あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔-13


 夜闇を飛ぶシルフィードの背中で、ギュスターヴはタバサに詳しい事情を話した。
学院で知り合いになったメイドの一人が、とある貴族に買われていったこと、その貴族があまり開明ではなく、私服を肥やす滑吏であるということ、ギュスターヴは
そのような所にシエスタを置いておくべきではないと考えて今に至ることを。
タバサはいつものとおりで、ただ静かに頷きながらギュスターヴの話を聞いていた。
「私も協力する」
 聞き終わりにそう一言だけ答えた。ギュスターヴは首を振る。
「駄目だ。モット伯の屋敷の近くまで送ってくれるだけでいい。危ない事はしなくていい」
「大丈夫。荒事は慣れてる」
「慣れてるって…」
 仮にも貴族なのだろうから、多少はそういうことも知っているのだろうが…ギュスターヴは正直、この静かだが稚い少女を深く巻き込むのは躊躇われた。
「とにかく、近くまで送ってくれるだけで大丈夫だ。帰りは自力で移動手段を見つけるよ」

 シルフィードが飛んで20分程で到着した、そこは平地に建てられた屋敷を見渡せる小さな丘だ。
モット伯邸らしきその屋敷は、塀でぐるりと囲まれた敷地に、生垣や敷石が敷かれた中に立つ。典型的な貴族の住まいという奴だった。
シルフィードから降りたギュスターヴは、月明かりを頼りに屋敷とその周りとを見比べている。
「どうするの?」
「まさか正面から堂々と行くわけじゃないだろう?」
 デルフとタバサが双方に質問を投げる。
「まぁ、俺の経験から言えば、ああ言った屋敷には緊急時の脱出用出入り口がある。屋敷から少し離れた目立たない場所に偽装してな」
 そういうとギュスターヴは、モット伯邸から少し離れた場所にある小さな林を指差した。
「あそこだ。周囲の地形や土地の手入れ具合から見て、あそこは故意に残された林だ。となれば…」
「そこに出入り口があるってか」
 合点が行ったらしいデルフ。タバサは無言のままだった。
「じゃあな、タバサ。用事があったんだろう?手伝わせてすまなかったな」
 笑いかけたギュスターヴを、少し視線を外してタバサが答えた。
「私は大丈夫」
 それだけ聞いてギュスターヴは安心したようで、デルフに手をかけて林に向かって歩き出した。



『モット邸潜入』




 時間は少しばかり巻き戻る。
 世間でいう夕食時も過ぎた辺り。シエスタはその日、昼間付けで馬車に揺られ、このモット伯の屋敷に連れてこられたのだ。
自分がどうやらこの屋敷の主にメイドとして召されたらしいというのはなんとなくわかった。学院の皆と離れるのは淋しいが、働くことが辛いわけじゃない。
そう、わりと楽観的に捉えていた。
しかし、屋敷で自分が通された部屋には天井近くの小窓しかないような窮屈な部屋で、しかも陽が落ちて薄暗くなる頃までずっとそこにいるように言われたくらいから、
なんだか様子が可笑しいと考え始めていた。
差し出された簡素な夕食を済ませて、部屋置きの椅子に座ってぼんやりと天井を眺めていると、コンコンと扉をノックして、一人の男が入ってきた。
その男は土気色の肌をして腰の曲がっている。枯れ木のような印象を与えながら、目がぎらぎらとしている。
服装から見て、その男はこの屋敷の家令であるらしい。シエスタをじっとりと舐めるように見てから、ヒューヒューと漏れる声で言った。
「今日からお前はこの屋敷で働くんだよ。判っているね」
「は、はい。不束ですが、よろしくお願いします」
「なぁに。ここのだんな様は優しいお方さ。それほど忙しい仕事は与えたりせんよ」
 ヒッヒッヒ、と引きつるような笑いを上げた家令の男は、部屋に置かれたクローゼットを開けて、一着の服を出してシエスタに投げ与えた。
「とりあえず、そこの浴室で汗を落としてから、その服に着替えなさい」
「へ…あ、はい…。…ぇ?…この服って…??」
 シエスタは自分に投げつけられた服をよく見た。それは学院で働いていた時に使っていたメイド服に『よく似ている』。しかしまるで部分部分の布を剥ぎ取ったように
なっていて、そのまま着ると見えてはいけない部分がかなり丸出しになってしまう。
「あの…本当にこれを着るんですか?」
「そうだよ。そうだね…今から一時間きっかりにまた来るから、その時はちゃんとこの服でいるように」
 家令の声には有無を言わさないという色が含んでいる。
「で…ですけどこの服じゃ、その…」
「つべこべ言わず着るように。貴方にも郷里に家族がいるでしょう?」
 家令の一言に衝撃を受けたシエスタ。つまり自分が従わないと、故郷の親兄弟に塁を及ばせると、そう言っているのだ。
「貴方は旦那様に『買われた』のですよ。大人しく饗されるのが身のためでしょう」
 そう言って男は部屋から出て行った。何も知らずにここに来た自分が愚かしい。そして抵抗する手段が無いことに、シエスタは泣いた。



