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虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-15


「ボーっとしちまって、どうしたんだ相棒」
デルフリンガーがカチカチと音を立てながら言う。
「うん」
しかしルイズの反応は鈍い。
アンリエッタ姫の歓迎の式典が終わってから、ずっとこの調子である。
ルイズは久しぶりに見たアンリエッタともう一人のことで頭がいっぱいだった。
「まぁ、ボーっとするのは構わねえけどよお、俺の扱いがちょっとどうかと思うんだがよ……」
ルイズはボーっとしながらも、デルフをその手に持ち上下に動かしていた。
ダンベルのように。
「そういう使い方されると、おれの剣としての自尊心が……激しく傷ついちゃうんだよ……」
しかしルイズはにべもない。
「部屋の中で振り回したら危ないじゃない」
デルフの言葉を意に介さず、ダンベル運動を続ける。
そんな折、部屋の中に控えめなノックの音が響き渡った。
控えめではあるが、規則正しいノックの音。長く2回。短く3回。
ルイズはハッとして、デルフを投げ捨て扉へ駆け寄る。
扉を開けると、そこには黒い頭巾をかぶった小さな影。
「ひ……」
その影を見たルイズが口を開こうとするが、その影は口の前に指をあててそれを遮る。
そして影が杖を振る。光の粉が部屋中に漂う。
それはディテクトマジック。
その結果に満足したのか影は頭巾を取る。
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
そう言いながら露になった顔にルイズは覚えがある。ノックの音を聞いた時から予感していた顔。
「姫殿下!」
昼間、学院総出で出迎えたトリステイン王女、アンリエッタがそこにいた。


ルイズとアンリエッタは思い出話に花を咲かせる。
ルイズは幼少の頃、アンリエッタの遊び相手を務めていたことがあった。
その頃のことを二人は顔に楽しそうな笑みを浮かべながら語り合う。
しかし、そんな和やかな空気もいつまでも続きはしなかった。
アンリエッタの顔からいつの間にか笑顔が消えている。
「……本当、楽しいことばかりでしたわね、あの頃は……」
言葉の裏を読むまでもない。昔を思い出して笑うことはできても、今、現在のアンリエッタを笑わせるようなことはないということ。
ルイズはアンリエッタの現状に思いを馳せる。
アンリエッタの父親でもある先王が3年前に急逝した。
その後今に至るまで、王の座は空いたまま。アンリエッタの母であるマリアンヌ大后も女王の座に就く意思はなく、アンリエッタは国民の期待を一身に受ける立場になってしまった。
今は宰相のマザリーニが政治を取り仕切っているが、アンリエッタに求められるものも増えていっているのだろう。
しかしそれは……。
「結婚するのよ、わたくし。……ゲルマニアの皇帝と」
アンリエッタが肺腑の中身をすべて吐き出すかのように言う。
「それは!」
アンリエッタの言葉に、ルイズは思わず声を荒げるが、すぐに声のトーンを落とす。
「それは……おめでとうございます」
ルイズは言った。それがアンリエッタの望む結婚ではないことも、そして、自分がそれを祝う気になどなれないことを知っていながら。
それは仕方のないことなのだ。
ルイズが、貴族として上に立つ以上、下に立つ平民のために力を振るおうと決めているように、上に立つ者にはその特権的な地位に相応しい責任がある。
そしてアンリエッタは王族。
このトリステインにおいて、最も特権的な立場にある存在だ。
「……レコン・キスタですね」
ルイズは吐き捨てるように言う。
レコン・キスタ。最近いやでも耳に入ってくる名だ。
ハルケギニアの統一と、聖地の奪回などという名目のもとに、アルビオンで反乱を起こしている者たち。
アルビオン王家の旗色は悪く、早晩アルビオン王家は滅びるだろうといわれている。
そうなったら次は、地理的にトリステインに攻め込んでくるに違いない。
しかし、歴史はあれど小国にすぎぬトリステイン。しかも求心力たる王の座も空いたまま。
アルビオン王家を滅ぼすような相手に、立ち向かうには厳しいものがある。
そこで、アンリエッタがゲルマニアに嫁ぐことで軍事同盟を敷き、アルビオンに立ち向かおうというのだ。
それはトリステインが生き残るためにとりうるほぼ唯一といっていい手段。
「ええ。王権に楯突く不埒者どもに対抗するには、これしかないのでしょう」
アンリエッタの表情は暗い。
目の前の王女は、ある意味でルイズと同じなのだ。
ルイズが貴族でありながら系統魔法が使えないように、アンリエッタは王族でありながら王者としての力を持たない。
先王の急逝によってアンリエッタは国を背負う力を持たぬまま、それを背負うことになった。

「でも……」
アンリエッタが気まずそうな表情をしている。
「どうかなさいましたか?」
ルイズがそれを気に掛けるも、
「いえ、どうかしてたんだわ。こんなことお願いできるわけないじゃない」
アンリエッタはそう言って首を振る。
どうやらルイズに「お願い」があって、わざわざ人目を盗んでルイズに会いに来たらしい。
そして、それはとても言いづらい事らしい。
「姫様。私でよければ何なりとお申し付けください」
ルイズは言うと片膝をついて頭を垂れた。

