かを言ってもらいたがっている気がする。だけど何を?
 ルイズが、ワルド子爵に憧れていることは知っている。そして、子爵がルイズを特別な存在であると考えていることも、見ていれば分かる。
 だけど、本当なら幸せそうな顔のはずのルイズの表情は困惑と、そして脅えに彩られていた。
 それが何故なのかの答えを出す前に、下の階、酒場のある一階から何者かの争う音が聞こえてきた。



 一階は戦場だった。
 玄関から入ってきた厳つい男たちが矢を射かけ、足を折ったテーブルを盾にしてワルド子爵とギーシュが魔法で応戦している。
 魔法が使えるメイジが平民に負けることはありえないと聞いたことがあるのだけど、ものには限度があるのだろう。
 宿に入りきれないほどの物量に、こちらは旗色が悪い。
「参ったね。多分、連中はアルビオンの貴族連中に雇われた傭兵だ」
「ひょっとして、昨日の連中も、ただの物盗りじゃなかったってこと?」
「おそらく」
 子爵とルイズの会話に、ギーシュが渋面になる。連中を物盗りだったと言ったのはギーシュだしね。解放するように言ったのは子爵だけど。
「ぼくのゴーレムでふせいでやる」
 そんな事を言うギーシュだけど、それは無理だろう。ギーシュの『ワルキューレ』は圧倒的な物量差を、どうこうできる種類のものではない。
 そう言って止めると、次は子爵が低い声で提案する。
「いいか諸君。このような任務は、半数が目的地にたどり着けば、成功とされる」
 だから、自分とルイズが桟橋に向かうまでの間、私とギーシュに囮になってほしいとルイズの腕を引っ張り裏口に向かおうとする子爵に「無理よ」と答え、私はルイズのもう一方の腕を取る。
 そう。無理なのだ。私に子爵ほどではなくとも、タバサやキュルケのように魔法が使えるのなら、ギーシュと連携して連中を足止めすることもできるかもしれない。
 だけど、剣を振るうことしかできない私と、七体のワルキューレを作れるだけのギーシュでは大した時間稼ぎもできないだろう。
 今、傭兵たち相手に持ちこたえていられるのは子爵の魔法のおかげだ。私とギーシュが残るくらいなら、いっそ子爵が1人で残ったほうが、よっぽど連中の足止めになるだろう。
 そう言うと、子爵は苦虫を噛み潰したような顔で、ならばと全員で桟橋へ向かうことを決めた。さすがに1人で残るのは嫌だったらしい。


 月明かりの下、私たちはワルド子爵、ルイズ、ギーシュ、私の順で階段を駆け上がっていた。
 追っ手は、断続的に矢を射掛けてくるだけで追いついてくる様子はない。理由は分からないけれど、私たちには都合がいい。
 桟橋へ向かうはずなのに何故上に進むのか、その疑問の答えは、長い階段を上った先にある光景だった。
 丘の上に生えた大きな樹。天にも届きそうな大樹は四方八方に枝を伸ばし、それぞれの枝に引っかかっている船らしき、飛行船に似た形状のもの。
「桟橋って、これのことなの?」
「そうよ。ショウコの世界じゃ違うの?」
 桟橋も船も海にあるものだ。そう答えると、海に浮かぶ船もあれば空に浮かぶ船もあるのだとルイズは言う。