モット伯邸に数多ある、部屋の一つ。置かれた暖炉には火が入っておらず、冷たいままだ。
 その暖炉の内壁が一つ、暖炉の更なる内側から突き崩された。
 崩された先には空洞が何処までも広がっている。そしてそこから松明を持った男がのそりと部屋に出た。
「おでれーた。本当に屋敷に出ちまったよ」
「ふむ。誰もいないみたいだな」

ギュスターヴはモット伯邸外の林の中を進み、一つの小屋を発見した。
その小屋は農具がいくつか置かれた物置にしか見えなかったが、ギュスターヴが床を突き壊してみると、それは地下へ続く階段になっていた。
ギュスターヴはそこからこの屋敷の中まで続く穴を一人、松明を持って進んできたのだった。
「一本道で助かったなー相棒」
「まったくだ。さて、シエスタは何処にいるのやら…」
 ギュスターヴは松明を暖炉の中に置いて、等間隔にランプが灯されている廊下に顔を出してみた。
人の気配が微塵もない。そっと乗り出し、慎重に進む。
時より廊下の角から足音が聞こえれば、近くの部屋に入り込んでやり過ごす。
 そうやって進んでいくと、他の部屋とは違う様子の場所を発見した。他の部屋がきちんと木の扉がはめられているのに、そこは鉄格子のような扉で、しかも
その脇から覗き窓らしきものがあり、そこから部屋の中を覗けるようになっている。
「何だこれは…」
「相棒、そこはちょいとやばいぜ」
 カタリ、とデルフが彼なりにひそむ様に話した。
「そこの部屋からだけ、すげーいやな感じがするぜ」
 不審に思ったギュスターヴは、覗き窓から中を見たが、部屋の中は明かりがなく、真っ暗で何も見えない。
次に鉄格子に手をかけてみると、なんと鍵がかかっていなかった。静かに明けて、中を覗く。
 人の気配は……ない。しかし、空気が澱んでいる。外に通じる窓もない。異臭のようなものもしなかった……不自然なほどに。
「ここに何があるんだ?デルフ」
「なんつーか、くせぇ」
「臭い?」
「俺様鼻ないけど、くせぇよ…ここ。人間にはわからないように、魔法か何かで細工してるんじゃねーかな」
 ギュスターヴは一度外に出て、廊下を灯すランプの一つを取って謎の部屋に戻った。
 部屋の中で高く明かりを掲げると、部屋に置かれたモノ達が視界に入り込んだ。
その衝撃に声が震える。
「これは…!」
「こいつはおでれーた!モットって貴族はとんでもねーサイケ野郎だぜ!」

 部屋にあったのは、死体だ。それも一人二人ではない。両手足の指が足らぬほどの人数の『女性』の死体が、粗末な布に包まれて積まれているのだ。
まるで壊れた道具のように。



