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鋼の使い魔-08


 時系列が前後し、虚無の曜日から2日ほど前―――



 トリステイン魔法学院、学院長室のある塔は頂上階に学院長室が置かれ、その下に宝物庫が置かれている。
宝物庫には学院発足以来の種々様々の貴重な物品が数多く寄贈され、盗難を防ぐべく
堅固な扉壁(ぴへき)が施されたこの一室に集められているのだった。
その宝物庫の厚い鉄扉が開かれ、内部の壁面を掌でなぞっている女性が一人。その手には巧みに細工されて
一見してそうは見えないように杖が仕込まれている。
「なんて強固な『固定化』なんだ。私の『錬金』が殆ど効いていない……」
 『固定化』によって形質の変化を止めた物質には、『固定化』を上回る力で『錬金』をかけることで無効化できるのだが、
女性の『錬金』は宝物庫に如何ほどの変化も与えることが出来なかった。
女性は宝物庫の中をフラフラと歩き回っていたが、開け放たれた扉の向こうから階段を上ってくる足音が聞こえると、
不審な素振りを辞めて身につけたローブのたたずまいを直した。
足音は徐々に大きくなり、螺旋階段を抜けて扉の向こうに人影となって現れた。
穏やかな瞳をした、すこし額の広い男。
「ここにいましたか」
「何の御用でしょうか。ミスタ・コルベール」
「個人研究費用の一部を経費で落とせないものかと思いまして……どうでしょうか?ミス・ロングビル」
 困ったように頭をかいてごまかすコルベール。彼は優秀なメイジであり且つ、先見的な発想を持つ優れた研究者だが、
他の事柄については疎くあった。
 ミス・ロングビルと呼ばれた女性は、コルベールの提案に最も必要な意見を返して宝物庫から出た。
「オールド・オスマンへ領収書に使用目的を述べた書類を添付して提出なさるのでしたら、こちらで受け付けますわ。
……個人的には、望み薄かと思いますけれど」
 コルベールもそれくらいのことは分かっていたらしく、申し訳なさそうに笑った。
「……ところで、ミス・ロングビルは宝物庫で何を?」
「収蔵品の目録を作成しようと思いまして」
「それはそれは。仕事熱心なことで」
「いえいえ。……それにしても、宝物庫には随分と強力な『固定化』が掛けてあるのですね」
 それはもう、とコルベール。
「なんでも、数十年ごとにオールド・オスマン自らが数日の準備をして施すものだそうですから。
並の魔法では傷一つ、つかないでしょうな」
 しかし、とコルベールは言葉を切る。
「しかし、なんです?」
「それも想定されているのは通常の魔法だけですから。何か搦め手を使われて賊の侵入を許すようなことがあれば
収蔵品を荒らされる可能性がありますし。もう少し他の教師の方々にも、当直の厳守をしていただきたいものですなぁ」
 学院には教師生徒合わせて300人余りのメイジと、衛兵その他奉公の平民を合わせて1000人は住み込んでいる。
学院を囲む壁も強固な代物で、賊など入ってくるものかと当直をサボる教師が殆どなのだ。
 コルベールの言葉にミス・ロングビルは何かを拾うように目を細めた。
「通常の魔法……か…」
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ…何も」
 では失礼、とコルベールは来た階段を下りていった。
 それを見送ったミス・ロングビルは、にやりと不敵に笑って顔を歪ませた。







ルイズ達一行は馬と風竜に分乗してさしあたりなく学院に帰還した。タバサはキュルケを降ろして自室の窓から部屋に戻ったが、
他三人は馬を厩に返してから自らの足で階段を上る。
 過不足なく最適なお買い物ができたおかげで上機嫌なルイズ。ギュスターヴのお陰と思えば気持ちも軽い。
逆に、別に欲しくもない剣をやたらめったら高い値段で買わされ、さらに割賦払いがあるために
暫くの月日をカツカツに過さなければならないキュルケは足取りが非常に重たい。
恨めしそうにキュルケはギュスターヴとルイズを見る。
「本当にこれ、いらない?」
「いらないわよ」
「辞退しよう」
 にべもなく即答。一層かっくりとキュルケは肩を落とした。
「今日はもう寝るわ……」
 ふらふらとした足取りで部屋に入っていくキュルケであった。
 ルイズとギュスターヴも部屋に戻り、買い物荷物を整理した。ルイズは荷物を片付けてから再びドアを開ける。
「私は今から魔法の練習に行ってくるから」
「熱心だな。行ってらっしゃい」