 子爵の先導で大樹の幹へ駆け寄り、いくつもある階段の一つを上る。その途中、後ろから追いすがる足音に気づいてふり返った私の頭上を何者かが飛び越えた。
 何者なのか、白い仮面で顔を隠した男は、同時にギーシュをも飛び越え、ルイズの背後に降り立つ。
「ルイズ!」
 私の叫びは間に合わなくて。ふり返ったルイズは、男に抱え上げられた。
 私は、階段から飛び降りようと跳躍する男を止めようと剣を抜いたのだけど。私と男の間には何が起こったのか理解が追いついていないギーシュがいて、剣を届かせることができないでいた。
 けれど、男はルイズを連れて行くことができなかった。
 ギーシュと違い、すぐに男に反応したワルド子爵が、腰から抜いた杖を呪文と共に杖を振ると、男は私が手合わせのときに受けたのと同じ風の槌に打たれ体制を崩しルイズを手放した。
 男から解放されたルイズは、そのまま落ちていきそうになったけど。子爵が、階段から飛び降りて捕まえ、ルイズを抱いたまま空中に浮かんだ子爵は階段に戻る。
 そして、子爵の魔法に打たれた男は、そのまま落ちることを良しとせず手すりを掴み階段に戻った。
「ギーシュ、どいて」
 返事を待たず、ギーシュの手を引っぱり前に出て、私は男と対峙する。
 腰に刺してあった黒塗りの杖を構える男は、子爵と同じような背格好をしていて、構えまで似ていた。
 そのことに疑問を覚えなかったわけではないのだけれど、今重要なのは目の前の男が子爵と同じようにこちらの攻撃を防ぎながら魔法を使ってくるであろう可能性だ。
 男が杖をふり呪文を唱え始めるのを見て、私は相手の懐に飛び込む。どんな魔法も発動する前に倒してしまえば意味は無い。
 だけど、男の呪文の方が早かった。
「相棒! 構えろ! ライトニング・クラウドだ!」
 デルフリンガーが叫ぶが、呪文の名を聞いたところで私には、それがどういう魔法なのかわからない。分からないまま剣を前に出し、男の周囲から集った稲妻がデルフに吸い込まれた。
 予想していなかったであろう事態に男は驚愕し、私はその隙を見逃さなかった。
「だああああああああっ」
 振り下ろした剣は男の体を袈裟懸けに断ち、男は幻であったかのように消滅した。
「偏在かよ」
 聞こえてくるデルフの声に、それは何かと問うと、風の魔法で作る分身だと答えが返ってきた。
 魔法で作られたただの分身。あの男は人間ではなかったと、私は今知った。
 相手が人間だと思っていたのに……、私は斬った。
 私は……。
「ショウコ!」
 沈み込みかけた意識をルイズの声がすくい上げる。
「大丈夫なの? 顔が真っ青よ!」
「大丈夫よ。それより急ぎましょ」
 心配そうなルイズに言って剣を鞘に収める私を、私の剣を子爵が見ていた。

 階段を上がった先には、一本の枝が伸びていて、その枝に沿って一艘の船があった。
 その船は、本来明日の朝出港する予定だったのだけれど、子爵がこれは王命であると宣言し報酬をはずむことで今すぐに出向することになった。
 雲の上を進む船で行く先に浮遊する大地、それが浮遊大陸アルビオンだった。
 目的地を前にした私たちは、しかし海賊ならぬ空賊に捕まっていた。
 港町を出航した私たちの乗る船は、アルビオン近くで軍艦らしき船に捕捉され襲撃を受けた。
 彼らの目的は積荷だとワルド子爵は抵抗を放棄し、私とギーシュも同意した。ルイズだけは戦う気だったけど、幸か不幸か彼女には戦う術がない。
 結果、私は剣を、ルイズたちは杖を取り上げられて、船倉に閉じ込められていた。

