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ブレイブストーリー/ゼロ 20

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 ムスタディオが凄まじい速度でゴーレムの元へ斬り込んで行く。
 その後姿を、ルイズは見つめていることしか出来なかった。杖を握る手が、力の込めすぎでぶるぶると震えている。

 自分は何も出来ないのか。自己嫌悪が頭の中でぐるぐる廻る。回転数が上がりすぎて、頭が破れて中で煮詰められたそれが噴出しそうだ。
 魔法の使えない自分。使い魔に平民を召喚してしまった自分。使い魔とうまくコミュニケーションすることすらできない自分。誰も助けられない自分。
 そして、使い魔に正しい貴族の在り方を示そうとして空回る自分。

 泣きそうだった。
 自分は何をしているんだろう。逃げなきゃいけない時に判断を誤り、今は座り込んでいるしか出来ていない。

「う、うぅぅ……!」

 ルイズは歯を食いしばった。
 泣いてなんかやらない、と思う。
 自分がフーケに立ち向かおうとしたことは愚かかもしれない。
 でも、間違いではない。
 絶対に。

 何か出来ることはあるはずだ、と立ち上がり、ルイズは辺りを見回す。何でもいい。ゴーレムの気を逸らすことだっていい。タバサと合流して何か案を練るのでもいい。
 しかしタバサの使い魔は空に見えず、はばたく音はゴーレムとムスタディオの戦闘音が騒々し過ぎて聞き分けられなかった。

「……あれ?」

 焦りながらふと地面を見下ろしたルイズは、そこで気付いたことがあった。
 自分から数メイル離れた茂みに何かが刺さっている。
 近づいてみれば、それは鈍い光沢を放つブレイズガンだった。

「…………」

 ルイズはブレイズガンを両手に抱き締めると、無言でムスタディオが飛び出して行った方向を睨む。

(――その中でもあれは魔ガンと言って、銃身に魔法が刻印してあるんだ。魔法が使えない者も、潜在的な魔法力に依存して決められた魔法を起動できるんです)

 胸の中では、街に出かけた日のムスタディオの言葉が反芻されている。



「ブレイブストーリー/ゼロ」-20



   ◇

 まるで流星のように飛び込んできたそれが、一瞬何なのかフーケには理解できなかった。
 自らの手元に抑えつけている杖が轟音を吐き出した直後、弾丸が面白いように地面を大きく抉り、人間の頭程ある土塊がいくつも跳ね飛んだ。しかしその飛散物の中に本物の頭はない。
 自分は倒れていたキュルケという生徒に狙いを定めていたはずだ。
 ゴーレムの背後で、地面を転がる音。

「……げほっ!」

 むせ込む声に体を振り向かせたフーケが見たのは、キュルケを抱きかかえたまま立ち上がろうとする、擦り傷だらけのムスタディオだった。
 銃が炸裂する直前に飛び込んできたムスタディオが、キュルケを抱えてゴーレムの股下を飛び抜けたのだ。

「ちぃっ! まったく鼠みたいな素早さだね!」

 銃はゴーレムの肩に強固に固定してある。フーケは慌ててスペルを紡ぎ、柔軟に照準を変えられるよう固定具を変化させながらゴーレムを旋回、二人を踏み潰そうとしたが――それより先に、飛び込んできたのと同速度でムスタディオは森の中へ飛びずさっていた。

「逃がさないよ!」

 フーケは彼が消えた方向へ杖を解き放った。
 銃の機関部が凶悪な唸りを上げる。
 次々と木がなぎ倒され始める。
 彼女はここで彼らを逃がすつもりは毛頭なかった。
 逃がせば後々面倒なことになるし、それに、彼女はどうしてもあの杖を手に入れなければならなかったから。

 ふと、猛る理性の裏側で――どうしてこんなことになったのだろう、と問い掛ける自分がいた。
 彼らに助力を請うという選択肢もあったのではないかと思う。 
 森林伐採のごとく銃を乱射しながら獲物を追う。フーケは自嘲するように口角を吊り上げる。

(この家業を始めた時から、そんな選択肢は選べないわよ)

 犯罪者である自分は、
 もはや奪うことでしか得ることは出来ないのだから。

 そうだ。
「彼女」に何か与えるためなら、他のあらゆる全てから奪う覚悟は出来ている。
「彼女」がもう奪われないなら、他のあらゆる全てが奪われ続けても問題はない。

 心の内を再確認し、自嘲を獰猛な笑みに摩り替えたフーケは、しかし次の瞬間困惑することになる。
 ゴーレムが木や土の破片ではない何かを踏み付けた感覚があった。その何かが潰れた途端、足元から煙が噴出したのだ。
 瞬く間に周囲がもやでつつまれ、視界が遮られる。慌てて口を塞ぎながら、匂いで煙に土の成分が含まれていることを察知したフーケは素早く成分分析を試みる。

 ――明らかに人の手が加えられたもの。
 時折起こる、地面の下に溜まった毒霧の噴出などではない。

(これは、まさか罠かい!?)