 部屋に一人残されたギュスターヴ。腰に挿して持ってきたデルフを抜いてやる。
「おいおい相棒ー、会ったばっかりだってのにつれないじゃなねーか。もっと愛想よくしてくれよー」
 帰りの道中、デルフの余りの饒舌に疲れてきたギュスターヴは、鞘にデルフをきっちりと収めて黙らせていたのだ。
「そう言うなよデルフ。なに、話したい事があったらお前を砥ぎながら聞くよ」
 デルフを一旦置いて、小さな桶に水を汲む。買い物荷物や私物の中から雑多な布切れや独特の形状をした石を何個も取り出して、
桶の水に浸した。デルフは刃の根元が複雑に組み合わせてあり、刀身だけの状態に出来るようになっていなかった。
もしかしたら分解すると人格が消えてしまうのかもしれない。
水につけた石を、同じく水で濡らしたデルフの刀身に当てて、静かに滑らせた。
シュッ、シュッ、と刃物を研ぐ独特の音がルイズの部屋に響く。
うまいねぇ相棒、とデルフにも高評価だ。
「最初に『使い手』といったな。あれはどういう意味なんだ?」
 刃が研がれて汚れてくるとボロ布でふき取り、また水をつけて滑らせる。
「どういうって……んー、なんだっけ?」
「自分で言い出したんだろう」
「いやーそれがよ。俺様ってものすげー昔から剣なんてやってるからよ、あんまり昔の事だとはっきり覚えてないんだわ」
「そりゃ困ったな。あれのことと関係ありそうだったのに……」
 あれとはつまり、ワルキューレに剣を入れた時の、あの心もとないような手ごたえの違和感だった。
「ん…多分それ、関係あるぜ」
 陽に研いだ面を当てて研ぎ具合を確かめる。
「本当か?」
「おう。なんでか思い出せねーけど。お前さんの左手の刻印を見てると、そんな気がしてくる」
 デルフをひっくり返して反対側も、同じように研ぎこんでいく。
「俺様からも聞いていーか?相棒」
「なんだ?」
 研ぎ終わりに油紙でそっと刃を撫でると、油紙は自重でゆっくりと切れて落ちた。
「相棒って、生きてるよな?なんつーか、相棒からだけ、他の連中とかみたいな印象を感じねーんだ。こうやって握られているのに」
「……そうか」
 それはつまり自分には命の源たるアニマが通っていない、と言う事を指しているんだろう。
世界を流れる生命回帰の輪から弾かれた己が想起されるが、努めて明るくデルフを笑ってやった。
「勿論、俺は生きてるぞ。心臓だって動いてる」
「そうか、そりゃよかった。グールやゾンビが相棒だったら、俺様も寝覚めがわりー。俺、眠らないけど」
 デルフも鍔を鳴らしてカタカタと笑った。