 私は、両手のひらを顔の前に持ち上げて握ったり開いたりを繰り返す。
 従姉妹叔母の夏姉さんに憧れて始めた剣道。それは言ってみればスポーツであり、人を傷つける目的のものではない。
 合宿先で起こった事件で、鬼を相手に剣を振るったけれど、それは大事な人たちを守るためであり、人を殺そうとしたことは一度もない。
 では、桟橋で戦った仮面の男のときはどうだっただろう。
 あの男は、何者かの分身であり斬ったところで人を傷つけたことにはならない。だけど、そんなことを知らずに私は斬った。もし人間であれば、その命を絶っていたかもしれないのに。
 ルイズを守るためだから? そんな言い訳で済ませていいほど人の命は軽くない。そう思ってしまった。だから船が空賊に襲われたときも大した抵抗をしなかった。
 ルイズと一緒にいれば、これからも同じような事は何度もおこるだろう。そのとき、私はどうすればいいのか。そんな事を考えていた私の手にルイズが触れてきた。
「ねえショウコ、大丈夫なの?」
「何が?」
「顔、真っ青よ」
 そのとおりなのだろう。だけど、なんと言って説明すればいい? 人を斬るのが怖いとでも言えばいいのか。
 判断がつかない私は、大丈夫だからと、自分でも説得力がないとわかる答えを返すしかない。
 そんな私にルイズが何かを言う前に子爵が話しかけてきた。
「そういえば、君の剣。あれはいったいは何なんだい?」
「剣?」
 呟いてからデルフのことだと気づく。
「デルフリンガーがどうかしましたか?」
「デルフリンガー、というのかね。あの剣は、仮面の男の魔法を吸い取っていたように見えたのだが」
「ええ。あの剣には魔法を吸収する能力があるんです」
 隠すようなことではないし、今はあまり考えて話すような精神的余裕もなく聞かれたことに答えていく。
「では、あれは魔法使いの天敵と言える剣なのかね」
「そうなりますね。例えばゴーレムなんかでも一撃入れれば魔法を吸収して無力化できますから」
 その答えに子爵は難しい顔になって更に問いかけてきた。仮面の男は風の偏在で作った分身だったが、あのような分身が複数で同時に襲い掛かってきた場合でも対抗できるのかと。
 そして、私はできると答える。デルフリンガーの本質は混沌、その力を解放すれば魔法という器に寄らないモノはカタチを保てなくなり崩れてしまう。
 もっとも、ルーンの加護があるからと言って、そんなことをする気はない。本来、私には混沌を制する能力がないのだから。
 そう話しかけたところで、扉が開いて痩せぎすの空賊が入ってきた。
「お前達、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
 ルイズが毅然と無理のある答えを返す。
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行? いったい、なにを見物するつもりだ?」
 当然の切り返しに、顔を背けるルイズに空賊は言う。
 自分たちは、アルビオンの貴族派と取引をしている。同じように、貴族派の手の者だというのなら港まで送ってやろうと。
 だけど、ルイズは否定する。自分たちは王党派への使いなのだと。
 適当に話をあわせて、この場を切り抜けようなどとは考えない、愚直な正しさで。
 そんなルイズの姿に何を思ったのか、その空賊は出て行き。そして、次は眼帯をつけた髭面の男が入ってきた。
「王党派と言ったな?」
「ええ、言ってたわ」
「貴族派につく気はないかね? あいつらは、メイジをほしがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ」
 取り付く島もないルイズ返答に、空賊は笑い、頭髪を掴みカツラであったそれを取り眼帯を外し髭をはがした。
 そこにいたのは、金髪の青年で、彼は自分をアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーと名乗った。
「アルビオン王国へようこそ。さて、御用の向きをうかがおうか」
 皇太子は言うが、急な事に意識の切り替えができないルイズは呆然としていて、代わりに子爵が前に出る。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
「ふむ、姫殿下とな。きみは?」
「トリステイン王国魔法衛視隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
 そう言って子爵がルイズを皇太子に紹介した後、我に返ったルイズは王女の手紙を取り出して、躊躇い口を開いた。
「あ、あの……、その、失礼ですがほんとうに皇太子さま?」
 ルイズの言葉に皇太子は笑い、証拠を見せると言って、自分の薬指の指輪を外して、ルイズの指のルビーに近づけた。
 二つの指輪の宝石は共鳴し虹色の光を放ち、これはアルビオン王家に伝わる風のルビーであり、トリステイン王家に伝わる水のルビーとは共鳴するのだと皇太子は説明した。
「大変、失礼をばいたしました」
 ルイズが一礼して、手紙を渡すと、皇太子は受け取った手紙にその場で目を通した。
「姫は結婚するのか?」
 小さく呟いた皇太子は笑い、そして了解したとこちらに伝えそして言った。
「姫から貰った手紙だが、今、手元にはない。多少、面倒だが、ニューカッスル城まで足労願いたい」