 頭の中で位置関係を必死に思い浮かべる。そういえばこの近辺は、ムスタディオがついさっきまで潜伏していた。
 追い詰めたつもりが、自分が追い詰められていたのかもしれない。一瞬そんな考えが脳裏をよぎり、フーケはそれを否定する。
 彼我の間には圧倒的な火力の違いがあるのだ。早々後れを取ることは、ない。

「ふん、このあたしを謀るなんてやるじゃないか! たっぷりお礼をさせてもらうよ!」

 フーケは銃を猛らせ、狩りを開始する。

   ◇

 背後で大きな足音が響くたびに、追随して次々と煙が噴き出す音が聞こえてくる。
 足音の動きはでたらめであるように聞こえる。攻撃の照準も散漫で、そのお蔭でムスタディオはキュルケを抱きかかえるハンデがありながらも逃げおおせていた。
 運よく逃げ込めたのが自分が潜伏していた方向で良かった、とムスタディオは胸を半分だけ撫で下ろす。万一のために罠を広範囲に仕掛けておいたのだった。
 それはここ一週間程コルベールと行っていた研究の成果だった。こちらの世界に来る前の装備品の話をコルベールにしたところ興味を持たれ、彼はその再現にも腐心してくれたのだ。
 結局再現できたのは比較的安価で構造も単純だった煙幕一種のみだったが、ムスタディオはコルベールに内心感謝した。今となってはやや苦い思いと共に。
 必死に灌木や木の根を避けながら走っていると、煙幕に包まれた一帯を抜け、ぶわりと視界が開ける。
 ムスタディオはひときわ大きな木の陰に隠れると、先ほどからずっとぐったりしているキュルケを地面に横たえさせた。

「キュルケ、大丈夫か!?」

 小声での呼びかけに返事が来る。

「大丈夫だよ相棒、魔法の衝撃波に殴られて気絶してるだけだ」

 驚いて手元を見る。握り締めたデルフリンガーが鍔元をかちゃかちゃ言わせていた。

「よう、久しぶりだな相棒。ハゲの先生と遊んでばっかで構っちゃくれないから寂しかったぜ。
 しかしまぁ、久しぶりに抜いてくれたと思ったらおっかない状況だな、こりゃ」
「デルフ……」

 がちゃがちゃ笑うデルフリンガーの音が、フーケが撒き散らす騒音にかき消されていく。
 近づいて来ている。

「相棒、ありゃなんだい? またすっげぇ魔法、いやありゃあ武器だな。俺と似た匂いを感じるぜ」
「あれは……魔シンガンって言うんだ」

 のん気な問いかけに、キュルケを抱き直しながら短く答える。
 フーケが操る武器。それをムスタディオは二度、お目にかかったことがある。
 一度は軍事金稼ぎのために派遣されていた仲間が持ち帰って来た時。あの時はゴーグに持ち帰って散々父や機工士仲間と分解・解析したものだ。
 ムスタディオのブレイズガンが弓矢なら、あれは大砲である。その形状からは予測もつかない破壊力に、機工士たちは仰天していた。破壊力と反動の強さに、自分たちでは実用出来なかった代物だ。
 二度は、死都ミュロンドにて、蘇った同業者が操っていた。神殿騎士となり、自分たちに立ちはだかった機工士の顔が思い出される。
 しかし今はそんなことを考えている暇はない。首を振って思考を切り替えようとした時、ばさりという音が頭上で弾けた。空からシルフィードが降下してくる。
 その背中にはタバサが跨っていた。やや安心するものの、不安の種は消えない。
 一同が集合した。ルイズを除いて。

「タバサ様、ヴァリエール様はどうしたんだ!?」
「分からない。上からじゃ見つけられなかった」
「――まさか」
「そう、たぶん」

 悪寒が酷い。頭痛すら覚える。
 そんなムスタディオをじっと見ながら、タバサはあふれ出る煙幕を指差した。

「あの中。私じゃ助けられない」
「――行ってくる。タバサ様はキュルケを連れて、オレが戻るまで安全なところに逃げてくれ」

 言うが早いか、ムスタディオは煙幕と轟音の中に突っ込んだ。
 煙が徐々に晴れてきている。ムスタディオは異常なまでの速度で木々の間を駆け抜ける。
 三秒もせずに曇ったヴェールの先に巨大なシルエットを認めた。連続的に放たれる射撃音に頭をガンガンと打たれながらムスタディオは木の影に身を潜め、周囲を見回す。
 ゴーレムからの射撃は相変わらず無作為な乱射である。誰かを狙ってのものではなく、恐らくルイズはフーケに見つかっていないのだろう。だが、