学院長室のある塔を望む広場。陽が暮れ始め、既に斜陽深まりつつあった。
 日課となって久しい魔法練習に来たルイズは、広場に入るなり隅の邪魔にならない所に積み上げられた杭を拾いに進むと、
植え込まれた樹木の一つに人影が見えた。
「誰?」
 声をかけられ人影は激しく動揺してビクビクと動いている。なんてこない。見知らぬ顔ではなかった。
「…や、やぁ。ルイズ。決闘騒ぎの時は迷惑をかけたね」
「なんだ、ギーシュじゃないの……。…って、なんか、白くなったわね」
「HAHAHAHAHA!」
 笑い声の調子が外れていて気持ち悪い。
「……まぁ、いいわ。今から魔法の練習するから邪魔しないでね」
 なんだか決闘以来おかしくなっているギーシュを放っておき、拾った杭を突き立てて、ある程度距離をとり構える。
深く一度息を吸って、意識を込める。
「ファイアーボール!」
 杖を指し示すと同時に、杭の頭は爆発し弾け飛んだ。
 ここ数日、真剣度合いの違いが結果に影響を与えるということが、殆ど無いあたりに抜群の安定感がある。
今年度の横浜に欲しいくらいである。
「最近段々威力がコントロールできるようになっちゃったのが悲しいわね……」
 自嘲的な笑いとため息が絶えない。
 その後もルイズは何度も魔法を杭に向かって唱えた。構えを変えたり、呪文を変える等の試行錯誤を繰り返したが、
不思議なことにどれ程杭から距離をとってみても変わらず瞬間的に失敗の爆発は杭を吹き飛ばす。
 木陰からそんなルイズの風景を、ギーシュはすることも無くただただぼーっと眺めていた。
ふと、風景の端に何か黒いものがひらひらとはためく。
「何だあれは……」
 視線を外して黒いものを目で追っていく。黒いものの正体は学院長室の屋根に降り立つ何者かのローブが風で揺れているものだった。
 ギーシュがそれを認識した時、俄に地面が震え始める。なにか重いものを挟んで聞こえてくる地鳴りのような音の正体は、敷地を囲む
壁の向こう側から盛り上がる土の山だった。
 土の山が壁を超えたほどの大きさになると、それは次第に巨大な人型となって壁を跨いだ。塔の上の人影が、土の巨人の肩に乗り移る。
「ぞ、賊だー!」
 ギーシュが叫ぶ。それにルイズが振り返ったその時。
 現れた土巨人は、学院の塔の一つを、小さな馬車ほどはあるだろう巨大な拳で殴りつけた。それによって生じる衝撃と音たるや、
オーク鬼のげっぷとハンマーで硝子を割る音を合わせて百倍にしたような、強烈な激音である。
 当然学院中の人間はその音に驚いた。気の弱いものは一度聞いて失神し、耳のいい使い魔は泡を吹いて卒倒した。
「な、なんだあれは!」
「ゴーレムの上に人が居るぞ!」
「誰かあいつを止めろー!」
 色々な窓から顔を出して謎のゴーレムを指差しざわつく学院の人々。意を決して誰かがゴーレムに取り付こうと
『フライ』や『レビテーション』で近づこうとすると、ゴーレムはその巨大な腕を払って寄せ付けようとしない。
その動きは大きさゆえに緩慢だが、ほんのわずかにかわすだけでも腕の振りが起こす風が近寄るものを翻弄する。

「わたしがやるわ!」
 見上げるほどのゴーレムを前に杖を握り締めるルイズ。
どっちにしたって失敗だけど、威力と距離のコントロールだけはうまくなったんだから!
「ファイアーボール!」
 ゴーレムの肩に乗る賊に向かって杖を振る。その爆発はゴーレムの胸辺りまで迫り、土砂で出来ているらしいその体を抉ったが、
ゴーレムの運動は止まらずに相変わらず塔の壁を叩いている。
「ルイズー!」
 異常を察知したギュスターヴが寮から飛び出して駆けつける。その後にはキュルケとタバサも着いてきている。
「何あれ?!」
「知らないわよ!でも賊が学院に入り込んだのよ?しかもこんな大胆に」
「あの塔には何がある」
 ギュスの声に真っ先にタバサが答えた。
「学院長室。でもこの時間には居ない。狙いは多分、宝物庫」
 宝物と賊、二つの言葉がルイズの中で繋がる。
「まさか、街で聞いた盗賊?!」

宝物庫のある塔を外側から巨大なゴーレムを用いて打撃する謎の盗賊。名を『土くれ』のフーケという。
フーケの犯行は慎重にして大胆。忍び込んだ屋敷は数知れず、特に汚職に塗れたような性悪貴族を相手にする時は、
家財の一切を土に還して退散するこだわりようだ。
そんなフーケがここ、トリステイン魔法学院の宝物を狙う時に考えた作戦が今、実りはじめている。
「さぁ、もっと近くによりな。あんたの爆発を、もっとこっちに打ち込めるように」
 フーケは堅牢な宝物庫を、内側からではなく外側から破ることを考えた。その為に壁をルイズの失敗魔法を利用して破壊しなければならない。
休みの日で気が緩んだ学院の隙を突いてゴーレムを形成、陽動を兼ねて塔を叩き、この時間には必ず広場に出ていたルイズの気を引く。
ルイズ以外のメイジが必要以上に近寄らないように細心の注意を払いつつ、ルイズがいた広場からはこれ見よがしに塔の壁を叩く。
ルイズの性格をあらかじめ抑えていたフーケは、この作戦の成功を半ば確信していた。