 ニューカッスル城は浮遊大陸から突き出た岬の突端にある高い城だった。
 城の上空には、貴族派の巨大戦艦が待機して断続的に砲弾を撃ち込んでいて、直接向かうことができない。
 私たちの乗った軍艦は、大陸の下を潜り、日の差さない雲の中を進んだ。この辺りは、視界が悪く簡単に頭上の大陸に座礁するので、貴族派の軍艦は近づかないのだそうだ。
 しばらくすると、頭上の大陸に大きな穴が開いているのが見えて、そこに入っていくと鍾乳洞に作った秘密の港がある。
 皇太子と一緒に艦を降りると、港で働いていた兵士たちが出迎え、そんな彼らの中、年老いたメイジに皇太子は叫ぶ。
「喜べ、バリー。硫黄だ、硫黄!」
「おお! 硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も、守られるというものですな!」
「王国の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北することができるだろう」
 敗北という言葉を口にしておきながらも、心底楽しそうに笑う皇太子たちを、私は理解できない。それはルイズも同じらしく、顔色を変えて皇太子を見ていた。
「して、その方たちは?」
 さきほどバリーと呼ばれた老人の問いに、皇太子はトリステインからの大使だと告げ、そのまま私たちを天守の一角にある居室に案内した。
 皇太子の居室は、学院の寮にあるルイズの部屋に比べると質素な部屋で、そこにある机の引き出しから取り出した小箱を宝箱だと言って、その中から一通の手紙を取り出した。
 皇太子は、何度も読み返したらしくボロボロになった手紙に一度目を通した後、丁寧に折りたたんで封筒に入れる。
「これが姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」
 ルイズが、深々と頭を下げて手紙を受け取ると、皇太子は明日の朝、非戦闘員を乗せた船が出港するから、それに乗って帰るようと指示した。
 だけど、そんな皇太子の言葉より気になることがあるらしく、ルイズは躊躇いがちに口を開く。
「あの、殿下……。さきほど、敗北とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
「ないよ。我が軍は三百。敵は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」
 もちろん自分は真っ先に死ぬつもりだ。と言う皇太子にルイズは、この手紙は恋文なのではないか、皇太子と王女は恋仲なのではないか、その恋人を置いて死ぬつもりなのかと問い。皇太子は昔の話だと笑った。
「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」
 それことが王女の意思のはずだと、自分が届けた手紙にもそう書いてあったはずだと詰め寄るルイズに皇太子は首を振る。
「そのようなことは、一行も書かれていない」
 一国の王女が、国の大事より私情を優先させるはずがないという皇太子に、私はどうだろう? と思う。
 ルイズもそうだけど、王女は感情を理性に優先させるタイプの人間に見えた。というか、学院の生徒たちを思い出すとトリステイン人の気風なのだとさえ思える。
 隣りにいるギーシュなんか、王女と皇太子の悲恋に、涙を流して頷いているし。
 もっとも、私にしても皇太子の言う勇敢な死。というものに、どれだけの意味があるのか分からない。
 仮にここで、皇太子がトリステインに亡命することを選べばどうなるだろう。
 逃げ出した皇太子にアルビオンの民は失望するのかもしれない。だけど、死んでしまえば失望されなくとも意味は無い。
 皇太子の亡命を受け入れた咎で貴族派はトリステインに宣戦布告するかもしれない。だけど、皇太子のことがなくても貴族派はトリステインを攻めるつもりなのではなかったか。
 結局、皇太子が亡命しても、例えば亡命した皇太子に王女が、やっぱり自分の想いは裏切れないとでも言って、ゲルマニア王との結婚を蹴りでもしないかぎり、結果は同じなのではないかと私には思えるのだ。
 皇太子は、ルイズの肩に手を置き、この話はもう終わりにしようと言い、そろそろパーティの時間だから出席してほしいと私たちに退出を告げた。





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