シエスタはあの後、きっかり一時間後に再びやってきた家令の男の後を付いて歩き、一つの部屋に通された。
つまりそこは屋敷の主人たるジュール・ド・モット伯の私室であった。
「…お呼びでしょうか。旦那様」
「…ふむ」
 シエスタを部屋に招いたはずのモットは、部屋の執務机に座ったまま、綴じられた帳面のようなものに向かってペンを走らせていた。
「日誌をつけていたのだ。私の日課でね」
 部屋は広い。モットの机の周りにはいくつかの書棚が置かれて、その向かい側には人が3人は横になっても使えるくらいの巨大なベッドが二つ並べて置かれている。
しかし、それよりも目を引く一角が部屋にはあった。
その一角だけ、まるで壁を剥ぎ取ったように色が無く、人一人が乗ることが出来る程度の台、なにやら怪しい色の液体が入った瓶が数多く並べられ、鋭い針が
ついたような器具、壁の一部には鎖と枷が打ち込まれている。
「前の娘は3ヶ月は人間だったが、最期の半月は殆ど肉だったな。おまえはどれだけ保っていられるかな…」
 モットが机を立って全身がシエスタの視界に入った。シエスタの全身に恐怖が充填されていくようだ。新月の湖底に溜る泥のように、暗い目で自分を見ている。
「な、何のことでしょうか……旦那様」
 無意識の内に背中に負った扉に手をかけたが、ピクリとも動かない。いつの間にか錠を掛けられていた。
ゆっくりとシエスタに近づいたモットは手首を掴んで引き寄せると、その頬に伝う冷や汗を、べろりと舐る。
「ひぃ!」
「んー…これは…嘘をついている味だな。お前はすでに私が何をするのか分かっている、そうだな」
「わっ…わたっ……しっ」
 シエスタの表情が恐怖と戦慄で固まっていくのを満足げに見つめながら、手をかけようとモットが迫る、その時。

屋敷全体が揺れた。

「……なんだ?」
 振動とともに轟音が聞こえる。
 モットは不愉快そうに顔を顰めて、シエスタから離れて身を整えて部屋の扉に手を掛けた。
「お前はそこで待っているように」


「なんか音がしたぜ相棒」
「外側からだな。チャンスだ。注意が向こうに向かってる内にシエスタを連れ出す」
 ギュスターヴはシエスタを探しながら屋敷を探っていた。そして何度目かになる、部屋の中に潜んで廊下を渡る者をやり過ごす。
壁を通して廊下側から声が聞こえてきた…。

「一体何事だ!」
「旦那様!賊です!賊が侵入しました!」
「何だと?!フーケは捕まったはずではないか!」
「それが、賊は竜のガーゴイルで屋敷に突っ込み、二階の一角を占拠しておるのです。見たものによれば鉄仮面をつけているとのこと」
「ええい、もたつくな!賊を捕らえるのだ!生死は問わぬ!」

 声が遠く下がっていくのを確認してから、ギュスターヴは廊下に出た。
「賊が入ったんだってよ。ラッキーだったな相棒」
「うん。……ラッキーついでにいい作戦が浮かんだぞ、デルフ」
 ギュスターヴは廊下を、声が遠ざかる方向と逆に進んでいった。


