あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第18話 ウエストウッド


クロムウェルの死体が発見され、ロサイスは蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
夜中だからなどと言ってられない、早急に追いかけねばならない。
森の中に入っていく灯りを見つけた小隊は、上に連絡を入れ増援を呼ぶ。
着実に、レコン・キスタの追っ手は言葉に迫っていた。
だがただの兵士など物の数ではない。
追いつかれ囲まれても、アンドバリの指輪で兵の意識を奪い、帰ってもらえば事はすんだ。
そうして言葉がフーケとの約束の場所にたどり着く頃には、
木々の隙間から見える空は白みつつあった。
そろそろ夜が明ける。
待ち合わせ場所は間違っていない、目印として木の幹に小さなサインを彫ってある。
さらにもしここにいられない状況なら石を三つ並べる手筈だが、指輪があればその必要はない。
地面が揺れて木の葉が散った。
その振動に覚えがあった言葉は、なぜここでという疑問から槍を握りしめた。
すると木々がメキメキとへし折られる音がして、地響きとともに近づいてくる。
フーケが迎えにきたにしては妙だ。だからこれは、多分。
言葉は石を三つ並べる、目印が消えては困るとその場を移動した。
とりあえず東に行き、川を見つけなくては。
一分も歩かないうちに、背後で木が薙ぎ倒された。目印の木も含めて。
振り向けば、全長二十メイルはある土のゴーレムがいた。
「女がいたぞ!」
ゴーレムの上に乗っているメイジの声は男のもので、フーケでない事は明らかだった。
追っ手をアンドバリの指輪で追い返したため、
レコン・キスタは「あの奇妙な平民は水のメイジだ」と勘違いしメイジの援軍を出したのだ。
二十メイルものゴーレムの肩に乗るメイジに、アンドバリの魔力が届くかは疑問だった。
故に言葉は、ガンダールヴの力を使いながら東へ東へと逃げる。
木々の間を縫って走る言葉と、木々を踏み倒して歩いてくるゴーレム。
歩幅の差もあって、なかなか距離を離せない。
いっそゴーレムを破壊するか? しかし今の槍では心もとなかった。
ゴーレムを駆け上って、メイジをアンドバリの指輪で洗脳しゴーレムごと利用するか?
どちらがより確実かを考えている間に、言葉の前に川が現れた。

川は、北東に向かって流れている。
喉の渇きを癒したい衝動をこらえながら言葉は進路を変えた。
川沿いに進んで何があるのかは解らない。このまま逃げるより、やはり戦った方が。
そう思った瞬間、前方から木々を掻き分けて土のゴーレムが現れた。
追ってきているゴーレムより一回り大きいそれは、実に三十メイルはある。
前門の虎、後門の狼。これでは戦うも逃げるも困難だ。
しかし、後門の狼が動きを止めた。前門の虎は構わず突っ込んでくる。
言葉は槍を構えたが、前門の虎は言葉の横を通り過ぎ、後門の虎に殴りかかった。
巨大なゴーレムのぶつかる振動に森が揺れる。
「まさか……」
三十メイルのゴーレム。あの大きさは、以前、バラバラにした事がある。

追っ手のゴーレムは一分と立たないうちに、新手のゴーレムに殴り壊され、
それを操っていたメイジは逃げ出してしまった。
そして勝利したゴーレムはその場で地面に崩れていき、フードで顔を隠したメイジが降りてくる。
「まさか、一晩で帰ってくるとは思わなかった夜」
苦笑する彼女は、土くれのフーケだった。

フーケが用意してくれていた馬に乗り、川を伝って数十リーグほど北東へ進むと、
昼頃に小さな村へたどり着いた。
「ここはサウスゴータ地方、ウエストウッド村。孤児院みたいなもんさ」
「ここに、誠君を隠しているんですか?」
「色々と事情があってねぇ……」
家の前で遊んでいた子供達が、言葉とフーケに気づいて駆け寄ってくる。
フーケは言葉に待つように言い、子供達と何事かを話して、道を空けさせる。
「あんまり、あんたとは関わって欲しくないからねぇ」
などと失礼な事を言われたが、言葉はまったく気にしなかった。
今は、一刻も早く誠と再会し、アンドバリの指輪で目覚めさせて上げたい。
「あの家の中、ですか?」
「昨日から寝てないんだろう? ゆっくり休んでいきな」
「私は大丈夫です。それより誠君を……」
家の前で馬から降りた言葉は、眠気でまぶたが重くなり、その場でよろめいた。
やはり、相当眠いらしい。フーケも馬を降りて、言葉に肩を貸してやった。
「しっかりおし」
「……私はまだ、あなたを心から信頼してはいません。
 盗賊のあなたの前で、指輪を持ったまま眠ったり……なんか……」
戸が開いた。
「マチルダ、帰って来たの?」
その声を聞いて言葉は顔を上げ、眠気でぼやけている視界の中、
薄い桃色の髪の少女の姿を見た。