「おーおー、こりゃまた酷い暴れっぷりだな。こりゃ嬢ちゃん、側杖食らって挽肉になってるかもしれねーな」

 デルフリンガーがムスタディオの内心を言い当てる。
 こんな状況では標的にされるされないは関係ないのだ。戦い慣れていないルイズがこんなやぶれかぶれな攻撃にさらされれば、時間が経てば経つほど死の危険性が増す。

「どうするつもりだい?」
「……勝機はあるよ。むしろ好都合だ」

 そう。ムスタディオは焦る一方でそう思う。
 ルイズの危険を棚に上げれば、敵は頭に血が昇るか錯乱するかして我を忘れている。虚をつくのは簡単だ。
 ムスタディオは木々を縫うように旋回する。体がやけに軽い。自分の右手に光るルーンを一瞥し、ゴーレムの真後の木に隠れた。
 煙が随分と薄まっている。
 今まではぼんやりとした概形だけだったものが、
 ゴーレムの肩上の人影が、魔シンガンを抑えつける格好で振動に揺れているのが分かるまでに。

「デルフ、相談があるんだ」
「なんだ相棒。なにかすげぇイヤな予感がするのは気のせいか? おい、その構えはなんだってんだ」

 ムスタディオは物影からゴーレムが見えるギリギリの角度に立ち、デルフリンガーを振りかぶって体中に捻りを加えている。
 彼は機工士であるが、戦いの中におけるその本分は狙撃手である。
 この状況ですべきことは決まっていた。

「本当に悪い。後で絶対回収するから」
「ちょっとまった相棒何をしようとしてやがるってうおおおおおおおお!?」

 投擲。

 連動した体中の膂力を一身に受けたデルフリンガーは悲鳴の尾を耳朶に残しながらゴーレムに飛ぶ。
 照準は肩の上からぶれることなく、ゴーレムがその一瞬で大きく回避をするわけでもなく――
 デルフリンガーは、あっけないまでにフーケの人影に突き刺さった。

 衝撃でフーケが肩から吹き飛び、地面に落ちた。
 ゴーレムからの銃撃が止み、その動きが止まった。
 それだけ確認し、ムスタディオは慎重にフーケに近づいて行く。
 煙の中、フーケは胸からデルフリンガーを生やしたまま身じろぎもしない。
 死んだか、気絶しているだけか。後者なら捕縛するか止めを刺さなければならない。
 そんな剣呑なことを考えているムスタディオの耳朶を打つ声があった。

「近寄るんじゃねぇ相棒!!」
「甘いよ坊や」

 声は、二つ。
 しかしそれは、同じ方向から聞こえてきたものではなかった。
 ムスタディオがその時視界に捉えていたのは、土くれで出来た人形に突き刺さったデルフリンガーの姿で。

 次の瞬間、地面が炸裂した。

 頭上から降り注ぐ轟音と地面から殴り込んでくる石礫になす術もなかった。
 それが銃撃の衝撃波によるものだと認識する間もなく、ムスタディオは吹き飛ばされた。
 もみくちゃの浮遊感の後、鈍器で殴られたような衝撃に背骨が軋む。ぐう、というただの音みたいな声が涎と共に口から吐き出され、四肢を糸の切れた人形みたいに地面に投げ出す格好になった頃にはほとんど意識を失いかけていた。

「相棒! おい、しっかりしやがれよ!」
「本当に残念。せっかくそんな実力を持ってるのに、詰めが甘いんじゃ興ざめよ」

 降り注いでくる声の意味が汲めない。
 輪郭という輪郭が崩れ、回る視界が暗くなる。
 しかし気絶はしなかった。少しずつ感覚が戻り始めるのを感じる。

「ムスタディオっ!!」

 視界の暗さは目の前に誰かが立っているためのものだと気づくのに、そんなに時間はかからなかった。
 そして、耳の右から左を流れ続ける声に、妙に馴染みの深い物をムスタディオは聞き分ける。

「あら、逃げなかったの。勇敢でいいけど、それからどうするつもり? 逃げたほうがいいんじゃない?」
「うっ、うるさい! 絶対にどかないわ! ムスタは死なせないんだから!!」

頭上からの声に反発するような響きの声。ハルケギニアに来てからというもの、ムスタディオに様々な感情を喚起させた声だった。
一時は頭がどうかなりそうな位憎らしく思った声だった。
それから、彼女の事情もあるのだろうと別の視点から見てやれば、年相応の素直でない少女だった声。

でも、それでも彼女は貴族ではないのか。
少女から大人になった後でも、今みたいに誰かが危険に曝された時や誰かが苦しむ時、その前に立ちはだかり、かばってくれるのか。
彼らのように。

それは戦いの最中において余計な思考だった。
しかし様々な感覚が吹っ飛ばされたムスタディオは、益体もなくそんなことを考えてしまう。

ムスタディオは幾分視界の戻った目で見やる。
桃色がかったブロンド。小さく、細い背中があった。
ゴーレムから自分を守るように、手を伸ばせば届く距離に立っていた。



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