 モット伯邸2階、西の一角。
 そこは賊が操るガーゴイルの突入で廊下まで壁がぶち抜かれ、瓦礫が廊下を塞いでいる。
「早くこの瓦礫を取り除くのだ!」
 叫ぶモットの声にあわせて何処からか湧き出した家来達がへいこらと瓦礫を片付けようと動く。すると控えていた家令の男が叫んだ。
「旦那様!賊が!」
 なんと瓦礫の隙間から賊が覗いていたのだ。家来が話したとおり、なにやら物々しい鉄の仮面を被り、顔かたちがわからない。瓦礫で体も見えず、男か女かすらも
不明だ。
 瓦礫の隙間からちらりと杖が見える。次の瞬間、氷の槍が瓦礫越しに作られてモット達の方向へ飛ばされていく。
「ぬぅ!」
 モットも杖を振ると、杖先に水気が集まり、水の帯となって伸びる。氷の槍は舌のように蠢く水の帯に叩き落されて床や壁に刺さる。
 その後も賊は断続的に魔法でモットらに攻撃し、モットがそれに対して魔法で対抗する。
 一向に瓦礫の除去が進まず、痺れを切らしたモットは、杖を構えなおして呼吸を変えた。
神経を大気から集めた水気に集中させる。
「『ウォーター・ショット』!」
 モットは水のトライアングルメイジだ。水の属性は性質上、攻撃には不向きだが、ある程度上位の魔法になれば攻撃に転ずる事も出来る。
モットの周囲に集められた水気が弾丸のように飛ぶ。高圧で打ち付けられた水は石もたやすく切るのだ。その衝撃はたやすく瓦礫の山を吹き飛ばした。
飛ばされた瓦礫の先には、ガーゴイルにまたがる鉄仮面の賊がいる。
「逃がすなー!」
 モットの号令に飛び掛る家来達。しかし一歩遅く、賊のガーゴイルは飛び込んで出来た穴から外へ飛び去った。
「おのれぇ……」
 不快な闖入を許し、怒りに顔を歪めるモット。脇の家令は家来達に命令しながら、部屋を見て眉をひそめた。
「旦那様、おかしいですぞ。賊めに盗まれたような形跡がございません」
「ふん、私らの相手をするあまり、盗むのを忘れたんだろう。ここの片付けは任せる。私は部屋に戻るぞ」
 そういうと振り返らずにモットは自室に向かって歩いていった。


(とんだ邪魔が入ったが、夜はまだ長い。あの娘で不興を濯ぐとしよう…)
 せっかく買った娘だ。何をして愉しむかと、語るにもおぞましい妄想を走らせながら、モットは部屋の扉を開けた。
「む?」
 勇んで帰ってきたのに、肝心の娘がいなくなっている。

(逃げられたか?)
 屋敷の混乱に乗じて逃げられたか。そういえば慌てていて部屋の錠を忘れていた、と舌打ちをするモットだが、事はそんな単純な事ではないことに徐々に気付き始めた。
部屋が荒らされているのだ。特に執務の机周りや書棚が引っ掻き回されている。そして明らかにいくつかの書類と、自分がつけていた日誌が無くなっているのだ。
わなわなと体が震えてきたモットは、机の上に貼り付けられた紙に目が留まった。