――無事、だったんですね。

少女が言葉に気づき何事かを叫んでいる。聞こえない。今は眠い。
教会で少女を裏切り別れを告げてしまった事よりも、
レコン・キスタとの戦いから無事生き残っていた事実に安堵し、
気が抜けてしまったから、眠くて、言葉はまぶたを閉じた。

まぶたを開けた。
言葉にとっては、まばたきをした一瞬の出来事のはずだった。
しかしなぜか、桃色の髪は見えず、代わりに見慣れぬ天井があった。
どうしてだろう。
左を向く。窓があった。日が暮れていた。
右を向く。薄いピンクの髪が陽光を浴びてキラキラと光って見えて綺麗だった。
ルイズが、椅子に腰掛けて静かな寝息を立てていた。
そして、膝の、上に、鞄が、あって。
「お目覚めかい?」
布団から手を出そうとした瞬間、けん制するように声をかけられる。
「……説明していただけますか? フーケさん」
視線だけ動かして、部屋の戸の前に立っていたフーケに言った。
「ここでは『マチルダ』って呼んでもらおうか。私のお仕事も秘密だ。
 ついでにあんたの恋人を生き返らせるのも、ここを出て行くまで我慢してもらいたい。
 ……ここに連れてくるつもりは、最初は無かったんだけどね。
 お嬢ちゃんを拾っちまったら、ここに来なきゃならなくなって……面倒だねぇ」
「拾った……?」
「森であんたと別れた後、レコン・キスタから追われてるミス・ヴァリエールを見つけたのさ。
 ほっといてもよかったんだけど、あんたと会わせたらどんな反応をするか、見てみたくてね」
「……あまりいい趣味ではありませんね」
「だって、どうなるか気になるじゃないのさ。矛盾まみれで迷走していて、滑稽だよ。
 世界を裏切ったと言った舌の根が乾かぬうちに、裏切ったはずのご主人様を助けようとする。
 それでもやっぱり別れを告げてさみしいもんだから、
 ちょっと手助けしてくれた盗賊風情を信用して鞄や命を預けちまう。
 裏切った自分を責めて二度とご主人様に会えないなんてツラしときながら、
 いざご主人様と再会してみりゃ赤ん坊みたいに安心しきった顔をする。
 自分が嫌になったら逃げて、ご主人様に嫌われたくないから逃げて、
 でもやっぱり愛して欲しくて、欲求に忠実な様はある意味誰よりも人間らしい。
 ……正直、見ていて痛ましくなるよ。
 ……そんなあんたを、その苦しみから解放する方法がここにはある。だから」
「そうですね。誠君を生き返らせれば、私の苦しみはすべて……」
「そういう意味じゃないんだけどね」
苦笑を浮かべたフーケは、未だ眠っているルイズへと視線を向ける。
「その子、ずっと看病していて疲れていて、
 ようやく一休みと思ったところに私があんたを連れて帰ってきて……。
 そしたらまたつきっきりさ。後で『ありがとう』の一言くらいは言ってやんな」
「……看病……ウェールズさんも無事なんですか?」
「殺してやろうかと思ってたんだけどね。ほっといても死ぬ状態だったのに、何やってんだか私は」
呆れたように言うと、フーケは部屋を出て行ってしまった。
いくつか意味の解らない事を言っていたが、今はさして気にならなかった。

ルイズが生きていて、ルイズを守ってくれていたウェールズも生きていて。
その二つの事実を噛みしめて、言葉はまぶたを閉じた。
睡魔が再びやってくる。
――次もまばたきをしたと思ったら、数時間経ってしまっていたりするんでしょうか。
――まぶたを開いた時、ルイズさんは変わらず側にいてくれるんでしょうか。
――誠君は、今はルイズさんが。
――ルイズさん……。