アンリエッタの話をまとめるとこうだ。
ゲルマニア皇帝との婚姻の妨げとなる手紙が存在する。
それはアルビオンの皇太子、ウェールズのもとにある。
このままではアルビオンが敗れたとき、その手紙がレコン・キスタに渡り、同盟の妨げになるだろう。
故に誰かが取りに行かねばならない。
「ああ! ルイズ。聞かなかったことにして頂戴。こんな危険なことあなたに話してもどうなるものでもないのに」
アンリエッタが嘆く。
婚姻の妨げになる手紙。
つまりは恋文ということだろう。
しかも、それがただの結婚ではない、軍事同盟を背景とした婚姻にすら影響するというのならば、始祖のもとに愛を誓った、そういうことだろう。
ルイズは口には出さないがそう結論する。
ルイズは心をきめて口を開く。
「姫様。手紙奪回のその任務、私にお任せください」
始祖の名のもとに誓ってしまった愛をなかったことにする。それは実に自分にぴったりの仕事ではないか。
ルイズはそう考えた。
自分が異端であることをばれなければいいと思っているように、その手紙もなかったことにし、ばれなければいいのだ。
そして目の前の姫君。
アンリエッタ自身が言ったとおり、本来ルイズのような一学生に言ったところでどうにもならぬ問題だ。
だが、アンリエッタには頼れる人間としてルイズ以外の者がいなかった。それゆえにこの部屋にいる。
アンリエッタも頼れる力を持たぬ、弱い者なのだ。
ならばルイズは弱い者のためにその力をふるうことに異議はないし、それが幼少のころ同じ時を過ごした友人であるなら尚更だ。
「しかし……よろしいのですか?」
アンリエッタがルイズに視線を向ける。
ルイズはそれに対してまっすぐに力強い視線を返す。
「……ではお願いしますわ」
アンリエッタはそう言うと懐から一枚の紙を取り出して、手紙をしたためる。
そしてその手紙と一緒におのれの指にはまっている指輪をはずし、ルイズに手渡す。
「これが私の使者としての身の証になるはずです」
それは水がそのまま固まったかのような青く透き通った宝石のついた指輪だった。
「それでは明朝、すぐにでも発ちます」
ルイズはそう言うとアンリエッタを扉の所まで連れて行く。
ルイズはドアノブに手をかけながら、アンリエッタのほうを向く。
「姫様。ゲルマニアに嫁がれましたら早く信頼できる者を見つけ、そばに置かれますよう」
アンリエッタに頼るべき力がないからこそ、ルイズはこの任務を引き受けた。
しかし、アンリエッタが力を持たないでいていいわけがないのだ。
例え先王の急逝ということがあったとしても、アンリエッタは早く己の懐刀というべき存在を見つけておかなくてはならなかった。
それを怠ったが故にルイズのような学生に頼ることになる。
自分が異端になってまで力を手に入れようとしているように、アンリエッタも相応の力を手に入れるよう努力しなければならない。
ルイズはアンリエッタの返答を待たずに扉を開けた。
ギーシュがいた。


「さあ! いざ行かん! アルビオンへ!」
ギーシュは杖を振りかざし高らかに宣言する。
「馬鹿」
ルイズはそう言うとギーシュの後頭部をぽかりと殴る。
「何をするんだ!」
「アンタねえ、隠密って言葉の意味解ってるの?」
不遜にもアンリエッタの後をつけ、そして部屋をのぞき見話を盗み聞きしていたギーシュは、結局ルイズとともにアルビオン行の任務に就くこととなった。
早朝の魔法学院の正門で2頭の馬が轡を並べている。
「あ、あぁ、そうだった。すまない」
後頭部を抑えながら謝るギーシュの足もとの地面もこもこと盛り上がる。
するとそこから巨大なモグラが顔を出した。
モグラはルイズをつぶらな瞳で見つめている。
「紹介するよ。僕の使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンテさ! どうだ! 美しいだろう!」
そう言うとギーシュはヴェルダンテを抱きしめて頬ずりをする。
ルイズが再びギーシュの後頭部を叩く。
「アンタは黙るってことを知らないのかしら?」
そう言うルイズだが、それは殴った理由の半分にすぎない。
もう半分は単純にモグラに頬ずりするギーシュの図が気持ち悪かったからだ。
ギーシュが頭を押さえてうずくまる。
なおも拳を握っているルイズを見ると、ギーシュはどうしても何時ぞやの決闘を思い出してしまい、少し腰が引けてしまう。
「そのモグラにはちゃんと留守番させておくのよ。急ぎだし、目的地が目的地だし」
ルイズがそう言って馬の手綱を取り、馬に跨ろうとしたところ、それを遮るものがあった。
ヴェルダンテだ。
「あぶねえ相棒!」
馬の鞍にくくりつけられたデルフリンガーが叫ぶ。
ヴェルダンテがルイズに猛然と飛び掛かるが、ルイズはデルフリンガーの言葉に反応し、ヴェルダンテが飛びかかる頃には何とかそちらを向いていた。
ルイズは両の手でヴェルダンテの突進を抱え止める。
がっぷり四つ。
早朝の魔法学院の正門前。
少女とモグラの異種族間相撲が行われていた。
「あぁ、ヴェルダンテ! 僕を殴るルイズを懲らしめてくれようとしてるんだね。なんて主人思いの素晴らしい使い魔なんだ!」
ギーシュはそう言うと感極まった顔をしている。
しかし当のヴェルダンテは何やら鼻をひくつかせ、ルイズの体をまさぐろうとしている。
それに対してルイズは、
「さっきから鼻を鳴らしてるんじゃないわよ~!」
突如始まった相撲で、己の腋から汗がにじみ出るのを感じていた。
鼻をひくつかせるヴェルダンテがまるでルイズの腋のかほりを嗅いでいるようで、ルイズの顔が羞恥で赤くなる。
「どっせ~い!」
「ああっ! ヴェルダンテ!」
ルイズは腰のひねりをつかってヴェルダンテを豪快に投げ飛ばした。
肩で息をしながら鬼の形相のルイズ。
その視界に、グリフォンに跨った、見覚えのある顔がいた。
「ワルド……様?」
その顔はえらく引いた顔をしていた。


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