そこには一文、殴り書いたように文章と署名がされている。

『娘と秘密書類は頂いた 鉄仮面』




月明かりの夜空の元、街道を歩くギュスターヴとシエスタ。
ギュスターヴはあの後、部屋の一つで呆然としていたシエスタを発見し、彼女からこの部屋がモットの私室であることを聞くと、急いで部屋から
いくつかの書類や本を選び出して、シエスタとともに脱出したのだ。
 シエスタは屋敷のどこからか失敬したローブを着込んでいる。夜風の中であの格好は可愛そうだろう。
 シエスタは歩きながらギュスターヴが持ってきた書類を不思議そうに覗き見た。
「部屋を出るときに私に聞きながら色々持って来ましたけど、何なんですかそれ?」
「そうだぜ相棒。俺様も文字は読めるから手伝ったけど、そんなもん持って帰ってどうするんだよ」
 デルフとシエスタの声を聞きながら、ギュスターヴはパラパラと書類に目を通しながら歩いている。
「ああいう滑吏は色々な後ろ暗い資産の情報を持っている。それは他人のだけじゃない、自分についてのもだ」
 日誌や書類にはびっしりとモット自身が誰に便宜を図ってもらったのか、あるいは便宜を図ったか、さらにどこどこから娘を買い、どうやって辱めて殺したかまで
詳細に書かれていたのだ。
「シエスタだけ連れ出したらシエスタが逃げたと思ってシエスタの知り合い……そうだな、親兄弟とかに迷惑が掛かるだろう」
「はい、あのお屋敷の人にも言われました」
「しかし自分の悪行の証拠を握られているとすれば、そう簡単に動くことは出来ないだろう。しかも偶然入ってきた賊を騙って持ってきたからな。尚更動けないだろう」
 夜空の中を月明かりを頼りに歩く二人に、不意に影が差し込んだ。
 見上げれば土気色の竜と、それに誰かが乗っている。それらはバサバサとゆっくり降りて、二人の前に乗っていた何者かが立った。
「モット伯に突っ込んだって賊か!?」
「まて、デルフ」
 腰元でカタカタと暴れるデルフを握って抑えるギュス。シエスタは震えながらギュスターヴの背中に隠れた。
 モット伯に潜入したらしい賊は矮躯だ。顔にはうかがい知れないように鉄仮面を被っていたが、賊は二人の前で何の躊躇いもなくそれを脱ぎ去った。
「ミス・タバサ!」
「おでれーた!ちびっ子だったのかよ!」
 賊に扮していたタバサは装いに使っていたらしきローブを脱いで、鉄仮面と一緒に纏めて路上の端に投げ捨てた。
「しかし随分大胆だなー。とっ捕まったらどうするつもりだったんだい?」
「問題ない。彼が貴方を連れ出す時間だけ稼げればよかった」
「私ですか?」
 頷くタバサ。その言葉にシエスタの瞳が潤んでいく。
「皆さん……ありがとうございます」
「乗って。歩くと朝まで掛かる」
 タバサは待たせていた竜の姿のガーゴイルに乗って二人を促した。よく見ればそれは行きの時に乗ったシルフィードに違いない。
「シルフィード…だよな?色が変わってるけど」
「秘薬と魔法で変えた。一晩で元に戻る」
 きゅいぃ、と弱弱しく鳴くシルフィード。シルフィード本人にはあまり愉快な装いではないだろう。
「お前にもお礼をしなくちゃな」
 ギュスターヴの言葉にきゅいぃ!と嬉しそうに鳴き、シルフィードは飛び立って学院に向かった。

帰路の時にタバサが語るところでは、ギュスターヴを送った後、用事であった秘薬屋へ向かい(何かしらの薬をもらう予定だったそうだ)、その折に変装の道具を調達し、
モット伯邸に突入したのだという。
快速を知られる風竜であるシルフィードだからこその早業だった。




 後日、コルベールと相談して王宮にはコルベールの名でモット伯の悪行を告発する文書と書類を送り、賊の侵入でてんやわんやだったモット伯は
更なる衝撃に見舞われた。結果としてモット伯は役職から外され、領地と財産を没収、伯から男爵へ爵位を落とされた。
 シエスタは数日の間タバサの部屋に匿われていたが、モットが処罰されて後に学院付メイドに復帰した。

「不思議なことがあるものね」
「うん?」
 部屋でルイズがお茶にミルクを入れながらつぶやいた。ギュスターヴはデルフの手入れをしている。
 手入れの手並みに満足しているらしいデルフが「あー生き返るー」とおっさんのようなことを言っているが、二人は気にもしない。
「だってシエスタってメイド、賊に浚われたのに傷一つつけられないで開放されたんでしょう?」
「まぁ、そんなこともあるさ」
 学院には『シエスタはモット伯の屋敷で賊に浚われてどこかに軟禁されていたが、ある時薬を嗅がされて気を失い、気が付いたら学院の医療室にいた』と証言するように
口裏をあわせた。
不自然に為らないようにタバサ経由で手に入れた眠りの鼻薬を使う念の入れようだ。
「それといつの間にコルベール先生はモット伯への告発文なんて用意できたのかしら。証拠もばっちり揃えて」
「この前話した時から詳しかったじゃないか。あの時から用意してたんだろう」
「コルベール先生、告発が買われて王宮から報奨金もらったのよ。『おかげで研究が進みます!』なんて言ってたわ」
 実はその報奨金の一部はコルベールの好意でギュスターヴにも渡されていたのだった。さらにギュスターヴからシエスタに渡され、そのお金はシエスタの故郷への
仕送りとなって流れて行った。
「ほんと、不思議なことがあるものね」
「そんなものさ」
 日差しのまぶしい、ある日の午後の会話である。


新着情報

取得中です。