「彼女達の様子はどうだった? ミス・サウスゴータ」
「……あんたにその呼び方をされると、つい殺したくなっちまうよ」
言葉の休んでいる部屋の隣室、そこせはウェールズがベッドに寝ていた。
椅子に腰を下ろしたフーケは、テーブルに置いてあった果物ナイフを取る。
「そうさね、今のあんたなら杖なんて必要ない」
言って、フーケは微笑を浮かべると、やはりテーブルの上にあったリンゴを取った。
ザクッ。ナイフがリンゴに突き刺さる。
「……皮を剥くんじゃないのかい?」
「皮ごと食わせてやるよ」
フーケはまずリンゴを切り分けると、それから皮にナイフを入れた。
すると可愛らしいうさぎさんが完成する。
「あの娘が好きでね」
「そうか」
その可愛いうさぎの眉間(の辺り)に、フーケはナイフを突き立てた。
「ほら」
「……フォークは無いのかい?」
「これはこれはウェールズ殿下、まさかこの卑しいわたくしめに、礼を払えとおっしゃる?」
フォークはあったが、そっちはフーケがリンゴを食べるために使うつもりらしい。
渋々、ウェールズはナイフの刺さったリンゴをかじる。
「……ありがとう、ミス・サウスゴータ」
「あんたが生きていられるのはあの娘とミス・ヴァリエールのおかげって肝に銘じておきな。
 私は今でもあんたが死ねばいいと思ってる。
 直接責任がある訳じゃないだろうしかし、あの王の息子というだけで殺す理由は十分だ」
「それでも私は、君にも感謝したい」
「はんっ……気持ち悪い」
本気で嫌がっているらしく、フーケの口調は冷たい。
それでもゴーレムの拳を自分に振り下ろそうとしていた時に比べれば、とても友好的な表情だ。

森の中の出会い。
ウェールズ達と戦っていたレコン・キスタの追っ手は、すべて闇の中で殺された。
誰が助けてくれたのか? 現れたのはフードをかぶった女。
「土くれのフーケ!」
木々の隙間から射し込む双月の光に、彼女の顔が浮かび上がる。
「……君は、サウスゴータの……」
「覚えていてくれて光栄だね、殿下」
木の枝をへし折ってゴーレムが現れ、拳をウェールズに向ける。
その時のフーケの瞳には、怒りと憎しみを孕んだ殺意があった。
「"私達"は……"あんた達"に……追われた……だから!」
「今、君に討たれる訳にはいかない」
「死に場所から逃げ出した皇太子に、もう名誉や誇りなんてもんはないんだよ。
 一番大事なものを惜しむ必要がないんだ、安心して涅槃へ逝け」
「ミス・ヴァリエールの安全を確保するまで守りきると私は決めた」
杖をフーケに向けるウェールズ。
同様に、フーケに杖を向けるルイズ。
ここで死ぬ気は微塵も無い。
だが。静かな夜の森、ウェールズの唇からわずかに漏れる苦悶の呼気。
フーケが魔法を唱えたが、その詠唱が攻撃のためのものではないためウェールズは静観した。
ライトの魔法で照らされ、ウェールズの姿があらわになる。
風の魔法かあるいは剣や槍で斬られたと思われる傷が四箇所、刺されたのは二箇所か。
それから刺さったままの矢が二本で、左手は炎の魔法を受けたのか酷い火傷。
顔は泥と血とすすに汚れ、肌は土気色。
もう放っておいてもすぐ死ぬだろう。
そしてウェールズに寄り添っているルイズは、泥やすすで全身が汚れているものの、
傷らしい傷は見当たらず、あったとしても木の枝で引っかいた程度のかすり傷だった。
この男がここまで守り抜いてきたのだとフーケは理解する。
ウェールズの傷は深く、すぐに水のメイジに見せれば可能性は無いではないが、
そんなメイジのあては無いし、こんな森の中からでは時間がかかりすぎる。
だが。
例え数時間かかっても、それまで何とか命を持たせて、ウエストウッドの村にたどり着ければ。
例え水のスクウェアメイジでも治せぬ死の淵に落ちようと、
あの娘が母親からもらった先住の力を持つ指輪でなら――。