「ここはひとまず逃げましょ。あんなでかいゴーレム相手じゃ分が悪すぎるわ!」
 キュルケとタバサはゴーレムに悟られぬようにこの場を去ろうとした。ギュスターヴもそれに倣ったし、ルイズも倣うだろうとギュスターヴは思って
いた。
「嫌よ」
 だがルイズは独り毅然と賊のゴーレムを見据え、杖を構えて歩いていく。
「ルイズ。今はそんな余裕が無いんだ「いいから!」」
 ギュスターヴの静止を振り切って、ルイズはゴーレムに向かって走り寄っていった。
「ルイズ!」
 それを追いかけるギュスターヴ。緊急の事態だったためにデルフを部屋に置いてきてしまったのが痛い。
(近づいて、もっと強力な呪文に変えれば……!)
 ルイズが立ち止まった。ゴーレムとの距離は約10メイルほどもない。
ルイズの目はゴーレムの肩、黒いローブをなびかせる不審な賊を見据える。
「今度こそ!覚悟しなさい盗賊!フレイム・ボール!」
 勿論フーケはそんなルイズの様をほくそ笑みながら注意深く見ていたので、ルイズが杖を振ってその先が自分を向く瞬間、
ゴーレムの肩から後に飛んで『レビテーション』で静止する。
 直後、爆発。その衝撃はファイアボールの比ではなく、ゴーレムの首から上は見事に飛び散って、殆ど真下にいたようなルイズは
頭から土煙を被った。
「ゴッホ、ゲッホ…やったかしら?」
「大丈夫かルイズ!」
 一足遅れてギュスターヴはルイズの元にたどり着いた。ルイズは高揚した声でギュスターヴにまくし立てる。
「やったわ!やったわギュスターヴ!私の魔法は失敗で爆発しかしないけど、それでも人の役に立てるわ!」
「わかった、わかったよ。でもここは危険だ。ひとまず逃げるぞ。……!!」
 その時、残っていたゴーレムの首から下が音を立てて崩れ始める。足を構成する部分はそのまま自重に負けるように崩れていくが、
腕や肩の部分は完全に崩れず土の塊となって落下してくる。
 ギュスターヴはとっさにルイズを担ぎ上げて走る。やがて上半身がばったりと倒れ落ちるのに押しつぶされる寸前で建物の中に逃げ込んだ。

 ルイズがしとめたかに見えた爆発で、宝物庫へ続く穴が穿たれたのを確認したフーケ。
爆発の瞬間に後に飛んだことで、背中に負っていた壁に見事、ルイズの爆発を当てる事が出来た。後はそれをまぎれさせる為に
まずゴーレムの頭を元の土に戻し、ゴーレムの影になっている部分の壁に張り付いて、今度は残ったゴーレムの身体を一気に土に戻す。
勢い良く倒れた巨大なゴーレムは立ち上がるほどの土煙を作って、フーケを隠してくれる。
「ふふふ、ありがとうお嬢ちゃん。これで私の仕事が出来るわ」



 巨大なゴーレムが倒れ崩れることで舞い上がった土煙は、丸々30分は地面に落ちず宙を留まり、ゴーレムの体だった土砂で
広場の一つが腰まで埋まった頃。
 ようやく事態を認識して駆けつけた教師達が宝物庫を空けた時、宝物庫内で展示されていた宝物の一つを納めていたケースから
物が抜き取られ、代わりに壁に大きくチョークで落書きされていた。


 『学院所有の秘宝 破壊の杖 確かに頂戴しました 土くれのフーケ』


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