何で助けてしまったのか、フーケはウエストウッドの村に到着してから気づいた。
――ああ、瞳の色が似ている。優しい青をしている。従兄妹だから。
ヴァリエールの使い魔に続いて、またもやそんな下らない理由で。
フーケは自分がとてつもない甘ちゃんなのではと酷く疑わざるえなかった。

よりにもよってウェールズを、よりにもよってこの村にこの家に連れてきた理由を思い返し、
フーケはますます機嫌が悪くなって、ウサギさんリンゴを乱暴にかじった。
「手紙は使い魔が持ち帰ったし、クロムウェルも死んだし、万々歳だろ?
 歩けるようになったらレコン・キスタに特攻かましに逝ってきな」
「ああ……そうするのが、皇太子としての最後の意地だな。しかし」
さえぎるように、戸がノックされた。フーケが入るよう言うと、金髪の美少女が入ってくる。
髪はきらきらと輝いて、瞳は蒼く透き通っている。
胸はルイズの使い魔の桂言葉に匹敵する大きさで、
男なら是非どっちが大きいかを丹念に計りたいと思うだろう。素手で。
だが何よりも特徴的なのは、横にぴょこんと伸びた耳。
ハルケギニアでは悪魔の如き存在として恐れられる、エルフの耳。
「あ、あの、ウェールズさんの具合はどうですか?」
「安心おし、山は越えたと言ったろう?」
「でも」
「……後でつらくなってもしらないよ」
そう言ってフーケは立ち上がろうとし、止まり、ウェールズの耳元に唇を寄せた。
「……ティファニアに手を出したら、始祖ブリミルに誓ってあんたを八つ裂きにするよ。
 両手両足の爪を剥いで、指の関節という関節に釘を打ち、焼けた鉄棒を尻の穴に突っ込んで、
 熱湯を耳にそそぎ、ナイフで鼻の穴をひとつに繋げ、歯という歯を叩き折り、
 頭皮ごと頭髪を引っぺがして塩を塗り込み、
 瞼を裁縫針で縫いつけて二度と光を見れないようにしてやる」
「はは……可愛い従妹に手を出す訳がないだろう」
「トリステインの従妹からのラブレターを後生大事に持ってた色男が、
 よくもまあそんなセリフを吐けるもんだ。
 あんたが皇太子ってのも、ティファニアと従兄妹ってのも、
 もし話したら始祖ブリミルに誓ってあんたを八つ裂きにするよ。両手両足の――」
「解ってるよ。僕も、ティファニアにはここで平穏無事にすごしてもらいたいからね」
「……フンッ」

ティファニアは人見知りをする子だ。
それは彼女の母親がエルフで、受け継いだ容姿もまたエルフであったのが要因のひとつ。
ティファニアを見た人間は、耳に気づいた人間は、エルフである彼女に怯える。
初めてティファニアを見たルイズも、最初は恐怖すくんで動けなくなったほどだ。
だがウェールズは違った。
恐らくただのエルフが相手なら、彼も緊張し恐れおののいただろう。
しかし、従兄妹という繋がりが、それを知らずとも直感的に親愛の情を抱かせたのか、
ウェールズは自然体でティファニアに接し、安心させた。
だから、ティファニアはウェールズに懐いてしまった。従兄妹という関係を知らなくても。

ちなみに皇太子ウェールズの従兄妹という事はつまり、ティファニアも実は皇族である。
ウェールズの叔父、すなわち王弟がエルフの女を密かに匿い、愛し合って生まれた娘。
その存在が国王に知られると、王弟は幽閉され、エルフの母は殺されてしまった。
偶然、あるいは運命の導きによって自らを助けた幼きティファニアは、
臣下であるサウスゴータの娘、マチルダ……すなわちフーケに匿われる事となった。
ここ、ウエストウッドの村に。

彼女は母親から水の精霊の力を持つ指輪を授かっており、
それだけがウェールズを救う手段だったがために、二人は出会ってしまった。
フーケは腹をくくってウェールズに事情を話したが、
それは「どうせ後でどうとでもなる」という打算があった。
それこそがかつてティファニアの命を救い、ウエストウッドでの平穏を守る力。
さらに――言葉の病んだ心を救済できる力であった。

もっとも言葉はそんな救済は求めないだろうと、フーケは理解していた。
ではルイズは? その答えも予想できていて、フーケは溜め息をつくのだった。

第18話 ウエストウッド


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